2.よくできた嘘
「平子隊長ー、こんな所でおサボりですかー。」
足を投げ出すようにして縁側に座っている真子のすぐ側に立てば真子はダルそうに私を見上げて来た。
「真子でええやんけ、胡桃。」
顔を顰め、私の少しよそよそしい呼び方を嫌そうにしている真子がなんだか面白くって思わず笑っちゃえば更に眉間のシワが深くなる。
「仕事は仕事、プライベートはプライベートですー。」
「ほーほーそうかい橘十席。公私混同せーへんっちゅーなら隊長にタメ口きいててええんかァ?」
「真子なら許してくれるって私知ってる。」
よいしょ、と隣に腰掛け真子の肩へ頭を預ける。やっぱり真子の隣は落ち着く。
「…オマエ、明日非番やろ?どうせ定時で終わるンやろーから先オレん家帰っとれ。」
「はいはーい、特別に晩ごはん作って待っててあげる。」
げ、藍染副隊長がこっち向かってきてる。怒られたくない私はじゃあね、と真子に声を掛けそそくさと仕事に戻る。ごめん、真子。私あの人に怒られたくない!

まさか、あの会話が真子との最後の会話になるなんて、思ってもいなかった。

突然姿を消した8人の隊長副隊長、真子の恋仲とはいえ、十席の私には詳しい情報は回ってこず、真相は闇の中へ。
藍染惣右介は五番隊隊長へ、市丸ギンは五番隊副隊長へと昇進し、他の隊も抜けてしまった隊長副隊長の席を埋めるべく何人か昇進していった。
少しごちゃっとしていた真子の机も、しっかり整頓された机になり、五番隊から真子の面影が消えていくことがとても恐ろしく感ぜられた。
真子がいない五番隊隊舎は魂がすり減るようでとてもじゃないがこのまま五番隊へ居続けられる自信がない。このままではいけない、そう思った私は「回道の道を極めたいと思った」なんて理由をでっち上げて藍染も卯ノ花隊長も私と真子の関係を知っていたからなのか四番隊への移隊を許可してくれた。
こうして、私は自分のすりへった心を癒やすかのように隊を移した。



藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の三名が離反し、尸魂界はさらなる慌ただしさを見せていた。
四番隊、四席まで席次を上げた私は迅速な治療がすぐに行えるよう隊舎で準備をしていた為、双極での出来事は目撃していない。藍染たちが離反したことは許し難いことだろうが、私はまた尸魂界から真子を知る者がきえてしまった、と的はずれなことを思っていた。



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