黒川イザナ16歳お誕生日
「あの、イザナ、」
「………………なに」
ぎこちなく話しかけたのは真一郎、素っ気なく返事するツンデレの猫(仮)はイザナである。
「今日、ヒマか?ウチ来ないか?」
「……今日は夕方まで予定ある」
「そっ……………、か…」
本日は8月30日。イザナは今からパイセンと一虎の姉ちゃんの城である歌舞伎町の某ラブホのスイートで、鶴蝶とホットケーキで誕生日パーティをするのだ。他のヤツは一応呼んだが来るかどうかはしらない。ムーチョとかはサボりそうである。愉快犯の蘭と良い口実の竜胆は来そうだな。一虎は鑑別所に居るので何も用意できなかったらしく、おめでとうの言葉と去年のお返しができないことの謝罪の手紙を寄越していた。(一虎は去年、誕生日に、竜胆→クローズ全巻セット、蘭→コンドーム、獅音→エロ本、ムーチョ→財布、モッチー→スケボー、イザナ→サービスエリアに置いてある龍のストラップを貰っている。)
分かりにくい表情をどこかシュン…とさせた真一郎を見てちょっと嬉しくなったイザナは、「……夜は、ヒマだけど」と素っ気なく口にした。耳真っ赤やでお兄さん。
「じゃあ夜待ってる!エマがハンバーグ作ってくれてるんだ!!ケーキもある!」
「……ん。」
まだぎこちないかもしれないが、ちょっとずつちょっとずつ、佐野家とイザナは前に向いて進み出していた。
この間はマイキーの誕生日会に呼ばれた。行きたくなさすぎて無視ったけど。ムーチョと2人で無理やり抗争の予定捩じ込んだら敵70人くらい来て久々に沸いたケンカだった。
惜しげも無く使われる粉砂糖とバターとメープルシロップに満足したイザナは、ちっせぇ声で「美味かった」とパイセンに礼を言い、鶴蝶とその他が祝ってくれた誕生会を後にした。
1歩進んで2歩下がるを繰り返しつつ、イザナは自分から心の風穴を埋める道を進み出した。
「………」
「ニィ!おかえり!!」
「ん。」
何回「オレの家はココじゃねェ」って言っても「おかえり」と言ってくるエマに絆されて、最近は訂正するのもやめてしまった。
「「「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー」」」
何分か前に聞いた音痴な下僕の一生懸命な歌を思い出してニヤけそうになる。
「「「ハッピバースデーディアイザナ〜〜、ハッピバースデートゥーユー」」」
「ふ、」
「フゥーーー」
「💢」
「おいマンジロー!」
「もうマイキー!!」
「オレのハンバーグ横取りしたやりかえし(あっかんべー)」
「死ね💢!!!👊💥」
「!!👊💥」
「もーー!!」
「イザナ、マンジロー、やめr(((ブッッッ!!」
他にはそんな事ないのに何故か()オレにだけアタリの強い憎そい弟が玉に瑕だが、救いようがないと思っていた自分の孤独は、もしかするとちょっと違うのかもしれないと思えるようになった。
イッ"ッッッテ、……コイツマジで蹴りやがった巫山戯んなやっぱ嫌いガチでナイわ鶴蝶を見習えよクソクソクソクソ万次郎ォ……
爺さんも含めて5人しか居ないはずの佐野家のダイニングはワイワイガチャガチャボコスカ()、だいぶうるさかったと思う。
オレに才能を感じている爺さんに両腕を掴まれて道場を勧められるのを今日もなんとか生返事で流し、なんとなく鶴蝶の顔が見たくなったから佐野家を後にしようとした。
「なぁシンイチロー、アレ、渡さねェの?」
「あっ、ちょっ、マンジロー"!!」
「え、あんなに作ってたのに??」
「エマまで…!!」
「アレ…??」
万次郎が走って車庫のすみっちょから何かを引っ張り出してきた。
「ん、」
「これ、」
「あぁ、
CB250Tだ!!」
「…ハハ、……えっと、まぁイザナ自分の
CBR400F持ってるし、必要ねェ
「いる。貰う」
「よかったなシンイチロー」
「ずっとにらめっこしてたもんね」
「………」
「「部品足りねー!間に合わねー!!」つって半泣きだったもんなシンイチロー」
「マンジロォー"!!」
「…………」
「大事にしろよ、オレのバブと双子なんだからな」
「は??双子???」
「万次郎それはホントに、」
「なんで、運命的じゃん、一緒に埋もれてたんだろ??」
「……真一郎、不法投棄されてたの拾ってきたのか…?」
「ん、どこだっけ、海外、……えーっと、」
「万次郎、万次郎ちょっと黙れ、な??」
「あ、そうだ!
フィリピン!!!」
「っ…!!」
「………」
「……え、なに、言っちゃまずかった?」
「…あー、その、イザナ…?」
ほら、やっぱり。万次郎ばっかりなんて嘘かもしれない。オレの思い違いかも。
わざわざ確かめようなんて思わねェけどさ、だって、フィリピンって、それって、
「…フン、そんな、…大丈夫かわかんねぇエンジンでいけンのかよ…」
会えるわけもねェのに、オレの母親探しに行ってくれたんじゃねェの?
違ぇかも知んねぇから口には出さない。
そんなことわざわざ真一郎に説明させてハジかかせようとも思わない。
「ん、……真一郎、」
「ん?…どうした?」
「ありがと」
「…ん、メンテ持ってこいよ?安くする」
「はァ〜!?金取ンのかよ!!!」
「金は要らねェから代わりにウチで働け〜?マンジローもメンテして欲しかったら労働が対価な!!」
「家族割でタダにしろよシンイチロー!!」
「そーだそーだケチだからモテねェんだぞ真一郎!!」
「誰が童貞だ!!!」
「「言ってねェよ!!!」」
オレの恥ずい勘違いかも知んねぇけど、もしかするとオレは孤独じゃなくて、もしかすると奪われたと思っていた幸せは案外近くにあるのかもしれない。
真一郎の家に行くっつったらどことなく不安そうに下を向いた下僕の顔を思い出す。
ったく、下僕のクセに手がかかる。
しかたねェから今日は大人しく帰ってやろうか。
アイツには、オレしかいないから。
>>