──鉄太のパーフェクトれんあい教室




事の始まりは2003年8月某日、公園でネコを虐めている中学生に橘日向が食ってかかったあの日である。
影から「あーあ、だから止めたのに」とか言っていた稀咲の横をマント羽織ったタケミチがタッと走っていく。
偉そうに啖呵切った割に震えているタケミチを中学生が煽った。
次の瞬間、タケミチは拳を振り上げた、のだが、





「オイ、うるっさい。帰れガキ」





振り上げた拳は、拡張して長くなったスカートの下にグレーのスエット、セーラー服の上にはそれとセットであろうグレーのパーカーのフードをかぶり、前髪に金のメッシュが入ったクソ長ェ髪を鬱陶しく垂らし、なぜかキティちゃんのスリッパを履いたガラの悪い女に掴まれた。夏なのに暑苦しい格好だ。




「テメェ何だこれ、人のこと殴ってんじゃねぇよ」



正直中学生より全然怖い高校生にガン付けられたタケミチは漏らしてないのが奇跡の状態だった。



「オメェらも。さっき虐めてたネコ、アタシのダチなんだけど、どうしてくれんだコラ」




残念ながら、この公園は一虎の姉ちゃんの徘徊ルートなのだ。知らねぇガキより可愛がってるネコのほうが人権が高いので、ランドセル背負った小学生と中坊相手にガンギレである。これが同い年だったらネコ蹴った時点で喋りもせずネコにやった事そのままやり返すのでまだマシな対応ではあるが……




「口着いてねェのかゴミ、ガキはさっさと帰ってクソして寝てろ。10秒経ってアタシの視界から消えなかったら全員殺す、10、7、」




10秒じゃねェ10秒を数え始めた絶対王者にビビった全員はヒナも含めて散り散りに走って行った。

しかし何故か稀咲の足だけは動かなかった。目の前に現れた見たことない系統の女に恐怖で足が竦んだのである。






ポケットに手を突っ込んだフードの女はゆっくりコッチを振り返った。






眼鏡のレンズ越しに鋭い目が合ってしまった。






怖くて肩が思いっきりハネた。







……が、視界から消えなかったら殺すと言ったその女は、何故か視界に捕らえた"オレ"を殺すことなく「フッ」と鼻で笑って公園から出て行った。






変な動悸が収まった時、自分の目に焼き付いているのはあの鋭い眼光であった。
探究心の塊で学習意欲の高い稀咲少年は、あの見たことねェ方向にヤベェ女に対して湧いた好奇心と興味を抑えられなかった。












ここで読者の皆さんには何故稀咲が殺され()なかったのかを教えて差し上げよう、



昔の一虎と服の系統が似ていた。
以上である。




中学にもなって弱いモン虐めで楽しくなれる雑魚も、無策で出しゃばっといて泣くやつも、なんかあったら殴ればいいと思ってるやつも大嫌いな一虎の姉ちゃんは、知的で大人しいガキがお気に入りである。大人しければ大人しいほど相手をしたくなるらしい。昔の一虎も、どちらかと言うと室内遊びの方が楽しいタイプでゲーム少年だった。稀咲もどちらかと言うとそっちの方向性である。

まァ分かりやすく言うと陰キャに甘いのだ。


稀咲のことは、完全に贔屓で見逃してやったということになる。

















翌日、学校が終わった瞬間に例の公園まで人生で1番走った50m走10秒の稀咲少年は、水道の影に隠れて一虎の姉ちゃんを待っていた。


姿を現した昨日の輩女は、オマエそれで学校行ったンか?みてぇなクソ小ッセェ世間を舐めた肩掛けカバンを枕に、ベンチに横になって昼寝しだした。



日が傾いて来た頃その女は動き出した。どうやら場所を変えるらしい、着いていくことにした。







どこかの団地の横道、ガラケーを取り出した女は誰かに電話を始めた。



「あ、パイセーン。今日ちょっと面白ェ事になってるからツーリングナシでイー?
……んーwじゃあ今から渋谷きてwww」




稀咲少年は「何が面白いことになっているんだ…?」と不思議に思った。オマエが尾行してンのがバレて面白がられてんだよと教えてくれる人は残念ながら周りにいない。




電話の相手だったらしい女と合流、




「ヒマだな、斑目呼ぶか?」
「そうね♡」




数分後現れたのはモヒカンだった。3人でタピオカをキめている。





若干押され気味の斑目は自分にビビったり奇っ怪な目で見てこない女の子が嬉しすぎて、呼ばれればノリノリウッキウキで駆けつける。
パイセンと一虎の姉ちゃんも、正直斑目が一番ノリ良いしめんどくせぇ説教タレねぇし偉そうにしても"なんか可愛いお可愛いこと"で許せるので一番誘う頻度が高かった。




しかし残念


\ピリリリリリ…/
「……イザナだ…………なんかどっかのヤベェツボ割っちまったらしい…………どうにかしろだって………どーしよ………………」
「ドンマイ」
「頑張ってね〜♡」


王から呼び出されたので、獅音はしょんぼり背中を丸めて帰って行った。








「あれ?羽宮?」



声の先にに居たのはお下げの男、お下げの男…!?……お下げの男だった。


ゲーセンに行ってプリクラを撮るらしい。ボーナスタイムスタート☆したらしく、めちゃくちゃ落書き時間が長かった。稀咲は見失ったかと思った。


「オレ飽きたから帰るワ」
「あら、そうなの?」
「あっ、ちょっと写メ撮ってくんね?ほら2人ともオレに寄れ〜?✌️」
「ん、✌️」
「はい♡✌️」
「よし………(ピ、ピピ)」
\ピリリリリリ!!!!/
『兄っちゃん"!!!今どこ!!!!オレのことも誘えよ!!!!!』
「渋谷駅、羽宮居るからオマエも来いよ、バイクでなー?」
『待ってろよ"!!!』
\ピッ/
「じゃあ今からアタシら場所移すけど、オマエ来ないんだな?」
「おー、じゃあなー」
「また明日♡」


明らか可哀想なことになる予感しかしねぇ竜胆は5分後に迎えに来て血の涙を流しながら兄ちゃん(鬼)(悪魔)(三つ編みギャル卍)と六本木に帰ったらしい。おつかれ。







「あ、たぃちゃんだ、…いまどこにいるだって」
「渋谷って送っとけ」


秒で現れたのはブレザーがクソほど似合ってねェどう見てもカタギじゃないイカつい男だった。ドピンクのデケェバイクとミスマッチ過ぎて目がチカチカする。しかもなんか、最近ネットで見た変なキツネと同じ顔してる、疲れてんのかなあのデカイ人…


「じゃ、アタシ用事あるから先帰っといて」
「うん♡またあとでね♡」





ピンクのバイクが行ったあと、一虎の姉ちゃは人通りの少ない方向に歩き出した。稀咲少年は尾行を続ける。

フラっと路地裏に入ったかと思えば姿が見えなくなった。
「見失った…!!」と思った稀咲少年は足音を隠そうともせず一虎の姉ちゃんが曲がった細い道を曲がろうとしたのだが、




「ばァ♡」
「ビャっっっ!!!!!」
「何ビビってンだよ尾行野郎ぉwwwこんな時間まで出歩いてンな〜?wwww」




人の目は発光したりしないのだが、道の照明が奇跡の角度で当たって、一虎の姉ちゃんの蜂蜜みたいな金目が溶けるように光って見えた。


己に笑いかける女は12年の人生において2人目だった。
橘日向の可愛らしい笑顔のソレとは違う、どこかゾッとするような蠱惑的で不敵な歪んだ笑顔は青紫の空に良く似合っていた。



「遅せぇから送ってやるよ、家どこ?」




自分の家まで並んで歩いた。こういう人がどんな話をするのか分からなくて、とりあえず自己紹介したらあの人も名前を教えてくれた。羽宮と言うらしい。羽宮でいいよって言われた。好きな科目は算数と数学。オレと同じだった。オレの話を生意気だとか、気持ち悪いとか言わずに笑って聞いたのはこの人が初めてだったし、オレの言っていることをちゃんと聞いて理解して返事をしてると確信がもてたのもこの人が初めてだった。
人間と話していて初めて楽しいと思った。




「じゃあな鉄太クン」
「あ、あの…!!」
「ん?」
「今度!数学教えてくれませんか…!!」




なんとか会う口実が作りたくて記憶を辿ったら、興味本位で開いた中3数学の応用問題を思い出した。勢いで口に出したが、時間が経つにつれて「もっとなんかあっただろ…!」とか思って変な汗までかいてきた。


「ブハっwwwwwいいぜwwwwwww明日もコーエンなwwwwwwwww」


頭を撫でて「じゃーな」とかいってヒラヒラ手を振り元きた道に消えてった。なんともまァかっけぇ後ろ姿である。
帰り道にちょっと話しただけでは足りなかった。もっと理解したい、その気持ちは稀咲少年を加速させていく。











数学好きとかいう変態の勉強会が公園で開かれ始めて1週間が経ったころ、一虎の姉ちゃんにそんなに気に入られる少年が気になって「えー、私もその子に会ってみたい♡」と言い出した今日も今日とてゆるふあのパイセンにより、稀咲少年はファッキンピンクで回転貝殻ベットが置いてある一虎の姉ちゃんとパイセンの家に連れてこられた。小学生のガキをラブホに連れてくるな。




部屋の中にいたのはあの日の女の人だった。出されたお菓子を3人で食べつつ会話は弾んでいく。パイセンも一虎の姉ちゃんも単純に頭が良いので稀咲の話と次元が合うのだ。


「てかさ、鉄太なんであの日あんなトコ居たン?」
「いや、…まぁその、………塾が一緒の女子と帰ってて…………」
「「あっ、ふぅーん?」」


恋バナ大好きJK2人は玩具を見つけた顔で根掘り葉掘りマントルまで稀咲少年の恋心をほじくり返した。



「〜〜〜〜"っ!!!もういいだろ!!」
「え、おもしれーーwww」
「可愛い〜♡」

パシャパシャ写真を撮るのを止めろ。





……でも、橘の話をして自分の気持ちと過去を強制的に復習させられた稀咲少年はなぜか、一虎の姉ちゃんと話している時のほうが楽しかった自分に気がついた。
橘への恋心が淡い憧れから始まったとするなら、一虎の姉ちゃんへの気持ちはもっと危険な好奇心から始まった。


あくまでもただの塾生同士である"人気者で忙しい"橘日向より、数週間しか話していない一虎の姉ちゃんのことの方がよく知っている自分に気がついた。
一虎の姉ちゃんにあからさまな特別扱いを受けた稀咲は、橘のあの態度が「別にオレを特別扱いした態度ではない」ということを知ってしまった。





1人で頭をぐるぐるしている間に女子はどんどん爆速で沸騰して行っており、「パイセン初恋いつ?」「んー、小6♡」なぁんて楽しそうに話している。




そうしているうちにエラくガラの悪い兄ちゃんたちが2人くらい入って来た。



「誰そのガキ」



ねるねるねるねの妖精みてぇなハリーポッターがガンを飛ばしてきた。



「ァン?知り合い。カワイーだろ?」
「いや、可愛くは…」
「黙れアタシが正しいんだよ」
「……あっそ」
「竜胆そろそろ懲りねェのwwww?」
「そんな簡単に諦めれたら院でてすぐに童貞捨てたりしねェんだよっ!!!!」




何やら下品な会話が蔓延っているが、あのねるねるねるねも羽宮の事が好きっぽい。肝心の羽宮は気がついて居ないようだが。




どうやらねるねるねるねは灰谷竜胆というらしい。羽宮がそう呼んでいた。





家に帰って灰谷竜胆を検索した。ヒットすると思って無かったのにスレッドが1つヒットしちまったので読み進めていると、どうやら不良らしい。





不良、不良………





確かに、関連項目を全て調べたところ、一虎の姉ちゃんは俗に言うスケの見た目に近かったし、悪いヤツが好きなのかもしれない。(※大間違いです)


ねるねるねるねを倒すには喧嘩に強くならなくてはダメらしい、そう思った稀咲少年はともかく不良っぽい見た目になるため、近所の美容院を予約し、日サロを予約し、佐野道場に体験申し込みをし、五条ボクシングジムにも体験申し込みをした。驚きの行動力だ、さすが2年で陰キャ上がりから東卍を牛耳るようになる男である。







その翌日もあの部屋に訪れた稀咲少年はやはり年上のお姉さん2人に押されて恋バナをさせられた。もう正直橘より羽宮のほうが気になっているのだが、この人たちはまだオレが橘のことを好きだと思っているらしい。「ちがう…!」と言ったら「「恥ずかしがんなって〜(笑)(笑)」」とか言われてまったく取り合ってくれなかった。勢いが強すぎて周りの声聞こえてない、説得は不可能だ。稀咲少年が人生で初めて何かを諦めた瞬間だった。





…この恋バナこそが、
テッタのパーフェクトれんあい教室である。





「でもさ、マジレスすると、鉄太オマエもっとその橘と喋んねぇとダメだわ」
「そうねぇ、あと、女の子は優しい男の子が好きよ♡」
「そうなのか?」
「そらそう」
「……アンタもか?」
「あたりめーだろ」
「、、、…ふぅん?」


脳みそに直接書き込んでいく。










「あと、暴力だけは絶対だめ」
「エっ、」



昨日調べた内容と180°違ぇことが口から出てきた。




「人殴るやつは彼氏ヤだワ」
「そうね、カスよカス」
「…弱いとダメなんじゃ、」
「「正直殴る可能性が1ミリでもあるくらいなら、私が守ってあげないとダメそうなほど雑魚い方がマシ」」
「雑魚……」
「暴力が選択肢に出てくる人はちょっとね…」
「アンタもか?」
「あたりめーだろ」




お姫様からカスとか雑魚とか言う単語が出てきて泣きそうだった。稀咲少年は佐野道場と五条ボクシングジムの体験申し込みを爆速でキャンセルすることにしたらしい。門下生が増えると思った佐野の爺ちゃんは泣いたし、同級生が増える!と喜んでいた千咒はムッツリふくれて拗ねたらしい。かわいいな千咒。



「あと、真面目なやつの方がいい」
「チャラチャラしてない方がいいかなぁ♡」
「……アンタもか?」
「あたりめーだろ」





1週間ほど前にオマエらと遊んでいた男共は一体なんだったんだ?チャラチャラしてないの一言で全員沈んだんだが……
混乱しつつも、稀咲少年は予約を入れた美容院と日サロを即刻キャンセルした。




「あとそう、女が相談してきた時は「そうだな、わかる」以外の返事をすんな」
「そうね、そのほうがいいわ」
「……相談されてるのにか?」
「別に建設的な意見を求めてねぇんだよ」
「わかって欲しいだけなのよ〜♡」
「??」
「あれだアレ、共感という商品を買いに来た顧客に、現実的な意見を売ろうとしても需要と供給が一致してねェだろ?」
「顧客満足度が下がるだけだから、そんなくらいなら粗悪品でも需要を満たした方がリターンに繋がるわ♡」
「そうなのか、勉強になる(フムフム…)」



おおよそ10代の恋バナとは思えねェビジネス的な思考回路である。ロマンもクソもねェが、仕方がない。一虎の姉ちゃんはゴリゴリに理系だし、パイセンにとって色恋はビジネスなのだ。










こうして調教された結果、稀咲少年はスパダリの作法を身につけたらしい。ちゃんと教えられたらデキル子なのだ彼は。




あと、一虎の姉ちゃんとパイセンの周りにいるヤバそうな奴を洗い出した結果、全員きっちり危ないことが分かってしまった。

洗いざらい調べた時に一緒にハーレー伝説も知ったはずなのに、恋する稀咲少年は一虎の姉ちゃんがどれだけ凶暴か見えてないらしい。恋は盲目なのだ。

どうにかあの2人が危なくならないよう、新宿を警備する軍隊が欲しいな…
………へぇ、愛美愛主ねぇ、………ふぅん、歌舞伎町の死神、……ほーん、半間修二……




以上、稀咲少年(神童の姿)が新しい恋を見つけ、まさかの惚れた女直々に恋愛のコツとテクを教わった奇っ怪な出来事を【テッタのパーフェクトれんあい教室】と名付けることとする。
出てくる登場人物漏れなく全員バカなのだが、バーカバーカって言った方がバカなのだ。マトモに取り合わない方がいい。




本日の授業はここまで。


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