140字SS*nejihina
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【140文字のちいさな愛の欠片*】


※ほとんどほのぼのしていますが、唐突に死にネタが出てきます。大丈夫な方はお進みください








「まあ……きれいなお花……ネジ兄さん、これ……?」
「そこに咲いていました……良かったらどうぞ」

「あ……ありがとう」

少女は贈られた小さな花に夢中で、少年は仄かに赤らむ少女をひそかに見つめ、ふっと笑みを零した。
(アナタはオレの気持ちなど、少しも分かっていないのですね)

その花言葉は

『君を愛す』








珍しく、兄さんが道場以外の所にやって来た。
今日は雨だった。気分転換だと、兄さんは笑った。
「早く、止むと良いですね」
私の隣に腰掛けて、借りて来た本を開く。
活字を辿る横顔を、盗み見て私は祈った。
(明日も、ずっと、雨が降りますように)
当分あなたが、雨に飽きてしまうように。

『祈雨』








「ああ……可哀想に」
隠していた酷い手荒れを目敏く発見され、私は兄さんに手を掴まれたまま恥ずかしくて俯いた。
全然女の子らしくないがさがさとした甲を撫で、兄さんは丁寧に軟膏を塗ってくれた。
水仕事をしていると、どうしても荒れてしまうから。
心配そうに言う兄さんの指が、何度も私の手を撫でた。

『やさしい手』








「……ヒナタ様の手料理を食べたのか?」
ヒナタに返しに来たと、風呂敷袋を見せられて、ピキ、とこめかみが引き攣った音を出すが、キバは能天気だった。
「あ、何だよ、お前も食べたかったのか」
「……貸せ。オレから渡しておく」
――地獄に堕ちろ。
刹那、念を飛ばされたキバが、玄関で躓き派手にすっ転んだ。

『手料理』(オレだって食べたことないのに)








とんでもなく献身的な生き方をしていると、思っています。
しかしアナタだって、躊躇なくナルトを守ろうとした。
オレ達は似ている、違いますか?
オレもアナタと同じように、理屈と関係なく、アナタを守っただけなのですよ。

『生き方は似ているのです』(お題)








「勿体ないので、オレ達だけで楽しみませんか?」
見え見えのネジの悪心は、だがヒナタにも魅力的なものだった。
「ふふ……じゃあ二人占めだね」
「そうですね…二人占めですね」
差し出された手を掴むと、ヒナタはネジの隣に座り直し、じっとしていた。
風に揺れる美しい花々は、今、二つの白眼だけのもの。

『世界中の幸せを二人じめして』(お題)








「こうやって、仕舞ってしまいなさい。絶対に忘れないから」
目隠しされてしまえば、当然何も見えなくなる。でも……ああ、不思議ね、兄さん。
「ほら……目を閉じていても、見えるでしょう?」



「医療班……!」
だから私は、絶対忘れないように、瞳の奥に仕舞うの。
あの時の夕焼けを仕舞ってくれた、あなたを。

『目を閉じれば、そこに見えるから』








「ヒナタ様……その指」
オレの指摘から逃れる風に、ヒナタ様は何でもないと首を振った。
最近妙に怪我をしているようなのだが、何をしているのだろうか。
任務に出向する日、大門を抜けようとするところで呼び止められた。
「あの……これ」
彼女の差し出す、絆創膏だらけの手の中には、弁当袋が、一つ。

『手料理』(2)








今日はとても、大事な話があるからと呼び出すと、強張った顔で彼女はやって来た。
今日はね、あなたを叱る訳でも、修行をつける訳でもないのですよ。
とても大事な話、聞いてくれますか?
立ち尽くしている手を取り、その前に跪くと、誠意を込めて彼女を見上げた。
――オレと、ずっと一緒にいてください。

『求婚』








もし、想うことが罪と言うのなら、受けましょう。
どんな罰もこの身に。どんなことを引き換えにしても、アナタを想い続けましょう。
だから、生まれ変わってもまた、どうかアナタに逢いたい。
何のしがらみもないアナタと、今度こそ恋をしてみたい。

『Fortune's Wheel』








一挙手一投足に、彼女が過敏に反応してしまうのは、紛れもなく己のした所業の為だった。
しかしあの時、オレはアナタに首を下げ、アナタに許しを貰ったのだ。
アナタも瞳を潤ませながら、嬉しいと、オレの手に触れたのに。

まだオレは、嫌われていますか?
まだオレは、アナタに許されてはいませんか?

『Ivy』








もっとご自分のことを、大切にして頂きたい。
行動を起こす前に、どうか周りのことを良く考えてください。
失くしたものは、もう取り戻せない。
失くしてからでは、遅いのです。
残されるアナタの父君や、仲間のこと、ちゃんと考えましたか。
もうオレが、アナタを守ることは出来ないのですよ。

『最後通告』








「兄さん」
割と人通りのある場所で、ヒナタ様がにっこりと片手を差し出す。
その手には、何もない。ただ、オレの手に握られるのをわくわくと待っている。……と見える。
「兄さん……」
期待感に赤らんだ顔が、オレを見つめる。
――冗談じゃないですよ……。
重苦しい溜め息を一つ吐き、オレは小さな掌から目を背けた。

『未完成』








「……兄さんには、分からないもの」

……オレだってね、アナタが人前でオレと手を繋ぎたがる理由くらい、分かりますよ。
黙って差し出したオレの手に、今度はツンとそっぽを向く。
ならば……と強引に彼女の手を取り、指を絡ませた。
「……オレ以上に赤くなるのやめてください。オレの方が恥ずかしいです」

『未完成』(2)








「ヒナタ様、ちゃんと帽子を被りましょう」
忠告も何処吹く風、目の前の花畑に夢中でちっとも聞いていない。
こんな強い日差しの中、倒れては大変だから。
「ヒナタ様……帽子を」
花なんか見ておらず、小さな手は、落ちた花弁を拾っていた。
振り返った彼女の笑顔と、帽子一杯に集めた花弁の、何と眩しいこと。

『帽子、いっぱいの』








布団を頭まで被りながら、私は恐くて震えていた。
いつも側にいる気配が、今はなかった。
コワイ、コワイ。夜はコワイ。何も見えないから。
昼間の内に、兄さんは此処を発った。
――いってらっしゃい。
あんな平気な顔をして、送り出さなければ良かった。
震える私を闇に染めながら、夜は更けてゆく。

『So Deep』








カタンと、窓辺で音がした。
暗くてコワイ夜に、欲しくて堪らなかった、嘘みたいな気配が、私を見つめていた。
思わず伸ばした手を、直ぐ様掴まれ、胸の中に優しく引き寄せられる。
縋り付く私を宥めながら、兄さんは少し困った風に言った。
「あんな顔されて…置いて行ける訳ないでしょう」

『So Deep』(2)








死者の特権、と言うか。
とにかくオレには、分かるのですよ。
君に段々と、君らしい笑みが戻ってきていること。
オレのことを、あまり思い出さなくなっていること。
オレには、分かるのです。
前を見据える君が、もうとっくにオレを乗り越えていること。

『彼と彼女のソネット』








「もっと甘いのありますよ」

――え? どんな?
言い掛けた唇を、兄さんの唇で塞がれた。
「……どうですか? 甘かった?」
兄さんの吐息が唇に掛かる。頭がぼうっとして、何も考えられない。
「……分からないなら、もう一度しますか?」
ぶるぶると首を横に振る私を見て、兄さんは本当に面白そうに笑った。

『カフェオレ』








口に含んだ瞬間、驚いて吐き出しそうになった。
どうしてだろう。今日のはちっとも甘くない。
「ああ……甘くなかったですか?すみません」
兄さんがそう言った時には、既に遅かった。

「足りない……? ほら、もっと甘くしてあげる」
口に残る苦味を、舌で舐め取られ、吸い取られて。返事さえも、呑み込まれる。

『カフェオレ』(2)








コトン、とヒナタ様が箸を置く。皿の中身は、半分も減っていなかった。
恐らく定期的に訪れる、“減量”の期間なのだろう。
「ばかなことしていないで、早く食べなさい」
ところが彼女は目に一杯涙を溜めて、こう言うのだ。
「だって、だって、兄さんより重くなったら、抱っこしてもらえなくなっちゃうもの」

『乙女の悩み』








「だ、抱っこって何なんです?」
吹き出した汁物で濡れた口元を拭い、真意を問う。
如何やら目方が増えれば、お姫様抱っこして貰えなくなるとサクラに脅されたらしい。
「お姫様抱っこって……このことですか?」
馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、試しに抱えてみる。
……成程、これは予想以上に……色々と、やばい。

『乙女の悩み』(2)








「……何だ、軽いじゃないですか。これでは減量は不要ですよ」
軽いと言うか何と言うか。こう…むにっとしていて柔らかで…。
こ、この重量感、良い……!
「減量は必要ありません」
無くされたら困ります。大事なことなのでもう一度。
「減量は必要ありません」
オレの気迫に圧されたのか、ヒナタ様は抵抗なく頷いた。

『乙女の悩み』(3)








オレにはちゃんと、分かっていますよ。
父君のつける厳しい修行に、歯を食い縛って耐えていること。
誰もいなくなった道場で、密かに悔し涙を流していること。
でもね、ヒナタ様。もう少しだけ、我慢してやってみてご覧なさい。
さすれば今日のあなたは、昨日のあなたより、ちょっとだけ強くなりますよ。

『修行』


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