救援活動
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 視界を浮遊する灰色の塵はどこまでも憔悴した胸に積もっていく。辺り一面が灰白色に覆われて、不気味に轟く山の予測不能な動向をネジは注意深く探る。とっくに危険区域から帰ってきていると思われた、班員の姿はなく、周囲に溢れる登山者や誘導する医忍のまるで静止画のような静けさが、色をなくしてネジの側を通り過ぎていく。
 遠景に霞む、噴煙の立ち上る中から、やがて小さな人影を認める。予感が走ってネジは反射的に駆け寄る。煙を掻き分けて目に入ったのは、たった一つ戻った小さな人影──先刻テンテンに預けて別れた、登山道で保護した子どもであった。
 独りでここまで──? あどけない頬の丸みは白く掠れて、灰の中を駆け抜けたような痕跡を見た。俄かに信じられない思いが巡る中、ネジはそっと膝をついて、幼い少年を窺った。
「……一緒にいた、お姉さんは……?」
 震えないよう、慎重に押し出した声に、じっと押し黙る。ただ顔を俯けると、ハラリと積もった灰が髪から舞い落ちた。答を持たない様相に、目の前の世界が暗転した。灰白色に染まったネジの思考が、黒く侵蝕されていく。
「……大丈夫だ。おいで。怪我はないか? 向こうで手当てをしよう」
 まだ尋ねたかった言葉を心底に沈めて、ネジは怯えないように優しく子どもの腕を引き寄せた。先に救助されていた彼の家族と会わせた方が良いだろう。裸足の足元に配慮して、体を抱き上げると、少年は抵抗もなく、されるがままにネジに身を預けた。
 救護班のテントへと向かって、近くにいた女性の医忍に少年を引き渡した。直後だった。突然轟音が鳴り響く。
 外に出ると、山の火口は新たな噴火でできたおびただしい噴煙が漂っている。低い唸りが一帯を包んで、ビリビリとネジの肌にその振動を伝える。立ち止まった捜索班の忍がゴーグルをずらして、遠くで砂のように舞う噴石の行方に目を凝らしている。
……捜索は一旦中止だな……お前はどこのチームだ?……単独行動は不味いだろ……
 立ち尽くしたネジの視界に、岩隠れの額宛てが割り込んでくる。この場所では忍単体での動きは命取りとなる。互いの状態を確認し合いながら、細心の注意を払って救助活動にあたらねばならない。親切心で見知らぬ忍がネジを諭してくれるが、そのチームメイトの安否が、さっきから分からないでいた。否、恐らく、あそこに──。
──何をしている。持ち場に戻れ。
 男の更に後ろから、強めた語気が飛んでくる。気を取られた男を余所に、ネジは印を結んだ。視野が解き放たれて、周囲にいる人々を超えて灰の積もる山肌を捉えた。
 視神経に集まる急なチャクラの変化はネジの白眼発動を示していた。捜索時以外は眼を休ませるようにと言われていた。だがもう、その必要はない。息を呑むように、男達の空気が変わった。
──噴火が収まるまで、行ってはならない。
 後ろから聞こえる部隊長の蛮声に、ネジは従わなかった。

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