救援活動
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「恐かったわね、もう大丈夫よ」
 ゴツゴツとした岩の隙間から差し入れた、テンテンの手がそっと掴まれて、小さな体が這い出てきた。
 両親と逸れて、捜索願を出されていた幼い少年は、丁度良く岩の窪みに身を隠して、降り注ぐ火山灰から免れていた。
 クタリと座り込んだ少年の両肩に手を添えて、テンテンは安堵の表情を浮かべている。心細い思いをしただろうが、幸いにも目立った外傷はなかった。膝をついて二人の様子を見守ると、ネジは無線を入れる。
「木ノ葉第三班、子どもは無事保護した」
『了……い』
 砂塵のようなノイズ音に混じって、途切れた返答が届いた。山に入る前には正常に通信できていたが、大分電波が届きにくくなっている。
 火口付近の噴煙は、風もなく静かに浮かんでいた。既に最初の噴火から、一刻ほど経っている。切られた無音の無線に、ノイズだけが流れ続ける。
「ネジ、どうする? 念の為、他の場所も捜索した方が……」
「……いや、一旦戻ろう。その子を避難所の救護班に。家族が待っている。その後本部に戻って、小隊と合流しよう」
 心配そうに眉を寄せて見上げてくるテンテンの様子に、ネジは何もない素振りで無線を切る。面倒見の良い彼女の性分らしい提案だった。ただ、テンテンの腕にはあどけない表情の少年が収まっている。
「そうね、分かったわ」
 少年を見下ろすと心得た顔をして、無事に送り届けないとね、とテンテンは呟く。
 すると、切ったばかりの無線が、再び反応を見せ始める。耳に仕込んだイヤホンのノイズに、ネジは神経を研ぎ澄ませる。
『……ジ……D地点で、土砂……落石が……急いでくれ』
「落石……」
 耳に届く微かな音声を拾うと、別の部隊からの緊急の応援要請だった。此処から然程遠くはない。それがネジに連絡が入った理由でもある。ということは当然ながら、この付近も安全は保証されてはいない。至近に聳える火山も、次にいつ動きを見せるか。
「ネジ、行ってあげて。あとは私が」
 答に惑う様子のネジを察して、テンテンが言い放つ。それは頼もしくネジの背中を押す気概に溢れていたが。ネジは冷静に、周囲の豹変を警戒した。
「この辺りは危険だ。避難所までは、オレと一緒に……」
 ネジの言葉を遮って『至急……』と、また無線が振動する。思わずと、砂塵の向こうの声の主にネジは眉根を寄せる。
「少し待ってくれ。子どもを保護している」
「大丈夫よ。急いでいるんでしょ? この子はテンテン様に任せて」
 テンテンを見れば、少年と同じような純粋な顔が二つ並んで、ネジを見つめている。
 少年の体力を考えれば、こちらも早急に避難所へ向かうべきだろう。しかし、このまま二手に分かれて良いものか。これでは、いざという時、回天がなくてはあまりに無防備……避難所までの距離は……考える猶予は与えられていない。無線が無情にもネジを追い立てる。
「……分かった。……テンテン、気をつけろよ」
 自分の主張が認められて、にんまりとこちらを向く、茶色の瞳には明るい希望が確かに宿っていた。それにネジの懸念が少し和らいだのも、事実。テンテンに限って──いつも任務では自立して、積極的に攻撃を組み立てるくノ一だ。常識的で、咄嗟の状況判断もできて、少なくともリーやナルトのように無茶はしない筈。

──避難所で落ち合おう。
 ネジとの約束に頷くテンテンを認めて、ネジは背後の山を一瞥する。火山の変化のこと、まだ色々伝えておきたかったが、全て呑み込んで、無線の地点へと発った。

 それが最後に彼女と交わした会話になるとは、思わなかった。
 否、思いたくない。

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