不完全な躯を引き摺って

ショックで色が抜けてしまった白髪を一房手に取る。さらさら、と零れ落ちていく髪を見つめる。だが、心は上の空。

場所はカリフォルニア基地。これからエリア11へと愛する妹と共に向かう。18の誕生日と共に婚姻関係を結ぶ手筈になっていたのだが、結ぶ相手がエリア11に赴任したこともあり、自分も妹と共にエリア11へ向かうことになったのだ。もしかすると、エリア11で式を挙げることになるかもしれない。ヒールの音を響かせながらエリア11の総督に就任することになった妹の下へ向かう。

「ナナリー」
「名前お姉さま」
「もう少しで出発だって」
「そうですか」
「心配?」
「少しだけ…」
「大丈夫だよ。スザクもいるし、私も傍にいるから」

ナナリーの華奢な手をそっと握り締める。彼女が安心するように、願いを込めて。


カリフォルニア基地を出発してから少し経った頃、艦に振動が走った。庭でナナリーとお喋りに興じていた名前は顔を上げ、周りを見渡す。

「少し様子を見てくるね」
「お姉さま…」
「大丈夫。ちゃんと戻ってくるよ」

パタパタと駆け足で艦橋へ向かう。空気の抜ける音と共に艦橋内に入る。

「名前皇女殿下!?」
「何が起こっているのですか?っ!!あのナイトメアはまさか……」
「黒の騎士団です。総督がエリア11に就任する前に潰そうとしているのかもしれません」
「総督を守りきれるのですか!?」
「必ずや」
「エリア11にはラウンズが3人いるはずです。至急応援を呼んでください」
「イエス・ユアハイネス」

この場所に留まる理由も無くなったリリーナは不安な思いを抱いているナナリーの元へと急ぐ。通路を曲がった先に黒の騎士団のナイトメアが2機。ひっ、と息を呑んだリリーナの前でナイトメアが止まる。

『名前くんか?』
「その声、藤堂先生!?」

ガシャンッ、という音と共に窓ガラスが割れ、藤堂の後ろにいたナイトメアを押さえる。爆風や割れたガラスが吹き荒れるが、藤堂のナイトメアが名前を庇う。藤堂のナイトメアの隙間から見えたナイトメアに目を見開く。

「ジノ!!」
『名前!?』

藤堂はジノの注意が名前に向いている間にその場から離れた。こっちに来い、と手を伸ばしてくるトリスタンを拒む。

「ナナリーがまだ中にいるの!」
『総督のことはスザクに任せてろって。お前は早くこっちに!!』

名前は首を振り、トリスタンから逃げるように通路を走っていく。名前と叫ぶジノの声が背後から追いかけてくるが、それを振り払うかのようにがむしゃらに走り抜けた。

通路を走り、もう少しでナナリーの下へ戻れると思った瞬間に爆風と共に空へ投げ出された。



大きな爆発音に目を向けると目を疑う光景が飛び込んできた。爆発の規模よりも空に投げ出される少女に目が釘付けになる。それは自分が誰よりも大切に思い、誰よりも愛しく想う少女。

「名前!!!!!!」

赤いナイトメアなど構わずに彼女の下にナイトメアを飛ばす。凄まじいスピードで落ちていく少女を追いかけるジノの身体には普段以上のGがかかっていたが、そんなこと気にせずに名前の後を追う。

痛みで意識が朦朧とする中に自分を必死で追いかけるトリスタンの姿が映った。名前は無意識の内に助けを求めるように左手を伸ばす。




「名前!名前!?」

名前はトリスタンの手の中に納まっていた。ジノが呼びかけても一向に答えない。髪が顔にかかって表情が伺えない。ロイドが待つアヴァロンに戻ろうとしたときに、名前の白い髪に赤いナニカが見えた。トリスタンのコックピットから出たジノは器用にトリスタンの手の平へと移動する。名前を抱え上げ、顔を確認すると、右目を中心に夥しい量の血が流れ出ていた。