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「越後の雪はいいねえ」

雪かき中に思わぬ深さに足を取られた私を見て、慶次殿は溌溂と笑った。

「からかわれていますか…?」
「おっと、悪いな。そういうつもりじゃあなかったんだが」

慶次殿はそう言うと、私の腕を掴んでいとも簡単に私を雪の中から起こした。恥ずべき失態にこの寒さにも関わらず顔が赤くなる。越後の雪とは私の方が付き合いが長いというのに、これでは格好がつかないではないか。

「これだけ積もると景色が白に塗りつぶされたみたいで、なんとも爽快だと思ったのさ」
「そうですね…難もたくさんありますけど、私も好きです。冬景色」

しんしんと降り積もる雪を愛でるように眺めている慶次殿は、真っ白な景色に鮮やかに金と赤を咲かせていて。まるで椿のようだとぼんやり思う。
ふと、よこされた視線とかち合って、一瞬息の仕方を忘れた。頬に降った雪が溶けていく感覚。

無意識に止めていた息を吐きだせば、遠くから兼続殿の休憩を呼びかける声が淡く響いた。よく通る兼続殿の声もこんな大雪ではいくらか吸収されたようだ。現世からから隔離されたような空間から意識がゆるりと引き戻されて、私は慌てて兼続殿の声に応えた。

「そういや、甘酒を用意するって言ってたっけなあ」

黙っていた慶次殿が何ともなかったかのように日常でしかない台詞を口にするものだから、先ほどまでの風景が白昼夢にすら思えてくる。ばかばかしい思考を振り払って「そうでしたね、戻りましょう」と踵を返して歩き出すと、また雪に足を取られてぐらりと体が傾く。あっと思う前に、大きな手に体を支えられて。

「嬢ちゃんは雪に好かれてるねえ」
「う、うれしくないです」

私の震えた声に、慶次殿はまたからからと笑った。

冬椿が咲く


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