「は〜、ぜんざいが食べたい」
一夜にして、忍術学園は真っ白に染まっていた。積もりに積もった雪を、渡り廊下から一瞥した勘右衛門が、大きなぼやきを漏らす。それにつられて、八左ヱ門も雑煮が食べたいなあ、とぼんやり考えていると、前を歩いていた勘右衛門が振り返る。
「後で何する?」
「え?」
「雪合戦、かまくら、雪像作り、やれることは沢山あるけど」
「はしゃいでるな…」
「はしゃがないと損じゃない?」
「そういうもんか?」
「だって雪だよ」
よく分からない理屈に納得しかけていると、馴染みのある鳴き声が聞こえた気がして八左ヱ門は足を止めた。
「竹谷せんぱ〜い!」
「…あっ、茂吉」
八左ヱ門が口にした名は、こちらに手を振っている桃色の人物ではなくその足元で飛び跳ねている柴犬だった。渋い名前だなと一瞬勘違いしかけた勘右衛門が恨みがましそうな目線を八左ヱ門に送るが、当の本人は気づいていない。
「外に出したのかー!」
「はい!あまりにも茂吉がはしゃいでいるのでちょっと遊ばせようかと!」
八左ヱ門に気が付いた柴犬は走り出そうとしていたが、手綱を握っている彼女が必死に止めるので諦めたようだった。そこそこ物分かりは良いらしい。雪を飛び散らせながら全力で遊んでいる柴犬に付き合っている彼女は、きゃあきゃあと黄色い声を上げながらも楽しそうだ。その微笑ましい光景に小さく笑って、八左ヱ門は声を上げた。
「風邪引かないようにほどほどになー!」
「はあい!…あっ、竹谷先輩!あけましておめでとうございま〜す!」
満面の笑みで新年の挨拶を告げてくれた後輩に「おう!」と返して、八左ヱ門は一緒に足を止めてくれていた勘右衛門の背を押した。察した勘右衛門が廊下を渡りきると、外の景色が見えなくなった瞬間八左ヱ門がぼそりと呟く。
「おれ、雪苦手だわ」
「ん?」
「…好きな子が、可愛く見えすぎる」
この惚けた頭に後で思い切り雪玉をぶつけてやろうと、勘右衛門は思った。
桃色冬景色
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