花屋の花子さん@
「今日も大変そうだな。」
背後から掛けられた声に驚き、びくりと身体を強張らせる。
花屋の下積みというのは、ひたすら掃除・雑用と鉢物の手入れ。
決して嫌いではない作業だけど、花苗のひとつひとつに、水をやりメンテナンスを施し・・・それは決して誰もが想像する『お花屋さん』の姿とは程遠い。
お店の外で一人黙々と作業する様子は、きっと普段なら誰の目にも映らないもの。
声のする方を振り向くと、スーツをしゃんと着こなした体格の良い男性。
彼は、私の働く花屋が所属する百貨店の外商さん。
お得意様に届ける花を時折注文に来られるので、よくお店に顔を出される。
「こんにちは、エルヴィンさん。」
「それは、先日手入れしていた花か?」
「あ、そうなんです!もうダメかと思っていたんですが、持ち直して今は立派にお花が満開です。」
「そうか。」
エルヴィンさんは、いつも店内の胡蝶蘭や花束などに用があるにも関わらず、包装の待ち時間に必ず表へ出てきてくれて、隅の方で作業する下っ端の私に声を掛けてくれる。
そして必ず
「お疲れ様。」
そう、柔らかな表情で言うの。
普段は整った顔付きで真剣な表情のお顔が、ふわりと緩む瞬間はなんとも言えないときめきを運んでくれる。
「エルヴィンさーん!準備出来ました!」
店内から、先輩が花束の包装を終えた知らせが届くと、私のこのほんの束の間の癒しの時間は終わりを告げる。
「午後も頑張って。」
そう一言私に告げると、彼は店内へと姿を消した。
きっと、エルヴィンさんはいつも高価なお花ばかりを注文されるので、外商さんとしての成績も優秀に違いない。
なのに、こんな花屋の末端の私のことまでも気にかけてくれて・・・
そんな彼に憧れを抱くのは
きっと仕方のないことですよね──
【花屋の花子さん@ FIN】
花季 -hanagoyomi-