嫉妬




ある日の夜の食堂。

もうすぐ消灯だという時間に、女兵士たちが何人か集まって雑談会議に花を咲かせていた。

今日の話題は調査兵団の兵士の恋愛について。

クララは明日の食事の仕込みをしながら、そんな兵士たちの話に耳を傾けていた。





「調査兵団の兵士以外の人との恋愛ってどう思う?」


誰かが話題を振る。


「素敵だとは思うけど、自分の考えを到底理解してもらえる気がしないから、無理だと思う。」

「私もそう思う!
それに、いつ死ぬか解らない自分に想いを寄せてくれる人がいたとしても、申し訳ない想いでいっぱいになるし、そんな人を自分に縛り付けておくのもどうかと思うし・・・」


みんな、同じ考えなのか、ウンウンと頷いている。


「やっぱり、調査兵団の兵士には、同じ調査兵団の兵士が一番理解し合えると思う!」


誰かが言った。


「同感同感!」

「となると、やっぱりリヴァイ兵長が一番理想だよね!」

「うんうん!!素敵よね〜」

「ああ見えて、本当に優しいもんね!」

「リヴァイ兵長を支える存在になれるなら、私、何だって出来そう〜!」

「私だって〜!!」


皆、楽しそうに笑い合っている。





兵士たちの話に耳を傾けながら、クララは戸惑っていた。

やはりそう言うものなんだろうか・・・

兵士でない自分には、どんなに頑張ったって、兵士である皆のことを理解できない部分があるのだろうか。

なんだか急に寂しくなる。






「クララさんはどう思う?」


不意に話を振られ、クララは一瞬怯む。

どう答えたら良いのか・・・


「調査兵団の私たちが、一般の人と恋愛するってなれば、やっぱり反対だよね?」

「・・・どうかな。
私は兵士じゃないから、そんなことまで考えたことなかったわ。
でも逆に、一般の人には自分たちの考えは理解してもらえないって思うことあるの?」


つい、自分のことのように聞いてしまう。


「そりゃあるに決まってるじゃん!
やっぱり、同じ壁外で苦楽を共にした仲間でないと解り合えないことなんて、山程あるもん。」

「それに彼女なんて、結婚を考えたくらいの人がいたけど、調査兵団の兵士だって言えば、家族の反対があったからやっぱり別れようって言われたんだって。
酷い話だよね!」

「やだ、もう!勝手に話さないで!」

「いいじゃん、クララさんは調査兵団のお母さんなんだし、ウチらの気持ちも解ってくれるよ!」

「そりゃそうだね!」


誰かが最後に言った言葉に納得したように、女兵士たちは笑いながら皆頷いていた。

だがクララには、そんな言葉は耳に入って来ず、自分と兵士たちの立場を改めて考えていた。






しばらくヤキモキする日がクララに続いていた。

兵士でない自分。

エルヴィンと恋人のように過ごしているつもりだったけど、でも実はそれは表面だけのことで、本当は彼の深い部分まで理解出来ていないのではないだろうか・・・

実際に、エルヴィンとの今までの会話を思い出してみるが、壁外での話なんて、そう言えば彼の口からほとんど聞いたことがなかったし、団長職のことも全くと言っていいほど知らない。

普段話すことと言えば、他愛もないことばかり。

それに今更だけど、エルヴィンの口から言葉で自分への気持ちを聞いたことがないのが、急に不安となって押し寄せていた。

なんだかエルヴィンとの距離を感じてしまう。





とにかくエルヴィンに近付くため、クララは自分には何が出来るだろうかと必死に考えていた。

今更兵士になんてなれない。

でもせめて、馬くらいは乗れなくちゃ話にならないかな?

乗馬が出来ない事をずっとコンプレックスに思っていたクララはふとそう思い、昔から大の苦手だった乗馬の練習を始めることにした。






「きゃーーー!!う、動かないでー!!」

「動いてるのはクララの方だよ。
ほら、力抜いて・・・」


それから、ハンジに暇な時間を見つけてもらっては、馬に乗ってみようと心掛ける。

でもやっぱり恐い。

自分が恐がると馬にもそれが伝わり、馬も落ち着かず尚一層乗りにくい。

とうとうクララは馬に振り落とされ、地面に尻もちをついていた。


「いったーい!!」


お尻を摩りながら涙目のクララ。

そこへ偶然エルヴィンが通りかかる。


「何をしているんだ?」


目を見張って、座り込んでいるクララに問い掛ける。


「馬に乗れるようになりたいの・・・」

「どういう風の吹き回しだ?」


突拍子もないクララの行動に、エルヴィンは可笑しくてつい笑みが溢れ、笑いながら話す。


「そうなんだよ!私も無理に乗る必要なんてないって言ってるんだけどね、聞く耳持たなくてさ〜」


練習に仕方なく付き合っているハンジも、どこか可笑しそうに溜め息を吐いている。


「何処か行きたい所とかあるのか?」


エルヴィンはクララの意図を掴もうとして尋ねる。


「まぁ・・・そんなところかな」


“あなたに少しでも近付きたくて・・・”

とてもそんなことは言えず、クララは適当に相槌を打っていた。





「それなら、俺が連れてってやるよ。」


エルヴィンは尻もちをついていたクララに手を差し伸べながら、優しい笑顔をクララに落とす。

クララはその大きな手を握っては、座り込んでいた身体を起き上がらせる。


この笑顔はズルい。

真面目な顔に時々現れるこの笑顔。

そのギャップにいつも私はときめいてしまう。

そして、いつもこの笑顔に甘えてしまう・・・

いつもなら幸せいっぱいの気分になるこの笑顔だけど、今日は苦しい。


「それじゃあ意味ないの。」

「?」

「私だって少しくらいは皆と同じようにしたい。」


段々とムキになってくる。

意味ないことなんて、自分でも解ってる。

でも、何もしないなんて、全部諦めたみたいで自己嫌悪に陥るばかり。


「何ベソかいてるんだ?
君にしか出来ないことなんて、山程あるだろう?
何も兵士と同じようにしなくても・・・」

「そうだよ、クララ。
兵士は兵士だし、クララはクララだ。
一緒のことをする必要なんてないよ。
それに、クララはエルヴィンに甘えられるところは甘えたらいいんだよ!」

「・・・ハンジ、」


ニヤニヤしながら茶化そうとしたハンジを、少し照れながら静止しようとしたエルヴィンだったが、クララにはハンジに“諦めろ”と言われたような気がして、そんなエルヴィンの様子も目に入らず、苛々が募って投げやりに言い放つ。


「もういいっ」


そう言って、クララはその場を一人離れた。

ハンジとエルヴィンは、そんなクララの後ろ姿を見送りながら、顔を見合わせて首を傾げていた。






「あ〜あ、八つ当たりしちゃった・・・」


乗馬の練習を投げ出してしまったクララは、兵舎の近辺を一人とぼとぼ散歩していた。


「・・・何やってるんだろ、私。」


エルヴィンと自分が畑の違う場所で生活していることなんて、とうの昔から知ってた筈なのに、背伸びして彼と同じ場所を歩こうとしていた自分に情けなくなる。

そんなことしたって意味ないなんて、気付かないほど馬鹿でもないし、何より若くもない。

普段散々若い兵士たちに偉そうに恋の助言なんてものをしている自分が、何を勘違いしているのか・・・

はぁと深い溜め息が溢れる。





目的もなく散歩していると、兵舎の片隅にある倉庫にまで足を運んでいた。

クララには余り馴染みのないその場所の奥からは、ゴソゴソと人影がした。

誰が居るのだろうとクララは不思議に思って覗いて見ると、立体起動装置の整備をしているリヴァイが一人座っていた。


「リヴァイ兵長、何してるの?」


クララは気紛れにリヴァイに声を掛けた。


「あ?お前こそ、こんな所に何の用だ?」


不可解な様子で三白眼をクララに向けて答える。


「何の用もないよ。ちょっとお散歩。
少し見学させてもらうわね。」


そう茶目っ気たっぷりにクララが笑うと、リヴァイは面倒臭そうに舌打ちをしながら、近くにあった木箱を椅子にするようクララに差し出す。

そんなさり気ないリヴァイの気遣いに、クララは笑顔になる。


「リヴァイ兵長って、愛想無さそうなのに意外と優しいよね。
こないだ、女の子たちも話してたよ。」


「興味ねぇな」


クララの話に素っ気なく返し、リヴァイは無言で作業を続ける。

クララもまた、器用に装置を整備するリヴァイの作業を無言で見つめていた。






「それで、エルヴィンと何かあったのか?」


不意にリヴァイがクララに問うので、クララは目を見張って驚く。


「なんで?」

「顔に書いてある」


リヴァイのまさかの話に、クララは動揺を隠せない。


「まさかそんなことを言われるとは思わなかった・・・」

「あぁ、俺もお前とこんな所で話すとは思ってなかった」


思えば、リヴァイはクララとエルヴィンの関係を知っている数少ない人物である。

別に自分たちの関係を隠しているわけでは無いけど、普段人前でエルヴィンと会えるのは食堂のほんのひとときだけだし、他に会える機会と言ったら、早朝の中庭かエルヴィンの部屋くらいだ。

そう思うと、クララは自分の恋愛相談なんてたいしてしたことが無かったことに気付く。

だから、目の前で無表情に座って作業を続けているリヴァイが、密かに自分のことを気に掛けてくれたのかと思うと、クララはなんだか嬉しくなる。


「ふふ。心配かけちゃったみたいだね。
別にエルヴィン団長と何かあった訳でもないよ。
ただ私が勝手に妬いてるだけ。」

「何に?」

「さぁ、何にだろ?
環境に・・・ってとこかな?」

「そんなものに妬いてどうなる?」

「どうもならないね。」

「エルヴィンには言ったのか?」

「そんなの、言える訳ないじゃない。」

「独りで悩んで、解決するのか?」

「ふふっ、きっとならないね。」


さっきから悶々と悩んでいたことをリヴァイに端的にまとめ上げられ、クララはまいったなとちょっと困った様子で笑みが溢れる。






「本当に、お前らはケツの青いガキどもだ」

「へ?」


突然リヴァイが脈略もないことを言うもんだから、クララは素っ頓狂な声が出る。


「言いたいことも言えねぇってんじゃ・・・
歳をとるってのも厄介なもんだな」

「失礼ね。
それに、歳をとるったって、若い時に思ってたほど立派なものじゃないよ。」

「あぁ、それは解る気がするな。」

「別に私は歳ほど立派じゃない。」

「ならお前と同じ歳のエルヴィンも、お前と何かあっても独りで悩んで考えるんだろうな。
面倒くさい関係だな。
まぁ、俺にはあいつの考えてることなんて解らないが。」


そう言ってリヴァイは話すのを止め、また作業に取り掛かった。

確かに、エルヴィンも何か悩み事があったとしても、私情を誰かに相談するようには見えないな・・・とクララは妙に納得するが、それは歳のせいなのか?とリヴァイの話に考えさせられてしまう。

だがそう考えると、確かに面倒な関係である。


「言いたいこと・・・か。」


クララはポツリと呟き、作業を続けるリヴァイをぼんやりと見つめる。

そんなリヴァイの背中は、とても頼り甲斐のあるものに見えた。

女性兵士たちに人気があるのも、この背中に理由があるんだろうな、なんて密かに感じていた。


「ありがと。」


クララはそれだけ言って、またその作業をしばらく見つめていた。

そして、気が済むとリヴァイに一言頑張ってねとだけ伝えて、その場を後にした。






ある日の夕方。

調査兵団の宿舎には、傷付いた兵士たちで溢れかえっていた。

皆、壁外調査から帰ってきたところだ。





今回の被害は酷かった。

後方から奇行種の巨人が複数現れ、積荷班が壊滅的ダメージを負った。

あのリヴァイでさえも、全てを食い止める術がなかった。

あと少しで拠点地に着くという場所で積荷を失ったものだから、食料をほぼ失った状態で、兵士たちは空腹のまま一夜を明かした。

そんな状態で朝を迎え、帰還に向けて出発するものの、力の出ない兵士たちはいつものように戦えず、いつも以上の負戦者を出してしまった。





兵舎で兵士の帰還を受けたクララたちは、言葉を失った。

今まで見たことのないくらいの惨劇に、せめて無事帰還出来た者たちくらいはと、傷の手当を手伝わずにはいられなかった。






エルヴィンもまた、危ない一戦を交えたのだろう。

その左腕には、簡易的ではあるが包帯が巻かれてあった。

しかし、団長として休む暇はなく、兵舎に帰ってきても、忙しそうに色々な指示に追われていた。





ふと、少し離れた位置でクララはエルヴィンと目が合う。


“ああ、無事で良かった”


クララは、言い知れぬ安堵感で瞳が大きく揺れる。

今すぐおかえりと抱きしめたい。





クララの様子を見たエルヴィンは、クララに何か言いたげな表情をしていたが、すぐにパッと目を逸らしては、近くに居た若い女兵士に話しかけている。

彼女は確か二年前に入団した、とても優秀な兵士。

最近、エルヴィン団長の伝達係の一人として配属されたと誰かに聞いた気がする。

エルヴィンと話し終えた彼女は、颯爽とクララの方へ向かってやってきては、ハッキリした口調で話す。


「クララさん、団長からのご指示です。
兵士たちは皆お腹を空かせています。
何か食事を用意して欲しいと。
よろしくお願いします。」


エルヴィンを見ると、もう違う伝達係に他の指示を出しているところで、クララには目も向けていなかった。





ああ、そうだ。

エルヴィンはここの団長だ。

ただの調理人が気安く話しかけられるような存在ではない・・・





一気に現実を目の当たりにした瞬間だった。






「あ・・・はい、わかりました。
皆さんが帰還する前に準備していたものがありますので、すぐにご用意致します。」


そう言って、クララは調理場へ急いだ。

逃げたと言ってもいいかもしれない。

只々自分の立場が悲しかった。

自分はエルヴィンの何になったつもりだったのだろう。

団長と調理人、それ以上のものでも何でもないのに・・・





心に大きな影を落としながら、クララは調理場で一人スープを温めた。

そして、温まったスープをカップに注いでは、傷付いた兵士に配り歩いた。

途中、エルヴィンを何度か見かけたが、あえてそちらは見ないようにした。

見たことのない真剣な表情で指示を出すエルヴィンは、クララには別人のように思えた。

いや、本来のエルヴィンはいつも冷静で淡白だ。

でもそれはクララの知らないエルヴィンだった。

気が滅入りそうだった。


“私は彼のこと何も知らない”


そんな想いだけが大きくなっていた。






兵士たちの手当が大方終わり、兵舎はようやく静けさを取り戻していた。

クララは空になったスープのカップを集め、調理場でそれらを片付けていた。

ティアナもまたクララと一緒に調理場に立っていたが、傷付いた兵士たちが余りにも多く、気が滅入っていた。


「ティアナ、今日はもう休みなさい。
疲れたでしょう。」

「でも、まだ片付けが・・・」

「大丈夫。もうすぐ終わるから。
それに、ティアナには明日の朝のパンの方がしっかり手伝って欲しいわ。
一眠りしたら、皆お腹が空くわ。
だから今日は早く休んで。」


そう言って、クララは微笑みかける。


「ありがとうございます。
今日は、もう、涙が止まらなくて・・・
お言葉に甘えて、お先に失礼します。」


ティアナは泣きたい気持ちを必死に抑えながら、力無く部屋に戻って行った。

歳の近い仲良しの兵士だって居ただろう。

ティアナには辛い一日だったに違いない。

クララもまた、傷付いた兵士たちや、帰って来れなかった兵士たちを想って、心を痛めていた。






「すみません・・・」


一通りの片付けを終え、クララは一息つこうと思った時、食堂の入り口から力のない声が聞こえてきた。

見ると、先程エルヴィンから要件を伝達された兵士の女の子だった。


「あら、遅くまでご苦労様。
あなたは何か食べられた?」

「いえ、その・・・
まだ何か食べられるものはありますか?」


いつも優秀で近寄りがたいと思っていた彼女は、お腹の虫の音を必死に隠そうとしながら、クララに恥ずかしそうに聞く。

そんな彼女が可愛らしく思えて、クララは微笑みながら答える。


「もちろんあるわよ。
待ってて、すぐ用意するわ。」


そして、温かいスープを差し出して言う。


「召し上がれ。」





嬉しそうに彼女は熱いスープをふうふうと冷ましながら、急いでそれを飲み干した。


「ほんと、クララさんの食事には愛が詰まっていますよね。」


意外な言葉に驚いた。

いつもツンとした印象の子だったので、クララ自体話したことはなかったし、話しかけられることも無いのだろうと思っていた。

それが今日はこんなに柔らかい表情で話してくれる。

クララにはそれが嬉しかった。


「あなた、お名前は何て言うの?」

「ビアンカといいます。」

「じゃあ、ビアンカ。
少し用を頼まれて。
そしたら、とびっきりのパンをご馳走するわ。」


そう言って、ビアンカにスープの入ったカップを数名分、団長室へ運ぶよう頼んだ。






ビアンカは、クララからのお使いを終え、満足そうに団長室から帰ってきた。


「クララさん、ありがとうございます!
エルヴィン団長たちも喜んでおられました。」

「それは良かった。」


クララはふふっと微笑む。

本当は自分が持って行こうと思っていたのだが、エルヴィンとの距離を感じてなんだか足を運ぶ気になれなかったから、ちょうど良かった。


「しかし、クララさん。
どうしてピッタリの人数分のスープが用意出来たのですか?
私が持って行くと、不足も余りもなく、丁度の数で驚きました。」


ビアンカは驚いた表情で言った。


「あら、そうなの?それは偶然だわ。」


クララはおどけた表情で答えるが、それはここで生活するうちに身についた経験からくるものだったので、特別なことではなかった。

クララにしかできないこと・・・

そんな些細なこともその一つなのだが、本人には当たり前すぎて気付く余地もなかった。






「それより、今日はお疲れさま。
疲れたでしょう。
しっかり食べて、明日も団長の伝達係頑張って。」


クララは用意していたパンを差し出しながら言う。

すると、ビアンカの頬が少し赤く染まり、うんと答える。


“ああ、この子はきっと、エルヴィン団長が好きなんだわ”


長年の女の勘が冴える。





「エルヴィン団長って、とても頼れる方で・・・
私、まだ伝達係になって日は浅いんですが、どんな状況になっても、冷静で何事にも的確で、本当に凄いって思います。」


ビアンカは、クララの知らないエルヴィンを語り出し、クララは心がチクリと痛む。


「それでいて、謎めいていて、神秘的というか、団長はいつも何を想っておられるのだろうと、知りたくなります。」


真っ直ぐな瞳で話すビアンカは、とても美しく見えた。

クララは、そんなビアンカをただ見つめるだけしかできなかった。

いつもなら、兵士たちの恋話は敏感に察知して、からかったり応援したり色々話すクララだが、今回だけは何も言えなかった。


“私だってエルヴィン団長が好きなのよ”


年甲斐も無く、心の中で嫉妬していた。






「でも、私には雲の上の人だってことは解っているんです。
とても届かない。
だから、せめて団長のお役に立ちたい。」


そう言うビアンカは切なげだった。

クララはハッとした。

こんな健気な子に何を嫉妬しているんだろう。

思わずクララは言う。


「エルヴィン団長は、トップに立つ立場だから、きっといつも孤独と戦っているはず。
だから、あなたみたいに慕ってくれる兵士がいることは、とても心強いことだと思うわ。」


そして、心の中で呟いた。


“だから、私には兵士としてお支えすることができない分、支えてあげて・・・”





クララとビアンカは、ふふっと微笑みあった。

それは、本人たちは気付いていなかったが、同じ想い人への愛が詰まった、優しい微笑みだった。




花季 -hanagoyomi-