プロローグ

いちばん新しくて白い衣を選んで眠ったはずなのに、朝の光の下では、やはり衿もとの黄ばみが目についた。新品の衣を買うだけの余裕があったら、どれだけ良かっただろう。もちろん、銀糸の縁飾りなどは望むべくもないけれど、それでも泥じみやよれのない、おろしたての麻を身にまといたかった。そうすれば、この後に及んでも治まらない気後れも少しはマシになったかもしれないのに。

せめて、念入りに顔を洗い、ついでにきちんと洗髪をする。よく風にさらして乾かした髪をきちんと結えば、少しは印象も良くなるはずだ。

「いってきます、ーー母さん」

帯の結び目をもう一度締めなおし、がらんとした部屋に一礼した。
私は今日、私の運命を変えにゆく。


シンドバッド王の治めるシンドリアの朝は活気に満ちている。朝の漁から戻った男たち、果物売りの呼び声、出立する商船。港にほど近い区画に住まう私は、この国に暮らして数年の移民だ。

「エルハ!相変わらず早いな!」
「エルハ、うちで朝飯はどうだい」
「エルハ、あそんで!あそんで!」

近所の顔なじみたちが口々に声をかけてくれる。おはよう、ありがとう、また今度。ひとつひとつにこたえる。
優しい人たち。あたたかい人たち。
けれど、きっと彼らには想像もつかない。

私は今日、シンドリア政府の文官試問を受けに行く。