没まとめ@〜B


@互いの心の声が聞こえるようになった夢見主とエペル君



暗闇に引きずり込まれてからどれほど走ったことだろう。エペルは乱れた呼吸を整えようと深く息をした。あれは何だったのだろうか。疑問が浮かぶが答えを与えてくれる者はいない。巻き込まれた者は皆、常ならざる存在を前に逃げる他なかった。ジャックとエースは共に居るが、その過程でデュースとだけ逸れてしまっている。
まあ、アイツなら大丈夫だろう。そんな楽観的な言葉で自身を奮い立たせていたのはエースだった。険しい表情を浮かべながらもジャックも概ね同意見。この二人から、ある意味での信頼を勝ち得ているのがデュースである。
しかしエペルは、ふと気づいてしまった。自然と息が浅くなる。どんなに耳を澄ませても、意識を研ぎ澄ませても、聞こえないのだ。この暗闇に閉ざされた状況下においても絶えることのなかった彼の心の声が。

「……聞ごえねぇ……」

魔法薬の影響で妙なつながりが出来てしまってから、この数時間ずっと聴こえていた。つい先ほどまで、エペルの脳に滑り込むように浮かんでいた、耳当たりの良い声。それがパッタリと絶たれた。
薬の効果が切れるのは明日だと聞いていたのに、何故。
最悪の想像にぞわりと背筋に悪寒が走る。

「デュースグンの、声がっ……!」

エペルの血を吐くような呻きにジャックは身を強張らせた。嫌な、予感がした。

「聞ごえねぇ……!」

それの意味する事とは。





──一方その頃。

「……困った。ここ、どこだ」

げんなりとした表情を浮かべたデュースは、迷っていた。


2021.4.25.
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言い訳をするなら、温度差が書きたかった。




A視覚共有した夢見主とアズール



あなたの能力が欲しい。
そう言われたデュースはぱちくりと目を瞬かせた。能力──状況を鑑みるに怪奇現象や怪異を対処していた陰陽術などに関するものだろう。

「……はあ。正直、使いこなせるとは思いませんが」
「おや、随分と僕の能力を低くお考えのようだ」

一見にこやかに言葉を返すアズールだったが、目が全く笑っていない。これは説明と説得をするにも大層時間がかかりそうだ。……ならば、仕方があるまい。一つ息を吐いたデュースは真言を唱えながら手元で幾度か印を結ぶ。次いで唱え終えると同時に一つ柏手。

「一度手に入れたら最後、コレと一生涯お付き合いすることになるんですけど……本当に欲しいんですか?」

アズールの視界に飛び込んできたのは、それこそゲームのバグが点在しているような世界だった。
黒い靄が蠢き、壁から手が突き抜け、床の一部は底なし沼のような色に変色し、奇形の動物なのか昆虫なのか分からないナニカが浮いている。

「この能力を僕に返却しようがしまいが、ね。そうなると、持たなかったころには戻れませんよ」

特に感情を乗せることなくデュースは告げる。何もこれは脅しではない。常ならざる世界と共にあろうとするのは、そういうことだ。それを一時的に視覚化しただけなのだから。
デュースなりの最後の忠告でもある。

結局アズールが言えたのは「結構です」という一言だけだった。その声が震えていたのは、きっと気のせいではない。

2021.4.26
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本編でやってもよかった話ではあるのですが、他に色々何やかんやがあるので。没。





BIf、夢見主以外にも異世界転生している元審神者が居たら。


(「異界訪問に関する何やかんや」でちょっと触れたやつです)


とあるイグニハイドの二年生と知り合うことになったのは、ある意味で運命だったのかもしれない。
鼻をかすめる焚きためた香の匂い。デュースにとって馴染み深く良く知った、けれど全く別の存在の気配がした。どうにも肌に感じる空気が懐かしかった。

「──……失礼、少し、時間を貰っても良いだろうか」
「ひっ! な、何でしょうか……!」

びくりと肩を大げさに震わせて今にも逃げ出しそうな男子生徒。
少しばかり言葉を交わし、空き教室に移動して話を聞くに至った。

「……出てきて、歌仙」

彼のユニーク魔法はこの一振りの顕現。何故、輪廻を跨ぎ世界を越え、こうして共にあるのか。曰く、前世の生を終え火葬される際に初期刀である歌仙兼定を抱いて炉に入った。予想に過ぎないが、それが影響しているのだろう、と。

「……時間を取らせてすまなかった。それでは、また」

そうか。デュースはどこか胸に穴が開いたような感覚を伴いながら唯ポツリと呟いた。そういう終わり方が出来たのか。この人間は。
──己は敵である歴史修正主義者の手にかかり、刀剣たちの折れる音を聞きながら死したというのに。随分な違い様だ。
ゆるりと緩慢に瞬きをして、デュースは重い息を吐いた。


2021.4.27
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さすがに、これの後に異界訪問とその後のダメージは可哀想だな、って。没。