本当にあった少し不可思議な話@
就寝も間近に控えたとある日の晩のことである。
ジャックは自然と下がってくる自身の瞼を瞬かせた。くあり、と欠伸をしてベッドへ向かう。規則正しい生活を心がけているせいか、身体が時間に正直なのだ。そんな朧気になりつつある意識の中、ジャックはソレをぼんやりと認識した。瞬きをするが変わらない。もう一度ぱちりと緩慢に瞬きをする。
カーテンの隙間から見える窓の外、その向こう。窓の上ギリギリに赤色の何かがゆらり、と。
誰かの衣類が干されたままになっているのだろうか。そう考えたのは一瞬だった。とある事実に思い至った途端、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。ベッドに横になろうと片手を着いたまま硬直してしまった。そろりと視線を逸らして窓から壁へと視界を移動させる。呼吸が自然と浅くなっていたのを自覚して、深く息を吸った。
この部屋で、窓の外に、衣類など見えるはずがないのだ。
──何故ならば。
(ベランダなんか無いんだから、何かを吊るせるような物も無いんだから……外に干せる場所は、無い。……じゃあアレは、何だ)
ここは自宅ではないのだから。
間取りも配置も設備も、何もかもが異なる。寮内に動物が居ないわけでも無いが、あんな色を持ったものは居なかったと記憶している。
鳥の可能性も考えた。だがそれにしては無音だ。そもそも鳥は夜目が利かない。夜行性の鳥もいるが総じて夜に溶け込む色合いを持つものが殆どだ。加えて止まり木など無いのだから、動くことなくこの場に留まり続けることなど不可能に近い。
だから、外に、夜闇以外の何かが見えるはずが、無いのだ。
ジワリと手に汗が滲む。ベッドに着いたままの手の指先には無意識のうちに力が入っていた。肌を撫ぜられるような薄気味悪さを感じて、どうにも気持ちが悪い。
見間違った可能性などジャックの視力を考えるとゼロに近い。何せ獣人だ。視力はただの人間のそれとは段違いである。たとえ寝ぼけていようとも、色を見間違うことなどあるものか。
ぞわりと総毛立ったまま、ジャックはしばらくの間動けずにいる。
ふと脳裏をよぎったのは、自身の部活仲間でもあるデュースだった。先日の禁足地での立ち回りと言い、マジフト大会後の一件で主立って動いていたことと言い、常ならぬ事象に慣れているように見受けられる。言動や行動の端々にもそれが滲んでいるように思えてならない。ジャックの視線が自然とスマホへと向かう。だが手が伸びることは無かった。
これしきの事で連絡を取る必要性があるのか。ただ見間違いと言われて終いだろう。実際はどうであれ、ジャックの考えはそれに尽きた。
結局は自分で始末をつけなければならない。──カーテンを閉めなければ。
そう思い、意を決して顔を上げる。隙間が怖かった。近づくのも嫌だったが、このまま寝に入るのは更に嫌だった。直視しないよう視線を若干ずらし、口を引き結んだ。しかし、その決意も予想外のことに挫かれることとなる。
(……何にもない、いやでも、さっき確かに赤が見えていたはず……)
カーテンの隙間から見えるのは夜闇だけ。赤色などどこにも見当たらなかった。何とも腑に落ちない。
見間違うことなど無いとは思えど、もしや本当に寝ぼけて色を誤認したのだろうか。渋面を浮かべたジャックはキッチリと隙間なくカーテンを閉める。だが、それでも全身を這うような悪寒はしばらく消えず、寝付くまで普段より時間がかかった。……その所為なのか翌日寝坊したのは全くの余談である。
後日デュースにそれとなく相談したところ「外を覗かなくて良かったな」とだけ言われた。ジャックは返答の意味を理解し、一拍遅れて尻尾をぶわりと膨らませたのだった。
その日を境に、彼は隙間という隙間を無くして生活するよう心掛けたという。
2021.8.15.本館サイト掲載
2021.12.25.企画サイトへ収納
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■『あかいろ』
実録@:大体この話と一緒。お盆にカーテンの隙間からちょろっと赤が見えて、いやでも洗濯物干してないぞ雨だし? ってなったんですよね。見なかったことにして別なことをしてからもう一度視線を向けたら赤が消えていたんです。アレ何だったんでしょうね。謎。
代理:ジャックくん/筆者
彼は結局カーテンの隙間から見えた赤が何だったのか分からないまま。夢見主くんは何となく察しているみたい。忠告じみたことは言う。肝心なことは何も言わない。