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土方歳三side



「月神殿………いや香耶君じゃないか!!」

「おとうさーん!!!」

感動の再会さながら。
香耶は近藤さんに飛びついた。

ほほえましい画だ。つうかお父さんて。おまえへたすりゃ近藤さんと同い年くらいだろ。ほら、他のやつらがぽかんとしてる。

「土方君、どういうことです?」

山南さんに笑顔で説明を求められて、俺はばつの悪い顔で目を逸らした。

「…知り合いだ。試衛館にいたころのな」

皆が食客となる以前に訪ねてきたことがあったのだと言えば、山南さんは納得した。

「なるほど。しかしそれだけで処遇に手心をくわえることはできないでしょう。間者の可能性も捨てきれません」

「………」

確かに身元がはっきりしねえし、最もな言い分だが…………なぜだろう、香耶がどこかの間者とかぜってぇありえねえと思ってしまうのは。あいつはどこかの藩だとか党だとかのしがらみとは無縁の場所で生きてる。俺らが敵だ味方だといってるやつら全員、友達、みたいなことになっていそうな。
もしかして化かされてるのは俺のほうなのか?

「じゃあさ、あいつもここに置けばいいじゃん」

「そうだぜ。何よりあんなに近藤さんと総司が嬉しそうにしてるし。あれで彼女を始末するなんてできねえだろ」

平助や新八の言葉に総司も笑顔でうなずいた。

「僕もそれに賛成。なんなら僕の小姓にくださいよ」

だからてめえは下心が丸見えなんだよ!!

「副長、香耶は俺の剣戟の師でもあります。約束を果たすためにも、ぜひ俺の小姓に」

斎藤まで……。約束って何だ。果し合いの約束でもしてんのか。


「ったく…どいつもこいつも………いいか! 香耶はしばらく組長・幹部の小姓だ。手は出すなよ。裸にされて庭木に吊り上げられるからな」

全員、は? って顔してるが、斎藤だけは何か思い当たることがあったのか微妙な顔をしていた。香耶を怒らすのは絶対にやめたほうがいい。

「良かったな、香耶君」

「そうだね。始末するとか言われたら全力で京から逃げださなければならないところだったよ」

こいつなら逃げ切る気がする。

「お前は雪村の部屋に移れ。それからお前の腰ぎんちゃくはどうした? あいつにも話を聞かなきゃなんねえ」

「ゼロのことを言ってるんだったら呼んであげてもいいけど、彼は昨日無理させてしまったからね。ここで休ませてるんだ」

いいながら親指で自分の胸をとんとん叩いた。
ここで、って香耶の胸の中でってのはどういう意味だ。


「でてこい、ゼロ」

香耶が手を伸ばした先に。
何もない空間から黒い何かが揺らめいて、霧が集まるみてえに人の形になった。

「「「!!?」」」

そしてそれが俺らの知る奴になったら、そりゃ驚くだろ。

何もないところからいきなり現れたゼロは、いつものすました表情でそこに立っている。皆の視線が説明を求めて香耶に集まった。

「ゼロは人ではなく超自然的な自然現象からなる生き物なんだよ」

「分かるように説明しろ!」


※ゼロに関する説明は適当に読み飛ばしてください

「皆にはそれぞれ肉体という器があり、精神…つまり魂があって、それが人間という一個の自然現象を形成している。人間だけじゃない。この世界に住むあらゆる生物がそのように作られている。昨日見た化け物たちだってそうだ。けれどゼロには初めから肉体や精神がないんだ。この自然界じゃ存在しない“何か”で作られている。しかしそのようなものが作られる郷は存在する。それが、我々の精神世界だ。平たく言えば、ゼロは我々の妄想や想像の集合体なのだよ。こうして産み出されたものは、われわれの常識を凌駕する能力を持ち、神や魔と呼ばれるものとなる。ゼロは別の世界にいた悪魔だったが、この世界にも似たようなものは存在するよ。精神世界(あちら)からこちらに出てこないだけでね。これらの話は今の君たちには関係ない話だ。普通あちらとこちらは、この世界のそれのように完璧に隔絶されていなければならない。以前籍を置いていた世界にはあちらとこちらが交じり合っていた世界があったから、それでゼロはこちら側にいるんだよ。けれど彼にとってこちら側に留まるのは意外に負担になるらしくてね。特にこの世界があちらと完全に隔たれていることにも関わりがあるかもしれない。だから私は自分の精神世界を彼に開放してあげているんだ。精神世界にいるうちは負担が軽減されるからね。今やって見せたようにゼロが何もないところから現れたり消えたりできるのは、私の精神世界を出入りしているからなんだよ」

一息に説明を終えて、香耶はにやりと俺を見た。

「理解できたかな?」

「俺が悪かった」

俺は素直に謝った。



俺と対峙する香耶の後ろでは、総司たちが物珍しげに集まりゼロに触っている。

『僕のことは幽霊みたいなものとでも思ってくださって結構ですよ』

「へぇ〜、さわれる幽霊なんて、僕見たことないよ」

「そもそもあんたは幽霊を見たことがあるのか?」

「やだなあ、言葉のあやだよ一君」

香耶はそれを見て小さく笑みをこぼした。

「ゼロは私の従者と言っていいが、私が呼ばないかぎり普段は私の精神世界に引っ込んでいる。役職には就かせないほうが無難だと思うよ」

「…わかった」

「それからゼロは食事を取らない。用意するのは私の分だけでいい」

お客様かおまえは。

やっぱり俺たちは厄介なのを拾っちまったようだ。みんな香耶たちの和やかな雰囲気に感化されちまってたが、俺は一人、頭を抱えていた。

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