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月神香耶side



「月神君!! 貴女という人は毎回毎回………」

にゃー!


烝君が青筋を立てて私の昼寝を妨害してきた。
ああ、私と戯れていた猫がどこかに行ってしまったじゃないか。行火(あんか)代わりにしてたのに。

「よくここが分かったね、烝君。毎回場所を変えてるのに」

ここは八木邸の屋根。
正直屋根瓦の上は寝心地がよくない。しかし私の監視を命じられているのだろう監察方の山崎烝という人物は、私の昼寝のたびにやってきては部屋に戻れといちいちうるさい。
あるときは縁側で、あるときは木の上で、あるときは歳三君の部屋で。(あの時はとしぞー君にまで説教を受けた。途中で逃げ出したけど)
もはや私たちの意地と昼寝をかけた鬼ごっこみたいになっている。次は烝君の部屋で寝てやろうか。

「駄目ですよ! 捕虜としての…いや最低でも女性としての自覚を持ちなさいと言ってるんです!」

おや、心の声が漏れてしまったかな。まったくうるさい小舅め。

「私の辞書に貞淑、従順という言葉は存在しない。残念ながら私にはそういったものが欠落しているようだ」

「開き直らないでください!!」

うん、こうして烝君と押し問答を繰り返してるのも面白いけれど、彼も忙しい身だ。仕方ない。

「わかったよ。ここは貸しにして烝君の言うことを聞こう。この貸しはいつか返してもらうことにして、今は千鶴ちゃんとお茶でも飲んでくる」

「………そのままおとなしくしててくださいよ…」

心底疲れたような彼の声を背中で聞きながら、私は屋根から飛び降りた。




私が新選組の屯所にきて三月(みつき)は経った。
惣次郎君……もとい総司君を筆頭に幹部のみんなは頻繁に私に会いに来てくれるけれど、一般隊士達からの視線は未だ不審者を見るようなものだ。

千鶴ちゃんのように袴にしろと言われたが、何度やっても袴の着方が覚えられなくて諦めた。もとの創作着物で過ごしている。大体、最初から私のことは女だと広まってしまっていたらしい。前々から総司君や一君が私の話をしていたんだってさ。私は顔が売れているし、目立つからね。この忌々しい色の髪のせいで、間違えようがないもの。

あーあ、歳三君みたいな髪だったらよかったのにな。

千鶴ちゃんは相変わらずほとんど部屋から出ていない。気晴らしにお菓子でも買ってきてあげたいところだが、私も監視の目が厳しい昼間は屯所から出るのを控えてあげていた。(山崎side:そもそも貴女も部屋から出てはいけないはずですが)



そういえば、私は昔、綱道君に会ったことがある。
と言ったら。

「何だと!?」

と、歳三君が目をむいて驚いていた。
ああ、やっぱりあのヴァンパイアたちに関係あったんだ。だからあんな研究はおやめなさいと言ったのに。里が滅ぼされたあと幕府について研究を続けていたんだね。しかもあれに“羅刹”と名前までつけて。ほんとに困ったおひとだ。

それに千鶴ちゃんは……かつて、雪村の里で私と出会った記憶を失っていた。仕方ないのかな。あんなことがあったんだし。
本当のご両親のことまで忘れてしまっているのは悲しいことだけど、つらい記憶をわざわざ思い出させることはない。私は彼女に、過去のこと、綱道君のことを黙っておくことにした。



私は勝手に厨で入れたお煎茶(来客用のいいやつ)を持って、千鶴ちゃんと私の部屋に向かった。この前総司君に買ってもらった豆大福もつけて。

「ちっづるちゃーんあっそびましょー」

部屋のふすまを開けようとした瞬間。

「にゃーんっ!!」

「ぎゃあああああ!」

がらがしゃんっ!!

「きゃあ!! 香耶さん!?」

猫に側頭部を体当たりされてお盆を持ったまま縁側に倒れこんだ。

び…びっくりしたぁ! 熱湯が鼻先をかすめたよ! いくら治りが早いといったって火傷はいや。あの痛みはトラウマになる。それに生産性がないもの。
千鶴ちゃんに手を引き起こされながら私は嘆いた。あー、良いお茶なのに。もったいない。

猫を追って、どたばたと廊下を走ってくる烝君、総司君、一君にもその様子をばっちり見られていたようだ。

「香耶さん大丈夫!?」

「香耶!!」

「危なかったですね。それにしても今の猫…」

何か言いたそうにしている烝君からは視線をそらした。

そうだよ。あれさっき私と遊んでた猫だよ。君があの子の機嫌を損ねたせいだ。それでオイタをしたんだよ。そうに決まってる。私のせいじゃ………ないこともない…こともない? もういいや。

そうしているうちに猫を捕らえるべく幹部達が集まってきた。


「んじゃ、作戦会議しねえとな。二人とも、この部屋借りるぜ」

そう言って私と千鶴ちゃんの部屋に入っていく永倉君。それに平助君と原田君、そして一君が賛同して入っていった。

「千鶴ちゃん、この後始末は私がやるから、君は彼らを手伝ってあげてくれないかな」

「で、でも…」

「そのかわり烝君をこっちの手伝いにちょうだい」

烝君が半眼で私を見たけれど無視。

「………わかりました香耶さん。私、がんばります!」

千鶴ちゃんは覚悟を決めた顔で、みんなのいる部屋に入っていった。


「ねぇ、香耶さん、何で山崎君なの」

ん? 総司君はなにを不機嫌そうにしてるのかな?

「烝君には私への貸しがあるからだよ」

「俺はあれを貸しだなんて言いましたか! どちらかというと貴女が俺に貸しを作っているでしょう」

「それはさっきの猫の件のことかな? 私は別に黙っていろと言った覚えはないし、そもそも君らには私を不条理に拘束しているという大きな借りがあるのだよ?」

ふてぶてしくああ言えばこう言う私に烝君は、はーっとため息を吐いて、ついに観念のほぞを固めた。

「………………手伝わせていただきます」

「と、いうわけだよ、総司君」

「………そう」

総司君も微妙な顔で納得した。

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