02
「敬助君〜」
「おや、どうしたんです?」
香耶が私の手を引き、庭へといざなう。
刈りそろえられた芝生の真ん中に、ぽつりと置かれたガーデンチェア。
「これ。はい」
「鋏?」
私の手に鋏を握らせ、香耶は私に背を向け椅子にちょこんと座った。
「……切るんですか? 髪」
「うん。面倒くさくて伸ばしっぱなしだったんだけど……ちょっと身奇麗にしようと思って」
「仮にも女性でしょう。床屋に行ったらどうです」
「他人に後ろ立たれて髪触られるのはちょっと……」
私ならいいんでしょうか。
仕方が無いので、香耶の懐から出てきた櫛も受取って、それで彼女の白銀の髪を梳く。
伸ばしっぱなしと言うだけあって、初めて出会ったころよりも少し長いくらいだ。
椅子に座ると座面より宙に垂らされる毛先を掬い取り、丁寧にくしけずる。
「長さはどうしますか」
「……このくらい」
言いながら、香耶は自分の後ろ頭を示す。
「随分いきますね」
「長いと洗うの大変なんだよ」
「すこしもったいない気もしますが……」
掬い取った髪の束に鋏を入れる。
しゃきん、と小気味良い音とともに、重力にしたがって落ちていく髪。
細く、柔らかい、まるで貴女のような髪。
背を向けた彼女に見えないことをいいことに、手に取ったその銀糸にそっと口付けをした。
そしてその銀糸は、ふわりと風に流れて、草の上に落ちた。
「いい天気ですね」
「……眠い」
「もう少しで終わりますから、耐えてください」
「んー」
あらかた切り終え、櫛で梳いて切り残した毛も落とす。
今まで髪で隠れていた白いうなじに手が触れて、らしくもなく気分が高揚した。
「どう?」
「見事なおかっぱ頭です」
「よっしゃ。ありがとう」
お気に召したようで。よかったですよ。
(2012/10/22)