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沢田綱吉side
せっかくのゴールデンウイーク。マフィア運営とはいえ豪華客船とリゾート島で思いっきり遊べるかと期待していたけど、結局リボーンのせいで俺はさんざんな目にあっていた。
マフィアランドに着くと俺だけマフィア審査を受けさせられて、当然失敗。っていうかこれで合格して身も心もマフィアだとか言われても、それはそれでへこむけど。
で、なぜか俺ひとりだけ地下鉄で島の裏側に移動させられ地獄の特訓をうけるはめに。なんかすげー乱暴で言葉づかいも超荒いコロネロっていう赤ん坊も教師に加わって、スパルタ特訓になんとか耐える。
やっと終わったと思ったら、今度はマフィアランド全体に警報が鳴り響いた。
「カルカッサファミリーにマフィアランドの場所を察知されたな」
リボーンがそう呟いてる傍から島にミサイルが打ち込まれている。海に戦艦みたいなのが見えた。マフィア同士の抗争だ!
「なんでマフィアがマフィアランドに攻めてくるんだよ! ファミリーが金を出し合ったんだろ?」
「ここをつくったのは麻薬に手を出さないいいもんのマフィアだ。それを面白く思ってないマフィアもたくさんいるんだ。カルカッサファミリーもその一つだぞ」
「マフィアにいーもんとかねーだろ!」
とにかく母さんや居候のチビたちが心配だし、合流したロンシャンと一緒に停電した地下鉄の線路を歩いてマフィアランドに戻ることになった。
「沢田ちゃんドンネル抜けたよ! ピースピース!」
「!?」
トンネルを抜けた先はマフィアランドのシンボル、マフィア城。豪華な西洋風のお城の中には島にいたほとんどのひとが集まっていて、すごい人数になっていた。
俺は母さんたちの無事を確認して一安心。かと思ったけど、離れたところで知らないひとの怒声が上がる。
「スパイを島に入れたトマゾの8代目ってのはおまえか!」
!! ロンシャンのことだ!
あいつの付き合ってた彼女がカルカッサファミリーのスパイだったって……こ、殺されるぞ!
慌てて振り返ると、ショットガンやライフルを持った怖い人たちにロンシャンが囲まれていて。
「よくやった!」
「リゾート気分に飽き飽きしてたところよ。スリルがねえ!」
「ひさびさに銃をぶっ放せると思うとワクワクしやがるぜ」
「やっぱマフィアは殺しあわねーと」
なんなのこの人たちー!!!
やっぱマフィアっていう人種にはついていけない……。って心の底から思ったんだけど、このあと獄寺くんまで合流して(昨日の無断乗船騒ぎは彼のせいだったらしい)、俺がボンゴレの十代目候補だってことがほかのマフィアの人たちに伝わってしまう。すると文字通り担ぎあげられ連合軍の大将にされた俺は、無理やり戦場へと駆り出されてしまった。
しかし、そこで俺たちを待っていたものは、今まで以上に驚くべき光景だったんだ。
「おい、見ろ! あの女は……!?」
連合軍の一人が指さしたその先には、海岸でカルカッサファミリーの襲撃を待ち受けるふたりの男女。そのふたりを見た俺は目をむいた。
武装して押し寄せる敵の軍隊とは対照的に、水着にブラウスを羽織っただけの銀髪の女性。あのひとはどう見ても香耶さんだ。しかもその横にいるの沖田先輩だし!
「新選組の灼月!!」
「何!? 数多のファミリーを焼き潰し、アジアの頂点に立つファミリーのボスがなぜここに!!」
え、ええー!? なにそれ!!
目を白黒させる俺に、獄寺くんが耳打ちしてくれる。
「10代目、俺も新選組の名前は聞いたことあります。奴ら、アジアのマフィアを取り締まるマフィアとして有名なんすよ」
「マ、マフィアを取り締まるマフィア?」
「要するに麻薬に手を出すような連中を潰して、マフィア社会の秩序を保つファミリーです」
マフィアに秩序って……。
「そのボスのことを、他のファミリーは畏怖を込めて“灼月”と呼ぶらしいっす」
「それが香耶さんのことだって言うの!?」
信じられない。だってあんなにやさしいひとなのに……。
香耶さんはいったいどこから取り出したのか、手にした日本刀を慣れた様子で鞘から抜いた。
「あ、あいつら刀一本でどうする気だ? 敵は機関銃だぜ!」
誰かが叫ぶ。そう、いくら香耶さんが強いひとでも、防備にも武器にも人数にもハンデがありすぎる。不利なのは誰が見ても一目瞭然だ。
助けたほうがいいのかな……。でもふたりの背中はむしろ悠然としていて。あの二人なら絶対大丈夫。なぜだかわからないけどそう思えた。
その間に香耶さんがすっと身を低くかがめ、その場に沖田先輩を残して一瞬で消える。
次の瞬間には彼女の姿は敵の人海の中にあって、攻めてくるひとを鮮やかな剣さばきで昏倒させていった。
「速え……!」
獄寺君が隣で息を呑む。俺もその姿を目で追うのがやっと。彼女の太刀筋なんかぜんぜん見えない。
ただ、瞬きするより短い刹那、香耶さんが地を蹴るたびに炎が見えるのは目の錯覚だろうか。
俺の死ぬ気の炎と同じ、オレンジ色の……。ひょっとして、あれは。
ふと、香耶さんの綺麗な空色の瞳が俺に向いたような気がして、知らず息が詰まった。