月神香耶side
「香耶さんーっよかったです! 帰ってきてくれて本当によかったですぅ」
えぐえぐとほぼ泣きながら突進してきた千鶴ちゃんに応えるべく、私のもろ手を広げて待ち構えた。
が。
「香耶さん泣くなら僕の胸を貸してあげるよ」
「ぐっへ」
結果、先に私の腕に飛び込んできた総司君の胸板に、したたかに顔面を打ち付けて、私は別の意味で涙目になった。
千鶴ちゃんからの恨めしげな視線をかわし、総司君は飽きもせず私を見つめたり触ったり。
「そう、じくん」
高い位置にある彼の顔を見上げたら、すかさず顔中に唇が降ってきた。
人前でこういうことすんのやめてくれないかな……。
そう思ったけど、あんまり嬉しそうな総司君の顔に何も言えなくなってしまった。
するりちゃんの処遇はみんなに任せることにした。ぶっちゃけ私には彼女に対して悪感情もなければなんの興味もない。失った、というのがただしいか。
けれど、気の毒には思う。彼女には残された道はもう破滅の道しか残っていないから。
っていうか処遇を決めた敬助君がによによ笑って遠くを見てたから、たぶん彼女はろくでもない目に遭うことだろう。
きっと知らないほうが幸せだ。精神衛生的に。
鬼たちに関しては丁重に帰ってもらいました。彼らもあれ以上するりちゃんを視界に入れたくなかったとか。するりちゃんがとことん可哀想である。
そうしてやっとおとずれた平穏。
食事のときは一君と総司君の間にすわり、みんなが仕事中のときはのんびり読書して、千鶴ちゃんのお掃除やお洗濯を手伝い。
歳三君にお茶を運んでからかい倒し、敬助君と世間話して、三馬鹿とおやつを食べて。
総司君の部屋でごろごろしてると巡察帰りの部屋の主が現れて、そのままふたりでくんずほぐれつ格闘して、いつのまにか抱きしめあって昼寝して。
「香耶さん」
「……、そーじくん」
「起きた? もうすぐ夕餉だって」
「……ゆ、夕餉!? うわぁ寝すぎた」
外を見れば中庭に西日が差す時刻。正味三時間は眠っていた。
「夜眠れなかったら僕が相手してあげる」
「下心がみえみえだね」
じろりとにらみあげる私の視線をごまかすように、総司君は私に口づけする。
はじめは触れるだけの口付けだったのに、だんだんと濃厚なものになっていって。
「好きだよ。君だけが好き」
たまにはあんな、非日常的な体験も楽しいけれど。
「……わたしも、すき」
ああ、今はこれが、幸福だ。
完
(2013/1/23〜2013/4/13)