01
竹中半兵衛side
「香耶殿、良い話と悪い話があるんだけど、どっちから聞きたい?」
「え……っと、良い話しか聞きたくないなー、半兵衛君」
「あしたこの村に朝倉が攻めてくるらしいよ」
「ぎゃぁああ問答無用に悪い話!」
朝の木漏れ日が降り注ぐのどかな縁側。
そこで俺の話に耳を傾けた香耶殿は、顔を真っ青にして頭を抱え込んだ。
「風魔殿が持ってきた話なんだけど、幸村殿が朝倉城下で確認取ったし、信憑性はあると思うんだよね」
「やめてーやめてー! こうして静かでハッピーな田舎暮らしを送る私に何の罪があるっていうのさ!!」
まぁ、こうして普段はのどかに暮らしてるとはいえ、日本一の兵 真田幸村殿に、禍つ風 風魔小太郎殿に、俺こと知らぬ顔の半兵衛でしょ。それから、女の身でありながら、俺たちの世界で最も天下に近いとまで言われた、異な明月 月神香耶殿。その香耶殿に付き従うは、月の朧 山南敬助殿、っと。
元の世界の人間が見れば卒倒しそうなほどの、そうそうたる顔ぶれ。
それが一箇所に集まり廃村だったこの村で、木を切り畑を耕し家畜を飼ってひっそり隠れ住んでたら、それだけで俺にとっては大事件。
ひとえに香耶殿の人格のなせる業、ってやつだね。彼女が天下を獲りにいくってひとこと言えば、皆一も二もなく働くんだろうに。
香耶殿はひとしきり絶望したあと、心を落ち着かせるように湯飲みを手に取った。
このお茶は山南殿が、香耶殿と俺のために淹れてくれたほうじ茶だ。もう少ししたら、山で採れたおいしい新茶が飲める季節になるんだけど……今回の戦でどうなることか。
「まぁいいや……いやよくないけど。良い話のほうは?」
「あ、それはね、」
「私から説明しますよ」
屋敷の奥からのそりと姿を現せた山南殿は、微かに血のにおいを漂わせ、きらりと眼鏡を光らせる。
「敬助君?」
「フフフ、獣狩りの罠に大物が釣れましたよ」
それを聞いた香耶殿が、ごきゅりと咽を鳴らして茶を飲み込んだ。