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死んだと思った。
敵の手であんな深い崖に身を放り出されたときには。
ひたりと顔に冷たい布を当てられる。
朦朧としながらも気力でまぶたを上げれば、白い手と布の隙間から見えた、しろがねの髪を持つ美しい女の姿。
俺は布団に寝かされていた。
「起きた? 良かった。峠は越えたね」
こんなふうに人間(ひと)として扱いを受けるのは久しいことだ。
しろがねの女は椀を手にして俺の上半身を抱き上げる。手ずから水を飲ませようとしていることに気付いて、内心であわてた。
「っ、げほっ」
「ゆっくりでいいから」
水分を口に含めば、自分が存外に渇いていたことを自覚してむせ返る。
甘いような、辛いような味のするそれ(薬湯……?)をちびりちびりと飲み干して、ようやく息をついた。
「まだ寝ていていいよ。今は何も考えず、ゆっくり休みなさい」
優しい声が鼓膜を震わせる。
しろがねの女は、その華奢な手で俺の傷だらけの手を握る。
俺は、ひとに触れられるのは苦手なはずなのに。
なのに、どうしてこんなに。
「…………どこも、いかないで」
「……うん。わかった」
ずっと、そばにいてほしいと。
※飲ませたのは香耶さんお手製スポーツドリンク