09
風魔小太郎side
『明月』……もとい月神香耶が眠っている間に、彼らと話し合いを行った。
山南敬助をはじめとする、真田幸村、竹中半兵衛、そして風魔小太郎、この世とは別の戦乱の世に存在した武将たち。
無論にわかに信じられる話ではない。
しかし、己が一太刀もあびせることができずに敗北した、あちらの風魔小太郎の技量……力は本物だった。
あの力。あれが天下への野望に向けられていれば、この世界は今頃……
だが実際にはそのようなことは起こりえない。
なぜならば、今己の目の前にいるこの女が、それを望まなかったから。
弄月の夜、濡れ縁で口付けを交わす月神香耶と風魔小太郎の姿が脳裏にちらついた。
彼女自身が持つ力が如何ほどのものかは知らないが、あの将たちを意のまま動かすことの出来る女。あの尋問の際、己を圧倒した人の上に立つ者の雰囲気。それを思えばこの女の存在は相当危険なものだと言えよう。
「風魔くん風魔くん、滝が見えるよ。もっと傍まで行ってみよう」
「…………」
「あ、鹿だ。毛皮に晩御飯に動物性たんぱく質! 風魔君、確保ー!」
「…………」
こちらが危惧していることなど意にも介さず、月神香耶はこの道中を楽しんでいた。
「風魔くん風魔くん、あそこの崖の下になんか落ちてるみたい。見に行ってくる」
月神香耶が渓谷を指差しそうきり出したのは、朝倉の襲撃からのがれ二日が経ったときのことだ。
言うやいなや切り立った崖の上から戸惑いもせずに身を投げた彼女に、己は少なからず驚愕しとっさに腕を伸ばす。
が、次の瞬間には、彼女の身体は黒い炎のようなものに包まれ掻き消えた。
「!!?」
消えたと思った黒の炎は、渓谷の底で燃え上がり、次いで月神香耶がそれに守られるように現れる。
──闇の婆娑羅、か?
ともかく傷ひとつなく谷底に降り立った彼女は、先ほど指差した『なにか』に近づきしげしげとそれを観察する。
そして動く気配のないそれを抱き上げて、先と同じ黒の炎で、再び崖上の己の元に戻ってきた。
「風魔君、酒の持ち合わせってある?」
「…………」
そしてこの女は、助けるつもりなのか。谷で拾った……その血濡れの子供を。