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山南敬助side
みなさん、お久しぶりです。
私たちの村を襲った朝倉をある程度叩き、皆散り散りになりつつも越前の地を旅立った。
あの村に最後まで残った風魔は大丈夫でしょうかね……あの混沌に心配など要らないか。
香耶はあの場で一時的に雇ったこの世界の風魔小太郎に護衛を任せたが……。香耶は一度懐に入れた者をとことん甘やかす性格なため、風魔小太郎に必要以上に隙を見せないか心配だ。本当は風魔小太郎を生かしておくつもりもなかったのだが。
もしかしたら風魔小太郎を助けたときのように、また知らない人間を拾ったり救ったりしているのでは(←正解)
「山南殿どうかした? すっごく遠い目してるけど」
「ええ、まぁ……」
「あぁー、香耶殿なら大丈夫じゃないかな。あのひとが敵に後れを取るとか想像できないんだけど」
「香耶はあれで抜けていますよ。しばしば前しか見えていませんし。様々な意味で無防備ですし」
「……確かにね」
私の話を聞くたびにだんだん顔色を悪くする竹中殿。ま、これ以上希代の軍師を虐めるのはやめておきましょうか。
見たとおり私は竹中殿と行動を共にしていた。
ここ井ノ口は斎藤道三の孫斎藤龍興が居城する稲葉山城の城下町である。1567年に織田信長に占領されてのち井ノ口は岐阜と改められ(この戦を稲葉山城の戦いという)、当城も岐阜城と呼ばれるようになる。信長が安土城(現在の滋賀県にある)に移るまでのおよそ10年間、全国統一を推進する拠点となった。
この世界では未だ今川義元が存命であることもあり、この世の竹中半兵衛が斎藤氏に仕えていると踏んだ竹中殿は、斎藤氏の治める美濃や竹中半兵衛のことを調べるため、こうして井ノ口へとやってきたのだった。
町の郊外の茶店で空を眺めながら茶をすする竹中殿を横目に、私も餅を口に入れ小腹を満たす。
こんなところで油を売っている私たちを香耶が見れば何というか。さっさと小田原に向かわなければならないというのに。しかし竹中殿を置いて先に行くわけにはいきませんし。
知らぬ顔で周囲を観察する『知らぬ顔の半兵衛』に、私は胸中で毒づいた。
すると茶店の主人と客の一人がこんな噂をしているのが耳に入った。
「知ってるかぁ? ここの殿様が織田に攻められて墨俣から逃げ帰ったっちゅーやっちゃ」
「斎藤様ももう終わりかのぅ」
「ぶっごほ!!」
あ。竹中殿が茶を盛大に噴き出した。
むせて咳の止まらない竹中殿の背を撫でながら、私はこの世界の情勢に思考をはせる。
どうやらこの世界は私たちの知る歴史とは時間軸がだいぶずれ込むようだ。
第一、稲葉山城の戦いで一夜城を建てる木下藤吉郎(秀吉殿のことですよ)が織田勢にいない。最初から豊臣秀吉と名乗り別勢力として存在するのだ。
あれ? ということは、この世界の竹中半兵衛はもう美濃におらず浪人してるんじゃ…………いや、もう史実に関する知識に頼らないほうがよさそうだ。
だってバサラだから。
と、香耶が言いそうです。
「山南殿、ちょっとマズいかも……」
「どうしたんですか、竹中殿。横になりますか?」
「いやむせたくらいでそこまで! じゃなくて。俺たち、さっさと井ノ口から避難しないと、」
「大変だ! 敵の軍勢に囲まれちまってる!」
「逃げろ! 早く寺に逃げ込め!」
周りにいた人々が各々の荷物を取りあわただしく走り出していく。
「……おや。たしかに不味いようですね」
「はー……敵中突破は俺たちの領分じゃないのになぁ」
ええ、そういうのは真田殿や風魔の十八番でしょうね。