16
竹中半兵衛side
織田による稲葉山城の攻城戦が始まった早々、俺は山南殿とはぐれてしまった。
早! 早いよ山南殿!
山南殿は腕のいい幻術使いなので、その身の心配はしていない。むしろ心配すべきは俺自身のほうじゃないかなー。
香耶殿と相談して“かすたまいず”した神針雲婆竭羅(シンシンウンシャカラ・半兵衛の羅針盤)を手に、襲い来る雑兵をなぎ倒す。
いっつも思うんだけど、香耶殿の作る武器って、ほんと鬼畜だよね。あのひと自覚ないんだろうなぁ。
どんな堅固な装備も防御も紙にひとしいなんてどんな攻撃力? 自分の武器ながら恐ろしくなる。武器に使われるなんて体たらくにならないためにも、必死に自分を鍛えることになったけどね!
そんな鬼畜な得物をたずさえて、織田と斎藤が交戦する最前線を押し通る。
そのとき俺の前にひとりの哀れな斎藤家の武将が立ちふさがった。
「貴様、何者だ!」
「俺は月神重虎。悪いけど、ここを通らせてもらうよ」
この偽名は悩んだ末の苦肉の策。
竹中半兵衛、竹中重治、竹中重虎、どれも俺の名前だけど、まんま名乗ったらただの名を騙る怪しい奴だ。自分の名前なのに……。でも本名とかけ離れた偽名にしちゃったら、この戦場のどこかにいる山南殿に俺がここにいるって分からないし。
だから香耶殿、貴女の氏、すこし借りるよ。
「まるで童女のような見目だな! おまえのような小僧に何が出来る」
「かっちーん。見た目で判断しないでもらえる?」
とりあえずこのおっさんは今からボッコボコにして斎藤に返してやろうっと。
こうして八つ当たりもかねて前線を圧倒した。
斎藤も織田も区別なくちぎっては投げちぎっては投げ(あ、殺してはいないよ)している俺に、声をかける人物がいた。
銀髪に紫の仮面で……なんだか全体的に紫色のひとだ。
「君が月神重虎か……一体何者だい?」
「俺はただの旅人。はぐれた仲間を探してるだけ。織田でも斎藤でもない……いわば月神軍ってところかな」
あれー? このひと、たぶん婆娑羅者だ。もしかして偉い人来ちゃったのかな?
「そういうあなたは斎藤のひと?」
「僕は竹中半兵衛。君、強いね。豊臣に来ないかい?」
「……は?」
うっそ! こっちの竹中半兵衛来ちゃったよ!
なぜか竹中半兵衛といえば病弱・痩躯・女顔、と相場が決まってるらしい。俺もこの容姿で散々舐められたしね。そしてこのひとも華奢で女顔だ。
「……っていうか、なんで豊臣? あなたは斎藤の家臣でしょ」
もしかして……こっちの竹中半兵衛は、すでに豊臣と繋がってる、とか?
俺の疑問に竹中半兵衛は薄く笑った。
どーもこのとんでもない予想は当たってるっぽい。織田さん織田さん、先越されてますよー!
「君も会ってみれば人生観が変わるよ。秀吉はそれほど素晴らしいひとだ」
「たしかに秀吉様はすごいひとだったけどさー」
「秀吉を知ってるのかい!?」
あ、しまった。ついやっちゃった。
俺の言う秀吉様とは元の世界の秀吉様のことだ。あのひととおねね様組ませるともう誰も手をつけられなかったんだよね。おねね様は戦場で旦那様と敵をいっぺんにお説教してたもん。あと子飼いたちがみんなおねね様の味方でさ(笑)
俺がなんて応えようか思考をめぐらせている間に、俺の隣、何もない空間からいきなり黒の炎が燃え上がる。
俺のでも、目のまえの竹中半兵衛のものでもない炎。生命力の塊とも言うべきそれは、俺の見覚えのあるもので。
「探しましたよ、たけな……重虎殿」
「山南殿ー!」
地獄に仏。炎の中から現れたのは山南殿だった。