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沖田総司side
結局、僕達は互いに名乗ることもせず、ほんとに遊んでただけだった。
「あげるよ、それ。ゼロ君のだけどね。どうせあの人のことだから、他にも何かおもちゃを持ってそうだし」
「ありがと。もらっとくよ」
言って彼は、僕から受け取った“とらんぷ”を一枚一枚眺めていた。
このひとは、香耶さんやゼロ君のことを知らない。僕のようで、僕じゃない、未来の僕。
きっとそうなんだ。すこしだけ理解できた。香耶さんがやろうとしてること。
それは未来を、変えること。
(私は、この世界で私という存在を確かに知る者、支えとなりうる者、すべてを救いたいんだ!)
時渡りを繰り返しては、平穏や幸福とは程遠いところで大事な人を失って。でも、それでも諦めたくなくて。
「香耶さん……」
無意識に彼女の名を呼んでいた。
「君は、香耶さんっていうひとが好きなの?」
「……、わかりやすいかな……?」
「まぁ、君と僕は似てるからね」
……なんでだろう。相手は鏡みたいなものだというのに、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「大事なものから、目を放しちゃ駄目だよ」
「どういう……」
「ごほ、ごほっごほっごほごほ!」
「っ!?」
彼が続けざまに咳き込んだ。口を押さえている手から、血の色の赤がちらりと見えた。
その、病は……。
その時。ぐらり、と足元が揺れて、ざぁっと闇の粒子が舞い上がる。
──これは、時渡り!?
「待っ……」
咳き込む彼の足元には、血の代わりに、ばたばたと“とらんぷ”が落ちる。
顔を覆う手の隙間から、僕を見て。ふっと笑った気がした。
彼は、今何を思って、生きているんだろう。
僕がもし死病を患って新選組を離れたら、それでどうして笑えるだろうか。
僕は闇に包まれて、その世界から切り離された。
気が付くと、そこは屯所の広間だった。
「総司!」
「あれ、戻ってきた」
土方さんの鋭い声音で、夢から覚めたような心地がした。もう闇の粒も、風の音も、それから“とらんぷ”も、ない。
でも、よかった。
僕は“彼”のことも覚えてるし、香耶さんたちの事だってちゃんと思い出せる。
「土方さん、山南さんは? 香耶さんは、戻ってきてるんですか?」
「……いや、お前だけだ。何もねえところから急に現れやがった」
僕しか帰ってきてない……?
「山南さんと香耶はどこ行った?」
「……分かりません」
すっと背筋が冷える。
それじゃあ、みんな消えて、僕だけしか帰ってこられなかったって事……?
そんな……。
そう、僕が愕然としているところに。
「ぁぁぁああああっぶなあい!!!」
「!?」
「なっ!? てめえら!!」
香耶さんと千鶴ちゃんが空中からいきなり現れて、土方さんの上にどさどさと落下した。
「ちづるちゃ、おもい」
「きゃあ香耶さんごめんなさい!」
「てめえらふたりともさっさとどけ!」
「香耶さん、いつまでも土方さんにくっついてると変態が移っちゃうよ」
「総司てめえ、どういう意味だ!!」
重なり合って団子になってる香耶さんたちを見て、僕は安堵した。
なんだ、よかった。時間差で帰ってくるんだ。
「じゃあ山南さんたちも、もうすぐ帰ってくるんだね」
「そうだね……たぶん」
たぶん?
香耶さんは僕から視線を逸らした。
「ゼロもいるし、大丈夫だと思う。敬助君しだいだけれど」
「はっきりしねえ物言いだな。山南さんは無事なのか、無事じゃねえのか?」
ごとん。
「あ、」
「あぁ?」
急な物音に全員がそちらを振り返った。
「……おや、ここは屯所じゃないですか」
「山南さん!?」
そこにいたのは、なぜかぼろぼろの着物を着た山南さんと。
『あー、やっと帰ってこられたんですね。香耶さんお久しぶりですぅ!!』
「うわぁ。ゼロなの? 可愛くなっちゃって」
こぶし大の大きさの、埃の塊みたいになって、宙を飛び回るゼロ君(たぶん)だった。
「何というか……もうあんなところは二度と行きたくないですね」
『あはは同感です。僕もだいぶ力を失ってしまいました』
山南さんとゼロ君はふたりして苦笑いをこぼす。……ていうかゼロ君は表情見えないんだけど。
「なんかゼロ君、ごみみたいだよね」
「あ、わかるわかる。拾って捨てたくなる感じ」
『おふたりともひどいですぅ!! 僕だって好きでこんな姿になったんじゃないんですから!』
いじり甲斐も増している。
土方さんはうるさい外野を無視して山南さんに向き直った。
「で、どこ行ってたんだ?」
「さぁ、どこだったんでしょう。私たちは“試練の路”などと呼んでいましたが」
「敬助君とゼロが行っていたところは、私や千鶴ちゃんや総司君が行き着いた、過去や未来の世界じゃあなくて、別の場所だよ。簡単に言うと、人間が不老不死になるための特別な所に行ってたんだ」
「「不老不死!?」」
香耶さんの説明にみんなが驚いた。
「不老不死ってのは、あれか。歳をとらねえし殺しても死なねえってやつのことだろ?」
「そうだね。新八君の認識で間違っていない。
……ただ、私たちの場合の不老不死とは、老化にともなう老衰死……いわゆる自然死や老衰に起因する病死 にはならないという意味だ。だから私だって風邪くらい引くし、首や心臓を斬られたら死んじゃうよ」
「けどお前、怪我はすぐ治るんだろ?」
「怪我がすぐ治るのは血の呪いのせいだよ。不老不死とは無関係」
「あー分かった分かった。今更お前が何者だとか聞いたところで、俺たちゃもう驚かねえぞ」
「はは、たしかにね」
香耶さんが言わないでよ。