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沖田総司side



僕と土方さんは玄関棟を突っ切って、中央の棟へ繋がる渡り廊下に出る。

「来たか」

その廊下の反対側に、奴はいた。

「この俺が教えてやろう。脆弱な人間ごときの、身の程というものを」

風間は冷笑して刀を抜いた。僕は土方さんより前に出て、抜き打ちに切りかかる。

「総司!」

「風間ぁっ!!」

きぃんっ!!

僕の小手を弾いた風間は、もう一度切り結んでから脇に構えて離れる。
その風間の足を狙って、土方さんが路地から刃を薙いだ。奴が後ろに跳んでかわしたところに、僕は踏み込んだ。

三段突き。
一撃、二撃目を避けられ、神速の三撃目を刀で受けた。

「な……っ」

三段突きを受け止めた!?
そのまま相変わらずの馬鹿力で押し切られて、剣先が僕の咽元に向かう。
その隙を狙って、後ろに回りこんだ土方さんが切り下ろすが。

「ちっ」

風間は忌々しげに僕の刀を流し、土方さんの一閃もかわして渡り廊下から路地へと横に跳んだ。

くそっ、速い!
二対一でも五分だ。けれど、勝機は……ある。

「総司、中だ」

「あ、僕も土方さんと同じこと考えてました、よっ!」

僕は床を蹴って、再び刀を振り上げる。風間もそれを受けようと刀を上げる。その懐に踏み込むと同時に、敵柄を柄で跳ね上げた。

「何っ!?」

風間は後ろに跳ぶ。続けざまに土方さんが分け入って胴を狙うが、これは受け止められる。

「くっ…!」

「ぬるい!!」

風間は踏み出して土方さんの刃を押し返した。さらに僕が間に踏み込むと、風間は中央棟の縁側に飛び乗った。
肩で息をする僕達を見下して、風間は薄く笑う。

「どうした。最初の威勢はどこへ行った?」

風間は圧されているように見えるが、まだ自分から攻撃してきていない。僕達で遊んでいるのか、力量を測っているのか……。

「まだだっ!」

「ああ。のんきによそ見してると、足元すくわれるぜ!」

僕達はふたり同時に走り出した。


ばぁん!!


僕達は風間を押して障子を突き破り、中央棟に踏み込んだ。僕は畳を踏みしめて風間に打ち込む。両小手、首に切り込むが、風間は受け外す。
横から土方さんが天然理心流、左足(さそく)の剣を打ち出した。

「ちぃっ!!」

三足出して中段になり、胴を突いて右足を引く。三度突いて、身体を引いた。
そう、僕の得意技、三段突きの技法だ。

風間はその激しい攻撃に防戦一方となる。
狭い屋内で、風間の剣筋にためらいが生じている。奴の剣は異常に速くて重たいが、技術では僕達のほうが優っているからだ。

特に天然理心流は荒っぽい田舎剣法だなんて言われるけれど、その極意は『千変万化、臨機応変』。
その技は攻防一体。柔術、棒術ほか、狭い場所での戦闘、刀を失ったときの戦闘などでも真価を発揮する、実践本位の流派だ。
屋内戦に持ち込めば、大業を得意とし、速さ、力技に頼る風間には、嫌な戦場になるはず。そこに僅かの隙でも生まれれば、僕達の勝機となる。

しかし。

「小癪なぁっ!!」

風間は刀を振り下ろしざま鴨居を破壊した。

「なん…!?」

「うわっ!」

僕達は左右に跳んで風間の刃をかわす。そして距離をとって背中合わせになった。

「へぇ、でたらめな力だなぁ」

「ったく、二人がかりでこれか」

「土方さんが足引っ張ってますからねー」

「総司てめえふざけるな! 表に出ろ!!」

「貴様ら……真面目にやれ」

敵をそっちのけで口論を始めた僕たちを、風間が半眼でにらんだ。
と、そこに。

「くすくす……」

風間でも、僕たちでもない、第三者の笑い声が響き渡る。

「――のんきによそ見してると、俺が足元すくっちゃうよ」

僕らが破壊した、障子の外に、そいつはいた。
全員が声の主に注目し、そして驚愕した。

小柄で黒い洋装の男。……千鶴ちゃんにそっくりな容貌。
そしてその手に抱きかかえられた、香耶さんの、姿。
一先に状況を理解したのは、苦虫を噛み潰したような顔をした風間だった。

「南雲の鬼がここで何をしている」

なぐも……?

「まさか、南雲、薫……?」

「南雲薫か。報告では女じゃなかったのか?」

僕の呟きに、南雲と面識の無い土方さんも思い出したらしい。
……女装が趣味の男だったってことかな。

「俺は彼女を助けに来たんだよ」

南雲薫はそう答えて、香耶さんを抱く腕に力をこめた。

「風間、香耶さんに何か盛った? いくら風邪気とはいえ、この騒ぎで起きないのはおかしい」

「否定はしない。風邪薬をやった」

香耶さんは穏やかな寝息を立てている。身体は楽になったみたいだ。それだけは、よかった。

「土方さん、沖田さん!」

そこに、息を切らせた千鶴ちゃんが駆け込んできて。

「斎藤さんたちが天霧さんと戦ってるときに別の人たちの邪魔が入って、裏庭は大混乱です!」

「ちっ、あっちもか」

千鶴ちゃんは、香耶さんを抱えた南雲薫を見て、眉をひそめた。

「か、薫さん……?」

「千鶴……お前も鬼の自覚があるのなら、一緒に来い」

「薫さんも鬼、なんですか?」

「俺とお前は、血を分けた双子の兄妹なんだから」

「ふた、ご」

千鶴ちゃんは驚きに目を見開いた。

「俺たちの生家が倒幕の誘いを断って人間に滅ぼされた。お前は綱道さんに連れ出され、離れ離れになった俺は、香耶さんに命を救われたんだ。
彼女が危ないのなら、俺は助けなければならない、だろ」

「……っ!」

薫の言葉を茫然と聞いた彼女は、大事に持ったままの“狂桜”をぎゅっと握り締める。

「で、でもどこに連れて行くんですか!? 香耶さんは、新選組でやることがあるって、」

「そうだね。せっかくだけど、香耶さんを返してくれるかな」

僕たちがそう言うと、しかし薫は瞼を伏せて、にやりと口角を上げる。

「嫌だと、言ったらどうする?」

そして、奴は僕たちに背を向けた。

「待ちやがれ!」

追いかけようとする僕達の行く手を、数人の刺客が阻む。風間がそれを斬り捨てながら舌打ちした。

「ちっ、南雲の手下か」

……こいつら全員鬼って事か。

「千鶴、お前とはまた別の機会にじっくり話をしよう」

「待ってください薫さん! 香耶さん、香耶さんっ!」

「南雲薫──!!」

南雲薫は、香耶さんを連れて、京の町に姿を消したのだった。

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