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煉獄家に私だけが戻って4週間。
私は頬と首の軽い負傷のみだったのでとっくに完治していたが、なんともう杏寿郎さんが退院するらしい。鎹鴉がいち早く伝えてきた。なんという強靭な身体と呼吸の持ち主なんだ。
あれからお館様から承った事は、杏寿郎さんは鬼殺隊を抜けること。私は鬼殺隊を続けられること。これだけだ。
鬼殺隊にとって炎柱が居なくなる事はかなりの衝撃を与えたようだが、必要とあらば鍛錬や修行の為に煉獄家を訪ねても良いということを隊士達に通達したようで、一先ずそこに落ち着いた。
そして片眼を失った杏寿郎さんを見て一番変わったのは槇寿郎さんだった。お見舞いに行った際に泣きながら杏寿郎さんを抱き締め、よく無事に帰った、と親として最大限に大切な息子を労っていた。それから自ら千寿郎くんと一緒に炭治郎くんへ日の呼吸のことを伝え、めきめきとカッコいい槇寿郎さんになっている。

もう荷物は詰め終わったし、私のお給金の8割はこの煉獄家へ流れるように工面してもらった。
杏寿郎さんも煉獄家が鍛錬場になることや鬼殺隊から年金のような形でお給金は出るみたいだけど、お金は多く貰って困るような物じゃないだろう。
私の勝手な行動で猗窩座と対峙したのだが、お咎めは無かった。もしかしたら杏寿郎さんが手を回してくれたのかもしれない。本当に迷惑ばかり掛けてしまう。
けどこの世界での目的は達成された今、したい事はと聞かれれば、なんだろう?と答えるしかなくなってしまった。炭治郎くん達と共に花街に行こうと思ったが、きっと私では足手纏いになってしまう。そこまで交戦的ではない色の呼吸は上弦の鬼には通用しなくなってくるだろう。

「ただいま戻りました!」

「あ、お帰りなさーい!」

「兄上!」

「杏寿郎!」

杏寿郎さんが帰ってきた。
今日はご馳走を作らなくては。





ーーー……





「天ぷらは久しぶりに食べた!うまかったな!」

「良かったです。沢山作ったのに全部ぺろりでしたね」

「わっしょい!」

きっとさつまいもの天ぷらを思い出したのだろう。一番多く作った具材だったから。
お昼過ぎに戻ってきた杏寿郎さんは4週間という短期間で本当に綺麗に完治していて、目立つ所は固く閉じられた左目だけだった。
お風呂もゆっくり浸かってもらい、寝酒にと熱燗を1合用意した所だ。病み上がりで身体を冷やさない為に。

「今夜は任務は無いのだな」

「はい。昨日に4日間の任務が明けた所でした」

また単独で3体の鬼を順に近い山から切って行くという任務。ひとつの山に3体共が居てくれたら直ぐにでも終わっただろうに。縄張り意識が高い鬼達だった。

「怪我は無いか?」

「木の幹に足を引っ掛けてしまって……肘を擦りむいたくらいですかね」

鬼を追いかけるのに夢中になってしまい、地面から盛り上がって出ていた幹に気付かずに転けてしまったのだ。あれは単独で良かったと心から思ったのは記憶に新しい。
くいとおちょこを傾けて酒を煽っていた杏寿郎さんにとっくりを差し出すと、おちょこを胡座をかいていた膝の上で握り締め真剣な顔でこちらを見ていた。いよいよか。

「友里、帰ったら話すと言っていた事を覚えているか?」

「はい。私もお伝えする事がありますので、先に杏寿郎さんのお話を伺います」

とっくりを盆の上にトンと置き、私も真剣な面持ちで杏寿郎さんに向き直った。

「……友里は俺が死ぬと分かっていたのか?」

「いいえ」

「では、何故俺の前に立った。あれは俺が柱としての努めを妨害する行為ではないのか?」

「杏寿郎さんはあの時、誰も死なせないと言いましたよね?私も誰も死なせたくありませんでした。杏寿郎さんでさえも」

「だから何故俺が死ぬ事に繋がる!」

「……結果的に誰も死ななかった。それでいいじゃないですか」

杏寿郎さんの為なら平気で嘘を付くし、はぐらかして終わらせる。
本当はあの場で杏寿郎さんの命が燃え尽くしてしまうのだって知っていたし、瑠火さんと再会させずにしようと必死だった。
瑠火さんには悪いが、彼の天命が全うするまで待っててくださいと心の中で土下座をする。

「良くない!あんなよく分からない挑発までしておいて!鬼に唇まで奪われて!何が柱候補だ!」

「ああでも言わなければ私に敵意を移さなかったでしょう?それで良かったんです」

杏寿郎さんはなかなか言いくるめられてくれない。
また同じような無茶をすると思っているんだろうからしょうがないが、杏寿郎さんが関わっていなければきっとあんな無茶はもうしない。……きっと。
たまたま猗窩座が私を殺さなかったことやキスをしてきたのだって気紛れか何かだ。

「俺と猗窩座との間に立つという事は命を落としていても可笑しくは無い状況だ!俺が誰も死なせない≠ニ言ったのはもちろんあの場に居た友里も含まれる!君がどう考えていたかは分からないが、俺の目からは死にに行っているように見えた!」

「すいません……。でも、それでも!私は杏寿郎さんの役に立ちたかった。貴方を守りたいと思いました。だから私に出来うる限りを尽くそうと、」

「友里の命を投げ打ってまで生きたいとは思っていない!」

私の意見や言い分は遮られてしまう。あの首を掴まれている時に見た杏寿郎さんの表情を思い返せば、それだけ怒っているのが伝わる。
でもこれでは埒があかないと思い、さっさと自分の事も伝えてしまおう。

「話の腰を折って申し訳ないですが、私の伝えたい事も聞いてくれますか?」

「まだ話は終わっていない!」

「私、この家を出ようと思います」

し…ん、と急に静かになってしまった。
これ幸いにと言いたい事を全て言ってしまおう。

「私は煉獄家に来れてとても幸せです。杏寿郎さんは鬼殺の道を絶たれてしまいましたが、私はまだ隊士です。これから杏寿郎さんはお嫁さんを迎えると思いますので私が居れば憂いになってしまいますし、何より私の目標は」

「許さん」