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「なに、これ……」

昼食を食べたお昼過ぎ、また杏寿郎さんは行ってきます!と元気よく外へ出かけて行った。
それから半刻ほど経ち、取り込んだ洗濯物を畳み終わると杏寿郎さんの分を持って部屋へと入る。
服を仕舞うのもそこそこに、文机の引き出しをそっと引くとやはり手紙が入っていた。
人様のものを勝手に漁っている事の罪悪感が酷く募るが、育手の事が書いてありそうな手紙を見つけ、そっと手に取る。
カサリと乾いた音を立てる手紙の送り主は産屋敷耀哉、お館様の名前だった。
内容を要約すると、

杏寿郎と友里の結婚を認める。
杏寿郎が育手になると同時に友里との子作りの為に友里の鬼殺隊の休養を認める。
その間友里は育手と弟子を支え時に指導をしなさい。

という3つの事だった。
何一つ聞いてない事ばかりで、手紙を握る手は震え頭の中はパンクしそうだ。
だから杏寿郎さんは鬼殺隊ではないのにまだ身体を鍛えていて、私は鬼殺隊なのに任務が全く入って来なくなったんだ。
お館様にまで伝えているとなると柱達には話が回っているかもしれない。いよいよどうする事も出来なくなった。
私もお館様に手紙を書こうと思ったが、杏寿郎さんに恥をかかせてしまう。でもこのままで良い訳がない。

逃げ出そう。
置き手紙を書いて、死んだ事にしてもらおう。

ゆっくりと手紙を仕舞うと、置き去りにされていた服を震えながら片付けていく。
ダメだ、こんなに動揺してしまうとバレてしまう。杏寿郎さんが帰って来る前に落ち着け、落ち着け。

それから自室へ戻り、この家を出るのになるべく身軽になるよう最低限必要な物を頭に思い浮かべ、ひとまず箪笥の片隅に寄せて置いていく。
すぐでもと思っていたら、夜の習慣となってしまった行為の後に杏寿郎さんから、

「明日の昼、産屋敷邸に行かねばならなくなった。なに、夕餉までには戻ろう」

と、頭を撫でられながら言われた。
ドクン、とひとつ大きく心臓が動き、行動するなら明日だ、と。
はい。と小さく返事を返していつものように杏寿郎さんの腕の中で眠りにつく。
いつからこれがいつも≠ノなったのか。

次の日は酷く気分が悪かった。
もしかしたら風邪を引いたのかもしれない。
もうすぐ生理だから体温も高くなっているせいもあるかも。
早めに朝食の用意をしてついでに昼食の献立も考えておく。洗濯を終え、掃除に取り掛かろうとした時、杏寿郎さんと鉢合わせてしまった。

「友里!来週から客が来るかもしれん。まだ分からんが、客間として君の使っていた部屋を貸そうかと思う!」

私の使っている部屋はお屋敷のちょうど真ん中辺りにある客室で、男性ばかりの煉獄家のみんなとは少し離れた所にある。
では私の部屋はどこに?

「俺と同じ部屋で構わないだろうか!」

「……え?」

これは聞かれているんじゃない、もう決まった事を伝えられているんだ。
嬉しそうにニコニコと言う杏寿郎さんは、その客人が長く滞在する事や食事の用意が増えてしまう事などを私に伝えてから朝の鍛錬へ向かって行った。
ギュッと箒を握りしめ、ゆっくりと息を吐く。

「……大丈夫。きっと、大丈夫」

こんなにも任務に行きたいと思うのは初めてかもしれない。

朝、昼と変わりなく食事も終わり、杏寿郎さんが産屋敷邸へ出掛けたのを見送った後、すぐさま自室へ行き少ない荷物を手提げにした風呂敷に入れて握りしめる。
杏寿郎さんへ宛てた手紙を文机の上に置き、物音を立てずにそっと煉獄邸を出た。
夕食の用意もしてきたから今日の夜ご飯は問題ないだろう。
鎹鴉には明日の晩まで誰にも何も言わないでほしいと懇願して、渋々了承を得た。きっと鬼殺隊はクビだ。
鬼に出会った時の為に日輪刀は持ってきた。ここに来た時の事務服と選別の時に貰った羽織にに包んで。
隊服は目立つだろうから置いてきた。

「はぁ、はぁ……」

取り敢えず東京駅を目指す。
列車に乗ってしまえば遠くへと行けるだろう。
体調の悪さと最近ろくな鍛錬をしてないせいで額に汗が滲む。
こんなにも体力も筋力も落ちていたのか。

「あ、やっぱり!うわっ」

「わっ!」

いくら急いでいたとはいえ路地から飛び出してきた炭治郎くんにも気付かないなんて。私は本当に鬼殺隊だったのだろうか。

「こんにちは!友里さん大丈夫ですか?」

「あはは、ごめんね炭治郎くん」

私も走っていたためぶつかった衝撃で私だけが地面に転がり間抜けな出会いになってしまった。
慌てて心配そうに炭治郎くんに手を差し出され、力強く引っ張ってもらう。
これで炭治郎くん15歳なんだもんなぁ。私よりも背が高いし体幹も良い、もう立派な男の子だ。

「友里さんの匂いがしたので、慌てて走ってしまいました!どこかおでかけですか?」

「えっ?う、うん!そうなの!」

「そうなんですね!俺も今から蝶屋敷へ行こうと思っていたんですよ!」

ここで知り合いに会う事は予想外だった。それも鼻が効く炭治郎くんなんて。
確か炭治郎くんは嘘が付けない少年だから私と会った事なんてすぐバレるだろう。
じゃあ私が嘘を付くしかないが、その嘘が炭治郎くバレそうで怖い。

「私はね、山の方で木の実でも取ってこようかと思って」

「そう、なんですか?」

やっぱり疑っている。
でも一度決めたのならでも突き通すしかない。

「うん、遅くなっちゃうといけないからもう行くね!気を付けてね、炭治郎くん」

「あ、はい!友里さんもお気を付けて!あっ!ご結婚おめでとうございます!お身体に気をつけて!!」

足早に駆けて行く私に大きな声で炭治郎くんがそう言った。
炭治郎くんにまで知れ渡ってしまっているのか。
優しい彼にあてられ一瞬、花街に着いて行くだけ着いて行って、上弦の陸の特徴や能力を伝える手助けをしてしまおうかと、そうしたら宇髄さんの目と腕も救えるかもしれないと思ってしまったが、鬼殺隊に居ると杏寿郎さんが関わる可能性が高い。特に花街になんてとても言えない。
こめんね、炭治郎くん、禰豆子ちゃん、善逸くん、伊之助くん、宇髄さん。

それから走って走って、夕暮れが近付いてきた。
鬼達の活動時間な上にもしかしたら杏寿郎さんも探しに来るかもしれないので、人里から少し離れた山の麓で野宿することにした。
鬼に襲われてもすぐ助けに行けるように人里が見える場所に腰を下ろし、走りがてら買ったお団子で腹を満たしてから日輪刀を巻いていた羽織を掛けて背中を木に預ける。
寒くない季節でよかった。濃紺の着物を選んで着てきたので、少し汚れたくらいじゃ目立たないだろう。
夜も更け灯りが少なくなってきた。
ずっと走って疲れたのかうとうととすぐに眠気がやってくる。
杏寿郎さん、怒ってるかな?千寿郎くんと槇寿郎さんも心配させてごめんね。
杏寿郎さんと初めて肌を重ねてから初めて共に過ごさない夜だった。