朝、人里や私の前に鬼が出る事もなく気持ちの良い太陽が輝いている。
ぼんやりとした頭で、あ!家出したんだった!と覚醒すると、気合を入れて日輪刀を仕舞い少しふらつきながら歩き出す。どうやら今日も体調が悪いらしい。
昨日の疲れもあるし、今日は歩いて次の村まで向かおう。今日目指す村は藤の家紋の家は無いのは確認済みで、小さな宿屋はあるみたい。その村の近くに町があって、そっちに藤の家紋の家があるから鬼殺隊士は鬼が出ない限り村には来ないだろう。
「疲れたよ〜、やっぱり着物で歩くのしんどいよ〜。隊服は凄く楽だったなぁ〜」
隊服を作ってくれる前田さんを脅……お願いして、みんなの着てる洋袴を少し細めに作ってもらい可動性を高めてもらっていたから、とても楽だったしめちゃめちゃ動きやすかった。
は!それを着て男装とかしちゃえば余計見つかりにくかったかもしれない!と今更気付いても煉獄邸に置いてきてしまったのでどうしようもない。
「…誰もいないし、禰豆子ちゃんみたいにするか」
ぐいぐいっと合わせ目を曲げて帯で挟み込み、前を膝が見えるくらいまで開けて広げる。
格段に歩きやすくなったのでどんどん進んで行くと、日没前には村に着く事ができた。
何も食べずに歩き詰めでかなりお腹が減っていたので、着物の合わせをしっかり直してから先に蕎麦屋さんに入って暖かいとろろ蕎麦をゆっくり身体に染み渡るように食べてから宿屋へ向かう。時間をかけて食べたためとっぷりと夜も暮れてしまったが、すんごく美味しかったので良しとしよう。
「ごめんくださーい」
「はぁい」
この村で1軒しか無いという宿屋は小さな民宿といった感じの店構えだった。
番台に駆けてきたのは40を過ぎたくらいの女将さんらしき女性。
「1人なんですけど、空いてますか?」
「大丈夫ですよ。ご案内しますね」
どうやら1階は店主さんのお宅になっているみたいだ。
客室は2階らしく、ギッギッと階段を上がっていく。
「うちは3部屋しかないんですけどね、今日はお嬢さんで満員御礼なんです」
「わっ良かった!もう少し遅かったら泊まれなかったかもしれないですね!」
「ふふふ、こんな小さな村で満員なんて滅多に無いんですけどね」
小柄な彼女は優しそうに微笑み、突き当たりの部屋がお客さんのお部屋になります。と言って鍵を渡して階段を降りていった。お礼を言ってから引き戸の鍵を開け中に入る。
6畳ほどの畳が張り替えられたばかりの綺麗な部屋で、ふわりと香る畳の匂いに嬉しくなり、後でお風呂をお借りしよう!と後ろ手で引き戸を閉める。
が、最後まで閉まる事はなく、あれ?と振り返ると、
「今夜は月が綺麗だな、友里。そう思わないか?」
にこりと笑い、額や頬に無数の青筋を走らせた杏寿郎さんが戸を掴んでいた。
「っ!!?」
「よもや……愛する妻に逃げ出されるとは思ってもみなかった」
戸を閉めようとしていた私の手は震えて力が入らずただ添えているだけになっていたので、杏寿郎さんがゆっくりと戸を開けてしまう。
尻もちをつき後ろに下がっていくと、遠慮なく杏寿郎さんが入ってきてしまった。
「ぁ……あ………」
「……あの手紙はなんだ、何故出て行った」
地を這うような低い低い声。
手紙には、
死んだと思って探さないでください。
としか書いていない。
杏寿郎さんになんて説明したらいいか、説明したところで理解してもらえない、と焦るばかりで上手く言葉を出せない。
すると影から何かが出てきて私と杏寿郎さんの間に立ちはだかった。