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(いいですよね女子の体操着姿/立海all)

「ポイントを斜線で示す、ボレーはV、ネットはNだ」

柳の説明に、ゆめみは頷いて手元のシートに記入する。
ゆめみと柳が見守るコートでは、幸村と丸井の練習試合が繰り広げられていた。

「妙義鉄柱当て」

丸井のミラクルボレーが繰り出された。しかし「天才的だろぃ」と言い終わらないうちに、幸村がそのボールを拾い、またラリーが続く。

「鉄柱当てはMTでいいかな?」

純粋な目でそう聞くゆめみに、柳は「ポイントが決まった時はな」と優しく言った。
柳は練習中にも関わらず、隣にいるゆめみを見て幸せを感じた。

8月中旬。全国大会まであと1週間と迫る中、立海テニス部は最終調整を兼ねて2泊3日の合宿に来ていた。
ここは避暑地にある柳の叔父が経営するペンション。昨年幸村、柳、真田、幸村、丸井、ジャッカル、柳生、仁王、そしてゆめみとゆめこの9人で訪れた場所だった。
前回は遊び目的であったが、今回は正式な部活としての合宿である。ペンションの受け入れ人数の関係で、50名を超えるテニス部全員が来ることは出来ず、レギュラーと準レギュラーのみの参加であった。
そのため、サポートをする人員が必要となり、ゆめみとゆめこに臨時マネージャーの話が来たのである。
柳からの提案に、ゆめみは「私で役に立てることがあれば」と快く受け入れた。立海テニス部には友達も多く、2連覇して欲しいという想いもあった。

実際、2人は大いに役に立っていた。ゆめみもゆめこも覚えが早く優秀である上に、女子が見ているというだけで部員の意識が高まり、全員いつも以上に練習に集中できているようだ。

今日は合宿最終日。練習試合が主となるため、ゆめみとゆめこはスコアシートの書き方を教わっていた。

3面あるコートの1番奥のコートを見ると、ゆめこが毛利からスコアシートの書き方を教わっていた。
ゆめみは2人が仲良さそうに1枚のシートを見て話しているのを見てにやけてしまう。夏休み中に彼らはめでたく付き合うことになったのだ。
2人が両想いであることは明白で、焦れったい想いをしていたゆめみは、ゆめこからの連絡を聞いて心から喜んだ。

「いいなぁ」

ゆめみはそう呟いた。柳が意外そうな顔をして「彼氏が欲しいのか?」と聞いた。ゆめみは「うーん?」と曖昧な返事をする。
欲しいかと聞かれると欲しい気もするが、だからといって特定の人物がいるわけでは無かった。
ゆめみの繊細な乙女心を察知した柳は「立候補しよう」という言葉が浮かんだが、結局言えなかった。
幸村のポイントが決まり、ゆめみはスコアシートに新しい文字を記載する。

試合を真剣に見ているゆめみを見て、その背後に手塚国光が見えるような気がした。
2人の関係は進展したのだろうか?夏休み中に会ったりしているのだろうか?ゆめみの発言を聞く限り、まだ手塚への気持ちに気が付いてはいないようだが、それもいつまで続くかわからない。

幸村がスマッシュを決めて、試合が終了した。結果としては6−0で幸村の勝ちだが、丸井も幸村相手に奮闘した。

「幸村くん、お疲れ様」

ゆめみがこちら側に歩いてきた幸村にタオルをを渡すと、幸村は「ありがとう」と嬉しそうにそれを受け取った。そしてゆめみはその後タイミングよくドリンクボトルを渡す。
練習後すぐにゆめみに労ってもらえる幸せを感じながら、幸村は喉を潤した。

「ゆめださん、足捻っちゃった奴がいるんだけど見てくれる?」
「もちろんです」

とその時、3年の先輩がゆめみを呼びに来た。どうやら隣のコートでけが人が出たらしい。ゆめみは柳と幸村に「ちょっと行ってくるね」と微笑むと、パタパタとコートの反対側のベンチへと走っていった。

先ほどまで幸村と丸井が試合をしていたコートではダブルスの練習試合が始まった。
丸井は連戦だ。合宿中のプレイには強い執念を感じて、きっかけは辛いものだが、丸井はまた強くなるなと柳は思った。

「まだゆめみが好きかい?」

幸村がそう言った。隣から放たれたボディーブローのような言葉に、柳は苦笑いをして「残念だが」と答えた。
幸村は微塵の動揺も無く、ゆめみを見たまま口を開く。

「このままではゆめみは手塚にとられてしまうだろうね」

柳もさっきまで考えていたことだ。しかし、言葉にして言われるとダメージが大きく、つい無言になってしまう。「なにか対策を考えないと」と前置きをした幸村は言葉を続けた。

「青学は俺たちの敵だよね?もう二度と連絡を取らないで欲しいとゆめみに言うのはどうだろう」
「手段は?」
「連絡先を消してもらうのさ」

柳は驚いて幸村を見た。今に始まったことではないが、綺麗な顔をして過激なことを言う。

「それは難しいのでは無いか?青学は全国大会に出場する訳でも無ければ、ゆめみは正式な部員でも無い。交友関係まで制限する理由としては不足している」

幸村は鋭い視線を柳に向けた後、小さくため息を吐いた。「そうだろうね」と残念そうに言う幸村に、無理なことは最初からわかっていたのだろうと思った。それでもそう願ってるてしまう幸村の気持ちは、柳にも理解出来た。

「だから、手塚と連絡を取って欲しくないと思うのは、俺のワガママだ」

幸村はコートから視線を離して柳をまっすぐに見た。

「俺は自分の気持ちを伝えようと思う」

テニスコートに風が吹いた。

柳は幸村の瞳に宿る強い光から目を離せなくなる。

「告白はしないつもりでいた、キミの気持ちを知った上で好きになってしまったから、抜け駆けをするような真似はしたくないと、でも状況が変わった」

ゆめみが手塚と付き合うのは時間の問題だと幸村は思い込んでいるようだ。

「いつか、鎌倉の紅葉の下でキミは言ってくれたね、告白するしないに関わらず友情に変わりはない、と」

幸村の瞳が切なく揺れる。

「今もそう思ってくれるかい?」

勝負に関してはどこまでも冷酷で、手段を選ばない幸村が、自分に対して仁義を切ろうとしてくれている。それが柳は嬉しいと感じた。
たしかに昨年はそう言った。昨年はまだなにもかも分かっていなかった。
ゆめみがだれかと付き合うことをリアルに想定出来ていなかった。
だからそんな強がりを言えたのだ。

「嫌だ」

柳は絞り出すようにそう言った。柳の表情は苦痛に歪んでいた。
今は違う。ゆめみを誰にも取られたくない。

「素直でよろしい」

幸村はフッと笑った。
コートの向こう側のゆめみを見ると、ゆめみは先輩の足首を手当てした後、マッサージをさせられそうになっていた。

「優先権は柳にある」

幸村はそう言い残した後、圧力をかけにゆめみの元へと歩いて行った。

「俺は告白する・・・のか?」

その前に出来るのか?
柳は自問自答を繰り返した。


お昼の時間になり、ゆめみとゆめこは仲の2年生メンバー(真田、幸村、柳、仁王、柳生、丸井、ジャッカル)とホテルのレストランで昼食を取っていた。
ホテルのレストランの食事は美味しく、疲れた体に染み入る。

「たまらん!昼から上質な肉が食べられるとはな!」
「つい食べすぎちゃうだろい」
「本当ですねぇ」

みんながわいわいとおしゃべりをする中、柳だけは黙って考えを巡らせていた。
考える内容は先ほどの幸村との会話である。つい『嫌だ』と言ってしまったことにより、幸村よりも先に告白することになってしまった。
確かに6月の誕生日にこれから頑張ってゆめみを振り向かせようと決意したが、結局はその後特別なアクションは起こせずにここまで来てしまっていた。
まだゆめみに褒め言葉の1つも言えていないのに、告白なんて出来るのだろうか?
勝率以前の問題だ。

「あれ?蓮二もうおなかいっぱいになっちゃったの?」

全く箸が進んでいない柳に、ゆめみは不思議そうに顔を覗き込む。

「すまない、考え事をしていてな」

そう答えた柳に、ゆめみはにっこり笑って「参謀は大変だなぁ、食べさせてあげようか?」と冗談っぽく言ってくる。
その表情が可愛くて、柳は今なら言えるかもしれないと唐突に思った。

「可愛い」

声が上ずった。
柳の珍しい発言に、それまで別の話をしていた他のメンバーも話をやめて柳を見た。
やけにシーンとする。
肝心のゆめみ本人はきょとんとして「何が?」と聞いてくる。

みんなの痛いくらいの視線に、一瞬誤魔化そうかと思った。
否。ここでまた逃げては前には進めない。

「ゆめみ」

柳は最後まで言うことが出来た。
しかし、恥ずかしすぎてその後「その服も似合っている」と付け加えてしまった。
ゆめみはさらに不思議そうな顔をして、自分の着ている服を見る。
部活として来ていたため、ゆめみは学校指定の体操着を着ていた。ちなみにブルマとかではなく、いたって普通の体操着だ。

微妙な空気が流れる。

もしここで赤也が居てくれれば。「何言ってんスか、柳先輩!」と笑い飛ばしてくれたかもしれないが、残念ながら彼は1年生の学校行事である姉妹校研修旅行に行っており、ここには来ていない。

「いいですよね、女子の体操着姿」

少しの沈黙の後、初めてフォローをしたのは柳生だった。力強く「分かりますよ」と言われてしまい、柳はさらに次の言葉を失った。
その隣では、仁王が声を殺して笑っている。
いっそのこと大声で笑ってくれないか。と柳は思った。
ゆめこ、丸井、ジャッカル、幸村は憐れみの眼差しを向けており、真田は深く考え込んでしまっている。
ゆめみはパチパチと瞬きをした後「そっか」と何かに納得したように呟いた。
そして、柳をまっすぐに見て微笑む。

「とにかくありがとう、蓮二」

何がそっかなのか分からなかったが、ゆめみの誤解している可能性は99%を超えており、修正しなければならない。
柳は頭痛を覚えた。

一言褒めるだけでこの有様なのだ。
本当に告白できる日が来るのだろうか。





(180530/小牧)→102

ヘタレ蓮二。




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