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(俺と踊ってはくれまいか?!/三強)

「うわぁ、すごい人」
「だね」

海原祭2日目の午前中。
ゆめみとゆめこは立海ホールの前で途方に暮れていた。
ホール前には、『男子テニス部による劇・新撰組』の看板がかかっている。
ゆめみとゆめこは、テニス部の友人達が出演するこの劇を観に来たのだが、会場は既に超満員であり、立ち見席もすし詰め状態であった。
開演までまだ30分以上あるにも関わらずだ。

「甘かったね」
「どーしよ、皆に観に行くって約束しちゃったのにー」

ゆめみの泣きそうな声にゆめこは「ビデオ撮ってるよ」と冷静に切り返す。

「毛利先輩の活躍見れなくても大丈夫?」とゆめみがゆめこに聞くと、ゆめこは「ごめん、おサボりかと」と苦笑いした。
ゆめこの彼氏である毛利が出るということで、楽しみにしてると思っていたゆめみは、ゆめこの回答に「蓮二怒ってるぞー」とくすくす笑った。

座れないものは仕方がない。がっかりしつつも「じゃあまいっか、仕方ないよね」と言い、何か甘いものでも食べ行く?と2人で歩き出した。その時だった。


「ゆめみ先輩ー!」

ふと誰かに名前を呼ばれた気がして、ゆめみはもう一度会場を振り返った。
すると、会場前方の席から1人の女の子が全力で手を振っているのが見えた。

「ゆめみ先輩ー!!ここが空いています!」

草野わかば。美化委員の後輩である。ゆめみとゆめこは一瞬顔を見合わせて、混雑する会場を潜りながらわかばの席までたどり着いた。
すると、ちょうど前から3列目の中央に2人分の席が空いていた。

「わかばちゃんありがとう、ここ座ってもいいの?」

ゆめみが嬉しそうにそう言うと、わかばはその顔いっぱいで誇らしげに笑う。

「もちろんです!ゆめみ先輩に幸村先輩の勇姿を見てもらうために、2時間前からお待ちしていました!」

わかばの隣には、同じ美化委員の後輩が2人、わかばと全く同じキラキラした瞳をゆめみに向けていた。

「ありがとう」
「お安い御用ですとも!幸村先輩を間近で応援してあげてください!」

ゆめみのお礼に対して、「そんなゆめみ先輩を見るのが私たちの楽しみです!」と力強く言うわかば。そして、わかばの言葉にうんうんと頷く後輩2人。

ゆめみは苦笑いで「美化委員の働き者の後輩たちだよ」とゆめこに紹介すると、ゆめこは菩薩のような全てを察した顔でゆめみの肩をポンとたたいた。苦労しているんだな、と。

座れたのは良かったが、開演まではまだ時間がある。
ゆめみはにやにやしながら、ゆめこに「今日の後夜祭楽しみだね」と話を振った。

恋バナの始まりだ。
2人とも恋愛を意識したのは中学に入ってからと少し遅めではあったが、ゆめこが毛利と付き合い始めてからは、恋バナが2人の1番好きな話題であった。

嬉しそうな表情を浮かべながら「まぁね」と返したゆめこに、ゆめみは思わず「いいなー」と呟いた。

「ねぇねぇ、なんて誘われたの?踊りませんか?それともShall we dance?」
「えー、それ言わなきゃダメ?」
「聞きたい聞きたい」
「ゆめみはどうなのー?今年も蓮二に誘われたんでしょ?」

ゆめこの返しに、ゆめみはきょとんとした顔で「誘われてないよ?」と首を振る。
ゆめこは内心であのチキン野郎がと柳を罵った。
誘いたかったのだろうが、誘えなかったのだろうとゆめこは思った。その読みは半分当たっていて、半分間違っていた。
柳は昨年、誘わなくてもゆめみがそのつもりでいたために、今年もそうなるだろうと安心しているのだった。

「まぁゆめみの場合、踊りたい人は立海にいないもんね」

ゆめこの言葉に、ゆめみの心臓がどきりと跳ねる。ちょっと顔を赤くして、頬を両手で抑えるゆめみ。その初々しい反応に、ゆめこはニヤリと笑う。

「手塚国光くんと踊りたいんでしょ?」
「言わないで」

ゆめみは更に顔を真っ赤にして両手を振った。
先週、手塚への想いに気が付いたゆめみは、真っ先にゆめこに報告していた。
ゆめこは柳の気持ちも知っているため、複雑な気持ちもあったが、柳の恋もゆめみの恋もどっちも全力で応援しようと決めたのだった。
それに、ゆめみの場合は恋と呼ぶにはまだささやか過ぎる。

「国光くんと踊るとか、想像しただけで溶けてしまいそう」

消え入りそうな声でそう言うゆめみ。話を聞く限り、手塚国光という人物も相当奥手そうだ。2人が付き合うことになるとしても、相当未来の話だろうなとゆめこは思った。


その後もガールズトークを繰り広げていると、あっという間に開演時間となった。

鮮やかなブルーの羽織りを羽織ったレギュラー達が、新撰組となって、舞台の上を駆け回る。その姿はとてもカッコ良く、彼らが登場する度に会場中が黄色い声で埋め尽くされた。

主役は1年生の赤也で、毛利の役には真田が出ていた。急遽決まったのだろうが、堂々としており、何の問題も無かった。

ストーリー構成も良く考えられており、新撰組の話を良く知らないゆめみでも楽しむことが出来た。

舞台が終わると、ほとんど全ての人が立ち上がり、惜しみない拍手を送った。ゆめみはなんだか皆が誇らしいと思った。

男子テニス部による劇は、女子の圧倒的な支持を得て、監督である幸村は総合監督賞を獲得した。


その後ゆめみは、海原祭ラストに向けて、全力でクラスの和喫茶に貢献した。

そうして、全てのイベントを終えて、海原祭の閉会式が中庭で執り行われた。
クラス単位での整列のため、ゆめみは2年I組の列に並んでいる。

「蓮二、私達が優勝する確率ってどれくらいかな?」

ゆめみが控えめに隣に立つ柳に声をかけた。しかし、柳が変わらない表情で口を開く前に、ゆめみは柳の口を押さえて「やっぱりまだ言わないで」と言う。
実は2年I組は昨日利益部門で第1位を獲得しており、利益部門での優勝候補なのだ。
ちなみに海原祭の模擬店表彰制度は、売上げ部門、利益部門、来店客数部門と3つに分かれており、それぞれ上位5位までが表彰される。昨年ゆめみと幸村の1年M組が優勝したのは売上げ部門である。
客単価や回転率、原価を計算して、価格設定やシステムを発案したのは柳だ。立海一のブレーンがついているのだから、当然と言えばそれまでだが、全員優勝に向けて一丸となって動いた結果である。

早く結果を知りたい気持ちと、皆と一緒に結果を聞きたい気持ちが葛藤して、ゆめみは「うー」と言葉を漏らす。
その反応が可愛くて、柳はフッと笑ってゆめみの頭をポンポンと撫でた。

「発表の瞬間を楽しみにしていていい」

それって、つまり・・・?
期待感が高まる。ゆめみが一度見上げると、笑みを浮かべた柳と目が合う。全てを知っているその笑みが、幼馴染ながらにカッコいいと思った。

『売上部門の優勝は2年I組!』

アナウンスの発表と共に、クラス全員が飛び上がって喜んだ。
学級委員が優勝トロフィーを受け取って、クラスに駆け込んでくる。

「とったぞ、優勝!!」

わぁあ!と皆が輪になって、喜びを分かち合った。その中心に、フランス人ハーフのマノンとリュカがいるのを見て、ゆめみは少し目を細めた。
部活動に所属していないマノンとリュカは、随分と熱心に和喫茶に貢献した。特に日本文化オタクのリュカは柳から茶道を教わり、前でお点前を披露する場面もあり、売上げに貢献したと言えるだろう。
新学期当初に感じていたマノンとリュカとクラスメイトとの壁はほとんど無くなっていた。

「良かったな」

柳の落ち着いた言葉に、ゆめみは「うん!」と笑う。しかし少し考えた後「優勝の話?マノンとリュカの話?」と聞けば、「両方だ」と言う答えが返ってきた。ゆめみは満足そうに「本当に良かった」と笑った。その笑顔が可愛いと柳は思った。

「両方ともゆめみのおかげだな」

柳は小さい声で、しかしはっきりとそう告げた。ゆめみは予想通り「私は何にもしてないよ」と言うが、生徒会や部活の仕事で忙しい柳に代わって動いたのはゆめみであった。
マノンとリュカの件に関しても、双方の主張を聞いて間に入ったりと関係が上手く行くように取り持っていたのを柳を知っていた。

「勤勉で、友達想い」

柳はゆめみを見つめたまま、口を開く。

「俺はゆめみのそういうところが好きだ」

その言葉に、ゆめみは柳の瞳を見つめ返した。
さりげなく紡がれた『好き』が友情から来るものだと判断したが、それでも思い出さずにはいられない。
空も海もひたすらに青くて、綺麗な海での、あの瞬間を。

ゆめみは動揺を隠すように、両手で胸を押さえた。なぜかドキドキと心臓の音が大きく聞こえる。何か返事をしなければ、と口を開いた瞬間。

「次は柳だ!」

学級委員を胴上げしていたクラスメイト達が、柳のところへ押し寄せて来た。
あっと言う間に柳が胴上げされる。

「いくぞ!せーの!わっしょい!わっしょい!」

大人しく胴上げされる柳。クラスメイトに囲まれた柳をゆめみは見つめていた。その頬は赤く染まっている。

やっぱりあの日から何かがおかしい。
精市に聞いて、蓮二の気持ちを知ったはずなのに。

2年I組の盛り上がりは、後夜祭の音楽が流れ始めるまで続いた。
後夜祭のメインイベントである、ダンスが始まろうとしていた。

約束していた訳では無かったが、ゆめみは柳を、そして柳もゆめみを自然に目で追ってしまう。お互いに違うクラスメイトと話していた2人であったが、すぐに目が合って、お互い小さく笑った。

「早く行かないと取られちゃうよ」

マノンがそっとゆめみの背中を押した。ゆめみはちょっと照れながらも、柳の方を見ていた。
柳はクラスメイト達との話を切り上げて、ゆめみの方へと歩き出す。

ドキドキした。去年は蓮二と踊ることをこんなに意識したりしなかったのに。
私、最後までちゃんと踊れるかな。

そんな心配をしていると、柳がゆめみに辿り着く前に、2人の間に1人の女子生徒が立ち塞がった。

「蓮二、ここにいたか」

漆黒のストレートの髪がなびく。気安く呼ばれた下の名前に、ゆめみはちょっと目を見開いた。意外に思ったのは、ゆめみだけでは無かったようで、柳も少し目を見開いていた。

「会長」

柳の言葉に、その女子生徒がこの学校の生徒会長である先輩であると確信した。立海の生徒会長は10月末に引退のため、まだ3年生が務めている。
白百合あやは。立海の生徒会長にして、元華道部主将。美人で頭も良いと有名だ。
柳とは生徒会の活動で一緒である。
スラリと背の高い彼女は、柳とお似合いだとゆめみはなぜかそんなことを思った。

彼女は偉そうに腕を組んだまま、ニッと勝気な笑顔を柳に向けた。

「約束を果たしに来た」

約束?それってつまり。
ゆめみは顔が熱くなるのを感じた。
誘われてもいなかったのに、柳と踊るつもりでいた。そのことが恥ずかしいと思った。
ゆめみはくるりと後ろを向いた。困惑気味のマノンと目があったが、気にしないでと小さく笑って静かにその場を離れた。

恥ずかしいという感情に、自然と早足になる。気がつけば、立海ホールの方へと歩いていた。

「ゆめみ?」

柔らかな声が聞こえて、ゆめみははっと顔を上げる。すると幸村がゆめみの顔を気遣うように覗き込んでいた。
綺麗な顔の友人に、ゆめみは少しホッとした。

「精市、総合監督賞受賞おめでとう」

ふわふわ笑ってそう言ったゆめみに、幸村は「ありがとう」と返した。さっきは少し違和感を感じたが、改めて見るといつも通りだと幸村は思う。

幸村の後ろに真田がいることに気づいたゆめみは、「弦一郎、かっこよかったよ」と急遽出演することになった真田を労った。
2人は劇の片付けの最終確認を今終えたところだった。
褒められた真田は、少し顔を赤くして「見ていたのか」と言った。そして、その後まっすぐにゆめみを見て聞く。

「後夜祭には参加せんのか?」

『後夜祭』の言葉に、幸村はダンスのことを思い出す。幸村もゆめみとダンスを踊りたいと願っていたのだが、昨年のことがあったため柳と踊るだろうと諦めていたのだった。

もし、柳と踊らないのなら、俺と。

幸村は期待を持ってゆめみの顔を見つめた。ゆめみは小さく首を振る。

「しないよ、誰とも約束してないし」

幸村は唾をゴクンと飲み込んだ。緊張で喉が乾く。でも伝えようと、幸村は口を開いた。

しかし、幸村の願いが言葉になる前に、真田がいきなりズザッと片膝をついて、ゆめみに手を伸ばした。
まるで、物語の中の王子様が、求婚するかのように。

「では、俺と踊ってはくれまいか?!」

その真剣な声は、テニスコートに響き渡り、道行く人たちが振り返る。

ゆめみは少し目を見開いたが、すぐに柔らかく笑ってその手を取った。

「はい、喜んで」

幸村の胸が嫉妬でキュウと痛んだ。

後夜祭のメインイベント、社交ダンスの音楽が流れ始めた。

一方中庭では。

柳はすぐにゆめみを追いかけようと歩き出したものの、あやはによって止められていた。
あやははスッと腕を柳へと伸ばした。

その手には、ペットボトルのお茶が握られていた。

「受け取れ、蓮二、約束だろう?」

柳はそのペットボトルを受け取りながら、思い出していた。柳のクラスとあやはのクラス、どちらが利益部門で優勝するかを競っていたことを。そして、負けた方は何かを奢ると半ば無理矢理約束させられた。
しかし、このタイミングで「約束」という曖昧な言葉を使うなど、意地が悪い。
柳は小さくため息をついて、あやはを軽く睨んだ。

「確信犯ですね」

あやははクスッと愉快そうに笑う。

「お前のそんな顔が見たかったよ」

あやはは、続けて「あの小動物が蓮二のお気に入りね」と少し考える素振りを見せた。

「わかっているのなら、邪魔をしないで頂きたい」

柳はそんなあやはの隣を無言で通ろうとした。しかし、あやはに再び止められた。あやはは、指を指して「もう手遅れのようだぞ」と笑う。
あやはの指の先には、真田と仲よさそうにダンススペースへと歩くゆめみを見つけた。
ちなみにダンスはこの中庭の一画で行われる。
柳は目を見開いた。そして乾いた声で「そのようだな」と呟く。

「しっかし意外と当てが外れたな、ここは幸村クンの方が確率が高いと推測していた」
「いや、データ通りです」

あやはの声に、柳は冷静に切り返す。「こういう場合に限り、弦一郎の方が男気がある」あやはは柳の顔を覗き込んだ。いつもの無表情に見えて、その瞳は泣きそうに潤んでいる。
アハハとあやはは笑い出した。

「データマシーンのお前でも、そんな少年らしい顔をするのだな!」
「誰のせいですか」
「それはそうだな、では」

あやはは、手を差し延べた。

「私が相手を務めてやろう」

柳は眉をピクリとも動かさず、「結構です」と即答した。あやはは柳の意思が固いことを察知すると、伸ばした手をひらひらと揺らして「冗談だ」と言った。そして「要件はそれだけだ、また生徒会で会おう」と立ち去っていった。
柳はただただ真田と踊るゆめみを見ていた。

ダンスに不慣れな真田はステップを踏み外す場面もあった。しかし、真田のミスをゆめみが上手にカバーしていた。
ゆめみと手と手が触れ合う度、腰に手を添える度、見ているこちらが恥ずかしくなるくらいに赤面する真田。
そんな真田にもゆめみは穏やかに微笑んでいて。楽しんでいるように見えた。

見ていたくない、目を逸らしたい、しかし逸らすことが出来ない。
くるくると回るゆめみはいつも通りに可愛いのに、なぜ相手が自分では無いのか。
会長に、と言うよりも、柳は自分の不甲斐なさに嫌気がさした。
たった一言。「後夜祭でのパートナーを務めてもらえるか?」と言えることが出来れば。
こんな未来は訪れなかったはずだ。

ゆめみもそのつもりでいてくれたはずなのに。

惨めな気持ちになって、ゆめみを見つめていた柳だったが、ゆめみ達の向こう側に、同じく泣きそうな表情で2人を見ている人物に気が付いた。
幸村だった。幸村も穴が開きそうなくらいにゆめみ達を見つめていた。

精市よりはマシか。
そんなことを頭が過ぎる。
好きな気持ちは本物なのに、俺に譲ったせいでゆめみとの可能性は果てしなく遠のいてしまっている。

精市の好意に応えるためにも、このままで言い訳が無い。

ダンスの音楽が終了し、皆自分のパートナーにお礼を言って、会場を離れ始めた。
真田とゆめみも、お互いにお辞儀をして、お礼を言い合っている。

柳は距離を保ちながらも、そんな2人に近づいた。

「2人とも上手だった」

柳から見られていたことに気が付いた真田が恥ずかしそうに「お世辞はいらん」と返した。しかしゆめみが「本当に上手だったよ、ステップも完璧だった」と言ったため、真田も「そ、そうか?」と簡単に押し切られてしまう。
「蓮二より上手かも」と冗談っぽく言ったゆめみに、柳は「お前な」とため息を吐く。

「クラスの打ち上げが始まるから迎えに来た」

柳がとっさに考えた言い訳を口にすると、ゆめみは素直に「もちろん行くよ」とふんわり笑った。
真田にありがとう、またねと手を振って、ゆめみと柳は並んで歩き出す。

歩き出したものの、じっと見つめられていることに気が付いた柳は、優しい瞳でゆめみを見た。

「蓮二も楽しかった?」
「とお前は言う、そしてその回答は踊っていないだ」

予想通り、ゆめみはその大きな瞳を更に大きく開けて、その後不思議そうに「どうして?」と聞いてくる。やはり勘違いしていたな、と思いながら柳は口を開いた。

「会長とは売上部門の優勝を競っていただけで、ダンスの約束をしていた訳では無い、俺のダンスの相手は」

続く言葉は『ゆめみだけだった』だった。しかし、いつもの良く分からないプライドが邪魔をして、不自然に言葉を切ってしまった。
ゆめみは気にしていない様子で「そうだったんだ」と言った。嬉しそうに表情が緩む。
そして少し考えた後「でも今日は相手が弦一郎で助かったかも」と呟く。

「俺より弦一郎の方が良いと言うことか?」

珍しく本気で傷ついた顔をした柳に、ゆめみはくすくすと笑った。

「そうじゃなくて、蓮二が相手だったら、最後まで踊れなかったかもって思ったの」
「どう言う意味だ?」
「ほら、だって」

「ドキドキしちゃって」と言おうとして、それを伝えたら、柳はどう思うだろうかと急に不安になった。

ゆめみは話を逸らすために、その場でくるりと回って見せた。そしてにっこりと笑って「今日の打ち上げ楽しもうね」と言った。
柳は不可解な顔をしたが、ゆめみの意を汲み取ってそれ以上は追及しなかった。

打ち上げ会場に向かう2人の距離は、幼い頃と同じなのに、心は変わりつつあった。

ゆめみの2年生の海原祭はこうして幕を閉じた。





(180715/小牧)→118

誰も彼も彼女と踊りたくて恋い焦がれる。




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