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(ついにやりやがったなあいつ/丸井・赤也)

とある休日、ゆめこは学校に向かって歩いていた。

中間考査まで三週間を切っているので家で勉強に励んでいたところ、丸井に「緊急!」と言われ呼び出されたのだ。
課題を手伝って欲しいという彼に、同じクラスでもあるゆめこは「課題なんかあったっけ?」と首を傾げたが、どうやら自分ではなく後輩の赤也の課題を見てあげているようだった。
最初は一人で面倒を見ていた丸井だったが、あまりにも赤也の出来が悪くゆめこに助けを求めたのである。

それを聞いたゆめこは以前柳にも同じようなことを頼まれたので、
テニス部のみんな赤也くんを私に押し付け過ぎじゃない?
などと思ったが、丸井も困っているようだったし、自分も学校で勉強すればいっか。と結論付けると丸井の頼みを引き受けることにした。

そうして学校にやって来たゆめこは、二人がいるという図書室に向かって足を進めた。
向かっている途中、ゆめこは物珍しそうに辺りをきょろきょろと見ていた。
今日は日曜日だと言うのに校舎内には生徒達の姿がある。
部活動に所属している彼らにとってはなにも珍しいことではないのだが、帰宅部のゆめこは休日学校に来るのはこれが初めてのことだったので、休みの日まで学校に来るなんてすごいな、なんて感想を抱いていた。

ふと、そういえばブン太くん達部活どうしたんだろう。なんてゆめこは思ったが、すぐに今日が10月の第一日曜日であることに気が付いた。
毎月第一、第三日曜日は、テニス部の練習はお休みなのだ。
そんな貴重なオフの日まで後輩の面倒を見てあげるなんて、やっぱりブン太くんって面倒見良いんだな。
そんなことを考えながら、ゆめこは図書室までやって来た。
静かに扉を開けて中を覗く。
すると中には丸井と赤也の姿しかなくて、ゆめこはホッと胸を撫で下ろした。
父の職業上家にはたくさんの書物があるのでわざわざ図書室へ訪れる必要も無く、ここに来たのは初めてに等しかったゆめこは先入観で図書室イコール気を遣う場所、という認識を持っていたので、他にもたくさん人がいたらどうしよう。と少しばかり緊張していたのだ。

ゆめこの姿に気付いた丸井はぱっと顔を明るくさせ片手を上げる。
そんな丸井の向かい側では赤也が頭を抱えたまま俯いていて、ゆめこはその光景だけで色々と察してしまった。

「悪ぃな、呼び出して!ほら、赤也もお礼言えよ」
「ゆめこ先輩・・・わざわざありがとうございます」
「私なら平気だよ。それより赤也くん大丈夫?めっちゃ死にそうな顔してるけど」

そう言いながら赤也の隣に腰を下ろすと、彼は「見てくださいよこの量。ありえないっス」と言ってゆめこに向かってテキストを突き出した。
しかしすぐに「溜めたお前が悪い」と丸井にツッコまれていた。
赤也を苦しめていたのは英語の課題で、本来なら先週の内に提出しなければいけないものだったらしく、今日中に先生に提出するよう命じられているそうだ。

「しょうがない、このゆめこ先輩が力を貸してあげましょう」
「さすがゆめこ先輩!頼りになるなぁ〜」
「その代わり今度ラーメンでも奢ってよ」
「あ、俺も。あとケーキも追加で」
「いいね〜、赤也くんパフェもお願い」
「いや無理ッスよ!」

ゆめこと丸井に容赦なくねだられた赤也はぶんぶんと首を横に振って拒否する。
ゆめこはすぐに「冗談だよ」と言って鼻で笑ったが、丸井は本気だったのか「ちぇっ」と唇を尖らせた。

そうして三人はしばらく赤也の英語のテキストと睨めっこした。
ゆめこにとっては簡単過ぎる内容だったが、赤也は説明を聞いて飲み込むまで大分時間が掛かっていた。

「うん、いいんじゃない?」

そうして一時間程が経ったところで、最終チェックをしたゆめこがそう言って赤也にテキストを返した。

「早速提出してくるっス」と言ってパタパタと駆けていく赤也を見送り、ゆめこはふうと息を吐き出す。
待ってる間私もテスト勉強しようかな。とゆめこがガサゴソと鞄を漁っていると「ところで最近どう?」と丸井が徐に口を開いて、ゆめこは顔を上げた。
随分ざっくりとした質問だな、とゆめこは少し笑いながら「何それ」と言った。
それに毎日教室で顔を合わせているので「最近どう?」なんて聞かなくてもよく知っているはずだ。
ゆめこが何を今更、とでも言いたげな視線を向けると、丸井は困ったようにへらりと笑った。
彼にはゆめこに聞きたいことがあったのだ。

「いや、なんか・・・いろいろあったんだろい?」

と尋ねると、そこでやっとゆめこも丸井の言わんとしていることを察したのか「あー・・・」と微妙な表情になった。
あれは海原祭後、一週間程毛利と連絡を絶っていた間の出来事だ。

電話やメッセージを無視し続けるゆめこに、毛利は何度か教室まで訪ねてきたことがあった。
会いたくなかったゆめこは隠れて居留守を使ったり、トイレに駆け込んだりしてうまく避けていたのだが、度々丸井や星梨にも協力をお願いすることがあった。
毛利を避けていることを二人は不審がっていたが、ゆめこは一切詳しいことは話さず、

「黙って私に協力して欲しい」

なんて訳あり感満載の台詞で誤魔化し続けたのだ。
その後仲直りをして、ゆめこが毛利を避けることがなくなってから今日で一週間程が経つが、丸井はいまだにあれは何だったのだろう?と疑問に思っていた。

ゆめこは普段おしゃべりな方であるが、肝心なところは秘密主義というかあまりぺらぺら話したがらない傾向にあったので、丸井は自分から聞かないと一生謎に包まれたままだな、と思い話を振ったのだった。

ゆめこは先程から「えっとね」と言い淀んでいる。
丸井の気持ちは知っているし、そんな人に彼氏の話をするのもどうなんだろう。とゆめこは思ったのだ。
告白をしてくれた彼のことを考えると、せめて彼の前でだけでも順調にいっている素振りをしなければ。そんな考えが頭を過る。
しかしゆめこの考えてることに薄々気付いていた丸井は「なんでも話してみろよ」と彼女の話を促した。

「たしかに告白したのは俺だしさ、言いにくいのも分かる。・・・でも俺らって友達じゃん?そりゃあゆめこのこと女の子として好きだけど、それ以前にふつーに友達として好きっつーか。なんかあったら頼って欲しいって思う訳よ」
「ブン太くん・・・」
「俺らの間に今さら隠し事は無しだろい?」

そう言ってばちりとウィンクを決める丸井に、ゆめこは感動してじわりと涙目になる。
いつもおちゃらけていることが多い彼だが、本当は人情深くてとても仲間想いである。そんな彼の一面が垣間見れた気がした。
改めて丸井の優しさを感じたゆめこは、後夜祭での一件とそしてその後無事に仲直りしたことを順を追って話した。
丸井は「は?ありえねぇ」と言いつつも、そんなゆめこの話に最後まで耳を傾けていた。

「と、いう訳なんだよね〜」
「なんつーか、複雑だな」
「うん、ほんとドロ沼」
「まぁ、仲直りできたならいい・・・のか?」
「うん、そうなんだけどね」

なんとかフォローをしようとする丸井にそう応えると、ゆめこは「はぁ」と盛大にため息を吐いた。
彼女にはもう一つ悩み事があった。
柳やゆめみにも言ってない。いや、ゆめみにはその内話そうとは思っているが、いまだ話せていないことだ。
すると浮かない顔をしているゆめこに気付いた丸井は「なんだよ?まだ何かあんの?」と怪訝な顔で尋ねた。
ゆめこはきょろきょろと辺りの様子を探ると、小さく手招きして丸井を呼んだ。顔を近付けろという意味だ。
丸井が頭に疑問符を浮かべながら顔を寄せると、ゆめこは口元を手で隠しひそひそ声で話し出した。

「あのね、私・・・仁王くんとキスしちゃったの」

ゆめこはたった一言そう告げて、ゆっくりと顔を離した。
丸井は目を丸くしたままゆめこを見つめ返していたが、次の瞬間「はぁあああ?!」と大声を上げた。

「ちょ、ブン太くん、しーっ!」

周りに人がいないとは言え一応ここは図書室なのでゆめこは慌てて丸井の肩をパンパンと叩いた。

「いや、待て待て。なんだその状況。つーか仁王ずりー!」
「ずるいって・・・」

なんだそれ。と思いながらも、ゆめこは仁王とキスをした経緯を話した。
不意打ちだったことを伝えると、
「ついにやりやがったな、あいつ・・・」
と、丸井は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「あれから仁王くんとは何度か顔合わせてるんだけど向こうはすごく普通でさ。でも私はどうもモヤモヤしてるっていうか、なんだか気になっちゃって」
「まじかよ」

それって仁王を意識してるってことじゃねーの?
と喉まで出掛かった丸井だったが、何も敵に塩を送ることもないかと口を噤んだ。

「寿三郎さんは正直に話してくれたけど、私は隠し事してるみたいでなんかすっきりしなくてさ」
「いや、言わなくていいだろい。つーか言ったらややこしいって」
「そうかなぁ、でもフェアじゃないよね」
「気持ちは分かるけど、せっかく仲直りできたんだし。俺も聞かなかったことにするから、ゆめこも忘れろよ。なっ」

丸井はそう言うと、ぽんとゆめこの肩に手を置いた。
ゆめこは「う〜ん」と言いながらまだ腑に落ちない表情をしていたが、その時赤也が戻ってきて話はそこで途切れてしまった。
すると先程自分が席を立つ前と空気が違うことに気が付いたのか、赤也は「何話してたんスか?」と興味津々な顔で割って入ってきた。

「お前には関係ねーよ」
「あっ、またそうやって俺だけ仲間外れにする〜!」
「地球温暖化の話だよ」
「・・・それ絶対嘘っスよね」

テキトーなことを言うゆめこに、赤也はじっとりとした目を向けた。




(180609/由氣)→124(夢主1&夢主2共通のおはなし)

後半夢主2と幸村の絡みがありますが、ご一読いただけますと設定把握にもなるかと思います。別にいいや、な方は適宜スクロールで。




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