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(今日精市が早退した/立海all)

早朝の屋内テニスコート。
3面あるテニスコートで、幸村だけがその広い空間に1人で佇んでいた。

手からすり抜けたラケットがカランカランという無機質な音を立てて地面へと落ちる。

幸村はその落ちたラケットが自分のものだと認識すると、右手を見た。
僅かに震えている。
まだ自分の手からラケットがすり抜けてしまったことが信じられず、呆然と右手を見つめていた。

今日ここに来てから幸村はすでに10回以上ラケットを落としている。
昨日、真田と柳と自主練をした時はここまででは無かった。

2週間程前に駅構内で倒れてから、歯車が狂ってしまったようだ。

病院で検査を受けた結果は『異常無し』、その時は自分も寝不足や過労のせいだと思った。

しかし、何かがおかしい。

日に日に自分の体では無くなっていく感覚、というべきか。時々まるで水中にいるかのように、体の動きが鈍くなっていく。
そしてその違和感は良くなるばかりか時間が経過する毎に強くなっていた。

ガチャとドアが開いて、小学生の男の子数人が屋内テニスコートに入ってくる。
3面あるテニスコートは全て幸村が独占して予約をしていたが、その予約時間を過ぎたようだ。
はっと幸村が時計を見ると、既に7時半を回っていた。

今日は体育祭のため、テニス部の朝練は休みであるが、体育祭の集合時間に遅れてはいけない。
幸村は浮かない表情のまま、ラケットを拾いい上げ、テニスコートを後にした。



11月初旬の立海大学グランド。
ここでは立海大附属中学の体育祭が催されていた。
色とりどりの万国旗の下では、赤、白、青、黄の4色のはちまきを付けた生徒達が、それぞれの競技に奮闘していた。

「えーん、結局5位だった」

ゆめみはゴール近くの応援席で暖かく見守る柳へと駆け寄った。
運動神経に自信の無いゆめみは徒競走では勝ち目がないと、障害物競走にエントリーしていたのだが、結果は6人中5番目であり、ゆめみは息を切らしながらもがっくりと肩を落としたのだった。
因みにゆめみのクラスの所属する白組には4位までしか点数が入らない。

柳は優しくゆめみの頭をぽんぽんと撫でると「1人には勝てたのだ、胸を張っていい」と言った。
相変わらずの甘さである。

「でも点数」と言いかけたゆめみに重ねるように「ゆめみは毎日生きててえらいな」と柳は真顔で言った。
えっ、そんなレベル?と思ったが、落ち込んでいた気持ちが一気に軽くなるから不思議だとゆめみは思う。
次の瞬間には、ゆめみの顔には笑顔が戻っていた。

「きゃー!幸村くんー!かっこいいー!」

同じ応援席から黄色い声が聞こえて、ゆめみと柳は障害物競走とは違うサイドへと視線を移す。
そこでは徒競走をしており、ちょうど幸村がスタートラインに立っていた。
幸村の額には白いはちまきが見える。そう、幸村の2年D組もゆめみ達と同じ白組なのだ。

「精市、頑張って」

ゆめみが目を輝かせて幸村へと声援を送る。
幸村はゆめみの声には気がつかなかったのか、応援席をチラリとも見ることは無かった。

スタートの合図であるピストルの音が鳴ると、一気に走り出す。
当然幸村はぶっちぎりで一位だろうと思って見ていたゆめみと柳であるが、幸村の表情は険しく、ギリギリの僅差でテープを切った。

その結果に違和感を感じた2人であったが、1位を獲得した友人を労おうと、幸村へと駆け寄った。

「1位おめでとう」

ゆめみが晴れやかな笑顔でそう言うと、幸村は顔を上げて「ありがとう」と言った。
その顔は笑っていたが、どこか影があるように感じた。

「俺もゆめみの走りを見ていたよ、一生懸命走っていたね」

「相変わらず遅いけど」とはにかんで言うゆめみに、幸村はにこっと笑って「頑張ったことが大切だよ」と優しく言った。
それはいつも通りの優しい反応で、ゆめみは少しほっとした。

「次は弦一郎の出番のようだな」

柳の声にゆめみはまた徒競走の方に視線を移動させた。真田は同じチームでは無いが、活躍を見届けようと思ったのだ。
真田はスタートダッシュを決めて、2位と大きく差を付けて首位でゴールした。

「弦一郎、速い」
「あぁ、データ通りだな」

真田は赤組の陣地に戻るためにこちらには来なかったが、ゆめみ達の存在には気がついていたようで、誇らしげに1位の旗を掲げた。

「あれ?精市は?」

真田に手を振り返した後、ゆめみは初めて気が付いたようにきょろきょろと見渡しながらそう言った。
先程まで左隣にいた気がしていたのに、気がつけば幸村の姿はどこにも見えなくなっていた。

別に幸村と一緒に応援しようと約束をしていた訳では無かったが、ゆめみはこの後の競技もそのまま幸村と一緒に応援するつもりになっていた。
少なくともいつもの幸村ならば、何も言わなくても柳とゆめみの側に居続けただろう。
柳も一瞬意外そうに首を傾げながら、何かを考えるような表情をしたものの、すぐに穏やかな表情に戻った。

「クラスに戻ったのだろう、俺たちもクラスへと戻るとしようか」

ゆめみは柳に促されるがまま、クラスの陣地へと歩いた。
歩きながら2年D組の方を見たものの、幸村の姿を見つけることは出来なかった。

競技はプログラム通りに進んでいく。

誰に何を言われた訳では無いのに、ゆめみは自然に幸村の姿を探していた。
しかしいつまで経っても2年D組の陣地に戻った幸村の姿を見つけられないままだった。
時間だけが過ぎて行く。

なんだか気になった。
気になって気になって仕方がない、とゆめみは思った。

「蓮二」我慢出来なくなってゆめみが柳を呼ぶと、柳は優しくゆめみと目線を合わせる。

「精市を探しに行かない?」
「とお前は言う」

いつも通りの柳に、ゆめみは安心したように「さすが蓮二ね」と笑って手を上げた。
パチン、と手を合わせてハイタッチすると、2人は静かにクラスの陣地を離れた。

「精市はどこにいるのかな?」

ゆめみの問いに柳は即答出来なかった。
立海主席のデータマン、当然のように幸村の居場所の心当たりはあった。
しかしそれをゆめみに伝えていいものか判断が出来なかったのだ。
柳の想像通りの展開だとしたら、幸村はゆめみに知られたくない可能性が高い。
それでもこうなったゆめみを止めることはできない。

無言で考え込む柳に、ゆめみは人差し指を立てた。

「初歩的なことだよ、ワトソンくん」

ゆめみの考えは立海大学の建物内に設置された保健ブースだった。
「もしかしたら足を痛めていたのかも」
徒競走での走りがいつもの幸村のものでは無いことにゆめみも気がついていた。

しかし、ゆめみの予測は当たらず、そこには幸村はいなかった。

「ホームズ、次はどうする?」
「もしかして、中等部の校舎まで戻ったのかな?ワトソンくん?」

名探偵ごっこを続けて、ゆめみと柳は中等部の校舎に向けて歩き出した。



幸村はその時、2年D組、自室のロッカーの前に座り込んでいた。

体育祭で全校生徒が併設する立海大学のグランドに集合しているので、中等部の校舎はただただ静寂に包まれていた。

「まいったな」

口からはそんな弱気な言葉が出て、幸村は苦笑いをする。
今朝は普通に歩けて、テニスボールを打つことは出来なかったが、日常生活に支障はなかったのに。
手首、足首の痺れが出てきて、幸村は休憩しようとここまで来たのだった。

少し休めばまた競技に復帰できるだろうという予想は外れ、状況はどんどん悪くなるばかりだった。
手首はかろうじて動くが、足首は全く力を入れることが出来ない。
今となっては立ち上がることも出来ないだろう。

「無様だな、幸村精市」

柳のような口調が口から出た。
クラスメイト達が戻ってくる前に助けを呼ぼうか。
ポケットに入ったスマホを取り出した。

『クラスにいないみたいだけど、どこにいるの?』

そんなメッセージがポップアップした。
ゆめみだ。
真田と柳もグループに入っているチャットグループにゆめみからの心配したメッセージが入っていた。

気づいてくれたんだ。

嬉しい気持ちのまま、幸村はそのチャットにメッセージを返そうとして、指が止まった。

この無様な格好をゆめみに見られたくない。

「ゆめみ・・・」

幸村はスマホを祈るようにぎゅっと掴んだ。


初めて俺の試合を見てくれた時の、ゆめみのキラキラした瞳を、今も鮮明に思い出せる。

『幸村くん、レギュラー入りおめでとう』

あの日から。
俺のイメトレの中には、いつも君がいた。
いつも想像の中で応援席最前列で俺の活躍を見届けてくれていた。

春の屋上庭園で、2連覇を獲るから見ていてほしいとお願いした時の揺れる瞳も覚えている。

『ずっと見てる、全部応援に行くから』

そう言って笑ってくれたね。
そして迎えた全国大会決勝、当日の朝。

『精市のこと、ずっと見てたよ』

ゆめみは潤んだ瞳でそう言った。
優しい君は、ずっと見守って応援して来てくれたのに、気遣ってくれたね。

『私はここまでみんなが頑張ってきたのを知ってるから、どんな結果でも』

そんな君だったのに。

幸村は昨日のことを思い出した。

『応援してる、立海の3連覇を見届けるね』

ゆめみからそう言ってくれた。
それがどんなに勇気を出して言ってくれた言葉か、心から出た言葉か、俺は知っている。

「あー」

幸村の口から言葉が漏れた。


「勝ちたい」


ゆめみを笑顔にしてあげたい。
あの、優勝した時の輝く笑顔をもう一度見たい。

そう強く願うからこそ。

知られたくない。

俺がテニスで優勝どころか、
立つことすら出来ないなんて事実を。

ゆめみをガッカリさせたくない。
今はゆめみに会いたくない。

と願っていたのに。



「精市の教室ってD組だよね?」
「そうだ」

静寂に包まれていた教室の外から話し声と足音が聞こえてきた。
誰が来たかは見なくても分かる。

知られたくない、会いたくない、このまま通り過ぎてほしい、幸村はそう念じた。

しかし、2年D組のドアがガラリと開いて、そこには幸村の想像通りの人物が顔を出す。

「精市、やっと見つけた!」

あんなに会いたくないと思っていたのに、ゆめみの満面の笑みを見たら、やっぱり会いたかった、なんて思っていた。
その笑顔はすぐに幸村が座り込んでいるのを見ると、心配そうに歪む。

「大丈夫?」

そっと駆け寄るゆめみ。
幸村は早口で「大丈夫さ」と言っていた。

「朝の自主練で足首を捻挫してしまったようでね」

何も用意していなかったのに、口からペラペラと嘘が飛び出す。

ゆめみは「痛かったよね、徒競走の時言ってくれれば良かったのに」と幸村の足首の状態を見ようと座り込んだ。

「手当ての必要は無いよ」

幸村はそう言った。
特別キツい言い方では無かったが、いつもの幸村の優しい感じでも無かった。

医療の心得があるゆめみのことだ、もし足首を見られたら捻挫ではないと気付くだろう。

気づかれるのがそれが怖かった。
嘘がバレるのも、そして、病気がバレるのも。

でも止まらないだろうな、と幸村は半分くらい覚悟していた。ゆめみは怪我を放置することに厳しいことを知っていたからだった。

「ゆめみ、精市は俺が保健室へ連れて行こう」

後ろから冷静な声が聞こえて、ゆめみは振り返る。一緒にここまで来た柳だった。

「次の競技まで時間が無い、ゆめみはグランドまで戻って精市の競技不参加を先生に伝えてくれないか?」

柳の言葉に、ゆめみは少し考えた後素直に頷いた。

「そうね残念だけど、今後の競技は無理をしない方がいいわ」

ほっとしたはずなのに、柳の言葉に素直に聞いたゆめみに、正直嫉妬する。
そしてくるりと後ろを向いて去ろうとするゆめみに寂しさを覚える。

「待って」

気づけば呼び止めていた。
ゆめみは振り返る。
不思議そうなあどけない顔が可愛いと思った。

「笑って、くれないかい?」

自分の口から出た言葉に、幸村自身が1番驚いた。

最後かもしれない
そんなことを思っていたからかも知れない。

自分の顔が熱くなるのを感じた。

「えっと、こう、かな?」

ゆめみの笑顔は、今まで見た中で1番ぎこちないものだった。

「すまない、忘れてくれないか」

俯いてしまった幸村に、ゆめみは「ちょっとだけ待ってね」と言って両手で頬を引っ張ったりした。
その様が可笑しくて、幸村はフフと吹き出した。次第に肩を震わせて笑う幸村に、からかわれたと思ったゆめみは「もー精市ったら」と頬を膨らませる。

「無理をしてはダメよ、精市」

ゆめみは優しくそう言って、にこっと笑って教室を出て行った。
その自然な笑顔を、幸村は忘れまいと思った。

ゆめみが階段を降りる音がした後、柳が幸村に駆け寄った。


「精市、本当に大丈夫なのか?」

相変わらずの淡々とした口調ではあるが、珍しくその表情には焦りが見えて、幸村は親友のありがたみを感じた。

「柳、来てくれてありがとう」

幸村は「お前と真田、仁王、柳生、丸井、ジャッカル、赤也そしてゆめのさんにだけは本当のことを伝えたい」と前置きをした後、柳を見上げたまま真実を告げる。


「俺は当分の間、テニスが出来なくなるだろう」


「なっ!?精市、お前」柳の狼狽を幸村は受け止めた。その上で「それどころか、立つこともままならないかも知れない」と続けた。

「分かるんだ、自分の体のこと、これは疲労や気力の問題ではない、おそらく病気だろうと思う、病院で検査しても分からなかったのだから治療法があるのかも定かではないけど」

言葉が出なくなった柳を幸村はまっすぐに見つめる。

「それでも俺は立海3連覇を決して諦めない」

幸村の瞳から強い光が見えた。

「あの日、あの時、あの砂浜での4人の誓いを、俺は必ず叶える」

2連覇を果たした翌日の早朝の海辺でのマラソンを柳も思い出していた。

柳は目を閉じた。
そして、同じように強い瞳で幸村を見つめ返した。

「チームは任せろ、お前はお前の試合に集中していい」

「苦労をかける」幸村はようやく小さく笑った。


「ゆめみには、伝えないのか?」


聞いていいものか少し迷ったが、柳は意を決して聞いた。

幸村の表情が悲痛なものに変わる。

「伝えないとね」

少しの沈黙の後、幸村は続けた。

「ゆめみのことだから、きっとすごく心配をかけてしまうだろうね

頭はでは分かっている、隠し通すことは出来ないと、でも」

『もしかしたらすぐ良くなるかも知れない』
幸村はその期待を捨てられないでいた。
そうなのだとしたら、無駄にゆめみをがっかりさせなくてすむんじゃないか、そんな風に考えてしまう。
幸村のでもの続きは言葉にはならなかったが、ゆめみに同様の気持ちを抱いている柳には伝わっていた。

「ゆめみだけが俺の心の支えになっている」

幸村の次の言葉はこうだった。

「柳、ごめん、俺はゆめみが好きだ」

その言葉で、柳は理解した。
幸村の休戦提案であると。

今は柳に告白の優先権がある状態であった。

「知っている」

柳はため息をついた。

「精市が元気になる前に俺が告白しても、受け入れてもらえない確率の方が高い、だから気に病む必要はない」

半分くらいは本音だった。「俺は元々告白をする気は無かった」

柳の優しい言葉に、幸村はさらに泣きそうな顔になった。




体育祭の後、部活が始まるまでの時間に、ゆめこは海志館の3階へと向かっていた。
教室がある棟ではあるが、資料館がメインの3階には授業以外で来ることはほとんどない。
ここに来た理由は、柳から個別に呼び出されたからであった。

『極秘の話がある、1人で海志館3階の和室に来てほしい、ゆめみに注意』

という短い要件のみのチャットをもらっていた。もし送り主が柳で無ければ警戒するところであるが、幼馴染の頼みであるため、わざわざゆめみに用事があると告げてまでゆめこはここまで来たのだった。

さては恋の相談かな、なんて予想していたが、和室をソロリと開けて驚いた。

「ゆめこ、来てくれたか、礼を言う」

柳の他に、真田、仁王、柳生、丸井、ジャッカル、赤也のいつものメンバーが揃っていたからだった。

「これで全員揃った」

柳の言葉に、幸村がいないことを察して、全員の表情が少し険しくなった。


「今日精市が早退した」


柳はその内容とは裏腹に淡々としたいつもの調子で事実だけをメンバーに伝えた。

朝から痺れがあり、昼の時点で立つことができないくらいに悪化していたこと、
本人がなんらかの病気を患ったと考えていること、
部活及び学校を当分の間休むと言うこと、
その間みんなにチームを任せたいと言ったこと

「精市は言っていたそれでも立海3連覇を決して諦めない、と」

誰も何も言わなかった。
テストが終わった後数日一緒に練習をする中でも違和感に気づいていたので、予感をしていたメンバーも多かった。
しかし、本当にこんなことになるとは誰も想像していなかったのだ。

長い沈黙を破ったのは真田だった。

「負けてはならんのだ!」

全員の表情が意を決したように、変わる。

「幸村くんが安心して療養できるように、我々は我々にやれることをやりましょう」
「ピヨッ」
「俺は俺の仕事を徹底してやるだけだろい」
「そうだな」

柳生、仁王、丸井、ジャッカルと続く。

「ったりめーっスよ!負ける訳ないじゃないスか!幸村部長の穴は俺が埋めて埋めて埋めまくるっスよ!」

堰を切ったように赤也はそう言ってガッツポーズをする。

「空から見守っててくださいね!幸村部長!」

「だわけが!」
「縁起でもないことを言うものではない」

赤也の余計な一言に、真田と柳が同時に注意する。真田に限っては赤也の後頭部をどついており、痛そうだ。

「じゃあ俺、先に行きますんで、先輩達もモタモタしてると足元救われますよーっと」

更なる制裁が来ない内に、赤也は部屋から飛び出した。

そして、気心が知れた2年メンバーだけが残る。

「蓮二、それで?説明してくれるんでしょ?」

これまで何も話さなかったゆめこが切り出した。
ゆめこが今1番気になっていることは、幸村の病状では無かった。
仲のいいメンバーはそれに気付いていたが、何も言わず柳の回答を待った。

柳は珍しくなんと切り出そうか迷っている様子だった。

「ゆめみには言わないでほしい、というのが精市の願いだ」

「まさか、それを聞き入れたの?」つい声が大きくなり、ゆめこは自分でも感情的になっていることに気づいた。

「俺は精市の意思を尊重しようと考えている」と続いた言葉に、ゆめこは正直ずるいと思った。

強制する気は無い、と言う態度であるが、こうなった以上幸村の意思を皆が尊重するであろうことは、柳のデータでわかっているのだろうと思ったからだった。

「隠し通せるはずがないよね

それで皆は知ってて、ゆめみだけが知らなかったと知ったら、どんな気持ちになるか、蓮二がわからない訳が無いよね」

ゆめこの言葉に、柳は悲しそうな顔をした。

「そうだ、隠し通せるはずがない、ゆめみが傷付かない道は無い、だからこそ真実は精市から告げるべきだと考えている」

いろんなことを考えた上で、柳自身も葛藤した中での答えだとゆめこは理解した。
それでも親友として納得できる案件では無い。

「でも私はゆめみに嘘はつかない、もし聞かれたら答えるからね」

柳は小さく笑った。

「ゆめみのことを考えてくれていることについてはいつも感謝している」

なんだかその言葉は、こちらが折れたようで少し気に入らなかった。

「絶対聞かれたら言うからね!」

「言ってええ、そんときは俺が幸村に頭下げるナリ」

ゆめこの言葉に援護射撃が入った。振り返ると、仁王がニヤリと笑っている。
負けじと丸井も「俺も!手作りホールケーキ持って詫びるぜぃ」と続けた。
空気を読んだ柳生も「では私もお供しましょうか、人数が多い方が誠意が伝わると言うものです」と続いた。

真田までも「うむ、約束を破るのは性に合わんが、ここの誰から漏れても連帯責任ではあるな、俺も土下座する覚悟をしておこう」と続けた。

乗り遅れたジャッカルが「俺ももちろん行くぜ」と続いたものだから、柳は驚いて開眼した。
これはデータに無かったのかも知れない。

そしてクククと可笑そうに笑う。

「当然、俺も同行しよう」

ゆめこは全員のフォローを受けて、少し照れたよつに頬に手を当てる。
一息ついて、柳は言った。

「そして、もし今回の件でゆめみが傷付いたならば、俺の責任だ、
この柳蓮二がゆめみに墓場まで詫び続けよう」

その言葉には丸井が「重すぎだろぃ」と突っ込んだ。

「そのいった場合も、全員でお詫びするのが良いのではないでしょうか?」柳生の提案に、仁王も「そうじゃな、全員で詫びればいいじゃろ」と同意する。
ゆめこも「私も一緒に謝る、蓮二は背負いすぎだよ」と呆れた。
「一致団結だな」とジャッカルもニッと笑う。

「うむ、それでこそ、王道だ!
ゆめみならば皆で謝れば必ず許してくれるだろう!」

真田も大きな声でそう言った。
あぁ、いいチームだな、と柳は思った。

今回の件、どう転んでも、この仲間がいれば大丈夫だろう、そう思えた。


「いずれにせよ!我ら王者立海、足を止めている時間はないぞ!

負けてはならん!

全国3連覇する日まで勝ち続ける!」


真田のまとめに、全員が大きな声で「イェッサー」と返事をした。


立海はこの日を境に更に強い団結力を持つチームへ変わるのだった。





(220602/小牧)→129

いい仲間を持った、感謝している。




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