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(精市は甘えん坊な性格だからね/幸村•柳)
11月初旬。
秋も深まり始め、木々の色も変わる頃。
『ごめんなさいね、精市は今会えないと言っているの』
ゆめみは幸村の家の前でショックを受けていた。
幸村の母、百合子のインターフォン越しの申し訳無さそうな言葉に、ゆめみは「学校からのプリントを頼まれたのでお伺いしたのですが」と機械的に用件を伝えた。
『わざわざありがとうね、プリント類はポストに入れていてもらえるかしら』
「はい」と返事をしたら、インターフォンの通話が切れた。
ゆめみはポストに頼まれた書類を入れようとした、でもすぐに手を離すことは出来なかった。
なぜか分からないけど、今幸村と自分を繋ぐ唯一のもののような気がして。
しかし入れない訳にはいかないので、えいっと勢いをつけて手を離す。
書類は音もなく落ちていった。
「はぁ、どうしよう」
ゆめみは一礼した後、くるりと後ろを向いて、今来た道をとぼとぼ歩きだした。
風が吹いて、沿道に植えられた銀杏の葉がひらひらと舞った。
いつもは綺麗だと思えるのに、今日ばかりはそう思えない。
どうしてこうなってしまったのだろう。
事件の発端は今週の月曜日、4日前の体育祭まで遡る。
ゆめみは思い出すように目を瞑った。
体育祭の日精市の足の様子がおかしいことに気がついて、精市の教室まで探しに行った。
その時までは普通だったのに、いや今考えればあの時すでに何かが起こっていたのかも知れないけど。
でも少なくともその時までは、精市と普通に笑い合って話をすることが出来た。
あれから、精市の怪我の様子が気になって、何度か連絡をしたのものの、返信が無くなった。
そして、毎週欠かさず参加していたフランス語のオンラインレッスンも欠席。
加えて、蓮二の様子もおかしい。
明らかに何かを隠している様子だ。
ゆめみは思い出して悲しくなった。
そんなモヤモヤを抱えて4日、今日は帰り際に幸村と同じクラスで2年D組の学級委員である真冬に、1週間分のプリントやら案内やらを届けて欲しいと依頼されたのだった。
流石に家まで行けば何か分かるはず、と楽天的に考えていたので、拒否されたショックは大きい。
先月中国から帰ってきた後は、精市が目覚めるまで家の中で待たせてもらった。
その時よくしてくれた百合子さんにも門前払いされたのだ。
これで決定的だ。
精市が私に会いたくない、と言っているのだろう。
ゆめみはまた1つため息をついた。
元々その可能性が1番高いとは考えていた。
柳が自分に隠し事をする理由は、幸村からの直接のお願いしかないだろうと思ったからだった。
そう思ったからこそ、ゆめみはゆめこにもあえて幸村のことを聞かなかった。
とぼとぼ、と駅に向かって歩く。
幸村の家の敷地は広大で、少し歩いてもまだ幸村の家の壁が続いていた。
嫌われちゃったのかな。
そう考えるのが自然かも知れないが、なんだかしっくり来ない。
怒らせるようなことをした心当たりもないし、人の悪口を嫌う正義感の強い精市のことだ、もし嫌なことがあったのなら、こんな周りくどいことをせずに直接言うだろう。
どうしたんだろう。
ゆめみは心配だった。
また1人で何かを抱え込んでしまっているのではないか、という不安に胸がいっぱいになる。
全国制覇した3強のエース、神の子と呼ばれてテニス界では恐れられているが、繊細な普通の男の子であることをゆめみは知っていた。
校外学習の時は自分の正義感とクラスメイトとの摩擦に、
地区予選の時は部長としての重圧に悩んでいた。
そして、先日倒れた時は、自分のことよりも、周りのことを気遣ってくれた。
そう考えたら、自然と足が止まった。
やっぱり、もう一回行って聞いてみようかな、と思った瞬間、角の向こう側から妖精がひらりと出てきた。
その妖精は笑顔で「ゆめみお姉ちゃーん」と抱きついてくる。
「菜苗ちゃん!」
幸村の5つ歳下の妹の菜苗である。今年小学3年生のおませな美少女。昨年のクリスマス以降ゆめみに懐いている。
菜苗は薄ピンクのレオタードに暖かそうなハーフコートを羽織っており、髪の毛はお団子だ。
ゆめみが嬉しそうに菜苗を受け入れると、菜苗は「会えて嬉しいな」とぎゅーっと更に強く抱きついた。
「チュチュ可愛いね、バレエの帰り?」
「そうなの!ゆめみお姉ちゃんは?お兄ちゃんに会いに来たの?」
「そのつもりだったんだけど」
「もしかして家に入れなかったの!?」
ゆめみはこくん、と頷いた。その寂しそうな表情に菜苗は『お兄ちゃんの意気地無し』と心の中で悪態をつく。
「じゃあ、ななのお願いきいてくれる?」
それから数分後。
ゆめみは幸村の家の庭にあるブランコ型のベンチに座っていた。
クラシック音楽に合わせて菜苗がくるくると回る。
菜苗のお願いとは、自分のバレエを見て欲しいと言うものだった。
バレエを見ることには快諾したゆめみであったが、幸村の家の敷地を跨ぐことには抵抗があった。
しかし菜苗の強引な誘いにより、ついには裏口から庭に入ってしまったのだった。
5つも年の離れた菜苗はゆめみにとって可愛い妹のような存在であったし、幸村によく似た容姿にも弱かった。
それに以前から菜苗のバレエにかける情熱を知っており、特にクリスマス前にある発表会ではくるみ割り人形の第2幕の主役クララに抜擢されたと嬉しそうに話していたので、見てみたいという気持ちもあった。
無垢なクララは、菜苗にピッタリの役だとゆめみは思った。
音楽に合わせて綺麗にお辞儀をした菜苗に、ゆめみは惜しみない拍手を送った。
「ねね、ゆめみお姉ちゃんも一緒に踊ろうよ!」
「え、できないよ」
「大丈夫!楽しむことが大切だから!このシーンでは金平糖の精霊の役が必要なの!」
ゆめみはバレエは未経験であり、一度は断ったものの、可愛い菜苗からのお願いに、やはり断り切れずに手を引かれて、庭の芝生の真ん中へと連れて行かれた。
クラシック音楽が最初から再生される。
何が正解かは分からないまま、ゆめみは以前母親と観たくるみ割り人形のクラシックバレエを思い出しながら、菜苗の真似をしてくるくると回って見た。
スキップしたり、回ったり。
絶対に合っていないはずなのに、菜苗の可愛い笑顔が弾ける。大好きなゆめみと踊れることが嬉しかったのだ。
ゆめみもいつのまにか純粋に楽しんでいた。
ついには暑くて、マフラーもコートもジャケットも脱いだ。
菜苗と離れたり、近づいたり。
2人は笑い合いながらくるくると庭を舞っていた。
天使達が、庭に舞い降りている。
その時、幸村はすぐ近くにいた。
レースカーテン越しに、ゆめみと菜苗の可愛いダンスに見惚れていた。
「ゆめみ・・・来てくれたんだ」
幸村の部屋は元々2階であったが、体育祭の日から、この庭に面した部屋が幸村の部屋になった。支え無しには立てなくなってしまったためだ。
足首の痺れは治る見込みが無いと言っていい。
幸いにも手首の痺れは調子のいい時と悪い時があり、起き上がって絵や文字を書いたり、本を読むことが出来る時もあった。
しかし、全体的には悪化しているような気がしていた。痺れる間隔と部位が日々拡大している。
時々、水の中にいるような、そんな感覚も度々起こっていた。
このまま全身が痺れて動けなくなるのではという恐怖が幸村を襲っていた。
早くゆめみに言わなくては。
そう思っていた。
いつまでも言わずにはいられないと。
最初はすぐに良くなるかも知れないからと考えて言わない選択をしたはずなのに、
もう過去の自分に戻ることは無いとわかっていても、
日々悪化していく病気を前に、
勇気がどんどん無くなっていった。
自分の価値が分からなくなっていく。
キラキラしているゆめみを前に、
キミと釣り合う俺では無くなったことが、
それを認めるのがつらくて。
ゆめみに悲しい顔をさせたく無くて。
逃げていた。
幸村はそっと窓に手を当てた。
「会いたいな」
心からの言葉だった。
音楽が止まり、ゆめみは菜苗と話しながら、ベンチに置いたままだったバッグと上着に手をかけた。
そして、にこっと笑って会釈をする。
おそらく菜苗に別れの挨拶をしているのだろう。
そして、くるりと後ろを向いた。
いつも見ていた華奢な後ろ姿。
それが遠くなっていく。
幸村はレースのカーテンを開けた。
手が震える。
でもここで逃げたら、もう会えないかも知れない。
幸村はついに窓を開けた。
「ゆめみ!」
スローモーションに感じた。
それでもゆめみは振り返ってくれた。
そして、俺を見て、その大きな瞳を丸くした。
「精市?」
名前を呼んでくれた。
それだけで救われた。
大げさでは無くそう思った。
「そっちに行くから、待っていてくれるかい?」
幸村の言葉に「もちろんよ」と言って、ゆめみは庭にあるベンチに座って待つことにした。
菜苗は機嫌良く「着替えてくるね、ゆめみお姉ちゃんまたね!」と、家に入っていった。
幸村は正直怖かった。
ゆめみに会いたい気持ちが上回る。
松葉杖を持って、ゆっくりと歩き始める。
部屋と庭との距離はほんの数メールなのに、とても遠く感じた。
一歩一歩、ゆめみの後ろ姿が近づく。
松葉杖の擦るような聞き慣れない音にゆめみは振り返った。
どんな顔をされるか不安で仕方なかったが、ゆめみは悲しい顔も泣きそうな顔もしなかった。
ただ少しだけびっくりしたように目を開いたが、すぐに優しく「大丈夫?」と手を貸してくれた。
ゆめみのリードで、幸村はベンチに座った。
ゆめみも隣に座ると、ブランコ型のベンチは少し揺れた。
少しの間、沈黙が続いた。
2人はまっすぐに庭の奥にある池を見ていた。その周りに咲く花が綺麗だと2人は思っていた。
「4日ぶりだね」
幸村の口から最初に出た言葉はそれだった。言ってすぐに後悔する。これでは指折り会えない日を数えていたみたいではないか。
実際にはそうだったのだが、会いたくて仕方がなかったことは隠したいと思った。
「4日とそれから7時間ぶりね」
幸村の羞恥心に気付いたのか、ゆめみは穏やかに笑ってそう言った。
その言い方は柳を連想させるもので、2人は少し照れたように笑う。
そんな返し方はゆめみの優しさに溢れていて、幸村は胸を押さえた。
可愛くて仕方がない。
「すまない」
謝ろうと思った。
この優しい子に嘘をついて、それから無視してしまったことを。
しかし、ゆめみはそっと幸村の唇に人差し指を当てた。その繊細な感覚に、幸村はドキリとする。
「ごめんなさい、私のせいだね」
ゆめみは松葉杖の幸村を見て、全てを察したのだった。
自分に隠したいほどの病気だと言うことを。
中国蘇州で初めて倒れた時、駅構内で倒れた時も真っ先に異変に気が付いたのはゆめみだった。ゆめみは本当は頭の片隅で幸村の体の異変に気付いていたのかも知れない。
それなのに、『立海3連覇』なんて言葉を出して、幸村を追い詰めてしまったのだ。
もし自分が幸村の立場でも、私には言いにくいだろうと理解できた。
「ゆめみ・・・優しくしなくていいよ」
幸村は俯いた。
俺はもうテニスが出来ないんだ、
もうゆめみに3連覇の夢を見せることは出来ない、キミにとって価値のある俺ではないんだ。
ゆめみの言葉に、そんな弱気な言葉ばかりが浮かんできた。
柳の前では3連覇を諦めないなんて啖呵を切っておきながら、ゆめみの前では等身大の自分に戻ってしまう。
「俺は」
またゆめみは優しく幸村の唇を押さえた。
ふわっと花のようないい香りがする。
「精市、言わなくていいの」
ゆめみはまた優しく微笑んだ。
「覚えてる?えのすいに行った日、精市言ってたよね、私といると悩みを忘れるって、楽しい気持ちになれるって」
ゆめみの瞳にはうるうると涙が溜まっていた。
「私、精市のそんな存在でいたいの」
綺麗な涙が一粒、堪えきれずにゆめみの頬を伝った。
幸村はそっとその涙を指で拭った。
ゆめみの言っていることが、すぐには理解できなかった。
あまりに自分に都合が良すぎる提案だった。
「言わなくていいのかい?」
ゆめみをガッカリさせること、心配させることを全部言わなくていいの?
「いいよ、だって弦一郎と蓮二にはちゃんと説明してるんでしょ」
だから自分の前でくらい、忘れてもいいと笑うゆめみ。
「私に出来ることはこれくらいだけど」
ゆめみはそっと幸村の手を握った。
「側で他愛の無い話をするわ、季節の花の話、ルノワールの話、フランス語の話、大好きな楽しい話をずっと」
「ずっと隣で?」
「うん、精市が嫌で無ければ」
最後に自信無さげにはにかんだゆめみを、幸村は抱きしめていた。
止められなかった。
愛おしさが溢れて仕方ない。
「ありがとう」
幸村の目にも涙がじわりと光った。
少しの間、2人は抱きしめ合っていた。
「俺はゆめみに甘えているね」
そう言った瞬間、前にもこんなことを言ったなとすぐ思った。あれは地区予選の日だったな、なんて思い出す。
「精市は甘えん坊な性格だからね」
ゆめみのそんな言葉に、幸村は驚いてゆめみを離した。少し距離を置くと、抱きしめ合っていたことが恥ずかしくなり、少し赤面する。
でも聞き捨てならない。
「俺が、何だって?」
ゆめみは何か変なことを言った?とキョトンとした。
「甘えん坊って聞こえたけど」
「うん、そう言ったけど?」
当たり前のような反応に幸村は驚く。
「そんなことは生まれて初めて言われたよ」
正義感が強い、とか真面目とか、そんなことを言われた記憶はあるが甘えん坊だなんて。
心外だ、と幸村は思った。
男らしくない、そんな勘違いをゆめみがしているなんて。
「んー?私精市は立海テニス部一の甘えん坊さんだと思うけどな」
「そんなはずはないよ、立海テニス部は52人もいるんだ」
なんとか訂正させたくて、幸村は必死に否定する。ゆめみは改めて考えてみるが、幸村はどう考えても甘えん坊だと思った。
毎日のようにネクタイは曲がっていて、直してあげていたし、拗ねた幸村を追いかけて励ましたのも一度や二度のことでは無い。
朝だって苦手で寝ぼけている日もある。
でも必死に否定する幸村が可愛いとゆめみは思った。
「私の勘違いだったかな?」
「そうだね、俺は自立しているよ」
ゆめみはくすくす笑って、幸村の髪をそっと撫でた。
「寝癖がついているわ」
優しい感覚に、目を瞑ってされるがままになっていた自分を客観的に見て、納得してしまう。
ゆめみの前では少し、いやだいぶ甘えているかも知れない。
「前言撤回、した方がいいかい?」
幸村の悔しそうな口ぶりに、ゆめみはあははと笑った。
その後もガーデングの話をしていたら、あっという間に夕暮れ時になった。
ゆめみは慌てて別れの挨拶をして、電車に飛び乗った。
改札を出ると、すでに暗くなっていた。
暗くて良く見えなかったが、見覚えのある人影に確信して、ゆめみは出口の外に立つ人物のところに走る。
「蓮二!」
柳蓮二が、そこに立っていた。
いつもの優しい笑みでゆめみを迎え入れる。
「待っててくれたの?」
「あぁ、精市から連絡があってな」
精市、の名前にゆめみはドキリとした。
そう言えば、柳とは幸村のことを隠されていたために、少しギクシャクしていたことを思い出したのだった。
それでも柳との絆にヒビが入ることはないということをゆめみは知っていた。
そっと柳の手を握ると「ねぇ蓮二、久しぶりに遠回りして帰ろうよ」と提案した。
柳の「いいだろう」の言葉に安心する。
2人はいつもの他愛ない話をした。
最近2人は語学の勉強にハマっていたので、来年の海外研修のペルーまでにスペイン語を勉強しようね、とか
昨日やった桃鉄のビックボンビーのルートが鬼だったね、とか
猫と犬だったら絶対猫が可愛いよね、とか
蓮二の中間テストの成績がまた主席だったからお祝い何がいい?とか
そんないつもの軽い話。
夢中で話をしていると、気づけば神社に着いていた。毎年お祭りで蓮二とゆめこと一緒に来る神社である。
お祭りの日はあんなに人がたくさんいて、賑わっていたのに、平日の夕方である今は、誰もいなかった。
2人はどちらとも無く、鳥居の後ろの方の石に座った。
今日会って初めての沈黙が訪れる。
先に切り出したのは柳だった。
「精市に何も聞かずに寄り添うと言ったと聞いた、精市の友として、礼を言う」
「うん」とゆめみは言った。
「そして、ゆめだゆめみの友として、詫びたい」
ゆめみは柳の目を見上げた。
「すまなかった」
悲痛な表情だった。
ゆめみは幸村にしたみたいに、柳の唇をそっと押さえた。
「謝らなくていいの、私が蓮二でも同じことをしたと思うから」
出来るだけ優しい顔をしようと思った。
にっこり笑って、柳の罪悪感を減らしてあげたい、と。
そう思ったのに。
柳は口に当てたゆめみの手をそっと取って、自分の頬に当てた。
「ゆめみ」
蓮二の顔を見上げたら、感情が溢れ出した。
「ここには俺とお前の2人きりだぞ」
そんなことを言われたら、止まらない。
ゆめみの目にはみるみる内に大粒の涙が溜まった。
「泣いていい、俺がすべて受け止めてやるから」
ゆめみは泣いた。
ひっくひっく、と最初は静かに泣き始めたが、最後には大声でうえーんと泣いた。
「どうして精市なの?」とか「私酷いこと言っちゃったの」とか「もっと早く気がついてあげられたら」とか「私何もできない」とか「神様はいないと思う」とか
そんな行き場の無い悲しみや戸惑いや不安を柳の前で全部吐き出した。
柳は何も言わず、ただゆめみの頭を優しく撫でて、ただただ聞いていた。
少し落ち着くと、ゆめみはその泣き腫らした目を柳に向ける。
「蓮二もショックだったよね、その時一緒に悲しんであげられなくてごめんね」
柳は一瞬固まると、ゆめみを抱きしめた。
ゆめみは少し抵抗したが、すぐに諦めて柳の胸に顔を押し当てる。
震えるゆめみは小さくて、すぐに壊れてしまいそうだと思った。
ゆめみはたくさん泣いたのに、全て人のための涙だったことに柳は気付いていた。
自分が秘密にされて悲しかったとは泣かないのだ。それで寂しかったり悲しい想いをしたことは間違いないのに。
あぁ、好きだ、と改めて思う。
この小さな肩をもっと強く抱きしめて、涙を舐めてやれたらどんなに良いだろうか。
中途半端に告白をして、恋人になれる夢を見てしまったものだから、そんな欲が出てしまう。
いつでもキスできる距離にいるのに、恋人になれる確率という距離はとんでもなく開いてしまった。
「帰ろうか、ゆめみ」
柳が静かに言うと、ゆめみはこくんと頷いた。
柳に想いを吐き出して、ゆめみは少しだけ気持ちの整理がついた。
柳は本当にすごいな、とゆめみは有り難く思う。
「抱き抱えてやろうか?」という柳の提案に、ゆめみは「もう、恥ずかしいからやめて」と唇を尖らせる。
結局泣きすぎてふらふらだったのでおんぶしてもらうことになり、ゆめみは柳の背中に体を預けていた。
自分だって甘えん坊だ、と思った。
そう言う意味では、精市と蓮二は両極端だな、とも。
「蓮二はもうちょっと甘えていいと思う」
「そうか?ゆめみには甘えていると思うが」
「何かして欲しいことないの?」
一瞬間が空いて「もう十分してもらっている」と言った。
ゆめみは不満そうに足をバタバタさせた。
(220604/小牧)→131
蓮二はぴば!
膝枕、とリクエストしたら叶えてくれるだろうか