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(丸井先輩、開き直り過ぎっス/丸井・赤也)
街中がイルミネーションに包まれている。
今日はクリスマスイヴ。
暖冬の影響か、初雪がちらついた先週以降いまだに雪は降っていない。今日も明日も快晴だと天気予報が告げてたので、今年はホワイトクリスマスにならなそうだな、なんて思いながらゆめこは街を歩いていた。
遡ることこ30分前。
ゆめこは丸井に呼び出されていた。
「学校近くのテニーズ来れる?」
ピコン、という機械音と共にそんなお誘いが届いた。
出不精のゆめこが返事に悩んでいる間にも、
「てか来て」
「人数足りない」
「なる早で」
と連投でメッセージが続いて、うっかり全て既読してしまったゆめこはしょうがない、行くか。と重い腰をあげたのだった。
あれこれ聞くのも面倒で「OK」といううさいぬスタンプだけ返しておいた。そうして身支度を済ませ家を出ようとしたところで、「ボードゲーム」という単語のみのメッセージが来て同時に様々なボードゲームがテーブルに並べられた写真が送られてきた。
つまりあれか。ボードゲームやるための人数合わせか。とゆめこは全て察して家を出た。
最寄駅から江ノ電に乗り込み、そこからいつものバスに乗り換え、最後に徒歩で指定されたファミレスへ向かう。
せっかく冬休みに入ったのにまるで通学してるみたいだな、とゆめこは思った。立海大附属中学校は先週から冬休みに入っていた。
何度か来たことがあるファミレスのドアを開け、店員さんに待ち合わせですと告げるとゆめこは店内をきょろきょろ見渡した。
「ゆめこ!こっちこっち」
名前を呼ばれ振り返ると、そこには見慣れた芥子色ジャージを来た丸井、ジャッカル、赤也の3人が座っていた。丸井は自分の席の隣に置いていた荷物をずらしてゆめこを手招きする。
促されるまま席に着いたゆめこは「部活帰り?」と3人に目配せをした。
「さっき終わったとこだろい」
「クリスマスイヴも部活なんて頑張るね〜」
「ちなみに明日もあるぜ」
ジャッカルの補足にゆめこは「まじか」と笑う。
そして向かいに座っている赤也に
「よっ、補習少年。こんな所で遊んでていいの?」
と声を掛けた。
補習少年という不名誉なあだ名で呼ばれた赤也はムッと唇を尖らせながら「もう終わったっス」と答えた。
「そうなんだ。補習ってそんなもん?」
「昨日と一昨日の2日間だけっスから」
「ふーん。追試はパスしたの?」
「まぁ・・・ギリギリ」
「真田ふくぶちょー先生に感謝だね」
ゆめこがニヤニヤ笑って言うと、赤也は苦虫を噛み潰したような顔をした。おおよそマンツーマンスパルタ勉強会の記憶でも蘇ったのだろう。
蘇らせた張本人は「なんか頼んだ?ドリンクバー?」と既にメニュー選びに思考をシフトしている。
ゆめこはミニチョコサンデーとドリンクバーを注文すると、真っ先にドリンクを取りに行った。
右手にホットの紅茶、左手にカルピスソーダを持って帰ってきた彼女は、座席に戻るや否や「で、なんだっけ?ボードゲームだっけ?」とテーブルの上に視線を移した。
写真にあった通りカードゲームなど数種類のボードゲームが置いてある。3人で持ち寄ったらしい。
「人狼もあるじゃん」
「まぁな。この人数じゃできねーけど」
「そういえば他のみんなは?仁王くんとかさ」
「仁王と柳生は気付いたら居なくなってた。柳達は忙しいんだってよ」
「そっか。じゃあ人狼は無理だね」
ゆめこと丸井がそんな会話をしていると、赤也がボードゲームの山から一つの箱を取り出した。ベストアクトと書かれている。
「これとかどうっスか?」
「私それ知ってる。よくテレビでやってるよね」
「姉貴の借りてきたんスよ」
「あ!俺これがいい」
「それは何?」
「あだ名つけてくやつだろい」
丸井が持っていたのはナンジャモンジャというゲームだった。パッケージにキモ可愛いキャラクターが描かれている。
それから次々とあれがいいこれがいいと意見が飛び交いなかなかまとまらなかったので、結局ジャンケンで勝った人が選んだものからやっていくことになった。
ボードゲームに熱中することニ時間。
すっかり頼んだ料理も食べ終わり、ドリンクバーだけで間を持たせていた4人だったが、
「はー、ちょっと休憩しよぜい」
という丸井の声でゲームは一旦中断となった。
かなり盛り上がったため4人は既に笑い疲れしていた。
「クリスマスイヴにボードゲームなんて、全然ロマンチックじゃねぇな」
出しっぱなしにしていたカードをしまいながら、ジャッカルは現状を顧みてそう言った。「なに今さら?」と同じくカードを片付けながらゆめこがきゃっきゃと笑う。
「俺ら明日も練習っスもんね」
「あはは、頑張れ頑張れー」
他人事のようにエールを送るゆめこに、丸井はすかさず「明日どーすんの?」と尋ねた。
「寿三郎さんと会うよ」
「まだ付き合ってんのかよ」
「はは、何その言い方」
「てか早く別れろい」
「いや、直球だな!」
「丸井先輩、開き直り過ぎっス」
ゆめこの答えにさぞ微妙な空気になるかと思いきや、ずけずけとした物言いをする丸井にジャッカルと赤也はたまらずツッコんだ。
ちなみに丸井の隠す気のないゆめこへの好きです矢印にはさすがの赤也も気付いたようで、彼も丸井の気持ちは知っていた。一時期は気持ちを隠したり、別に彼女を作ってみたりと迷走してきた丸井だったが、結局はゆめこのことを諦めることはできなかったのだ。
別れろ、なんて言われたゆめこは「やーだよー」とおちゃらけながら笑った。
「プレゼントとか交換すんの?」
「そういえば用意してないや。え、用意するのマストかな?」
「まぁ、恋人同士ならするんじゃね?」
「まじか。何がいいかな」
「俺だったら、最新のゲーム機が嬉しいっス」
「ごめん1ミリも参考になんない」
丸井との会話に割って入ってきた赤也をぴしゃりとぶった斬り、ゆめこは「ゆめのゆめこが失念してた確率100%だわー」とどこぞの幼馴染データマンの真似をした。
「うちの参謀イジんなよ」と丸井は言ったがその口元はニヤついている。
「ゆめこ先輩って怖いもの知らずっスね」
「いやいや、さすがの私も真田くんはまだイジったことないよ?」
「まだってなんだよ。こえーよ、やんなよ?」
まるで今後イジるかもしれません、と言わんばかりのゆめこに、ジャッカルは青ざめながら念を押した。
「俺ちょっとドリンク取ってきますね!」
「あ、じゃあ私のもお願い。カフェラテで」
「俺メロンソーダ」
「相変わらず人づかい荒いっスね。ジャッカル先輩も手伝ってくださいよ〜」
「俺もかよ」
ゆめこと丸井にリクエストを押し付けられ、赤也はぶつくさ文句を言いながら立ち上がる。
むしろ二人は、早く誰かドリンクバー取りに行かないかな?などと人任せに待機していたのだが赤也はまったく気付いていない。格好の餌食である。
赤也とジャッカルがいなくなり、ゆめこは「ブン太くんは明日部活の後どうするの?」と口を開いた。丸井は「うーん」だの「そうだなー」など考える素振りをした後、
「ゆめこが一緒に過ごしてくれてもいいんだぜ」
と清々しいまでの笑顔をゆめこに向けた。
「もう、ブン太っくんってば」
「あーあ、毛利先輩と付き合ってなきゃ、夕方から会おうってまじで誘うのになー」
そう言って後頭部で手を組んで天井を仰ぐ丸井。
相も変わらずどストレートな感情表現にゆめこは思わず苦笑を浮かべた。2回もフラれた相手に対し別れろだの付き合ってなきゃだの、丸井だから許されるような台詞の応酬だ。
ゆめこはちらりと丸井を盗み見た。
改めて見ると、やはりお顔がよろしい。
これでフレンドリーでテニスもうまくて料理もできるって、完璧男子では?とゆめこはつくづく思い知らされる。
そんな彼がどうしてここまで自分を想ってくれるのだろうか?ふと疑問が頭を過ぎった。
「ブン太くんってさ、私のどこが好きなの?」
真っ直ぐな瞳で聞いてくるゆめこに、丸井は目をぱちくりさせた。
確かに「好きだ」と伝えたことはあるが、その理由までは話したことがないかもしれない。
「そりゃたくさんあるだろい」
「たくさん?」
「まずはかわいいところだろい?それからよく笑うところも好き。明るくて、裏表が無くて、あ、あと声もかわいいし、良い匂いがするし、それから・・・」
「待って!もういい、もういいです」
指折り数えながら淀みなく話す丸井にゆめこはたまらず待ったをかけた。途中で中断された丸井は「なんだよ」と不満そうに言ったが、ゆめこの顔が真っ赤になってるのを見てきょとんと真顔になった。
「かわいい反応すんなよ。期待すんだろい」
「ご、ごめん。まさかそんなに褒めてもらえると思ってなくて」
「あんま俺の気持ちナメんなよい?」
ばちり、とウインクを決めて不敵に笑う丸井に、ゆめこは両手で頬を抑えた。顔の熱が引きそうにない。
質問をしたのは自分だが面と向かってこんなにも褒めてもらえるとは思いもしなかったのだ。
「恥ずかしい」と照れるゆめこは実に乙女な顔をしていて、丸井はニヤニヤとその様子を観察している。
「なぁ、キスしてもええ?」
「ダメに決まってるよ!」
「仁王ばっかずりーじゃん」
「え、なに?ブン太くんって実は肉食系?」
「いや、違うだろい」
「絶対肉食系だよ。間違いない」
そんな会話を繰り広げていると、赤也とジャッカルがドリンクバーから帰ってきた。
会話の一部が聞こえたのだろうか、
「え?何スカ?肉食うんすか?」
なんて見当外れのことを言う赤也を見てゆめこはなんだかホッとして胸を撫で下ろした。
カフェラテを飲んで落ち着いたところで、
「よし!じゃあ私はこれからクリスマスプレゼント買いに行きます」
とゆめこは意気込んで立ち上がった。
「えー、もう帰んのかよ」
「一緒に選んであげてもいっスよ」
なんて声をかけられたが、ゆめこはスルーした。
「じゃあまた」
いそいそとコートを羽織りジャッカルに必要なお金を託すと、彼女はすたすたと店を出る。
クリスマスはもう明日に迫っているのだ。プレゼントを買うチャンスは今しかない。
何を買うか全く決まっていなかったが、とりあえず店が多いという理由でゆめこは駅前までやってきた。
相手がゆめみや柳なら、好みも把握しているしこんなに悩むこともないのだが。私って意外と寿三郎さんのこと知らないよなー、とゆめこは少し悶々とした。
街を歩いていると、至る所にサンタがいた。ティッシュ配りのお兄さんまでサンタだ。
街路樹はイルミネーションで彩られ、店頭販売でケーキが売られていたりと街がクリスマス一色に染まっている。
「早く決めなきゃ」
街にまで急かされているような気になり、ゆめこは早足になった。男性のしかも彼氏へのプレゼントだなんて一体何を買ったらいいのやら。
寿三郎さん朝弱いから目覚まし時計?
いやスマホがあれば十分か。
セーターはどうだろう?
だめだ、サイズ感が全く分からない。
今流行りのスマートウォッチ?
高過ぎる。
思い浮かんでは却下、を繰り返しゆめこは頭を抱えた。
「思い切って本人に聞いてみようかな」
サプライズ感はないけれどハズレの品を買うよりはましだろう。ゆめこはスマホを開いてメッセージを打った。
しかし打っている途中でひゅうと冷たい風が吹き、ゆめこはぶるると震えた。
マフラー巻いてくれば良かったな、なんて思いながら続きを打とうとしたところで、ゆめこははたと何かに気付いたように指を止めた。
マフラーなんてどうだろう。
学校指定のマフラーをよく忘れているようだし、プレゼントされたものだったら愛着も湧いて忘れないはず。
立海はそこまで校則が厳しくないので、指定のマフラー推奨ではあるが強制という訳ではない。華美な物で無ければ私物でも良しとさてれいる。
超高級ブランドでもない限り値段的にも妥当なので、ゆめこはマフラーを買いに百貨店に足を踏み入れた。
男性のブランドにはそこまで詳しくないが、兄がよく買うブランドくらいはいくつか頭に入っていたので真っ先にそこを目指した。
お兄ちゃんたまには役に立つじゃん。などと大分失礼なことを思いながら、エレベーターに乗り込みメンズフロアで降りる。
女子中学生が一人で買い物に来ているのが珍しいのか、各テナントから好奇の眼差しと「いらっしゃいませー」という言葉を頂戴しつつ、ゆめこは目的のショップへやってきた。
「何かお探しですか?」
「あ、えっと、マフラー探してて」
店内に入るやいなや、感じの良さそうなお兄さんに声を掛けられた。
「お色たくさんございますよ」
「ありがとうございます」
マフラーの売り場に案内され、カタログを手渡される。
パラパラとめくってみると兄の拓哉がモデルをしていてゆめこはうっかりカタログを投げそうになった。
拓哉がここのブランドの服をよく着ているのは知っていたが、まさかモデルまでやっていたとは。
兄の顔を見て固まってしまったゆめこを見て、店員は「ゆめの拓哉さんかっこいいですよね〜、お好きなんですか?」と問いかけたが、ゆめこは無言でぶんぶんと首を横に振った。
売れっ子だから仕方がないが、テレビやCM、街頭ビジョンにポスターと、普通に生活しているだけで邂逅してしまうのでその度にゆめこは心臓に悪いな、と思っていた。
いい加減慣れてもいいはずなのだが、ゆめこはいまだに兄を見かける度動揺していた。
「俺のかわいいゆめこ〜」と迫ってくる兄の幻影が見えてしまうのだ。なんとも嘆かわしいことである。
ちなみに拓哉がゆめこの兄だということは、赤也を除いたいつものメンバーには既に伝えてある。みんな芸能人の家族だからと態度を変えるような人達ではないし、ゆめこにとっては信頼すべき仲間なので、わざわざ内緒にすることでもないと思ったのだ。
ちなみに赤也は口が軽そうという理由でまだ伝えていない。
ゆめこは大きく深呼吸をして気を取り直すと、マフラーに目を向けた。
無難なとこでいくと、グレー、ブラック、ネイビー、キャメルあたりが良いだろうか。グレーとブラックは少し地味過ぎる気がする。
ゆめこは頭の中の毛利に次々とマフラーを当てていった。
「ネイビーかキャメルにします」
「どちらも人気のお色ですよ」
「ちなみにどっちの方が売れてますか?」
「ネイビーですかね〜」
「なるほど」
店員の意見で9割ネイビーに気持ちが傾いた。
「あとここのブランドタグが、ネイビーの方が映えるのでそこも人気の理由ですね」
「ネイビーにします」
ゆめこは流されやすい性格だった。
即決すると、店員はにこりと笑って「承知致しました」と言った。
「彼氏さんへのプレゼントですか?」
「はい、そうです」
「いいですね。こんな可愛らしい彼女さんからプレゼントが貰えるなんて。きっと彼氏さんも喜んでくれますよ」
「あはは、だといいんですけど」
そんな会話をしながらラッピングを待つゆめこ。
毛利と付き合い初めて4ヶ月程が立つが、こうしてプレゼントを送るのは初めてのことだった。
喜んでもらえるかな?似合うかな?と考えるのはとても楽しく、寿三郎さんもこんな気持ちだったのかな?とゆめこは左手首についたブレスレットをそっと撫でた。
「もしかしてそれ、彼からのプレゼントですか?」
「あ、はい」
「いいですね〜、僕も高校生に戻りたいな。なんてね」
めざとくゆめこの仕草に気付いた店員が羨ましそうにそう言った。
待て待て、高校生ってなんだ。
ゆめこは思わず顔を引き攣らせた。"僕も"という言い方をするということは、彼はどうやらゆめこを高校生だと思い込んでいるらしい。
私ってばそんなに老けて見える?やだもう、真田君のことイジれないじゃん。と、ゆめこは店内にある鏡をちらりと盗み見た。
そんなに大人っぽい格好もしてないはず、と今日の服装を確認する。ファーの付いたAラインコートにミニスカート、レースアップのショートブーツ。至って普通の格好だ。
そういえば、最近よく"大人っぽくなった"って色んな人に言われるな。小さい頃から知ってる近所のおばさん、たまに会う親戚、この前は久しぶりに会ったももちゃんにも言われたっけ。とゆめこはここ数ヶ月を振り返る。
兄の拓哉も高校生ながら、ドラマで大学生の役を演じたりしているので、そういう家系なのかも。とゆめこは結論付けた。決して老けている訳ではない、きっとそう。
実際彼女に大人っぽくなったと声を掛けた人達は、綺麗になったね。というニュアンスで言っていたのだが、そんなこと知る由もないゆめこは鏡に映った自分を不安そうに見つめていた。
「お待たせ致しました」
それからラッピングが終わり、ゆめこは商品を受け取った。店員の「ありがとうございましたー!」という言葉を背に浴び店を後にする。
何はともあれプレゼントは無事に用意できた。自分に課せられたミッションを達成出来たような気になり、心なしか足取りが軽くなった気がした。
「ついでに自分の服も買っちゃお」
るんるんと鼻唄をうたい、ゆめこはレディースフロアへと消えていくのだった。
(220627/由氣)→142
成長期なので。
ちなみに立海は指定マフラー以外NGです。捏造。