013
(人は見かけによらないな/桑原)
6月上旬。
早いもので衣替えの季節を迎え、生徒たちの装いも涼しげになった今日この頃。
教室内はいつにも増して騒がしく、あちこちで様々な声が交差していた。
その理由は今生徒たちが手にしている答案用紙にある。ゴールデンウィーク明けに実施された中間考査のテストが返却されたのだ。
先程の授業で英語のテストが返ってきたことにより、これでB組の生徒の全教科のテスト結果が出揃った。
これまでの答案を並べ合計点を数える者や、諦めて開き直る者など各人各様のリアクションが見られる中、皐月ももは「はぁ」と盛大なため息を吐いた。
「なんだ、皐月。ため息なんかついて」
と、そう声を掛けたのは隣の席のジャッカルだった。
ももが落ち込んでる理由など聞かずとも分かったが、なんとなく放っておくことも出来なかったのだ。
案の定ももは「テスト散々だった〜」と苦笑を浮かべると、持っていた答案をくしゃりと手中に収めた。
咄嗟に隠した答案には75点と書かれており、それは決して悪い点数ではなかったが良い点数でもなかった。
ジャッカルは「俺だって似たようなもんだぜ」と自分の答案を見せて笑ったが、ふとある人物が気になってくるりと斜め後ろを向いた。
「ゆめの、お前はどうだったんだ?」
先程からノーリアクションで淡々と教科書を片付けているゆめこに、ジャッカルはからかい半分のつもりで声をかけた。
それに合わせるようにもももゆめこの方を見た。
話しかけられたゆめこは、揃って自分を見つめてくる二人に目をぱちくりさせると「どうって、なにが?」と首を傾げた。
「何って、テストに決まってんだろ」
「あぁ、それか」
「ゆめこちゃんはどうだった?」
身を乗り出して聞いてくる二人に、ゆめこは「こことここ間違えた」と言って自分の答案を差し出した。
右上には96点と書いてあり、ジャッカルとももは一瞬「錯覚か?」とでも言うように手で目を擦ってみせたが、真実と分かった途端「えっ!?」と大きな声をハモらせた。
彼女は決して真面目なタイプでもないし、進んで勉強をしている様子も見受けられなかったので、当然と言えば当然の反応である。
しかし二人のリアクションが不服だったのか、ゆめこは「えー、なに?その反応?」と唇を突き出した。
「いや、あの。意外っていうか」
「ゆめの、お前頭良かったんだな」
「英語得意なの?」
「他のも点数良いのか?」
と、ももとジャッカルに矢継ぎ早に質問され、ゆめこは尖らせていた唇をしまうと、代わりににやりと得意げに笑ってみせた。
「英語が一番得意だけど、他のも大体似たような点数だよ。私、記憶力良いんだ」
「教科書とか一度読むとすぐ覚えちゃうし、あとは勘かな」とけろりとして言うゆめこに、二人は「まじか」と目を点にした。
父親の仕事に合わせ幼い頃はよく海外について行っていたゆめこにとって、元々英語は身近なものであった。
しかし、それを差し引いてもゆめこの記憶力はすごかった。
現に本人の言う通り、英語以外の教科も似たような点数である。
ゆめこは昔から一度見たものをすぐに覚えるという才が秀でていた。
もちろん本人の覚えようという意思が無ければそれは発揮されないが、あの柳が「便利な能力だな」と羨むほどであった。
もっといろんな使い道がありそうなものだが、ゆめこ自身は "テスト勉強が楽ちん" くらいにしか思っていないのが残念なところである。
ゆめこの意外な一面を知ったももとジャッカルは
「人は見かけによらないな」
「すごいよ、ゆめこちゃん!」
と興奮したように騒ぎ始めた。
「順位もすごいんじゃない?」
「これなら10位以内には入ってるだろ」
「いや、そこは避けたつもり」
「は?」
「あ、いやなんでもない」
そう言ってごにょごにょと言葉を濁すゆめこ。
その後「ねぇねぇ、昼休みには順位貼り出されるし、一緒に見に行こうよ」と、ももが提案したことにより、昼休みになったら三人で順位を見に行くことになった。
時は過ぎ昼休み。
廊下に貼り出されたテスト結果を見に行くと、15位のところにゆめこの名前があった。
「惜しい!あと少しだったか」
「でもこの調子なら次は絶対10位以内だよ!」
と、10位以内に入っていなかったことを二人はなぜか自分のことのように悔しがっている。
そんな二人に反し、ゆめこはよしよしと一人ほくそ笑んでいた。
すると、そこへ
「見たぞ、順位。また手を抜いたな?」
と後ろから声をかけられ、ゆめこはバッと勢いよく振り返った。
そこには幼馴染の柳がいて、ゆめこは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに
「えー、そんなことないよ」
と言うと、いつも通りへらりと笑ってみせた。
そんなゆめこを見て、柳はフッと鼻で笑う。
10位以内に入ると、成績優秀者として論文大会や高等部との合同講義などに駆り出されることもある。
そのことを事前に知っていたゆめこは、うまくそれを避けるように点数を調整したのだが、柳は全てお見通しのようだった。
相変わらず涼しい顔で佇む幼馴染を見て、やっぱりバレてる?などとゆめこが思っていると、「知り合いか?」と柳の後ろにいた人物がひょっこりと顔を出した。
どうやら柳はその人物と一緒に順位を見に来ていたようだった。
ゆめこはすぐに、
「こんにちは、私蓮二の幼馴染のゆめのです」
とぺこりと頭を下げて挨拶をした。
そんな彼女を見て柳はゆめこが勘違いしている確率100%だな、などと心の中で推測していたが、
「こちらの先輩は?」
と案の定そう尋ねられ、柳は柄にもなくブッと噴き出してしまった。
肩を震わせたまま柳が「クラスメイトの真田弦一郎だ」と紹介すると、ゆめこは目を見開いて真田を二度見した。
その反応に真田は「む」とわずかに眉根を寄せる。
強い眼力で見下ろされ、ゆめこは内心ひやひやしながら「そ、そうなんだ」と引きつった笑顔を見せた。
堅苦しい雰囲気を纏った真田に、
私この手の人に好かれないんだよなぁ、こわ。
などとゆめこが思っていると、柳はそんな彼女の心の内を読んだのか、
「では、そろそろ失礼する」
と言って真田を連れて去っていった。
去り際、柳はゆめこの後ろにいたジャッカルをちらりと横目で見ていた。
二人が去ったことを確認するやいなや、
「柳と知り合いなのか?」
とジャッカルは驚いたように口を開いた。
「幼馴染なの」
「まじかよ」
ゆめこの返答を聞いて、今日は驚かされてばかりだな、とジャッカルは思った。
能天気なゆめこといつもポーカーフェイスでどこか淡白な印象のある柳はとてもアンバランスな感じがしたのだ。
「あ、そうそう。入学式の日にさ、ジャッカルくんに声かけたのも蓮二に事前に教えてもらったからなんだよ」
「この辺でテニスやってる子のデータは大体把握してるみたいでさ」と補足するゆめこに、とある筋の情報ってそれだったのか。と、ジャッカルは長年の謎が解けたような気分になった。
柳はデータテニスを武器に既にレギュラーとして活躍しているので、彼の持つ情報量の凄まじさは同じテニス部員であるジャッカルも知っていた。
「あいつすげーんだよ。一年なのにレギュラーになって」
「らしいね〜、でも他に二人いるんでしょ?一年生でレギュラーになったの」
「あぁ。幸村と、あと今会っただろ?真田」
「え!彼もそうなの?」
てっきり見た目のイメージだけで文化部の人かと思っていたゆめこは
「へー、人は見かけによらないね」
としみじみとぼやいたが、すぐにジャッカルに「それ、お前が言うか?」とツッコまれていた。
(180328/由氣)
まさかのチート風夢主1ちゃん。言うまでもなくフラグ。
→15(夢主1&夢主2共通のおはなし)
後半、夢主2と青学陣の絡みがありますが、ご一読いただけますと設定把握にもなるかと思います。別にいいや、な方は適宜スクロールで。