149
(このイケメンはどちら様?!/白石)

淡々と過ぎていく時間が恨めしい。スマホを開いては溜め息を吐く、という行為をゆめこは朝からもう10回以上繰り返していた。
昨夜は待てど暮せど毛利からの連絡は無く、ついに日を跨いで1月4日の朝を迎えてしまった。

ショッキングな出来事に最初の内は役に立たなかった思考回路も、ようやくその機能を取り戻し、ゆめこは一晩じっくり毛利とのことについて考えていた。
しかしなまじっか考え始めてしまったばかりに、その答えは完全に迷宮入りしてしまうこととなる。

急に帰っちゃったこと、怒ってるのかな。それとももう愛想尽かされた?もしかして本気で最後までするつもりだったからがっかりさせてしまった?
色んな可能性を考えて、ゆめこは頭を悩ませた。
何度か自分からメッセージを送ってみようと試みたが、そもそも毛利が今何を思いどう考えているのか検討もつかず、何て切り出していいか分からないまま結局メッセージは送れず仕舞いとなっている。

これはもう待つしかない。寿三郎さん、早く連絡をください。ゆめこは神頼みした。

そんな訳で、今日こそは毛利からの連絡があるかもしれない。と朝から期待してスマホを握り締めていたのだ。

しかし届くのは飲食店やアパレルなどの企業アカウントからのメッセージばかりで、「ええい紛らわしい!」とゆめこは片っ端からブロックしていた。虚し過ぎる。

そうしてもう何度目かも分からない溜め息を吐いたところで、

「ゆめこ?そっちはもう終わったの?」

キッチンにいる母親に話しかけられ、ゆめこはハッとした。先程からスマホばかり気にしている娘に母はちゃんと気付いていた。まったく手が動いていないな、と。

「ごめん、まだ」
「え〜、早くしないとみんな来ちゃうわよ」

料理で手が離せない彼女は、リビングの掃除を娘に一任していたのだ。"早く"と急かされたゆめこは渋々スマホをデニムスカートのポケットにしまい、テーブルの上に散らかったリモコンや書類などに手を伸ばす。

今日は母方の親戚達が我が家にやって来る日だ。去年はおばあちゃんの家、一昨年は大阪の叔父さんの家、と毎年集まる場所を変えているのだが今年はたまたまゆめこの家だった。
正直それどころじゃないんですけど。なんて思いながら、ゆめこはせっせと片付けをしていく。

その時ポケットの中からメッセージの受信音が聞こえてきて、ゆめこは急いでスマホを開いた。行きつけのカフェからのクーポンが届いていた。

「はぁ」

またしても溜め息が漏れた。




掃除が終わり料理も大方完成し始めた頃、ゆめの家にはぞくぞくと親戚達が集まってきていた。

「あら〜、賢造くん元気そうね」
「あっ!お義母さん、どうぞこちらへ!」

祖母がやってくると父はすぐさま飛んでいき部屋の中へと案内する。ちなみに賢造というのはゆめこの父の名だ。小説家としての名前も本名で活動しているので、"ゆめの賢造"と聞いてすぐに彼の作品を思い出す人も世の中には多くいるだろう。

今日集まっているのはみな母方の親戚ということもあり父親は先程からせっせと挨拶をしたり案内をしたりと忙しなく動き回っている。

ゆめこも「大きくなったね」「まぁ美人になっちゃって」など次々と声を掛けられるので、スマホもろくに見れないまま愛想笑いで対応していた。
あんなに悲しいことがあったのに、笑えるもんだな。とゆめこはどこか他人事のように今の自分を俯瞰する。

「おっ、ゆめこ!」

その時名前を呼ばれてゆめこは振り返った。
そこには従兄妹の大介と、それから

「・・・白石くん?」

なぜか白石蔵ノ介が立っていて、ゆめこはぽかんと口を開けた。
「びっくりしたやろ?!なぁ?」大介にバシンと背中を叩かれ、ゆめこはハッとして彼に目線を戻す。

「え、待って。どゆこと?」
「俺が誘ってん。蔵ノ介暇してる言うから、せやったら俺んとこの親戚んちでも行くか?って。我ながらええ仕事しとるわぁ」

なぜか自分に酔いしれるように説明する大介にゆめこは余計に首を傾げる。とりあえず一つだけ分かったことは、

「ごめんね、白石くん。大ちゃん強引だったでしょ?」

隣にいる大介を指差しながらゆめこがそう言うと、白石は困ったように苦笑を浮かべた。大介に誘われた白石は、園ヶ崎家の車に乗ってはるばる大阪からやって来たらしい。

ゆめこもゆめみの親戚達と食事をしたことがあったし、逆にゆめみがゆめの家の親戚の集まりに参加したこともあったので、大ちゃんにとって白石くんって、私で言うゆめみ的な存在なのかな?とゆめこは結論付けた。二人は幼馴染だし、私とゆめみ並に仲が良いのだろう、ゆめこはそんな風に思った。

もちろん、白石の気持ちに勘づいている大介の盛大なお節介なのだが、そんなことはゆめこは知る由もない。

「こちらこそ、部外者がお邪魔してもうて」
「全っ然!むしろ気まずい思いさせてごめんね。まぁうちの親戚はみんなフレンドリーだから大丈夫だと思」
「わ〜〜!ちょ、このイケメンはどちら様?!」

"大丈夫だと思うよ"
そうゆめこが言いかけた台詞は、背後から聞こえてきた黄色い声に見事なまでにかき消された。
言わずもがなミーハーな母であった。大介の親友であり幼馴染で、ゆめことも交流があると聞かされた母は、

「ゆめこともお友達なの?この子ったら隅に置けないわね〜、さすが私の娘!」

とゆめこを肘で小突いた。そのやり取りを見ていた白石は、なるほどこの女性に育てられたゆめこはそりゃ明るい子に育つわな、と納得したような顔になった。

「うちの拓哉と同じくらいイケメンだわ」
「あはは!成留美さん、さすが親バカ!」

すかさず自分の息子を引き合い出す母にそう声を掛けたのは、大介の母である深智子だ。
成留美から見れば兄の嫁。深智子から見れば旦那の妹。そんな関係の二人だったが、歳が近いこともあり二人はとても仲良しだった。11月に大阪観光に行った時も互いの旦那そっちのけでずっと二人で会話に花を咲かせていた。

そんな母達の会話を聞いていた白石が「拓哉・・・って」と呟いたので、ゆめこは「私のお兄ちゃんのことだよ」と補足した。仕事が忙しく今日は来ていないことを説明すると、白石は驚いた顔で大介を見た。

「嘘やなかったんか」
「はっはっはっ、せやから言うたやろ!」

目を丸くする白石に、大介は威張ったようにそう言った。話の筋が見えないゆめこが「なになに?」と割って入ると、白石はばつの悪そうな顔で「実はな、」と口を開いた。

ゆめこと違い目立ちたがり屋の大介は、拓哉が芸能人として有名になると、

「ゆめの拓哉っておるやろ?あれ俺の従兄弟やねん!」

と所構わず触れ回っていたそうなのだが、みな彼がお調子者だと言うことを理解しているので、「また大介がふざけてなんか言ってるよ」と狼少年のような扱いで軽くあしらわれてきたらしい。
親友である白石も、大介にしてはしょうもない嘘だな、くらいに思っていた。確かにゆめこの苗字も"ゆめの"だと知った時は「あれ?まさか・・・?」と思うこともあったが、いまいち決定打に欠けて信じきれていなかったのだ。
しかし今日で彼の言っていたことが真実だと証明された。

「あはは!大ちゃん信用無さ過ぎ!」
「うるせっ」

お腹を抱えて笑うゆめこに、大介は軽くチョップを食らわす。

「私に聞いてくれれば良かったのに〜」

ゆめことはずっとメッセージのやり取りをしているのでいくらでも確かめる機会はあったはず。そのことに気付いたゆめこが指摘すると、「いや、いきなり聞くんも微妙やな思って」と白石は気まずそうに頬を掻いた。




「なぁなぁ、ゆめこの部屋行かへん?」

あれから親戚一同が集まり、美味しい料理に美味しいお酒と大人達が大いに盛り上がっているところ、大介はゆめこと白石にしか聞こえない声でそう言った。

それぞれが自由に話して盛り上がっている雰囲気なので、誰も子供達の動向は気にしていない。
酔っ払いのウザ絡みも、何度目かも分からない「大きくなったねぇ」もそろそろ面倒臭いなと思っていたゆめこは「いいよ」と二つ返事をした。

「ゆめこの部屋テレビあったやろ?」
「あるある、なんか見る?」
「昼間やしおもろいの無さそやけどなぁ」
「まだギリギリ正月番組とかやってそうじゃない?」

そんな会話をしながら当たり前のように階段を登っていく二人の後ろを、白石は何とも言えない顔でついていく。
好きな女の子の家への初訪問でただでさえ緊張しているのに、まさか部屋にまで入ることになるとは。
ゆめこが普段どんな部屋で過ごしているのか見てみたい気持ちはあるが、同時にプライベートを覗き見するようでどうにも気が咎める。

しかし自分だけ一階のリビングに残るのもそれはそれで身の置き場が無いので、白石は意を決してゆめこの部屋に足を踏み入れた。
部屋に入った瞬間、ふわりとゆめこの香りが鼻を掠める。
きちんと整理されたデスク、女の子らしい小物の数々、見慣れない化粧品や香水。姉の部屋にも久しく入っていなかった白石にとって、そこはもう異次元のような空間だった。
しかしそう思っているのは白石だけのようで、ずかずかと部屋の奥まで入っていった大介は近くにあったぬいぐるみを手に取った。

「またこのアヒル増えとるやん」
「デイジーちゃんです。この前ゆめみとネズミー行った時買ったの」

"アヒル"などと表現され、ゆめこはむっと唇を尖らせながら説明する。

「あっ、白石くんも座って。狭い部屋だけど」

思い出したようにゆめこに声を掛けられ、白石はハッ我に返って「おおきに」と微笑んだ。
ゆめこに渡されたクッションにお尻を預け、白石は気付かれない程度に視線を左右に動かす。すると、ベッドと机の間に薄ピンク色の大きな筒のような物を見つけて白石はピンと来た。

「ゆめこちゃん、あれってもしかして」
「そうそうヨガマット!ついに買ったんだよ〜」

あれは去年の春くらいだったか、白石がヨガ教室に通い始めたのをきっかけに、彼はメッセージのやり取りをする中でゆめこにもヨガの素晴らしさを布教していた。
最初は「健康的だね」くらいのリアクションだったゆめこも、もう半年以上彼がヨガにハマり続けているのを見て「そんなに良いの?ヨガ」と気になりだし、「美容にもええで」なんて言われ結果まんまとヨガを始める気になったのだ。
しばらくは床やベッドの上でなんとなくやっていたゆめこだったが、そうなると体のあちこちが痛かったりバランスが取れなかったりとうまくいかなかったので、この度ついにヨガマットを購入したのだった。

自分の勧めたものを律儀に続けてくれているゆめこがかわいいな、と白石は思った。

「白石くんに比べたらまだまだ初心者だけどね。出来ないポーズとかまだたくさんあるの」
「そうなん?」
「バッタのポーズとかさ、舟のポーズとか難しくない?」
「ヨガは柔軟性だけやなく、ある程度の筋肉も必要やからなぁ」
「そうなんだぁ」

白石の話に興味深そうに頷くゆめこ。
そんな二人の姿を客観的見て、大介はにやりと口の端を吊り上げていた。

こだわりが強い白石と流されやすいゆめこ。二人は相性も良さそうだし、ビジュアル的にもお似合いだ。ゆめこに彼氏がいることは大介も知っていたが、「だから何やねん!押して押して押しまくらんかい!恋は戦争や!」くらいの気持ちで彼は白石を応援していた。

大介はよし、と意気込むと

「俺飲み物買うてくるわ」

と言って立ち上がった。

「え?それなら私が取ってくるよ」
「いや、どうしても飲みたいもんがあんねん」
「なに?」
「炭酸系のスカッとするやつ」
「三ツ矢サイダーなら冷蔵庫に入ってたよ」
「あー、やっぱりフルーツ系がええな」
「ウェルチのぶどう味ならたしかあったような・・・」
「いや!やっぱりエナジー系や!」
「・・・」

何なんだ一体。飲みたい物がころころ変わる従兄妹を不審に思いつつも、ゆめこは冷蔵庫の中身を思い出しながらさすがにエナジー系は無かったな、と沈黙する。
するとなぜか「よっしゃ」とガッツポーズをした大介は「ほな行ってくるわ」と爽やかに右手を上げて部屋を出ていった。
大介の考えてることが分かった白石は、「ほんま勘弁してや」と密かに頭を抱える。

「我が従兄妹ながら変な人だわ、大ちゃんって」

何も気付いていないゆめこはぼそりとそう呟いた。

そうして二人になってしまった密室で、白石はこの状況でどうしろと?とちらりとゆめこを盗み見た。ゆめこに会うのは四天宝寺の文化祭以来なので1ヶ月半ぶりだった。そんなに間が空いた訳でも無いが、ゆめこの姿を見た時は嬉しかったしやっぱり可愛いなとも思った。
人の彼女だと言うことは重々承知しているが、この少女に恋をしてしまっている事実はどうにも曲げられそうにない。大介が出て行ったドアを見つめているゆめこの横顔を見ながら、白石はそんなことを考えていた。

「白石くんってもしかしていつもこんな風に大ちゃんに振り回されてる?」

急にゆめこが振り返り、白石はどきりとした。
努めて平然を装い「まぁ、お互い様やから」と言うと、ゆめこはしみじみと「白石くんって心広いんだね」と仏のような顔で言った。お互い様と言うのは嘘ではないが、ゆめこには白石の謙虚なフォローに聞こえたようだった。

「そういえばハラテツさんに聞いたんやけど・・・、この前大丈夫やった?」

白石は思い出したようにゆめこに尋ねた。しかし彼が何のことを言っているか分からず、ゆめこは「なにが?」ときょとんとして首を傾げた。

「年越しの時ゆめこちゃんにメッセージ送ったら毛利さんにえらいチクチク言われたって言うとって」
「ええっ、そうなの?」
「あれ?知らんかった」
「うん」

毛利に言われた通りゆめこが原に返事をすることは無かったが、あの後二人でそんなやり取りをしていたとは。ゆめこは初耳だった。

「人の彼女にちょっかいかけるのはやめんせーね」などと元旦早々わざわざ電話がかかってきたらしい。「あいつほんまケチくさいわ」という原の愚痴を聞き、夏の全国大会の時ゆめこと二人で話していたらしっかり牽制された経験のある白石は、心の内では原に同意していた。

「俺がグループライン作ったりしたから・・・」
「そんなことないよ」
「ゆめこちゃんは怒られたりしてへん?」
「うん、大丈夫」

ゆめこの返事を聞いて白石はホッとした顔をした。しかしそれと同時に少しだけがっかりもした。ゆめこが悲しむのは嫌だが、二人が順調なのもそれはそれで複雑だったのだ。
「相変わらず仲良さそやな」と白石が声を掛けるとゆめこは「うん」と俯いたまま返事をした。その態度に少し違和感を覚え、白石は「ゆめこちゃん?」と彼女の顔を覗き込む。その瞬間、白石はぎょっとした。ゆめこは涙目になっていた。

驚いた白石の顔が視界に入り、ゆめこは慌てて笑顔作ると「ゴミ入っちゃったみたい」と取り繕った。しかし白石が心配そうに眉尻を下げたことで、彼女は諦めたように「・・・ごめん、うそ」と呟いた。
今この瞬間まで我慢していたが、白石の口から毛利の話が出たことで感情の蓋がぱかりと開いてしまったのだ。普段通りにしていても、ゆめこは頭の片隅でずっと毛利のことを考えていた。

「何かあったん?」
「うん、ちょっとね。ケンカしちゃったの」
「・・・そうなんや」
「嫌われちゃったかもしれなくて」

ゆめこがぼんやりとした顔でそう言うと、白石は「えっ」と驚きの声を漏らした。原にわざわざ文句を言ってくる程ゆめこに執着してる毛利が、彼女を嫌うことなんてあるのだろうか。白石は口元に手を当て考え込む。
そんな彼の様子を見たゆめこは白石が困っていると思い込んだようで、はたとして明るい顔を作った。

「ごめんね、なんか暗い話しちゃって。忘れて」

久しぶりに会ったのにいきなり相談事を持ち込まれても迷惑だろう、そう思ったゆめこはにこりと笑ってそう言った。
しかし白石は返事をする代わりにゆめこの左手に自分の右手を重ねた。突然のことにゆめこは目を大きくして白石を見上げる。

「俺で良かったら話聞かせてや」

彼は穏やかな表情でそう言った。形の良い二重瞼の瞳がじっと自分を見つめていて、ゆめこは金縛りにあったかのように動けなくなった。一度は話す事を躊躇ったが、この目を前にしたらなぜだか正直に話さなければならないような気がしてくる。気付いた時には、ゆめこはこくりと小さく首を縦に振っていた。

「あの、その前に、手・・・」

ゆめこが言いにくそうに指摘すると、白石は「この方が落ち着くやろ?」と小さい子供に言い聞かせるようにゆめこの顔を覗き込んだ。これが恋人同士であったら間違いなくキスをしているであろう近い距離に、ゆめこはじんわりと頬を赤らめて「でも」と言い淀む。

初めて見るゆめこの恥じらう顔。
困ったような瞳も、何か言いたそうに開かれた唇も、全てが魅惑的で、白石はこのまま吸い込まれてしまいそうだな、と思った。
体中にぞくぞくとした本能的なざわめきが走るのを感じて、ごくりと喉が鳴る。

違う。今は彼女の悩みを聞いてあげないと。
彼の中の理性がそう告げた。

暴走してしまいそうな本能に手綱を掛け、しっかりと引き上げると、白石は大きく息を吸い込んで気を取り直した。

「毛利さんに嫌われてもうたってなんでそう思うん?」

白石の質問に、ゆめこの意識が左手から逸れる。
ゆめこは少し考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。

「私ね、大事な男友達がいるの」

ゆめこは仁王のことを思い浮かべていた。

「でも寿三郎さんは私が彼と仲良くするのを良く思ってなくてさ。昨日そのことで怒らせちゃって、もう愛想尽かされちゃったかもしれないんだよね」
「そうなんや。まぁ毛利さんの気持ちも分からなくはないけど・・・、その男友達と仲良くせぇへんってのは難しいん?」
「うん。だって親友だもん」

きっぱりとそう答えるゆめこに、白石は意外そうな顔をした。柔軟な性格のゆめこが、強い意志でわざわざ争いの火種となりかねない選択をするなんて。平和主義そうな彼女にしては珍しいな、と白石は思った。

「彼にはたくさん恩もあるんだ。私が困ってる時駆けつけてくれたり、励ましてくれたり・・・。それに一緒に居ると落ち着くし、楽しいの」
「ゆめこちゃん、それって・・・」

「そいつのこと好きなんちゃう?」うっかり言いそうになって、白石は慌てて口を噤む。言ってしまったら、絶妙に保たれている均衡が崩れてしまいそうな、そんな気がしたのだ。
代わりに、「その男友達がゆめこちゃんのこと好きになってもうたらどないするん?」と質問すると、ゆめこはきょとんとして目をぱちくりさせた後「あはは」と笑い出した。

「実を言うとね、もしかしてそうなのかも?って思う時期もあったんだけど、どうやら私の勘違いだったみたいで。だから、寿三郎さんが心配するようなことは何も無いんだよ」

やけに自信満々に説明するゆめこに、白石は「そっか」と力無く相槌を打つ。その男友達とやらに直接聞いてみないと真実は闇の中だな、と白石は思った。

「はー、どうやったら仲直りできるんだろ」
「メッセージ送ってみたん?」
「ううん、勇気ない」
「ははっ、ゆめこちゃんでもそう思うことあるんやな」
「白石くーん?それどういう意味?」

心外だ、とゆめこはじっとりとした目で白石を見つめる。「気にしなそうやのに」なんてまるで神経図太そうですね、と言わんばかりの白石の言葉に、ゆめこは右手でぽかぽかと白石の胸元めがけて猫パンチをお見舞いしてみせた。
本当は両手を使いたかったが、左手は既に白石の右手が重なっているので無理だった。

白石は「ははっ」と楽しそうに声を出して笑うと、「こら」と幼子を叱るような口調でゆめこの右手首を捕まえた。
両手の自由が無くなり、なす術が無くなったゆめこは仕方がなくむぅと頬っぺたを膨らませる。

「かわええなぁ、ゆめこちゃん」

にやりと意地悪な笑みを浮かべてそんなことを言う白石に、ゆめこの頬がうっすらとピンク色に染まっていく。からかわれているだけだと分かっていても、"かわいい"などと褒められたゆめこはなんだか気恥ずかしくなってしまったのだ。

「白石くん、恥ずかしいよ」
自分の言葉に反応して照れているゆめこがとてつもなく可愛らしい。

きっと恋人同士になったらもっと色んな表情を見せてくれるんだろうな、と白石の想像は膨らんだ。
抱きしめてキスをして、恥ずかしそうに自分を見上げるゆめこが「白石くん、好き」とその桜色の唇を動かして。そんな情景がぶわっと頭の中に広がり白石の胸はきゅんと高鳴った。

「おーい、仲良くやってるかー?」

その時。
ガチャリとドアが開いて大介の明るい声が部屋中に響いた。
ゆめこと白石が驚いて振り返ると、彼はさらに驚いた顔で固まっていた。
やけに近い距離で白石がゆめこの両手を抑えている。心なしかゆめこの頬も赤らんでいる気がして、

「・・・お邪魔しました〜」

と大介は再び部屋を出て行こうと踵を返した。

「ちょ、大ちゃん待ってや!」
「おかえり大ちゃん!」

しかし二人に全力で引き留められ、大介は引き摺り込まれるように部屋の中へと戻された。
「なんやなんや、キスでもしたか!」ずけずけとそんなことを言う大介に、白石は「してへんわ!」と珍しく大声を上げた。





(220716/由氣)→151

蔵ノ介、謙也、大介は四天宝寺で有名な仲良し3人組です(という設定!)





未完成のエトワールtopへ

hangloose