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(キミがあまりに優しいから/幸村)

『今回の江ノ島は、ゆめみと2人きりで行きたいんだ』

ゆめみと幸村はタクシーの後部座席に乗って、湘南の海を見つめながら、幸村の言葉を思い出していた。

1月の第3土曜日。
幸村の2回目の外出の日だった。
前回は1月2日に真田の家でいつもの10人で集まって書初めをした。
今回の江ノ島は幸村に2人で行きたいとはっきり言われたのだった。

幸村が自分と2人きりで出かけたいと思っている。それはとても嬉しくて、なんだか少しくすぐったい、とゆめみは思った。

ゆめみが幸村の顔色を確認するように見つめていると、外を見ていた幸村がそれに気付いてゆめみと視線を合わせる。
そして、にこっと笑って「俺は元気だよ」と言った。
どうして考えてることが分かるのだろうと不思議に思うが、ゆめみもにこっと笑って「良かった、何かあったら言ってね」と返した。

「付き添いなんか不要なくらい元気だよ」

幸村は更ににっこり笑ってそう言った。その言葉は、前の方にも聞こえたようで、助手席に座っていた幸村の担当ナースの天野川華子(かこ)が気まずそうに肩をすくめた。

今回の外出には、担当ナースが1人同伴となったのだった。前回の外出の後に体調を崩したことを理由に幸村の主治医は今回の外出は延期すべきだと主張した。しかし本人及び両親の強い要請と、その後の検査結果が良好だったこともあり、ナース同伴での外出を許可されたのだった。
幸村はそれが気に入らなかったようで、抗議したようだが、却下されたらしい。
ゆめみはそんな経緯を母親から聞いていたこともあり、同伴してくれる天野川には感謝していた。

「華子さんと一緒に行けて嬉しいです」

ゆめみがふんわり笑ってフォローすると、天野川は「ゆめみちゃんありがとう」と小さな声で言った。

「私も本当は2人で行かせてあげたかったんですけど、ごめんなさいね、会議で決まったことですから」

天野川は患者である幸村には敬語で、昔から知っているゆめみには気楽に話す。
天野川が申し訳無さそうにそういうと、幸村は「分かっています」と返事をした。
そう返事をしたものの、俺は納得はしないよと言う表情に、ゆめみは精市も強情だなぁと可愛く思う。
くすくすと笑ってしまったゆめみに、幸村はため息をついて、笑うゆめみを見つめていた。


タクシーは江ノ島の入り口で止まった。
天野川が3時間後にと帰りのタクシーを手配するのを待って、3人で江ノ島神社までの参道に続く道を登っていく。

そこは商店街となっていて、お土産屋や食べ物屋がある楽しい場所だ。
小さい頃から何度も通ったことのある2人であるが、2人で来たのは初めてだし、久しぶりだったので、1つ1つ中を覗き込んでは楽しそうにあれこれ話す。

「うわぁ、なんか久しぶり!とりあえずなんか食べる?」
「フフ、いいね」

いつものメンバーで出かけると丸井がたくさん食べ物を買ってくるので、2人もすっかり食べ歩きが習慣になってしまっていた。

「初めに食べたいのはアレだよね」
「分かるよ」
「「女夫饅頭!」」

息ぴったりで、お饅頭を買った2人。
女夫饅頭とは、鎌倉発祥のご当地グルメだ。白のこしあんと茶の粒あんが夫婦の石を表していると言われている。
幸村は女夫にちなんで茶色を食べたかったが、中身が違うことを知っているゆめみによってどちらも半分にされてしまった。
それぞれの味が楽しめていいが、カップル気分には浸れなかった。
ゆめみは何も気づかずに「美味しい!ゆめこともいつもこうやって半分こにしているんだよ」と機嫌良く言う。
天野川は勤務中だと食べ歩きは断った。

その後はお土産屋さんで小物を見たり、貝殻が埋め込まれた天然木の箸を買ったりした。
ゆめみが一目惚れをして買う!と言ったのだが、幸村も気に入ったふりをして同じ柄の男用を購入した。

「病室でも使おうと思ってね」
「そうね、病院の箸はプラスチックで味気ないものね」
「ゆめみと同じ柄だと思うと食も進みそうだ」
「もー、私が食いしん坊ってこと?」

そういう意味では無かったが、ゆめみが怒ったフリをするが可愛くて、幸村はあははと笑った。
さらに登ってタコせんべいを半分にして食べた。幸村の食べるのが早かったので、ゆめみは半分をさらに半分にして幸村にあげていた。
何が可笑しいのか、ずっと笑っている2人。

楽しそうな2人の後ろを歩く天野川。本当に仲良しなんだなと微笑ましく思った。
天野川はゆめみと幸村がカップルだと勘違いしているため、少し距離を取っていた。
初めて見る幸村の生き生きとした少年のような笑顔に、正直驚いていた。
いつも冷静で淡々と大人の対応をする彼か、失意の中荒れている彼しか見たことが無かったからだ。

「華子さん、食べ歩きはダメでもシーキャンドルは一緒に行けますか?」

少し考えごとをしていると、いつのまにかゆめみが天野川の近くまで来ていた。
幸村は江ノ島エスカーの入り口で待っている。エスカーとは江ノ島最上部まで楽々行けるエスカレーターで、幸村の体調の問題もあるので、エスカーを利用しようとしているようだ。

「ゆめみちゃんたちが行くなら一緒に行くわ、近くにいないとだから」

天野川の回答に、ゆめみは手を合わせて「良かった、ではシーキャンドル付きのチケットにしましょ」と笑った。

江ノ島神社に参拝しながら、3つのエレベーターを上がると、楽々シーキャンドルの入り口に到着した。

「ゆめみ、先に恋人の丘に行こう」

シーキャンドルへ続くサムエル・コッキング苑に行こうとしたゆめみを、幸村が引き止めた。

「恋人の丘に行きたいの?」

ゆめみはその言葉に違和感を覚える。恋人の丘とは江ノ島の更に奥にある丘だ。
丘なので景色は良いかもしれないが、特に幸村が好きそうな花が咲いているわけでもない。
恋人の丘は江ノ島の外れにあるため、ゆめみは行ったことが無かったが、恋人のいるゆめこが行ったことがあり、話を聞いていた。
疑問に思ったのはゆめみだけで、2人を恋人同士だと思っている天野川は普通に受け止めた。

「はやる気持ちは分かりますが、お昼時ですし、先に昼食にしましょう」

ゆめみもちょうど少し休憩したら方がいいかも、と思っていたので同意した。近くにあったイタリアンレストラン、イルキャンティに入った。


ここは観光地江ノ島のレストランらしく、しらす推しだ。

しらすのたっぷり乗ったサラダに、しらすの入ったアヒージョ、しらすも使われたピザ。
特にしらすを頼んだつもりは無かったが、2人の好きな魚介系を選ぶともれなくしらすが乗って来た。

「江ノ島の子ってしらすが好きなのね」

運ばれて来た料理を見て、天野川はそう呟いた。天野川は立海大の学生ではあったが、出身は相模原であった。
ゆめみと幸村は顔を見合わせる。そして、お互いの答えがノーであることを視線で確認して言った。

「いえ、特にそんなことはありません」
「私も好きでも嫌いでもないです」

自分の勘違いだったことに気が付いた天野川は慌てたが、ゆめみが「他に江ノ島っ子ってどんなイメージがあるんですか?」と話を振ったので、ステレオタイプとの違いに話が盛り上がった。

この時、天野川はこの後起きることを微塵も疑っていなかった。

事は天野川が食後にトイレから戻って来た後に起こった。2人とも席にいなかったのだ。景色が有名なので、テラスに景色を見に行ったのかもと店内を探して見たが、見つからない。そして、ついに机の上に置いてあった書き置きを見つけた。

『40分後にここに戻ります、ご迷惑かけます 幸村精市』




幸村とゆめみは手を繋いで、サムエル・コッキング苑の中を早歩きで移動していた。
幸村は本当は走りたかったのだが、ゆめみがそれを許さなかった。

綺麗な庭園を進むと、見えて来た。

見渡す限りのチューリップ!!

ゆめみの口からは「わぁ、可愛い」と感嘆の言葉が漏れる。
2万本の色とりどりのチューリップが出迎えてくれた。

ゆめみのキラキラした瞳を見て、幸村は心のときめきを感じる。

「あんまり目立つところだと見つかっちゃうよね、あの辺に座るのはどうかな?」

ゆめみはメイン通路から少し離れたところに幸村の手を引いて行き、カバンからレジャーシートを出して、座れそうなところにひいた。
2人で座って、風に揺れるチューリップを眺める。

「ゆめみ、止めなかったね」

絶景を前にした幸村の第一声はそれだった。
ゆめみは「ん?」と幸村の瞳を覗き込んで、それから言わんとすることを理解して、ふふと笑った。

「なんか用意周到だったから、精市」

この脱走劇は全て幸村の企みで、ゆめみは先程まで何も知らなかった。それでもすでに作成されたメモを置いて、手を引いた幸村にゆめみは全面的に協力することにしたのだ。

「さっきの恋人の丘もフェイクなんでしょ?」
「フフ、よく気付いたね」
「華子さんにちゃんと謝らないとね、今ごろ恋人の丘に探しに行っちゃってると思うわ」

幸村は肯定したが、半分はフェイクではなく本気だった。もし恋人の丘に行くことになっても、それはそれで良かったのだ。
記念にと言って、自分とゆめみの名前を書いた南京錠をつけようと企んでいた。

ゆめみはその風景をまた右から左へと一通り見た後、幸村を見つめた。
幸村もゆめみの視線を感じてゆめみを見つめる。

ゆめみの表情は穏やかで、優しい。
でもその瞳の中に少しの緊張が混じっていることに幸村は気づいていた。
自分がゆめみに話したいことがあると言うことに気付いて、待ってくれている。

「俺、ずっと言えないでいたことがあって」

幸村は話し出した。

「はっきりさせないといけないとは分かっていたのに、勇気が無くて」

幸村は辛そうにゆめみから目を離して、チューリップを見た。チューリップに勇気をもらって、また話し出す。


「・・・俺はもうテニスは無理だろうと言われているんだ」


その言葉は深刻で、幸村をずっと苦しめて来たものだった。
クリスマスの日に医者から聞いて知ってから、何度も繰り返し、否定してきた。
この世に絶対はない、無理だと言われても、たとえ1%未満の可能性だとしも、諦めたくは無い。

「ゆめみには知られたくなくて、言えなかった、でも」

幸村はついに俯いた。

「キミがあまりに優しいから」

幸村の言葉の語尾は涙声だった。

ゆめみは11月から、ずっと変わらない。
今でも2日に1回は好きな花を携えて訪れて、穏やかな笑顔で励まし続けてくれている。
手先が動くようにとリハビリに良さそうな製作物を用意をしてくれたり、立てるようになって運動系のリハビリが出来るようになってからは筋肉が偏らないように、一緒にメニューを考えてくれたりしていた。

ゆめみは自宅療養になった時言っていた、辛いなら病気のことは自分に話さなくてもいいと。
その言葉に甘えて伝えずに来てしまったけど。
もう限界だと幸村は思っていた。
このまま本当のことを伝えずにゆめみの優しさだけを受け取るのは、良心の呵責に潰れてしまいそうだった。

「黙っていてすまなかった」

ゆめみは俯いた幸村の言葉を聞きながらただ震える幸村を見つめていた。
知っていた。
幸村がテニスを出来るようになる確率が低いことを。でも、ゆめみの善意はただ幸村がテニスに強いからというわけではない。
だから、謝られるのは違和感がある。
しかし、この気持ちをなんて伝えたらいいのか分からなくて、ゆめみは何も言えなかった。

幸村は涙を拭って、やっとゆめみを見た。

「ゆめみ、これ以上キミを縛ることは出来ない、だからもうやめていいんだよ」

はっきり言おうと思ったのに、幸村の言葉は小さかった。

「お見舞いに来なくていいし、リハビリのメニューを考えたり、病気のことを勉強したりしなくていい、優しい言葉をかけてくれなくてもいいんだ」

それもまたやっと聞こえるくらいの小さな声だった。

「精市」

ゆめみはようやく言葉を返した。
ゆめみは幸村の不安に揺れる瞳を覗いていた。その瞳は怯えているように見えた。

「それは精市の気持ち?それとも気持ちとは違う、社会常識とか、そういう何かに囚われているの?」

「俺の気持ちは」

幸村は言葉にしていいか分からなかった。自分の気持ち、それは全て欲だった。
本音を言えば、もちろんずっと側にいてほしい。
黙り込んだ幸村に、ゆめみも頑張って言葉にしようと思った。きっとこの告白は勇気のいるものであったはずだから。

「私の気持ち、聞いてくれる?上手く言葉にできるか分からないから、変な風に聞こえるかも知れないけど、聞いてほしい」

ゆめみの頬がピンクに染まる。
恥ずかしいのだろうと幸村は思った。勇気を出して何かを伝えようとしてくれていることが嬉しかった。
幸村はそっとゆめみの手を握った。

「何を言っても変だとは思わないよ」

ゆめみは頷いて、話し出した。

「私もずっとやりすぎてるかもって思ってた、毎日お見舞いに行ったり、リハビリを考えたりとか、精市は優しいから受け入れてくれているけど、普通じゃないって分かってる、私は精市の親でも兄妹でも、幼馴染でも無いのに」

幸村は純粋に驚いた。ゆめみがそんな風に思っているとは夢にも思わなかったのだ。

「私、ずっと精市のこと考えてるの」

そう言葉にしたら恥ずかしくて、ゆめみは耳まで真っ赤になった。一生懸命に説明する姿に、幸村はただただ言葉を忘れてゆめみを見ていた。

「毎日精市のことを考えてる、頑張ってることを知ってるからかな、力になりたいって思ってる、だから、私のことを思うなら、精市の世話を焼いたりすることを許してほしいの」

すぐにはゆめみの言葉の意味が分からなくて、幸村は一瞬考えた後、伝染するように顔が真っ赤になる。
これって愛の告白よりも甘い気がした。

「ごめん・・・抱きしめてもいいかい?」

可愛すぎて悶える。

「え、体調が悪いの?」

心配するゆめみに、我慢が出来なくて、幸村はゆめみを自分の胸に押し込めた。
柔らかな花の香りが鼻を掠める。小さくて柔らかくて、気持ちがいい。
幸村はゆめみの気持ちを聞いて、クラクラするようだと思った。つまり、俺の好きなゆめみは俺の世話をするのが好きで、やらせてほしいと言ってくれているのだ。
こんな幸せがあるだろうか。

「いや、幸せすぎて」

幸村の言葉に、ゆめみはにっこり笑った。

「良かった、精市が甘えん坊で」

そういう問題ではない気がしたが、これ以上何も言うことはない。

「本当は怖かった、ゆめみにじゃあもうやめるねって言われたら、って」

もうゆめみのいない人生が考えられない。
ゆめみは起き上がって幸村を見て「言わないよ」と笑う。

「ゆめみの許可も得たことだし、これからもゆめみに甘え続けると思うけど、いいかい?」
「うん、私がお世話してあげる、精市こそうざいとか思わないでね」
「思わないよ、絶対」

嬉しいだけだな、と思う。

「これからは病気のことも相談させて欲しい、ゆめみだけには弱さも見せられる」
「うん、ありがとう、何もできないと思うけど私も一緒に悩ませてほしい」

ゆめみの存在が救いだ、と思う。
幸村は話した。これからのこと。
対症療法の薬の効きは安定してきており、改善に向かっていること。
ただ日常生活を送る分には問題が無いが、激しいスポーツを出来るようになるには根本的な治療が必要で、その治療法はまだ確立されていないこと、ただ数%の確率で自然治癒する可能性もあること。
病状が安定して、これ以上の改善が見込めない場合には、退院になる。
そして、それはこのままいけば春ぐらいになる見込みだと幸村はゆめみに伝えた。

「退院したら、学校に来れる?」
「おそらくは可能になると思う」

ゆめみは嬉しそうな顔をしたが、それは確定では無いので、「嬉しい」と言う言葉は飲み込んだ。
それとは別にゆめみはあることを思い出す。

「そうだ、そろそろ学校のみんなに精市が入院していることを伝えてもいいかな?」

幸村はそういえば学校の皆には伝えていなかったな、と思い出す。今でも特に不自由は無いので、このままでもいいかと思ったが、ゆめみは伝えたそうにしているのを察した。

「俺はどっちでもいいかな、ゆめみの意見を聞かせて欲しい」
「私はまずテニス部のメンバーには伝えるべきだと思うの、それから美化委員の庭園管理班、それとクラスメイトかな」
「考えてくれてありがとう、それでいいよ」

あっさりと承諾した幸村に、ゆめみは不思議そうな顔をした。

「いいの?」
「ああ、あとこういう学校のことはゆめみにお願いしてもいいかい?」

「俺は苦手だから」と幸村は微笑む。それはゆめみも考えていたことだったので、嬉しいと思った。

「分かった、精市は治療とリハビリに専念して、私が学校関係の架け橋になるね」
「助かるよ」

ふと幸村は思った。それで大丈夫だろうかと。自慢じゃないが、自分はモテる。ゆめみのことをやっかみで傷付ける人が出ないとも限らない。

「ゆめみ、今後俺のサポートをする時に、俺との関係を問われることが増えると思う」
「え?うん、そうかもね」

すでにどういう関係かと聞かれたことがあるゆめみは、たしかにと思った。
今は仲の良いメンバーしか、毎日のようにお見舞いに行っていることを知らないが、それが広がれば聞かれる頻度も増えるだろう。

「そんな時は、俺の専属マネージャーだと言うのはどうだろうか」
「専属マネージャー?」
「そう言えば、納得してもらえるし、ゆめみが俺との仲介役を買って出ても違和感がないはずだ」

専属マネージャーじゃなんて、少し恥ずかしいが、その説明をすれば皆それ以上は聞いて来ないだろう。
ゆめみは「ありがとう、その役職使わせてもらうね」と笑った。


「ゆめみちゃん、幸村くん、どこにいるのー?」

とその時、天野川の呼び声が聞こえた。
ちょうど話終わったところだったので、ゆめみは出て行こうと立ち上がったが、幸村に手をつかまれたので、また中腰になる。

「こっちだ」

幸村に手を引かれるがまま、ゆめみは草のアーチを通り抜けて行った。
そして、遺構地下室へと降りていった。
狭い窪みのスペースにゆめみを誘導して、その後幸村も隠れた。
上手く逃げ切れたとほっとした。

「精市」

後ろから小さな声が聞こえて振り返ると、すぐ近くにゆめみの顔があってドキッとした。

「なんで逃げたの?まだ話があった?」

そう言われて、特に無いなと幸村は思った。ただゆめみとの時間を終わらせなくないと思っただけだ。

「まだ40分経ってないよ」

幸村が苦し紛れにそういうと、ゆめみはくすくすと笑った。

「もう精市ったら、悪い子ね」

それでも出て行く様子も無く、大人しく小さくなっているゆめみ。こんな狭い場所に2人きりだなんて、変な気持ちになるけど。

「ゆめみも共犯だからね」
「分かってるわ、冒険みたいで楽しいと思ってるだけ」
「俺がナイトでゆめみが姫かい?」
「え、私たち2人とも山賊みたいって思ってた」
「山賊か、フフ、悪役じゃないか」

笑いのツボに入ったようで、笑い出す幸村。ゆめみはこの状況でなんでヒーローなのだろうと思っていた。どう考えてもヒーローは気の毒な華子さんだろう。
でも幸村が可笑そうに笑うから。ゆめみは嬉しくなって、つられて笑った。

ゆめみと幸村が隠れていた遺構地下室は完全な地下室ではなくて、実は上から丸見えであった。天野川はその後すぐに2人を見つけ出した。

平謝りした2人だったが、天野川は困った顔をしただけで、今回の件は病院には内緒にしてくれた。





(220727/小牧)→156

徳川さんHBD

もう手放せないよ、覚悟はいいかい?





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