183
(私も年頃の女の子じゃない?/種ヶ島)
3月の最終日。
帰路につくゆめこの足取りは軽かった。
昨日ハワイから帰国したばかりの彼女は、ゆめみと柳の元へお土産を渡しに行き今はその帰り道だった。ハワイにいる間もグループチャットでやり取りはしていたが、直接顔を見合わせて出来る話もあり彼らは数日ぶりの会話を大いに楽しんだ。
ゆめこがハワイに行っている間、ゆめみもいろいろと大変だったらしい。お爺ちゃんの家で医学のお勉強をしたり、芸能人に誘拐されたり。散々だったらしいがなんだかんだお互い無事で再会出来たので何よりだ。
親友達との充実した時間を思い出しながら、ゆめこは鼻歌交じりで家へと続く角を曲がる。
「ん?」
しかし曲がった所で、ゆめこは思わず足を止めた。
門の前に一台の車が止まっている。
ゆめこはその車に心当たりがあった。兄のマネージャーのものだ。
彼が一人で家に来ることは無いので、あの車には十中八九兄も乗っていることだろう。そう思ったらゆめこはその場から動けなくなった。
仕事があるのでハワイへは同行出来なかった彼だが、今更になって休みでも取れたのだろうか。彼に会うのは年末以来で、ゆめこは少々気まずさを感じていた。
あの日ゆめこは毛利に貰った指輪を見せつけ逃げるように家を出てしまった。その後種ヶ島がうまくフォローしてくれたと聞いていたが、顔を合わせたらきっとまた何か言われてしまう。
さて、どうしたものか。なんてその場に立ち尽くしながら悩んでいると車からマネージャーと拓哉が出てきた。
やっぱりいた!ゆめこはあわわと慌てて、どこかに身を隠そうときょろきょろと辺りを探る。
「ゆめこ?」
しかしそうするより先に拓哉に名前を呼ばれてしまい、ゆめこはぎくりと肩を揺らした。ゆっくりと顔を上げるとそこには兄と、
「・・・修二さん?」
もう一人、見知った顔を見つけてゆめこはぽつりと呟いた。
見つかってしまったからにはしょうがない。ゆめこはいろいろと諦めて3人の元へと歩み寄った。
「まさか男か?」
開口一番。ゆめこがデートにでも行っていたと思ったのだろう、眉根を寄せ不躾な質問をぶつけてくる兄に、ゆめこは「違う。ゆめみ」と端的に答えた。てかもう別れてるし、と喉まで出かかったゆめこだったがそれを話すと余計ややこしくなるので大人しく口を閉じておいた。
目に見えて顔色が良くなった兄を無視して、ゆめこは彼のマネージャーと種ヶ島に向かって「こんにちは」と会釈する。
「久しぶりだねぇ、ゆめこちゃん」
「お久しぶりです。奈良橋さん」
"奈良橋"と言うのはマネージャーである彼の名前だった。デビュー当時から拓哉を担当しているため、ゆめことももう何度も顔を合わせたことがある。物腰が柔らかく、幾度となく拓哉のシスコンという名の暴走を間に入って止めてくれたりもして、ゆめこにとっては信頼できる優しいおじさんだった。
しかし、一つだけ苦手な所がある。
「相変わらずかわいいね」
出た。ゆめこはぴくりと眉を動かした。
決して下心のあるようないやらしい言い方では無い。まるで美術品の値を決めるような真剣な瞳が、じろじろとゆめこの全身を隈なく品定めしている。
「モデル興味ない?」
「ないです」
食い気味で、しかもきっぱりと断るゆめこに奈良橋は「手強いねぇ」と苦笑を浮かべる。たまにこうして顔を合わせたと思うと決まり文句のようにスカウトしてくる。ゆめこはそれが嫌だった。
「でもさ、もったいないよ。うちの事務所に来たら即戦力なのに」
「あははー、ごめんなさい」
わざとらしいくらいの愛想笑いを浮かべるゆめこに奈良橋はしゅんと肩を落とす。
「拓哉からも何か言ってよ」
「俺はゆめこが嫌がることはしない」
キリッとした顔付きで格好つける拓哉。じゃあ今すぐシスコンやめろ、とゆめこは心の中で悪態吐いた。
「じゃあもう行くぞ」
「分かった。時間になったら迎えに来るよ」
奈良橋は拓哉とそう言葉を交わすと、自分だけ車に乗り込みどこかへ行ってしまった。
後にはゆめこ、拓哉、種ヶ島の3人が残される。ゆめこはその場で佇んだまま車を目で追っていたが、拓哉が玄関に向かって歩き出したことでふいと車から視線を逸らした。
「モデルせぇへんの?」
すると後ろから小声で話しかけられ、ゆめこはすぐに振り向いた。にこにこと笑いながら種ヶ島がこちらを見下ろしている。先程の奈良橋との会話の件だと気付いたゆめこは、へにゃりと困ったように笑った。
「私人前に出るの苦手なんです。できればひっそり暮らしたいというか」
「ふーん、せやけどやってみたら結構オモロイで☆社会勉強がてらやってみたらええやん」
「えー、嫌ですよ」
奈良橋同様ぐいぐい勧めてくる種ヶ島に、ゆめこは眉根をきゅっと寄せて拒絶する。彼女には興味のかけらも無いことだった。「それに」とゆめこは続ける。
「モデルだけなんて一生続けていられないし、そのうちドラマだのバラエティだの出させられて、売れなくなってきたらグラビアの仕事回されて終わりですもん」
中二女子とは思えないほどつらつらと出てくる現実味のある言葉に、種ヶ島は驚いたように目を丸くしながら「リアルやな」と呟いた。どうやら彼女もただの毛嫌いでモデルを断っている訳ではなさそうだ。彼女なりにいろいろと考え抜いた上での返事だったのだな、とこの時種ヶ島は悟った。
「おしゃれは好きですけどね。仕事にはしたくないです」
「なるほどなぁ。まぁでも、その辺でアルバイトするよりええ小遣い稼ぎになるで」
最後にダメ押しとばかりに種ヶ島が言うと、ゆめこは「うーん」と小難しい顔をした。中学生のゆめこはアルバイトの必要性が無く、いまいちピンと来なかったようだ。
「二人とも、そんな所じゃ寒いだろ?中入れよ」
玄関を開けながら拓哉が振り向き、二人の会話はそこで途切れた。
それから3人でリビングに足を踏み入れると、キッチンのカウンター越しに成留美は驚いた顔をした。「ゆめこも一緒だったの?」と言った彼女は、3人が同時に入ってきたことが予想外だったようだ。
「門のところでばったり会った〜」
ゆめこがそう言うと「そうだったの」と彼女はすぐに納得したような顔付きになった。そのリアクションに、兄と種ヶ島が来ることは最初から知っていたんだな、とゆめこは思う。その証拠にキッチンのカウンターにはお盆が置いてあり、そこにティーカップとお茶請け用の取り皿が用意されていた。来客の予定が無ければまずそんなことはしないだろう。
ゆめこはぽすっとソファに座り込むと「ところで」と口を開いた。
「最近二人仲良しですね」
そう言って拓哉と種ヶ島を交互に見比べるゆめこ。年末年始も一緒に過ごしていたし、今日も二人で帰ってきたのでゆめこは不思議に思ったのだ。
"仲良し"なんて言われた拓哉と種ヶ島は揃ってきょとんとした顔になった。
「まぁ拓哉さんにはお世話になっとるし。せやけど仲良しなんて言われたら照れてまうなぁ」
ニヤニヤと笑う種ヶ島に、拓哉は「おい修二悪ふざけはよせよ」とうんざりした顔をする。
「今日は挨拶に来たんだろ?」
そう言いながら種ヶ島を肘で小突く拓哉に、ゆめこは「挨拶?」と首を傾げた。
「来月からだろ?居候。だからその前に挨拶したいんだってよ」
「・・・誰が?」
目を丸くするゆめこに、拓哉は「ん」と種ヶ島を顎で指す。その瞬間ぎょっと見開かれたゆめこの目が自分に向けられ、種ヶ島は「ちゃい☆よろしく〜」と彼女に向かってウインクしながら片手を上げた。
「い、いそうろう・・・」
「ん?なんだ?母さん達から聞いてなかったのか?」
唖然とするゆめこを見て、拓哉は少し驚いたようにそう尋ねた。居候の話が決まったのはもう3ヶ月も前のことだったので、てっきりゆめこにも話が通っていると思ったのだ。するとカウンター越しに話を聞いていたのか、母は「あれ?言ってなかったっけ?」とあっけらかんとした顔で話に混ざってきた。
「初耳なんだけど」
「あら、ごめんね。うっかりしてたわ」
「なんでそんな大事なこと黙ってたの?」
「黙ってたんじゃないわよ、本当に忘れてたの」
「えへ」と舌を出す母に、ゆめこは「かわい子ぶらないでくださーい」と抗議する。
「まぁいいじゃない。あ、ゆめこ。そんなことよりお茶淹れるの手伝って」
悪びれる様子もなく平然と頼んでくる母に、ゆめこは「もう」と小さく溜め息を吐いて立ち上がった。しかしその時、「あ」とゆめこは何かを思い出したように声を漏らした。
「もしかして年末うちに来てたのって」
「せやで!居候の話しに来ててん」
「・・・なるほど」
年末に来た時わざわざ父も交えて話をしていたようだったので、ゆめこはあの時から違和感を覚えていた。
そういえば冷蔵庫の中に種ヶ島家から頂いたという貢ぎ物が入っていたこともあったな。点と点が線になり、ゆめこは全てが繋がったような気持ちになった。
しかし謎も残る。
自分の記憶が正しければ、彼は確か東京の学生寮に住んでいて、そこから京都の学校のオンライン授業を受けていると話していた気がする。来月から居候を始めるということは、高校3年生に進級するタイミングということになるだろう。変わらず寮生活をすればいいのでは?とゆめこは思った。
そして思ったことをそのまま本人に聞いてみると、種ヶ島は「あー、それがなぁ」と少し困ったような笑みを浮かべた。
「うっかり寮の更新忘れてもーて。気付いた時には申し込み期限過ぎてるわ部屋は満室だわで散々やってん」
「うわー・・・」
「で、困っとったら」
と、種ヶ島はそこまで言いかけてちらりと拓哉に目配せをした。「俺が声掛けたって訳だ」と拓哉はドヤ顔をする。
「俺の部屋空いてるしな。それにちょうどそろそろ監視役が欲しいと思ってたところだったんだ」
「監視役?なんの?」
「決まってるだろ」
拓哉はそう言うとビシッとゆめこの顔を指差した。「は?」と口を開け呆けるゆめこにはお構いなしに、拓哉は「まぁちょっと遅かったけどな。まさか既に彼氏が出来ていたとは」と一人ぶつぶつと嘆き続けている。
最初はぽかんとしていたゆめこだったが、徐々に状況を理解したのだろう。兄の勝手な主張に腹の底から沸々と不満が込み上げてくる。
「なにそれ、監視役なんていらない。修二さんも迷惑してるでしょ」
「俺はえーよ。居候させて貰えるし、ウィンウィンの関係やな」
「それでいいんですか、修二さん!」
どうにか種ヶ島を仲間に引き入れたいゆめこは、彼の肩に手を置きゆさゆさとその体を揺さぶった。必死の形相である。そこまで本気でゆめこを監視する気が無かった種ヶ島も、ゆめこのリアクションが面白くてついつい悪戯心に火がついてしまう。
「俺の目の黒い内は男遊びさせへんよ〜」
「ご心配いただかなくてもそんなことしませんっ」
てか種ヶ島さんから見た私ってどういう印象?!とただ揶揄われていることに気付いていないゆめこは余計に慌てた。しかしそこで「ゆめこー?まだー?」とキッチンにいる母に催促されてしまい、ゆめこは後ろ髪を引かれる想いでリビングを後にした。まだたくさん言いたいことが残ってるのに。
そんな彼女の様子を種ヶ島は堪え切れず忍び笑いをしながら見送っていた。
「どっちの紅茶がいいかしら」
キッチンに入るなり二つの茶葉を持った母にそう聞かれたゆめこは「どっちでもいいんじゃない」と投げやりに答える。
「もー、何つんけんしてるのよ」
「だって。お兄ちゃんってば勝手なことばっかり言うんだもん」
「まぁそれは今に始まったことじゃないでしょ。諦めなさい」
「えー」
ゆめこはむぅと不貞腐れて唇を突き出した。
「ママはお兄ちゃんに甘いよ」なんてぶつくさ文句を言いながらティーカップを並べるゆめこ。しかし次の瞬間。彼女は何か名案を思いついたのだろう、その顔をぱっと明るく光らせた。
そうだ、ママを味方につければいいんだ。
ゆめこはそんなことを考えていた。
にんまりと口角を上げ、ゆめこはすすすと母の隣に擦り寄るように近付いた。
「ねぇねぇママー?」
「んー?」
「あのさぁ、私も年頃の女の子じゃない?」
「なによ急に」
「家の中に知らない男の人がいるのって微妙だと思わない?」
「もしかして修二くんのこと言ってる?」
「そうそう」
にこにこしながら首を縦に振る娘に、成留美は「うーん」と考える素振りをした後、「思わない」ときっぱりと答えた。
「なんで?!」
「修二くんなら大丈夫でしょ、イケメンの余裕ってやつよ」
「・・・なにそれ」
「それに賑やかになっていいじゃない。私拓哉が家出た時実は少し寂しかったのよね〜」
「息子が二人になったみたいで嬉しいわ」なんて暢気に話す母に、ゆめこはむむむと眉間に皺を寄せる。イケメンに弱い母、意外と手強いな。しかしゆめこにはもう一つ奥の手があった。
「ママはそうだけど、パパはどう思うかなぁ?」
ゆめこの男友達にあれ程うるさい父のことだ。男、しかもちょっとチャラそうな種ヶ島のことをあの父が心から歓迎しているばすがない。大方母親に押し切られたのだろう。ならばゆめこが嫌だと言えば考えを改めてくれるかもしれない、彼女はそんな風に考えていた。
すると、母はパウンドケーキを切る手を止めて「それなんだけど」と振り返った。その瞳は何故かきらきらと輝いていてゆめこは嫌な予感がした。
「すごーく運命を感じる出来事があって」
「いや、もういい。もういいよ」
どうせパパも居候の件賛成してるんでしょ、とゆめこは話の先が読めて諦めたようにそう言い捨てた。しかし母は「聞いてよ〜」と話し続ける。
「前にパパが一人でヨーロッパに行った時、スリに遭ったって言ってたでしょ」
「うん。写真撮るのに夢中になっちゃって鞄ごと盗まれたって言ってたね」
「そう!で、無一文になっちゃったパパを同じ日本人観光客の男性が助けてくれたんだけど、その人がなんと!修二くんのお父さんだったのよ」
「えっ」
「帰国してからも文通してたらしいわ。修二くんの名字と京都っていうのでピンと来て確認したらビンゴだったんだって。これはもう運命としか言いようがないでしょ」
たしかに。口にこそ出さなかったがゆめこはそう思った。
「あの時の恩もあるし、パパもどうにか力になってあげたいって張り切ってるの。まっ、そういう訳だから諦めなさい」
「えー」
「修二くんだって拓哉に言わされてるだけよ、監視なんかしないわ」
「うっ、聞こえてたの?」
娘の考えていることなど母には全てお見通しだったのか。じゃあ今までのやり取りは何だったの?とゆめこはまんまと母の掌の上で泳がされていたことに気付き、じわじわと気恥ずかしさが押し寄せてくる。
「そういう訳だから、これ運んで」
「・・・はーい」
もう何を言っても無駄だろう。ゆめこはそう察して大人しく母の言うことを聞くのだった。
それから4人で雑談をしながら紅茶とパウンドケーキでティータイムを楽しんだ後は、拓哉が種ヶ島に家の中を案内することになった。
リビングを出て行く二人を見送り、ゆめこは母と一緒に食器を片す。しかし皿洗いもすぐに終わり暇になったゆめこは、宿題をすべく2階の自室へと足を進めた。
春休みに入ってすぐハワイへと旅立ったゆめこは春休みの宿題は何一つ手付かずの状態だった。今日も先程までゆめみ達と遊んでいたので状況は変わっていない。あと1週間程休みが残っているとは言え、さすがにやり始めないと後が苦しくなってしまう。
そうして自室のドアノブに手をかけた時だった。
「ゆめこ、ちょっといいか?」
隣の部屋から兄がひょこりと顔を出した。ゆめこの部屋の真隣、壁一枚を隔てたそこは兄である拓哉の自室だった。年に数回しか帰宅しないため普段は空室になっている。
「仕事の電話してくる。修二に案内頼めるか?」
「え、どこまで済んだの?」
「一階は全部終わった。悪いな」
余程急用な電話なのだろう、兄はそれだけ言うと階段を駆け降りて外に電話をしに行ってしまった。
「えっと〜」
どうしよ、とゆめこが迷っていると、次は種ヶ島が同じように隣の部屋から顔を覗かせた。
「ゆめこちゃんが案内してくれるん?」
「と言っても案内する程広くないですけどね」
ゆめこは辺りをぐるりと見回し苦笑した。
とりあえず案内を頼まれたからにはやるしかないか。
「ここがトイレで、こっちが物置きで、その隣が書斎、あそこがパパとママの寝室です。まぁパパはあまり家に居ないですけど」
「で、ここが私の部屋です」ぐるりと2階を一周したゆめこは最終的に自分の部屋の前に戻ってきてそう言った。
本当に一瞬で終わってしまった。こんなんでいいのだろうか。とゆめこが思っていると、種ヶ島は十分満足したのか「おーきに☆」と笑った。
「修二さんは兄の部屋使うんですよね?」
「せやで。ゆめこちゃんとはお隣さんやなぁ」
「そうですね。うるさくしないように気をつけます」
「ははっ、ええよそんなん。気にせんで」
「でもオンライン授業ってことはこの部屋でお勉強するってことですよね」
「まぁせやけど、イヤホンつけるやろし」
それでもやはり気を遣ってしまう。特にゆめみを招いた時はついつい大声で話してしまうので、邪魔にならないように気をつけようとゆめこはひっそり自戒した。
「で?ゆめこちゃんの部屋は見せてくれへんの?」
「いやいや。えっ?見てどうするんですか?」
「拓哉さんに監視頼まれとるからなぁ」
「もう。やましい物は何もありませんよー」
プイッとそっぽを向くゆめこに種ヶ島はくつくつと楽しそうに笑う。その顔をちらりと見て、ゆめこはあることに気付く。
「もしかして修二さん、私の反応見て楽しんでます?」
「ありゃ、バレてもーた?」
「人が悪いですよ」
「ははは、堪忍な。実は京都の実家にゆめこちゃんと同じくらいの歳の妹がおって。ゆめこちゃん見てるとついつい思い出してまうねん」
そう言った種ヶ島は穏やかで優しい表情を浮かべていた。拓哉のようにシスコンという訳ではないし、きっとW適度な距離感Wの良いお兄ちゃんなのだろうな、とゆめこは予想する。
人をからかうのが好きそうという難点はあるが、それ以外は優しくて面倒見が良い人だ。ゆめこも一度相談に乗ってもらったことがあったので、彼にそういう一面があることは知っている。
「修二さんみたいなお兄ちゃんがいたら、妹さんも幸せですね」
「おっ、なんや嬉しいこと言うてくれるやん」
ゆめこの言葉に上機嫌になった種ヶ島は「まぁこれから一緒に住むんやし、俺のこともお兄ちゃんって思ってくれてええよ〜」なんて言いいながらゆめこの頭をぽんぽんと撫でた。「あはは、ありがとうございますお兄ちゃん」とゆめこもそのノリに乗っかり、二人は声を揃えて笑った。
その時ちょうど拓哉が帰ってきて、ゆめこは「じゃあ、また」と二人に声を掛け自室へと消えて行く。
この時のゆめこはまだ、新たな波乱の幕開けが近付いてきていることなど知る由も無かった。
(221102/由氣)
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