026
(まぁ、別にかまへんけど/白石)
「ねぇねぇ、ゆめこはどこ行きたい?」
「私串カツ食べたーい。あとお好み焼き」
「あはは、ゆめこ食べ物のことばっかり」
大阪へ向かう新幹線の中、旅のガイドブックを開きながらわいわいとはしゃいでいる少女が二人。
ゆめことゆめみだ。
ゆめこ達は一冊の本を二人で覗き込みながら、これから訪れる大阪観光の話に花を咲かせていた。
二人が大阪に向かっている理由。
それは立海テニス部が全国大会出場を決めた時に遡る。
テニス部の全国大会は毎年開催地が変わり、今年は大阪で行われることになっている。
期間は4日間。
最初こそ遠いし長いし応援は無理だな、なんて思っていたゆめこ達だったが、「なら最終日だけでも来たらどうだ?」と柳に提案され二人は考えた。
「最終日に来いだなんて、決勝に勝ち進む気満々じゃん」
とゆめこが指摘すると、柳は「当然だ」と言った。
その返事がなんだかとても頼もしく「蓮二がそう言うなら」と二人は最終日だけでも応援に行くことに決めたのだ。
しかし、ただ応援に行くだけでは気が済まない。
今は夏休み期間中だし、せっかく大阪に行くなら前泊して観光もしちゃおう。
ということで、ゆめことゆめみは決勝戦前日の朝早くに大阪行きの新幹線に乗り込んでいた。
昼前には到着予定なので、これなら半日みっちり遊ぶ時間がある。
「向こうに着いたらまず荷物置きに行こっか」
「うん!」
ゆめこの提案に笑顔で相槌を打つゆめみ。
しかし、すぐにハッと顔を上げると、「本当に私までお世話になってよかったの?迷惑じゃない?」と心配そうな顔をゆめこに見せた。
そんなゆめみにゆめこはけらけら笑うと、
「そんな訳ないじゃん。私も伯父さんたちに親友紹介できて嬉しいよ」
と言った。
ゆめこの母の兄、つまりゆめこの伯父にあたる人物が大阪に住んでいるので、今回ゆめこ達は彼の家にお世話になることになった。
普通ならば中学一年生のゆめこ達が、二人だけでお泊まりだなんて許されないところだが、今回はそういう事情もあって、両親達にお許しを貰えたのだ。
ゆめこの伯父は元々神奈川に住んでいたのだが、10年程前に会社の転勤で大阪行きが決まり、今は奥さんと息子と家族三人で大阪で暮らしている。
伯母は子供が息子一人だけということもあり、ゆめこ達がお邪魔したいとお願いしたら「女の子が二人も!ぜひぜひいらっしゃい」と快諾してくれたのだった。
「伯父さん達に会うの久しぶりだなぁ」
「いつぶり?」
「今年のお正月に会ったのが最後だから7ヶ月ぶりくらいかな」
「そっかぁ。私も楽しみだな!ゆめこの従兄とも初めましてだし」
「そうだね。同い年だし、明るいやつだからすぐ仲良くなれると思うよ」
と話しながら、二人は再びガイドブックに目を向けた。
新横浜駅を出発して2時間ちょっとで、二人を乗せた新幹線は新大阪駅に到着した。
伯母が車で迎えに来てくれると言っていたので待ち合わせの場所に行ってみると、既に到着していた伯母がゆめこ達を見つけるなり「こっちこっちー!」と手を振った。
「深智子さん、お久しぶりです。二日間よろしくお願いします」
彼女の元に行くと、ゆめこはそう言って頭を下げた。
深智子というのは伯母の名前だ。
深智子はゆめこの顔をまじまじと見つめるや否や、ぱぁっと表情を輝かせる。
「やだー、ゆめこちゃん!ちょっと見ない内にかわいくなっちゃって!こちらが親友のゆめみちゃん?」
と深智子に視線を投げかけられ、ゆめみは少し緊張した面持ちで「ゆめだゆめみです!よろしくお願いします!」と挨拶をした。
その初々しい態度に深智子はにこにこと顔を綻ばせると「よろしくね、ゆめみちゃん」とゆめみの頭をポンポンと撫でた。
挨拶もそこそこに深智子の車に乗り込むと、そこからわずか15分程でマンションに到着した。
外観はそれほど真新しい感じではなかったが、部屋の中は小綺麗で少しだけ新築の匂いがする。
「リフォームしたばかりなの。調子に乗って家具も買い替えちゃった」などと笑う深智子の話に耳を傾けていると、
「お、ゆめこ来とったんか?」
と、奥の部屋から一人の少年が出てきた。
髪は寝癖ぼさぼさで、Tシャツに短パンという身なりをした彼はもうすぐ正午だというのに明らかに寝起きだということが見て取れた。
「大ちゃん、久しぶり。おはよう。今来たんだよ」
ゆめこに「久しぶり」と「おはよう」という二つの挨拶を受けた少年は少しだけ沈黙した後、「久しぶりやな」と返答して笑った。
"大ちゃん" と呼ばれた彼こそ、ゆめこと同い年の従兄の園ヶ崎大介だ。
ちなみに園ヶ崎というのは当たり前だがゆめこの母の旧姓でもある。
大介も出身地こそ神奈川なのだが、物心付く前から大阪に住んでいるので、両親とは違いすっかり関西弁が板についているようだった。
「事情は聞いてんで。まぁゆっくりしていきや」
「うん、ありがとう。こちら親友のゆめみね」
「大介くん。初めまして、ゆめだゆめみです。よろしくね」
「ん、あー、おう。よろしく」
「ぷっ、大ちゃん何ちょっと赤くなってんの?」
ゆめみに自己紹介された大介はぷいと視線を外すとぶっきらぼうに返事をしたが、その頬はわずかに赤く染まっていて、目ざといゆめこにすかさず指摘されてしまった。
大介は「うるせっ」と言うと、ボリボリと頭を掻きながら洗面所の方に消えていった。
おそらく顔を洗うのだろう。
それからゆめこ達は深智子に空き部屋に案内してもらい、そこに荷物を置いた。
ハンドバックにガイドブックを入れ、早速観光の準備をしていると「ごめんねー、案内できなくて」と、後ろから深智子に声を掛けられた。
午後からパートが入っているらしく、深智子はとても残念そうな顔をしている。
泊まらせてもらうだけでなく、駅まで迎えに来てもらっただけでもありがたいと思っていたゆめこ達は「いえ、お気遣いありがとうございます」と返事をすると、二人だけで玄関の方へ向かった。
すると玄関にはすでに大介がいて、彼は靴を履いてこれからどこかに出かけるようだった。
「大ちゃん、どっか行くの?」
「これから部活やねん」
そう言った彼の肩からは、バスケットボールのマークが描かれたエナメルバックが掛けられていた。
それを見たゆめこは彼が小学生からバスケをやっていたことを思い出した。
起きてからまだ10分くらいしか経っていないのに。
やっぱり男の子って支度が早いな、などとゆめこが思っていると、
「んじゃ、いってきまーす」
と言って大介は出て行った。
それを見送り、ゆめことゆめみもそれぞれサンダルに履き替えるとマンションを後にした。
それからゆめことゆめみは半日みっちり大阪観光を楽しんだ。
ランチにお好み焼きを食べ、夜は串カツも食べた。
その間もくいだおれ人形や有名なグ○コ看板の前で写真を撮ったり、通天閣に行ったりと、ベタな観光を満喫し、次は某テーマパークにも行きたいね。なんて話をしながら二人は帰路についていた。
すると園ヶ崎家のマンションの前で、二人の少年が自転車に跨りながら話し込んでいるのが目についた。
辺りは暗く近くに行くまで気付かなかったが、その内の一人は従兄の大介だった。
ゆめこ達の存在に気付いた大介は、
「おー、おかえり」
と自転車のハンドル部分に体重をかけたまま片手を上げた。
「ただいま。大ちゃんも今帰り?」
「せやで。あ、こっちは幼馴染の蔵ノ介」
大介の隣にいた人物を紹介され、ゆめことゆめみは "蔵ノ介" と呼ばれた少年にぺこりと会釈する。
小学校から一緒だという彼はどうやら家も近所らしく、帰り道にたまたま遭遇して一緒に帰ってきたらしい。
見慣れないゆめこ達を見て首を傾げる彼に、大介は「今従妹来てんねん」と説明した。
しかしどっちが大介の従妹なのか分からずゆめことゆめみを見比べていたので、
「はじめまして、大介の従妹のゆめのゆめこです」
と、ゆめこは自ら名乗り出た。
すると少年も「大介の幼馴染の白石蔵ノ介です」と挨拶をしてくれたが、そのやり取りを見ていた大介が、
「せや!こいつうちの中学のテニス部でな、」
とぺらぺら話始めたので、これは長い立ち話になりそうだなと思ったゆめこは「先お風呂入ってて」とゆめみに声をかけると、先に彼女をマンションの中へと逃がした。
大介の話によると、彼らの学校もテニス強豪校で今日も全国大会へ出場していたらしい。
「まぁ今日負けてしもうたけど」と言った白石の顔は暗かったが、白石が一年生にして既にレギュラーだと聞かされたゆめこは、感心したように「へぇー、すごいね」と言った。
「うち人数少ないし、まぁ数合わせみたいなもんやな」
と白石は謙遜したが、全国大会まで行っているのだ。
先輩達の実力もあるのかもしれないが、本人もそれなりに腕が立つことは確かだろう。
ゆめこも自分の幼馴染が一年にしてレギュラーという座についているので、白石のことはなんだか他人事には聞こえなかった。
「ゆめこちゃんはどこの応援に来たん?」
「立海だよ」
「!あの強豪立海か」
「幼馴染がいるの」
と白石とゆめこが会話を弾ませていると、それを見ていた大介はにまにまと口元を歪ませながら「ゆめこ、明日ちゃんと会場行けるか?」と割って入ってきた。
その唐突な質問と怪しい笑顔に、ゆめこは眉をひそめながら「行けるよ」と答える。
しかし大介はまたまた〜とでも言いたげな顔でゆめこの肩に手を置くと、
「せや!蔵に連れてってもらったらどや?」
と得意気に言った。
ゆめこと白石の「え」という素っ頓狂な声がハモって、二人は同時に顔を見合わせた。
「試合は無いけど明日も観に行くんやろ?」
と大介に声を掛けられ、白石は「そやけど」と小声で返事をする。
自分の従兄がまた無理言ってるな。と思ったゆめこは「あ、私達なら大丈夫だから無理しないでね」と言ったが、それが余計に白石の良心を煽ったのか、
「まぁ、別にかまへんけど」
と言って白石はゆめこを見た。
こちらの反応を窺うようなその視線に、これ断るとかさすがにナイか。と思ったゆめこは「じゃ、じゃあお願いしようかな〜」とぎこちない笑顔を浮かべるのだった。
一緒に行くということは待ち合わせも必須なため、二人は便宜上お互いの連絡先を交換することになった。
「えっと、ちょっと待ってね」
とゆめこはおぼつかない手つきでスマホを弄る。
あまり人と進んで連絡先を交換しないゆめこは、いまいち操作が分からないようだ。
そんなゆめこの近くまでやってきた白石は「ゆっくりでええで」と声をかけたが、ゆめこはすぐにめんどくさくなったのか、
「白石くん操作できる?」
と早々に自分のスマホを白石に預けた。
「え、見てええの?」と戸惑う白石にゆめこはこくこくと頷く。
年頃の女の子がプライバシーがたくさん詰まったスマホを会ったばかりの男に預けるなんて、なんとも豪放な性格だな、と白石は思った。
しかし本人が良いと言うなら良いのだろう。
白石はなるべく画面を見ないよう気遣いながらゆめこのQRコードを引っ張り出すと、自分のスマホでそれを読み取った。
ネズミーランドで有名な白い毛にピンクのリボンがついた猫のアイコンが表示され、白石は"友達に追加する"のボタンをタップした。
「終わったで」
「え、早っ」
早々にスマホを返却され、ゆめこは驚いて白石を見上げる。
とりわけ難しい操作をした訳でもないのに目を輝かせて「すごいね」と自分に尊敬のまなざしを送ってくる少女に、白石は照れ臭そうに頬を緩める。なんだかアイコンの白い猫と雰囲気が似ているな、と彼は思った。
「まさか大ちゃんにこんなかわええ従妹がおったなんて」
と、半ば無意識に白石が言うと、ゆめこは「えっ」とその頬をぽっと赤く染めた。
媚びたような言い方でも、狙った言い方でもない率直な褒め言葉は、ゆめこの不意を突くには十分な台詞だったのだ。
言ってしまった後でゆめこの反応を見た白石は、慌てて自分の口元を手で押さえたがもう遅い。
じわじわと顔が熱くなるのを感じて、白石は気まずそうに視線を逸らした。
そんな二人の様子を隣で見ていた大介は
「珍しいもん見てもーた」
と独り言を言うと、にんまりとほくそ笑んだ。
(180406/由氣)→27
似非関西弁です。<きっぱり
一年生の時の全国大会の開催地、戦績など詳細が出てないので諸々捏造です。深く掘り下げないでいただけるとありがたいですわん