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(ちょっと付き合いんしゃい/仁王・丸井)

新学期が始まり二週間程が経った。

9月中旬。休日である今日、東京にある総合スポーツ施設のテニスコートにゆめことゆめみは二人でやって来ていた。

二日間にわたって新人戦が開催されているのだ。
二人は真っ先に掲示板のところに向かい対戦表を確認すると、

「あ、ブン太くんの名前あった。12番コートだって」
「蓮二の名前もあったよ。5番コートだ」

と、それぞれお目当ての人物の名前を見つけてそう言った。

今までは幼馴染ということに加え、既にレギュラーで公式戦にも出ているからという理由で柳の応援に来ていたゆめこだったが、今回彼女が新人戦を観に来たのは丸井の応援をするためだった。
というのも、そもそもゆめこを新人戦に来るよう誘ったのが丸井だったからだ。

入部から5ヶ月程経ったが、一年生でレギュラーの座についているのはいまだに幸村・真田・柳の三人だけ。
つまり、他の一年生にとってはこれが初の公式戦なのだ。とは言え各学校に与えられた出場枠には限りがあるので、一年生全員が出場できる訳ではない。

準レギュラー、つまり後々にレギュラーになりうる実力者達だけが出場を許されている。
その枠を勝ち取った丸井は、真っ先にゆめこに「応援に来て欲しい」とお願いしたのだった。

ゆめこがそのことをゆめみに話すと、「じゃあ私も蓮二の応援に行こうかな」と言い、結局いつも通り二人で来ることになった。
しかし対戦表を確認したところ、丸井と柳のコートは結構離れているようだ。

ゆめことゆめみは「試合終わったら連絡取り合おうね」と約束すると、二手に別れて歩き出した。

「ブン太くん」

12番コートに到着すると、ゆめこはベンチの近くで柔軟をしている丸井に話しかけた。

振り返ってゆめこの姿を見ると、丸井はぱぁっと表情を明るくする。
その様子に、ゆめこは内心「よかった、いつものブン太くんだ」と思った。
中学初の公式戦ということで緊張していないか少々心配していたのだ。
しかしお気楽者でポジティブな彼の性格だ。
そこはまったく心配無用であった。

「これ、差し入れ。何が良いかわからなくていろいろ買ってきちゃった」
「こんなにたくさん!?さんきゅ」
「試合相手どんな人?」
「氷帝の芥川ってやつ」
「ふーん」

向こうのベンチにいる選手に目を向けながら聞くと、丸井はゆめこの差し入れの袋を覗き込んだまま答えた。
「相手もサーブ&ボレーヤーらしいぜ」と丸井が言うと、ゆめこはすかさず「蓮二情報でしょ」とにやりと笑う。
柳は大抵の選手のデータは把握しているし、もちろんそれは氷帝の芥川も例外ではなかった。

少しの間二人で会話を続けていると、ゆめこはふと視線を感じてその方向をちらりと見た。
すると、数人の女の子が自分達を見てひそひそと何か話しているようだった。あまり好意的な感じはしない。
それを見てピンと来たゆめこは、にやにやと口元で弧を描く。

「ブン太くん、モテるね」

ゆめこがそう言うと、丸井はすぐに意味を理解したのか「あー、えっと・・・その」となんとも歯切れの悪いリアクションをした。

丸井側にはゆめこの他にも数人組の女子グループがちらほらいて、みな彼の応援が目的だということは明白だった。
それは丸井本人も自覚していたことだったが、自分の想い人には悟られたくなかったようで、彼は咄嗟に「そうでもないぜ」と謙遜してみせたが、はっきり言って無意味である。

ゆめこの目から見ても、丸井は見た目良し・性格良しの典型的な人気者タイプなので、女の子にモテるのも当然だな、とゆめこは思っていた。

「照れない照れない」
「いや、ほんとそういう訳じゃ・・・」
「うふふ。じゃあ私応援してるから、頑張ってね」

ゆめこはそう声を掛けると、口元に手を当て含み笑いをしたまま丸井に背を向けた。
自分の言い分にまったく聞き耳持たずなゆめこに、丸井はがっくりと肩を落とす。
せめてゆめこがヤキモチの一つでも妬いてくれたなら救われるのだが、それは今はまだ難しいだろう。

少し遠くの方に行ってしまったゆめこに目を向けると、丸井の視線に気付いた彼女はのんきににこにこ笑いながら手を振った。

それから程なくして、丸井の試合が始まった。
相手の選手もなかなか食らいついているが、丸井はその一歩先を行っている。
次々にボレーを決める丸井に、そういえばブン太くんが試合してるとこ初めて見るな、とゆめこは思った。
丸井がポイントを取る度に歓声が起こる。
すごい。とゆめこは純粋に感動した。


結果は丸井の勝利だった。
相手の選手となにか会話を交えた後、丸井がベンチの方に戻ってきたので、ゆめこは興奮冷めやらない様子で目を輝かせながら駆け寄った。
しかし二人組の女の子に先を越されてしまい、ゆめこは急ブレーキを踏むように足を止める。

何だか長くなりそうだな。
なんてゆめこが思っていると、ちらりとこちらを見た丸井と目が合った。

感想はあとでメッセージで伝えればいっか。
そう思ったゆめこは、口パクで「お疲れ様」と言うとそのまま走り去ってしまった。
その後ろ姿に「あ」と声を漏らした丸井だったが、次から次へと女の子に話しかけられ、追いかけることは叶わなかった。



丸井のコートを離れたゆめこは、ゆめみと合流しようかな、なんて思いながら歩みを進めていた。

すると、ふと通りすがりのコートの中に見慣れた銀髪を見つけた。
仁王くんだ、とゆめこは立ち止まる。

試合に出てるってことは仁王くんも準レギュラーになったんだ、すごいなぁ。と、仁王がよく家の庭で素振りをしているのを見かけていたゆめこは、彼のそんな健気な努力が実った気がしてなんだか嬉しくなった。

そのまま足に根が生えた様に、ゆめこはその場からずっと仁王の試合を観ていた。

しばらくして仁王の勝利で試合が終わり、審判がコールしたことでゆめこはハッと我に返る。
ついつい見入っちゃってたな。と思いながら、ゆめこはせっかくだし声を掛けてみようと仁王の元に駆け寄った。

「仁王くん、お疲れ様」

フェンスの外からそう声を掛けると、ラケットをしまっていた仁王は少し驚いた顔でゆめこを見た。彼女が応援に来ていることを知らなかったのだ。
しかしすぐにいつものポーカーフェイスを貼りつけると、

「おー、柳の応援にでも来たんか?」

と尋ねた。
正確に言うと丸井の応援のために来たので、ゆめこは「ううん」と首を横に振る。
しかし、じゃあなんだと言わんばかりの視線を向けられ、ゆめこは咄嗟に「なんとなく来ちゃったの」と曖昧なことを言った。
別に本当のことを話しても良かったのだが、なぜだか言う気になれなかったのだ。

仁王は「ふぅん」と相槌を打つと、ラケットバックを抱えてフェンスの外に出てきた。

「これからまた試合?」
「あぁ。でもまだ時間がありそうやの」
「そうなんだ」
「それまで壁打ちでもするぜよ」

そう言うと、仁王はゆめこに背を向けて歩き出した。が、数歩進んだところで、彼はぴたりと足を止めた。
くるりと振り返り、

「ちょっと付き合いんしゃい」

と仁王はゆめこに声をかける。
ゆめこは目をぱちくりさせ仁王を見たが、すぐににやりと口角を上げて笑うと「壁打ちじゃなくて私が相手になろうか?」と言った。

「お前さんテニスやったことないじゃろ?」
「大丈夫だって。できるよ、多分」

そう言ってその場でエア素振りをして見せるゆめこ。
仁王はそんな彼女の動きが不格好でおかしかったのか「それじゃラリーは続きそうにないのう」と言って笑った。



(180407/由氣)→34(夢主1&夢主2共通のおはなし)

新人戦の情報が少なすぎて色々捏造。




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