059
(学校指定のマフラーです/幸村•立海ALL)
冬休みも終わり、1月も後半に差し掛かった月曜日。
SHRが始まるまでの時間、1年M組の教室後方では、幸村が教科書に顔を埋めていた。
その予習しています、話しかけないでというポーズは珍しく、非日常な光景に違和感を感じる生徒も多い。
違和感から幸村に視線を向けて、隣の席が空いているのを見てその原因を察知する。隣の席のゆめみがまだ来ていなかったのだ。
その美少年と呼ぶに相応しい容姿に、テニス部エース、ついでに家もお金持ちという三拍子揃っている幸村は、やはりと言うべきか、当然と言うべきか、女の子に絶大な人気がある。
いつもはゆめみがいいシールドになっているが、1人でいると女の子達が話しかけて来るため、心が休まらないのだ。
小学生の頃は女子が苦手とは考えたことも無かったが、自分の恋心に気付いてからは、話しかけてくる子に下心があるように思えて正直どう対応していいものかわからなくなってしまった。
誰とも付き合うつもりはないため、気を持たせてしまうのも申し訳ない。正直、上手にファンサービス出来ている丸井が羨ましいと思う。
そうして、一通り話しかけられた言葉に素っ気なく返した後、こういう状況になったのである。
「おはよう」
ガラッと後ろのドアが開いて、幸村が早く来てくれと願っていた人物が入ってくる。ゆめみだ。
いつも通りの愛想のいい笑顔を浮かべて、廊下側の生徒から順に挨拶を交わしている。ゆめみの姿を確認すると、群がっていた女子達がサッと席へと帰っていった。
他の女の子が同じことをしたら、いじめにでも合いそうなくらいに、ゆめみは幸村と仲が良い。しかしなぜかゆめみだけは幸村の隣にいることの市民権を獲得していた。
その理由は、クラスのリーダー的存在の真冬と仲がいいことや、過保護な柳という幼馴染がいることなどもあるが、一番の理由は、ゆめみが幸村に全く恋心を抱いていないことであった。ゆめみは恋のライバルとして認識されておらず、敵対するよりも友好的にしておいた方がいい存在とされていた。
「おはよう、珍しいね、いつも俺より早く来ているのに」
「おはよう精市」
ゆめみはにこっと笑ったが、それ以上はなにも言わずに席に座った。幸村は持っていた教科書を机の上に置いて、ゆめみの顔を覗き込む。
「何か悩み事があるようだね」
ゆめみは一瞬大きく目を見開いたが、すぐに気を許したように、くしゃっとした笑顔に変わる。
「私顔に出てた?」
「どうだろう、でもわかるよ」
「うーん、まだ精市には心配かけたく無かったんだけど」
ゆめみは曖昧にそう言った。幸村はゆめみの悩みが自分に心配をかけるようなこと、つまり自分に関係のあることだと知り、少し嬉しく思う。
「お昼休みに確かめようと思ってて、もし精市さえ良ければ一緒に来てもらえると嬉しいな」
「もちろんいいけど」
「どこへ?何をしに?」と肝心なことを聞く前に担任が入って来て、話は打ち切りになった。
この日の午前中は移動教室が多く、ゆっくりと話す時間も取れないまま、お昼休みへと突入した。
お昼休みの合図とほぼ同時に教室を出た2人はコートを着て屋上庭園に来ていた。昼とは言え1月下旬の屋上は寒く、ゆめみと幸村以外に生徒はいなかった。
「これは酷い」
幸村はスコップで土を軽く掘り返しながら、顔をしかめた。いつもは程よく湿っている土が水のかけすぎでドロドロになってしまっている。やっと見つけ出した球根を見て、ゆめみが「どうかな?」と聞くと、幸村は力なく首を横にふった。
「腐り始めている、この子はもう花を咲かすことは無いだろう」
ゆめみは大きな瞳を更に見開いて、その後へにょと泣きそうな顔をした。その顔は愛らしく、幸村は抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと堪える。
「朝からこの状態だったんだね?」
「うん、家のガーデニングの参考にしようと思ってここに来たんだけど、その時に土が変だなって思って」
「でも私じゃ判断が付かなくて」とゆめみはか細い声でそう言った。幸村は屋上庭園を見渡す。
すでに茎や葉がある植物はすぐに応急処置をすれば大丈夫だろうが、この調子じゃ球根類はすべてだめになっているだろう。
春の植物の代名詞とも呼べる、チューリップやスイセン、アネモネなど小ぶりで可愛らしい花々がこの屋上庭園から消えることになる。
2人は言葉も無く、呆然と屋上庭園を見つめていた。
「「泰永さん」」
ふいにゆめみと幸村の声が重なった。この屋上庭園には、創造主で管理者である泰永さんがいるはずでは無かったか、と思い出したのだった。大ベテランで、その丁寧な仕事ぶりには、幸村もゆめみもいつも感心していた。その泰永さんがこんなど素人なミスを犯すだろうか。
「そういえば朝も会わなかったよ」
ゆめみのその言葉に、幸村は先週は元気そうだったのに、と姿を思い出す。
とその時、ガラッと管理用倉庫のドアが開き、1人の青年が姿を現した。20代前半くらいだろうか、金髪にピアスそして細過ぎる眉毛と一昔前のヤンキーのような風貌をしている。学校指定のつなぎを着ていることから、学校の職員だということが分かる。しかし、初めて見る人物であった。
彼はどうやら倉庫で昼寝をしていたようで、外に出ると、ふぁあとだらしなく大きな欠伸をした。ここで2人の友人である真田がいてくれたなら「たるんどる!」と喝を入れているだろう。
彼はその後、面倒くさそうにホースを準備すると、ホースの先にシャワーをつけることもせずに、そのままダボダボと水を出し、庭にかけようとした。
すでに水のかけすぎでドロドロしている土にである。これにはさすがの2人も驚いて、飛び出した。
幸村がホースを奪い、ゆめみが水栓を止める。その練習していたかのような鮮やかさに、男は一瞬動きを止めたが、相手が中学生だと分かると、意地の悪そうな舐めた表情を浮かべた。
「中坊が大人のお仕事の邪魔するなんていい度胸じゃねーか」
『仕事』という言葉に、幸村とゆめみは驚いた。まさか新しい庭師なのだろうか?男は顔を見合わせた2人を自分にビビったと勘違いをして、更に愉快そうに笑う。
「こんなところでデートとは、最近の中坊は進んでるなぁ、お揃いのマフラーなんて巻いちゃってまぁラブラブじゃねーか」
これには幸村は少し動揺したが、ゆめみは全く表情を変えずに「学校指定のマフラーです」と答えた。すると、男は素直に「んあ?そうだったか、それは勘違いして悪かったな」と謝った。どうやら根っからの悪人という訳ではなさそうだ。
「とにかくそのお揃い感が独り身の俺には眩し過ぎるんだわ、これから俺は仕事するからよ、お嬢ちゃんとお坊ちゃんはあったかい場所で飯でも食いな」
そう言って手をひらひらとさせる。そしてまた水栓へと手を伸ばした。ゆめみはすかさず「あの失礼ですが、泰永さんは?」と質問した。すると、男は驚いたように「お?なんで俺の名前を知ってるんだ?」と返してくる。
困惑した2人は、男を屋上庭園真ん中のドーム型の屋根があるベンチへとリードし、話を聞くことにした。
話を聞くと、なんとその男は泰永さんの息子だということがわかった。名前は泰永虎之介と名乗った。泰永父は週末に持病が悪化して、入院をすることになったらしい。
「入院って大丈夫なんですか?」
ゆめみが心配そうに聞くと、泰永ジュニアの虎之介は明るく笑って「心配いらないぜ、入院って言っても念のための検査入院だからな」と言った。1週間ほどで帰ってくるとのことで、幸村とゆめみは胸を撫で下ろした。
「親父の奴、入院しろって言っても、庭が心配だから入院しねぇって言うんだよ」
虎之介は少し遠い目をして話し出した。「せっかく大学まで行かせてもらったのにな、就職でつまずいちまってよ」虎之介は2人が父親を本気で心配してくれたことが嬉しかったらしく、人懐っこい表情を浮かべて自分の人生を語り出した。
やっと見つけた就職先がいわゆるブラック企業だったらしく、体調を崩してやめることになったらしい。その後何もかもが嫌になってフリーターとして職を転々としていたらしい。そして先週末から仕事を辞めて、父親不在の期間だけ臨時で庭師をすることになったようだ。
ここまで聞いてやっと幸村とゆめみは状況を理解出来た。
「この庭は親父の宝物なんだとよ、だから俺は言ってやったのさ、親父の宝は俺が守るってな、だから安心して入院しろってよ」
最高にいい顔でそういう虎之介。この話だけ聞けばいい話だが、その父親の宝をめちゃくちゃにしたのはこの張本人なのだ。ゆめみは意を決して切り出した。
「泰永さん、あの」
「おう、嬢ちゃん、苗字じゃ紛らわしいだろ、俺のことはトラさんでいいぜ」
「トラさんは、ガーデニングの経験があるんですか?」
ゆめみの問いに虎之介は「ねぇぜ!」となぜか自信たっぷりに答えた。
「でも早く大きくなってもらいたいからな、念入りに愛を持って水やりをしている」
なんだかいろいろとズレているこの人に、どう説明すればいいものかとゆめみが考えていると、幸村が立ち上がった。
「生意気を言うようで申し訳ありませんが、花々のために意見してもいいですか?」
「おう!いいぜ」
幸村が現在置かれた状況を的確に説明すると、始めは機嫌良く聞いていた虎之介はみるみるうちに青くなっていった。
「マジか、どうしよう」
「親父に怒られる」と泣きそうになる虎之介。ゆめみに「嬢ちゃん、何か手はねぇか?」と聞いてきた。ゆめみは少し考えた後、にっこりと微笑んで「大丈夫だと思います」と言った。そして、後ろから幸村の肩にそっと手を置く。
「きっと精市がなんとかしてくれます」
「ね、何とかなるよね?」とゆめみのキラキラした瞳が幸村に向けられる。そこからは絶対の信頼が伝わってきて、幸村は少し赤くなった。しかしすぐに小さく咳払いをして、虎之介に向き直る。
「この庭園の計画書はありますか?」
幸村は計画書と倉庫にある球根のストックを手早く確認した。幸いにも、球根のストックはたくさんあり、保管状況も完璧だった。
「球根の方はさすがは泰永さんと言うべきでしょうね、完璧に整えられているので大丈夫でしょう、ですが最大の問題が残ります」
「最大の問題?」
「時期です」
虎之介の疑問に幸村は丁寧に回答する。春咲きの球根は秋に植えるのが基本で、時期が遅れれば遅れるほどにダメになるリスクが高まるのだ。最低でも年内に植えたいところではあるが、すでに1月も後半に差し掛かっている。
「時間は戻すことができません、ですがやれることをやりましょう」
この日はとりあえず新しい上質な土を注文してもらい、明日までに少しでも土の状態が落ち着くのを期待して解散となった。
翌日の朝、職員室にゆめみと幸村の姿があった。正式に屋上庭園の球根植え替えの許可をもらいに来たのだった。始めは担任の先生に申し出たのだが、美化委員会の管轄だと言われ、2人は美化委員会の先生であるフランス人教師のレアル先生の元を訪れていた。フランス海外研修の引率の先生だったため、2人とは顔馴染みである。
「話は分かりました、ムッシュ幸村、マドモアゼルゆめだ」
レアル先生は話を聞き終えた後、軽く目を瞑って考えるそぶりを見せた。机をトントンと軽く叩くそぶりはとても絵になる。この人は何をしていてもセクシーだな、と幸村は思った。パチッと目を開いて、その情熱的なキラキラと輝く瞳を幸村に向けた。
「本来なら私たち美化委員会で解決する内容ではありますが、残念ながら組織で動くには時間がかかり過ぎるようです、時間が無いのでしょう?」
「はい」
「許可します、おふたりの優秀ぶりには私も一目置いています、委員長には私から上手く伝えておきますよ」
「ありがとうございます」とゆめみがぱあっと嬉しそうな笑顔を向けると、レアル先生は「屋上庭園は美化委員の仕事の範囲の一つなのですよ、覚えておいてくださいね」と意味ありげにウインクをした。
「さて、後は時間との勝負になる」
「うん、頑張ろ」
「おう!」
そうしてお昼休み。幸村の掛け声に、ゆめみと虎之介が返事をする。
午前中のうちに虎之介が新しい土を取りに行ってくれており、作業自体はスムーズに始めることが出来た。しかしすぐに壁にぶち当たる。 予想以上に作業範囲が広かったのだ。加えて、泰永父によって描かれた色や種類や植物の相性を考え抜かれた計画書は素晴らしいの一言だが、その分複雑で時間がかかるのだ。
作業を始めてすぐにそのことに嫌でも気付かされた。これが秋だったなら、と幸村は悔しく思う。好きな子と一緒にガーデニングが出来る楽しみを感じながら作業することが出来たのに。本来ならば今でもすでに遅すぎるくらいなのだ、1日でも早く植えてあげないと。
「トラさん、その種類はもう少し間隔を開けてください!計画書通りに!」
焦りが募り、幸村の表情から次第に笑顔が消えていった。しかしゆめみは黙々と作業を続けていて、その瞳からは焦りも不安も感じられない。
『きっと精市がなんとかしてくれます』
ゆめみの言葉を思い出した。
まだ俺を信じてくれているのかい?ゆめみの期待を裏切りたくない。でも時間が無い。がっかりされてしまうのが怖い。
幸村の不安が最高潮に達した時、屋上のドアが開いた。
「待たせたな」
「幸村!助太刀に参った!」
幸村は振り返って、その顔を確認して、大きく目を見開いた。柳と真田が立っていた。少し息が乱れており、全力で走って来てくれたことが分かる。
「どうしてここに?」
幸村の呟きに、真田と柳は「友人を助けるのは当然だ!」「むしろ気付くのが遅くなってすまなかった」と言って、ゆめみからスコップと計画書を受け取ってすぐにでも作業に取り掛かろうとする。
幸村がなおも不思議そうにしていると、さらにドアが乱暴に開けられた。
「幸村君、きてやったぜぃ!」
「ブン太走るなよ、俺も手伝うぜ」
「ゆめみ、私にも手伝わせて」
「どこまでお役に立てるかはわかりませんが」
丸井、ジャッカル、ゆめこ、柳生が屋上庭園へと入ってくる。そこで幸村はやっとスマホを確認した。
夏にペンションに行った9人のグループメッセージの画面に、ゆめみが『屋上庭園のピンチ!時間がある人は助けに来て』と言うメッセージと共に、幸村の画像が送られていた。その画像の自分は明らかに困った表情をしている。
そして、そのメッセージに次々と暖かい返事が返って来ていた。
「みんな」
「ありがとう」と言おうとして、最後にもう一度ドアが開いた。ひょっこりと現れたのは仁王だった。いつも通りの飄々とした表情を浮かべている。
「クラスが遠いせいじゃ、すまんの」
最後になってしまった言い訳を口にしたが、もちろん誰も咎める者などいない。全員誰に言われるまでもなく幸村を中心にして円状に並んだ。
「真田、柳、丸井、ジャッカル、柳生、仁王、ゆめのさん、そしてゆめみ」
幸村は順に名前を呼んだ。
「本当にいいのかい?特に見返りはないのだけど」
幸村は真剣な表情でそう言った。その言葉に丸井が「お菓子くらいは用意しろよぃ」と冗談を言い、ジャッカルが「おいブン太」と突っ込みを入れる。いつも通りのやりとりに、みんなはくすくすと笑った。
「奇特な奴らの集まりだったってことダニ、気にせんでええ」
「良いこと言いますね、仁王君」
「特に用事も無かったし」
「遠慮はいらん、お前の頼みならばいつでも駆けつけよう!」
「俺たちはガーデニングは初心者だぞ、的確な指示を頼む」
仁王、柳生、ゆめこ、真田、柳の言葉に、幸村はうんと頷いた。
「ありがとう」
一瞬だけ笑顔を見せた幸村だったが、すぐに真剣な表情で「言っておくがガーデニングに関してはかなり厳しく指導させてもらう」と付け加えた。
それに対して「部活と変わらんのぅ」と仁王が呟いて、みんなはあははと笑った。
虎之介は、1人作業を続けながら「青春じゃねーか、中坊ども!」と呟いた。
その後はさすがは立海テニス部メンバーと言うべきか、全員テキパキと動き、その日と翌日のお昼休みだけで全ての作業を完了させた。
幸村の表情に笑顔が戻ったのを見て、ゆめみは良かったと思うのだった。
そうして迎えた木曜日。
幸村とゆめみは最終確認で屋上庭園を訪れていた。2人が真ん中のドーム状の屋根が付いたベンチに座っていると、鼻歌を歌いながら水をまいていた虎之介が手を振った。
3日間に渡る幸村の指導の結果、虎之介は植物の扱いがだいぶ良くなった。これならば泰永父が復帰するまでの間、学校の花壇を保てるだろう。
幸村とゆめみは手を振り返して、もう一度屋上庭園を見渡した。
「ありがとう」
幸村はその響きの全てを伝えるように、ゆっくりとそう言った。ゆめみは目をパチパチとさせて「私のセリフでしょう?」と笑う。
「全部精市のおかげだよ、ありがとう」
そう言われてもともとは数日前にゆめみから相談されたことが始まりだったことを思い出した。
「でも俺1人じゃ出来なかった、ゆめみのおかげだよ」
結局最後はゆめみがみんなに声をかけてくれたから解決出来た。幸村はそう思ったが、ゆめみはそうは思っていなかった。
「私が出来たことは精市をここに連れてきたことだけ」
対処の方法を提示したのも精市だし、みんなが駆けつけてくれたのも、精市の人徳だよとゆめみはふわふわした笑顔で言った。
いつもその笑顔に癒されている。
「いつもいろんなことを解決してくれる精市は魔法使いみたいだね」
ゆめみは機嫌良くそう言うけど。
「魔法使いか」
出来れば王子様になりたいかな。
もちろんそんなことは口には出来ないけど。
「俺はこれからもこの場所を守り続けたい」
幸村は瞳に強い光を宿してそう言った。
いつの間にか、屋上庭園に特別な思い入れを持つようになっていた。今回の一件でそのことを痛感した。
ガーデニングが好きと言うだけではない。ここにはゆめみとの思い出がたくさん詰まっている。一緒に水彩画を描いたり、海原祭の準備をした、そして、フランス行きを決めたのもこの場所だった。
「美化委員になろうと思うんだ」
幸村は続けて「ゆめみも一緒にどうだろう?」と誘うつもりだった。しかし、それよりも早くゆめみは幸村の瞳を覗き込む。キラキラと瞳を輝かせて。
「私もそうしようと思っていたの」
幸村はその瞳の輝きにクラクラした。ゆめみは両手を顔の前に合わせて「だってね」と言った。
「ここは精市との思い出がいっぱい詰まってるから」
幸村が想っていても口に出来ないことをゆめみは簡単に嬉しそうに話す。素直なゆめみは可愛いけど、少し憎らしい。ゆめみは楽しそうに「そして今回の件でみんなとの思い出も増えたね」と微笑んで、また「だからね」と続けた。
「精市に弟子入りさせて欲しいな」
「弟子入り?」
「うん、魔法使いの弟子になりたいの」
どうやらゆめみにとって『魔法使い』は王子様に合わせてくれる存在ではなく、『なりたいもの』らしい。
「それならいいよ」
おそらく意味のわかっていないゆめみは、嬉しそうに「ありがとう」と言った。
(180504/小牧)→62
この花が咲く頃に。