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(今年も全国優勝狙ってるからな/丸井)

新学期が始まった。
今日からゆめこ達は二年生になる。

一年前に比べすっかり馴染んだ制服姿で、ゆめこは二年生の教室へ続く階段をのぼっていた。
隣にはゆめみ。その隣には柳がいる。

去年の今頃、ゆめことゆめみはクラスが遠く離れてしまったせいでひどく嘆いていたが、今年の彼女達は実に晴れやかな顔をしている。
それほど、今年のクラス分けは良かった。

ゆめみと柳が2年I組で同じクラス。
ゆめこが2年J組でその隣のクラスになったのだ。
去年はフロアさえも違ったので、ゆめこ達はこの奇跡に手を取り合い喜んだ。

そうしてI組の前までやって来ると、ゆめこはゆめみと柳に別れを告げ一人歩き出した。
そしてすぐ隣のJ組に足を踏み入れると、ゆめこはきょろきょろと教室の中を見渡した。

クラス表に書いてあった、見慣れた名前。
ゆめこはその人物を探していたのだ。
教室の中でも一際目立つ彼を見つけたのとほぼ同時、相手もゆめこが来るのを心待ちにしていたのか、

「ゆめこ!」

と、窓際の席に腰掛けたまま、嬉しそうに片手を挙げた。
「ブン太くん」とゆめこもにっこりと笑って彼に駆け寄る。
おはよう。という朝の挨拶もそこそこに、丸井は「ゆめこと同じクラスとか奇跡だろい!」と言った。

「ほんとだよねー!名前見つけた時びっくりしちゃった」
「俺も!あっ、ここゆめこの席な」

そう言って丸井はバンバンと隣の席の机を叩いた。
丸井は窓際の一番後ろ、いわゆる特等席に座っていたので、ゆめこの席は窓際から二列目の同じく一番後ろの席ということになる。
まだ座席表を見ていなかったゆめこは、「席まで隣同士なの?!」と驚いたが、どうやらそこは自由だったらしい。
J組の担任は少々ゆるいことでも有名な先生で、男女が一列ずつ交互に座りさえすれば、あとは早い者順で好きな席に座っていい、という旨のメモが黒板に貼られていたそうだ。

それを見た丸井はたまたま早く着いたこともあり、ゆめこの分の席も取っておいてくれたようだった。
ちゃっかり椅子に鞄を置いて場所取りをしていたのか、丸井は「よいしょ」と言ってそれをどかすと、ゆめこに座るよう促した。

しばらく二人がクラス分けのことや、春休みの課題などの話題で盛り上がっていると、ゆめこの前の席に一人の少女が座った。
派手な髪色に、やけに短いスカート。
ふわりと漂う香水の甘い匂い。

彼女は席を取った後にどこかに行っていたのか、スマホを弄りながら当たり前のようにその席にどかりと腰を下ろした。
いわゆるギャルという部類の少女の登場に、丸井はわずかに眉を顰める。

別に丸井自身がこういうタイプの子が苦手という訳ではなかったのだが、ゆめこのことが心配だったのだ。
ゆめこみたいな子がこの手の人間と仲良くしているのはあまり想像が出来ない。
彼女に何か良からぬことが起こらなければいいのだが、なんて思いながら丸井はちらりとゆめこを盗み見る。
ゆめこは前の席に座った彼女の背中をじーっと見つめていた。

ぴくりとも動かなくなってしまったゆめこに、
そりゃそんな反応にもなるわな。
と丸井は内心思っていたが、ゆめこが突然ぽんと彼女の肩を叩いたことで、丸井はぎょっとして目を見開いた。

肩を叩かれた少女は、まるで「ああ?」とメンチでも切るかのような態度で振り返る。
ほら、言わんこっちゃない!と丸井が一人焦っていると、

「あ、やっぱりあっちゃんだ」
「あっれー?!まじ?ゆめこじゃーん!」

と二人が会話を始めて、丸井は思わず「え」と小さく声を漏らした。
ずっとスマホを弄っていた彼女は、声を掛けられて初めてゆめこの存在に気付いたようで、振り返った時とは別人のような笑顔を見せた。

「久しぶりだねー!」
「ねっ。また髪色明るくなってたから最初気付かなかったよ」
「今はこの色にハマってんの。ゆめこは相変わらずかわいい顔してんね〜」
「あはは。やだ、あっちゃん。お世辞言っても何も出ないよ」

親しげに会話を続けるゆめこ達に、丸井はたまらず「えっ、てか知り合い?!」と割って入る。
そのことでゆめこと "あっちゃん" と呼ばれた少女は揃って丸井に目を向けた。

「同じ二小出身なんだ〜。星梨(あかり)ちゃんだよ。こちらは丸井ブン太くん」

前半は丸井に向けて、後半は星梨に向けてゆめこはそれぞれに紹介をする。

「ふーん、ブンブンね。よろしく」
「なんだよ、その呼び方!」
「で、ブンブンってゆめこの彼氏なの?」

丸井のツッコミをガン無視し、星梨はくるりとゆめこに向き直る。
彼氏という響きに一瞬ときめいた丸井だったが「ううん、違うよ」とゆめこに秒で否定されぐさりと傷ついた。
「ちげーのかよ!」と言ってけらけら笑う星梨に、丸井はじとーっと物言いたげな視線を送る。
しかしその視線に全く気付いていないのか、「ゆめことまた同じクラスになれるとか最高だわ〜」と彼女は満足そうに言った。

小学5、6年生の時、ゆめこと星梨は同じクラスだったのだ。
当時から派手で態度も大きかった星梨は周りから少々嫌煙されていたのだが、唯一ゆめこだけは偏見を持たず話しかけてくれたので、星梨はいまだにそのことを恩に感じていた。
ゆめことしても、ゆめみとクラスが離れてしまって寂しい想いをしている時に仲良くしてくれたのが星梨なので、彼女には特に感謝していた。

それから三人で雑談をしていると、程なくして担任の先生がやって来た。
噂通り緩そうな先生である。
委員会や係を決める時も生徒達に丸投げするような態度を一貫しており、男女共にクラス委員が選出されると彼らが取り仕切るようになっていた。
ちなみにゆめこは今年も委員会に入る気は無かった。
それは丸井も星梨も同じだった。

クラス委員の二人が進行をする中、ゆめこは席が一番後ろなのをいいことに机の下で隠れてスマホを弄っていた。
ジャッカルと連絡を取り合っていたのだ。
新しいクラスになり、近くに彼がいないことをゆめこは寂しく感じ始めていた。
まさにジャッカルロスである。

『何組になった?』とゆめこが質問をすると、すぐに返事が来た。
ジャッカルくんも今暇してるのかな?
などと思いながらゆめこは新着メッセージを開く。
『E組。ちなみに仁王と一緒』という内容に、ゆめこは「へぇ〜」と割と大きめの声で相槌を打った。
教室内はざわざわしているので特に誰も気にしていない。
しかし、隣の席の丸井には聞こえていたようで、彼は「どうした?」とゆめこに問いかけた。

「ジャッカルくんE組で仁王くんと一緒なんだって」
「らしいな」
「あ、知ってたの?」
「一緒に掲示板見に行ったからな」
「そっか」

そういえば二人は一緒に登下校してるんだった。
とゆめこは思い出した。
ということは、自分がJ組で丸井と同じクラスなのはわざわざ言わなくてもジャッカルは知っている可能性が高い。

"私はJ組だったよ" と打ちかけていた文章を消して、ゆめこは代わりに『私がいなくて今頃泣いてるだろうけど元気出してね』と送った。
すると10秒もしない内に『泣いてねーし』と返事が来て、ゆめこはプッと小さく笑った。
そんなゆめこを丸井はちらりと見る。

「随分楽しそうだな」
「うん。でもジャッカルくんと離れたのほんと寂しい。J組って遠いよね〜間に4クラスもある」

EからJまでを指折り数え、ゆめこは「はぁ」とため息を吐く。
"元気出してね" なんて上から目線で言ったゆめこだったが、どうやら彼女の方が余程寂しがっていたらしい。
一年間ずっと一緒に過ごしてきたジャッカルは、ゆめこにとって既に親友と呼べる域に達していた。

憂いに満ちた表情で嘆くゆめこに、丸井はなんとも歯がゆい気持ちになる。
ジャッカルと離れたことを嘆くより、自分と同じクラスになったことを喜んで欲しいと、そう思ったのだ。

「俺じゃダメか?」

と、不安が口をついて出る。
ゆめこはぱちぱちと瞬きをした後、「何が?」と首を傾げた。

「あっ、いや・・・。ジャッカルよりも俺といた方が楽しいかもしれないぜ!」

わざとおちゃらけた口調で、丸井は慌ててそう言った。
彼は日頃から「天才的?」などと自画自賛するような台詞が多いので、
なんだ、いつものブン太くんのノリか。
とゆめこは結論付けると「それもそうだね」と言ってあははと笑った。
前の席で聞き耳を立てていた星梨は、このやり取りだけで全てを察したのか「なるほどね」と一人にやついていた。

委員会や係を決めた後は、みんなで自己紹介をしたり選択科目の説明などを受けた。
それらを全て終えたら、今日の日程はこれで終了となった。

ゆめみと帰る約束をしていたゆめこは、いそいそと帰り支度を始める。
その隣では丸井が同じように支度をしていて、彼がラケットバックを抱えたタイミングで、

「今日もこれから部活?」

とゆめこは尋ねた。

「おう、もちろんだろい!」
「気合い入ってるね〜」
「今年も全国優勝狙ってるからな。俺もすぐにレギュラーになってやるぜ」

窓から見えるテニスコートをびしっと指差し、自信満々に意気込む丸井。
それに合わせるように、ゆめこも窓の外へと目を向けた。
二年に進級したことで教室も3階になり、おまけに窓側の席なのでテニスコートが俯瞰できるようになった。

今はまだHRが終わったばかりでテニスコートには誰もいないが、昼休みや放課後などはきっと部員達でいっぱいになるのだろう。

「これでいつでもテニスしてるところ観れるね」

とゆめこはコートに目を向けたままそう言った。
自分自身に言い聞かせているような、そんな言い方をするゆめこに、丸井はすかさず「誰の?」と質問をした。
会話の流れだけを考えたら、"丸井の" と返事をするのが普通なのだがゆめこはそうは答えなかった。
「えっ」と小さく声を漏らし、
誰だろう?
なんて思いながら小首を傾げると、

「みんなの」

と、そう答えて曖昧に笑った。





(180508/由氣)→71

chapter2突入〜




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