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(先輩風を吹かせてみたくてね/幸村)

始業式から1週間後。
2回目の美化委員会があった。
立海はマンモス校であるが故、委員会毎の人数も多い。1クラス男女2人ずつ、学年で44人、全体で132人もの人数がいるのだ。

1回目の委員会では、基本的な活動内容の確認と班分けがあった。人数が多いため、校内清掃班、校外清掃班や掃除サポート班等、いくつかのチームに分かれて活動するらしい。ゆめみと幸村は当初の目的通り、庭園管理班に入った。

そして、2回目の美化委員会の今日が1回目の班活動の日でもある。庭園管理班は、屋上庭園に集まっていた。
人数は学年によってばらつきがあるが、3年生5名、2年生8名、1年生10名の23名である。野外での活動が主となるためあまり人気が無く、他のチームよりも若干少ない。

「俺たち庭園管理班は、中庭、1号館と2号館間の花壇、そしてここ屋上庭園の管理をサポートをするのが主な仕事です」

メンバーの前に立って説明しているのは、チームリーダーとなった幸村だ。そしてその隣にはサブリーダーとなったゆめみが一歩下がった位置に立っている。通常は3年生が付くポジションではあるが、5名の3年生は正直内申のためだけに委員会に所属しているだけでそこまでの情熱は無く、受験や部活で忙しいと2人はお願いされる形でこの役割を引き受けた。

「だけど、ただ管理のサポートをするだけでは面白くないですよね」

幸村はそう言って周りを見渡す。1年生達はキラキラした表情で幸村を見つめていた。

「花いっぱい運動を推進しようと思います」

張りのある声でそう宣言する幸村。ゆめみはタイミング良くあらかじめ用意されていたプリントを皆に配る。

「事前にサブリーダーのゆめみと打ち合わせた内容は」

プリントが配られると同時に幸村は内容の詳細について説明する。要するに、今植物が植えられている場所以外にも花壇や庭園スペースを作り、校内の緑を増やそうと言う企画である。

「今日のところは、校内図を見ながら校内を周り、使われていない花壇やこれから増やせそうなポイントを報告すること」
「実際の植物の管理は専属庭師の方々にお願いしています、指示があった場合には必ず従ってくださいね」

幸村が指示を出し、ゆめみが注意点を補足した。

「以上、40分後にまたここに集合とします」

という幸村の掛け声と同時に、メンバーは一斉に屋上庭園から出て行った。

幸村とゆめみは基本屋上庭園に残る形となるが、数人の生徒が質問をしようと幸村の周りに集まっていた。
ゆめみは地図を持って屋上庭園の中を進んで行く。ここにも意外とデットスペースがあるだよね、と思いながら見ていると、「ゆめみ先輩!」と後ろから声をかけられた。

振り返ると、1年生の女の子が息を切らして立っていた。一度出て行った後分からなくなって戻ってきたのだ。名前は草野わかば、明るくて元気な印象がある後輩だ。

「わかばちゃん、どうしたの?」
「ここなんですけど」

わかばはプリントを見せながらゆめみに2、3質問した。ゆめみは丁寧に回答し、わかばは納得したように大きく頷いた。

「ありがとうございます、本当にゆめみ先輩って綺麗で頭も良くて憧れます」

その瞳を潤ませながらそう言うわかば。ゆめみはストレートな褒め言葉に苦笑いをする。『先輩』という呼び方も呼ばれ慣れていないからか、なんだかそわそわするなと思った。

「クラスにも幸村先輩のこと好きな友達がいるんですけど、ゆめみ先輩がいるから無理よって言ってやったんですよ」

ゆめみの戸惑いは全く伝わらなかったようで、わかばはそう続ける。幸村と付き合ってると思われているのだろうかと思ったゆめみは「えっと、精市とは別に」と言いかけたが、わかばは「わかってます!幸村先輩に聞きました、まだ付き合ってないんですよね?!」と大きな声でかぶせてくる。

「うん」
「私、カップリング萌えしてるだけなんで!心配しないでください!」
「うん?」

カップリング萌えとは何だろうか?ゆめみは首を傾げた。
今回チームリーダー、サブリーダーになった幸村とゆめみは一緒に打合せをしたり、前に並んで立ったたりする機会が増えた。2人のお互いを信頼し合っている雰囲気が、一部の1年生の間で話題になっていた。特に一歩引いて幸村を立てているゆめみは多くの人の目に好意的に映っていた。
そこで、お似合いの2人を応援しようという酔狂な1年生が現れたのである。

「草野さん」と後ろから幸村が声をかけた。わかばは焦ったように振り返る。幸村は少し怒ったような表情を浮かべていた。

「はい!」
「時間は有限だよ」
「すみませんでした!」

わかばはぺこりとお辞儀をすると、慌ただしく屋上庭園を出て行った。
後には幸村とゆめみの2人だけが残される。

「今のちょっと厳しめだったね」

ゆめみがくすくすと笑いながらそう言うと、幸村は表情を崩してペロリと小さく舌を出した。

「先輩風を吹かせてみたくてね」
「テニス部でもそうなの?」
「心掛けているよ」

またわざと少し厳しい表情をした幸村に、ゆめみはさらに可笑しそうに「部長だもんね」とくすくすと笑う。
幸村はそんなゆめみを見て「そうだな」と歯を見せて笑った。幸村は今年の春からテニス部部長になったのだ。

「あ、精市また曲がってるよ」

ゆめみは幸村のネクタイを見て眉をひそめた。そして自然な仕草で綺麗に結び直した。

「ここに来る前に気付けば良かったね、ごめんね」

残念そうなゆめみに、幸村は「俺のネクタイのために謝るのはゆめみだけだよ」と笑う。
幸村は昔からネクタイを結ぶのが苦手なのだ。
幸村は意外とかっちりと制服を着るタイプではないため、そこまで目立つという訳ではない。しかし柳がきちんと制服を着るタイプで、ネクタイも固く結んでいるため、ゆめみは気になって仕方がなかった。
1年の時は頻繁にゆめみが結び直してあげていたのだ。

「これもゆめみがクラスにいないせいだね」

『毎朝結びに行ってあげようか?』と言う言葉を期待して、幸村はそう言った。しかしゆめみは当然のように「精市のクラスにはネクタイを結び直してくれる人はいないの?」と返してくる。
幸村は他の誰かにネクタイを直されることを想像して、嫌な気持ちになった。1つため息をついて、仕方無く「練習するよ」と言った。

2人は屋上庭園を回って仕事をした後、中央にあるベンチへと戻って来た。
地図に印をつけながら、想定されるいくつかの場所を論議した後、あとは他のメンバーを待つだけとなった。

「今週末だよね、レギュラーが決まる試合」

手持ち無沙汰となったゆめみは、そう切り出す。幸村は軽く頷いて「応援に来てくれるのかい?」と聞いた。
ゆめみは「もちろん」と笑った。幸村の顔が嬉しそうに緩む。

「精市、蓮二、真田くんはもちろんだけど、他のみんなのことも応援したいな」

他のみんなとは丸井やジャッカル、柳生に仁王のことだ。幸村は「ああ、全員実力が出せればレギュラー入りは間違いないだろうね」と言った。

「それに、1年生にも面白いヤツがいるよ」
「ふふ、去年を思い出すね」

穏やかにそう言うゆめみは「今年も熱い夏が来るね」と少し遠くを見つめながら言った。

「獲るから」

そう呟いて幸村は立ち上がった。
すっと伸びた後ろ姿を、ゆめみは見つめる。こんなにも大きかっただろうか、と唐突に思った。背が伸びたのだろう。隣にいる時は感じなかったが、幸村が急に大人びて見えた。

「2連覇」

幸村は振り返る。その瞳には強い光が込められていた。

「だから、見ていて欲しい」

かっこいい、というよりも綺麗だとゆめみは思った。うんと頷いてゆめみも立ち上がる。
そして、幸村の隣に立った。

「ずっと見てる、全部応援に行くから」

幸村の左手とゆめみの右手がパチンと重なる。これが約束の合図。

2人は顔を見合わせて笑った。

屋上庭園の入り口では、後輩たちが入りにくそうにたむろっていた。





(180512/小牧)→74

蓮二も精市も知らないところで大人になってく。




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