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(私のこと、避けてる?/丸井)
新学期が始まって2週間が経った。
新しいクラスにも馴染んできた今日この頃。
「なに?あれ」
と、星梨は怪訝な顔でゆめこに尋ねた。
彼女の視線の先には女の子達に囲まれた丸井の姿があり、それを見たゆめこは「あぁ」と声を漏らした。
「ブン太くん、今日お誕生日なんだよ」
「誕生日ー?だからってなんであんなに囲まれてる訳?」
「去年もそうだったよ〜。あ、あとバレンタインの時もすごかったかな。ブン太くんモテるんだよね」
ゆめこの説明に、星梨は「まじか」と呟いた。
元々星梨にとって丸井は全然タイプではなく、加えて先日丸井が学校で出前を取って伝説になったことは記憶に新しかったので、そんなデタラメな奴がモテるのか?と彼女は信じられないといった表情を浮かべた。
ちなみにゆめこはこうなると予想出来ていたので、朝一で彼にプレゼントを渡していた。
デパ地下で買った、春限定桜チョコがけのバウムクーヘンだ。
「それでゆめこ朝からブンブンになんか渡してたのか〜」
「うん。去年はろくなもの渡せなかったからさ」
「ふーん、何渡したの?」
「よっちゃんイカ」
「はっ!?超ウケるんですけど!」
机をバシバシと叩き、「今年もそれで良かったんじゃね?」なんて言いながら星梨はけらけらとお腹を抱えて笑う。
そのリアクションにゆめこは「もう、あっちゃんったら」と返したが、彼女の笑いが伝染したのかその口元はにやついていた。
そんな中、一通り女の子達の相手が終わったのか、丸井は少し疲れた様子で席に戻ってきた。
人当たりの良い彼がこんな顔をするのは珍しい。
そう思って、
「ブン太くん、大丈夫?」
とゆめこが声を掛けると、丸井は一気に息を吹き返したように「余裕だろい」と答えた。
彼はせっかくの誕生日なのに、朝からゆめことまともに会話ができていないことを不満に思っていたのだ。
念願のゆめことの時間に、丸井の頬も自然と緩む。
「今年もたくさんもらってるね」
「あー・・・、おう」
「どしたの?嬉しくないの?」
張りのない声で返事をした丸井に、ゆめこは首を傾げる。
たくさんのプレゼントをもらえて嬉しくない訳じゃなかった。ただ、それだけでは満足いかない。
そう思った丸井は、くるりと体ごとゆめこに向き直り口を開いた。
「あのさ、ゆめこって今週の日曜日ヒマ?」
「日曜?うん、空いてるよ」
「よかったら遊びに行かねぇ?」
「いいね〜!ゆめみやジャッカルくん達も誘う?」
ゆめこが何気なく放った一言に、丸井はぎくりと肩を揺らす。
せっかくゆめことの仲を進展させようと意気込んで誘ったのに、このままではいつもと同じになってしまう。
「いや、ゆめこと二人が良いんだけど」
といつになく真剣なトーンで言うと、ゆめこは「ん?」と目に見えて頭上に疑問符を浮かべた。
前の席で聞き耳を立てていた星梨は、そのただならぬ雰囲気を察知したのか、ちらりと横目で丸井を見た。
彼はいつになく堅い表情をしている。
その横顔に、まさかね。と星梨はフッと鼻から息を抜く。
純粋に理由を知りたかったゆめこが「どうして?」と聞くと、丸井は「えっ」と声を漏らした後、ごくりと生唾を飲み、そしてゆっくりと口を開いた。
「好きだから」
「え?」
「俺、ゆめこのことが好きなんだ」
そう言って、じっとゆめこを見つめる丸井。
突然の告白を聞いてしまった星梨は動揺からゴンッと机の上に頭を打った。
そして「まじかよ、こいつ」とでも言いたげな顔でバッと勢いよく振り返る。
丸井とゆめこはまだ見つめ合っていた。
「ありがとう?」
「言っとくけど、友達としてとかじゃねーからな」
ぽかんとしていたゆめこがとりあえずお礼を告げると、丸井はすかさず釘を刺した。
数秒の沈黙。
そして事の重大さに気付いたのか、ゆめこは「えええ!」と驚いた声を上げて体をのけ反らせた。
「ちょっと待って!えっ?」とテンパるゆめこを見かねて、
「ねぇ、そういうのはよそでやってくんない?」
と星梨はすかさず割って入った。
「丸聞こえなんですけどー」と毒づく彼女に、丸井は「俺だって言うつもりじゃ・・・」と小声で反論した。
どうやら衝動的に言ってしまったことのようで、丸井自身も心の内では当惑しているようだった。
しかしすぐに、
「ごめん、私そういうのよく分かんない」
とぴしゃりと断られ、丸井は固まった。
不謹慎だが星梨はちょっと笑いそうになっている。
「あの、えっと・・・その、ブン太くんのことが嫌いとかじゃなくてね。むしろ好きなんだけど、私恋とかまだしたことなくて。あっ、幼稚園のときに同じひまわり組のさとし君に初恋してたから全く無いって言ったら嘘になるんだけど。でも振り返るとあれって恋じゃなかったなって思ったりもして・・・」
と、ゆめこはいつになく饒舌になり弁明する。
丸井はがくりと肩を落としたまま「気持ち伝えただけだから、気にすんな」と口にしたが、声に全く生気が無い。
最終的にゆめこは「ごめんね」とだけ呟いた。
週明け。
ゆめこは朝から読書に励んでいた。
机の上には山のように本が積み上げられている。
朝練を終え教室にやって来た丸井は、その光景を見てぎょっと目を大きくさせた。
椅子を引く音で丸井がやって来たことに気付いたのか、ゆめこは「おはよう」と声を掛ける。
フラれてからまだ3日しか経っていないので、丸井は少々気まずさを感じながら挨拶を返すと、「その漫画なに?」と恐る恐る声をかけた。
そう。ゆめこの机に積み上げられている本は漫画だったのだ。しかも全て少女漫画である。
「ももちゃんに借りたの。ちょっとお勉強しようと思って」
「・・・は?」
訳が分からず間抜けな声を漏らした丸井に、それまで前を向いていた星梨がくるりと振り向いた。
「恋のお勉強だってさ」
「えっ!漫画で!?」
「ちょっとズレてるよね〜」
「ズレ過ぎだろい・・・」
丸井はそう言ってちらりとゆめこに目を向けた。
彼女は真剣な表情で食い入るように漫画を読んでいる。
ゆめことしては、少しでも恋愛事情に詳しくなれればと、割と真面目な気持ちで読んでいるのだ。
昨日の丸井の告白を受けて、不甲斐ない返事しか出来なかった自分を、彼女なりに悔やんでいるのだろう。
丸井はふいとゆめこから視線を外すと、複雑な面持ちで頬杖をついた。
それからいつも通りの一日が始まったが、昼休みを過ぎたあたりでゆめこは違和感に気が付いた。
丸井に避けられているような気がする。
そう思ったのだ。
いつも昼食は教室で食べているのに、今日はずっとどこかに行っていたし、話しかけても返事はしてくれるものの目は見てくれない。
告白をしたばかりで、しかもフラれたのだ。
丸井にとってはそんな行動に出てしまうのも無理からぬことなのだが、ゆめこはそれを嫌だと感じていた。
「ブン太くん」
5限目が始まる直前。
教師がやって来るまでの間で、ゆめこは彼に声をかけた。
むっと眉根を寄せ自分をじっと見つめるゆめこに、丸井は「な、なんだよ」と顔をひきつらせる。
「私のこと、避けてる?」
「いや、避けてねーよ」
現にこうして会話もしているし、と丸井は思う。
彼自身にゆめこを避けている自覚は全く無かったのだ。
お昼はお弁当を忘れてしまい学食で食べていたのだが、その事実をゆめこは知らない。
たしかに、気まずくて朝からゆめこの顔は直視できていないけど。なんて思いながら、丸井は「気のせいだろい?」と続けた。
しかしゆめこはしかめっ面のままだ。
「私、ブン太くんと話せなくなるのは嫌だよ」
「え・・・」
「ブン太くんとはずっと友達でいて欲しいし、仲良くもして欲しい。フッたくせにこんな事言うの、わがままかな?」
不安そうに瞳を揺らしながら、ゆめこはそう尋ねた。
"友達"
その言葉に胸がチリと焼けつくような痛みを覚えるも、丸井は首を横に振った。
「いいの?」
「当然だろい」
そう言ってぽんとゆめこの頭に手を置くと、彼女は安心から「はぁ〜」と吐息を漏らして、そしてにっこりと笑った。
この笑顔を独り占めしたくて想いを伝えたのに。
失恋、したんだよな。
と、再確認してしまい丸井は辛い気持ちになった。
出来ることなら恋人としてそばにいたかった。
そんな本音をそっと胸の奥にしまい、
「これからもよろしくな」
と丸井は精一杯の笑顔で笑った。
(180511/由氣)→78
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