085
(私青学に行きます/不二•手塚•裕太)

「きゃあ、ゆめみちゃんやっぱり似合う!可愛すぎ!」

由美子はゆめみに抱きつきながら歓声をあげた。
ゆめみは目の前に置かれた全身鏡を見つめていた。
鏡に映る女の子はセーラー服を着ている。
艶やかな濃いエメラルドグリーンのスカートに、同色のラインが入ったブラウス。胸には桜色のリボンがついている。
青春学園中等部の制服である。

「10年前の制服だからどうかなって思ったけど、やっぱモデルが良いと問題無いわね」
「ありがとうございます」

これが国光くんと同じ学校の制服。
嬉しくなって、ゆめみは鏡の前でくるりと回って見せた。

「よし!じゃあそろそろ行こっか」

にこにことそう言った由美子に、ゆめみは「行くってどこにですか?」と首を傾げた。

「どこってもちろん、青学よ」


6月中旬。平日であるが、立海は創立記念日で休みだった。
ゆめみはなぜか青学の制服を着て、不二の姉由美子の運転する真っ赤なオープンカーに乗っていた。

事の始まりは、2ヶ月前の4月中旬。ゆめみの独特な世界観を持つ友人不二周助が「裕太がテニス部に入らなかった」と泣きそうな顔で立海までゆめみに会いに来た。
その時、「助けてほしい」と言った不二に、「できる事なら」と力になる約束をしたのだ。
手紙で創立記念日の話をすると『相談があるので、その日に家に来てほしい』と頼まれ、不二の家のドアをノックした。

しかし、肝心の不二本人は学校だと言うし(呼び出すくらいだから午後から休みなのかなと思った)、出てきた由美子から嬉々として「話は聞いているわ、さ、こちらに」と言われ、突然制服を着せられたと言う訳だ。

そうして、物語はここ、由美子の車の中から再開する。
要するにゆめみ自身も現在進行形で絶賛大混乱中なのだ。

「あの、由美子さん、今さらなのですが」
「何ー?」

ゆめみが由美子に呼びかけたが、オープンカーのため、風が強くて聞こえない。

「あのっ」
「何?何?ごめん、きこえなーい」

「青学に侵入するって本当ですか?!」

ゆめみが珍しく大声でそういうと、ちょうど青学の裏門に到着したところだった。由美子はパチクリと瞬きをして「あれ?聞いてたんじゃないの?」と不思議そうな顔をする。

ゆめみは心の中で盛大にため息を吐いた。
またやられた、と。
相手はもちろん、不二である。

「実は何も聞いていないんです」

そう言った後の由美子の気の毒そうな顔ときたら。由美子自身は何も悪くないと分かっているため、更に申し訳ない。由美子は「うちの弟が本当にごめんなさいね」と謝った後、口を開く。

「周助からはゆめみちゃんが裕太がテニス部に入らなかった理由を調査するために青学に来るから協力してほしいって言われてたのだけど」

ゆめみはそれを聞いてすぐに不二の考えを理解した。

不二が2ヶ月に『準備が必要だ』と言ったことを思い出したのだ。準備とは青学に侵入するための準備であり、最初からこうするつもりでいたのだろう。
不二の言った「助けてほしい」とは、青学に侵入して、裕太がテニス部に入らなかった理由を調査、そして最終的には説得して欲しいということなのだ。

どうしてキチンと説明してくれないのだろう?こんな騙すようなことをしなくても、なんらかの形で協力しようと思っていたのに。
行き場のない不満が込み上げる。

「ごめんなさい、よく考えたらゆめみちゃんがこんな無茶なお願い聞き入れるはずがないわよね」

由美子は申し訳無さそうな顔をして「無理をする必要はないわ、今日はこのまま帰りましょう」と言った。ゆめみは「すみません」と言い、遠ざかる青学の校舎を見ていた。

これで良かったのだろうか?ゆめみは思い出してしまった。
立海に来た時の不二の憂いた顔を。そして、力になると言った後のほっとしたような笑顔を。
力になってあげたいと思ったことは事実なのだ。

「由美子さん、不二くん悩んでいるんじゃないんですか?裕太くんも」

突然真剣な顔でそう聞いたゆめみに、由美子は正直戸惑った。
確かにゆめみの言う通りだった。中学に入ってから、温厚だった裕太は変わってしまった。常に何かにイライラして、家族と話をすることさえもしなくなっていった。
理由を聞いても「うるせーよ」と言われるだけで答えてもらえず、不二も由美子も困惑してばかりだったのだ。特に弟を溺愛していた不二の狼狽ぶりは見ていられないほどであった。
今回、由美子が不二の提案にこうして協力しているのも、ゆめみならこの状態を変えてくれるのではないかと期待したからだった。
しかし、それを今正直に言うのはどうなのだろうか。まるでゆめみに「だから青学に潜入して欲しい」と言うようなものではないか。

ゆめみは黙ったまま考え込む由美子を見て、それが事実であることを理解した。そして、ふんわりと笑う。

「私青学に行きます」

「車出してもらったところ申し訳ないのですが」と付け加えたゆめみに、由美子は目を見開いて「どうして?無理しなくていいのに」と悲痛な表情を浮かべる。

「不二くん、私に助けてって言ったんです。それで私は出来ることなら協力したいと思いました」

ゆめみは素直に言葉を口にする。「私の気持ちです、どこまでお力になれるかわかりませんが」と微笑むゆめみに、由美子は泣きたい気持ちになった。

「騙された形になったのに?」
「それはもちろん嫌ですが」

ゆめみはにっこりと微笑んで「もう慣れました」と言った。
この子は可愛いだけではない。誰かのために、多少の無茶を受け入れてしまう優しさと行動力を兼ね備えている。

「ありがとう、私ゆめみちゃんのファンになったわ」

周助が夢中になるはずだわ、と由美子は納得した。再び青学の裏門へと到着した。

「裕太のクラスは1年2組、今はちょうど6限目前の休憩時間よ」

由美子の声にゆめみはペコリとお辞儀をして、車を降り青学へと入って行く。


青学には、昨年の秋に一度学園祭で訪れている。その時に、多くの模擬店を回ったため、校舎の造りやどこに何があるかは把握していた。

休憩時間と言うこともあり、校内はたくさんの生徒が廊下に出ておしゃべりをしていた。

ゆめみは1年生の校舎へと足を踏み入れ、ゆっくりと歩き始める。
由美子の用意してくれた内ばきの色は青。青は1年生のカラーのようだ。と言うことは、ここを歩いていても何も不思議はない、はず。
ゆめみはドキドキと鳴る心臓に「大丈夫きっと大丈夫」と呪文をかけて颯爽と歩き出した。

1年1組の教室を通り過ぎ、1年2組の教室前へ。ほんの数メートルの距離がとても長く感じる。

ゆめみが通ると、廊下で話をしていた生徒はみんな振り返った。
ゆめみは目立ってないと思い込もうとしているが、実は結構目立っていた。と言うのも、ゆめみは容姿に恵まれているのだ。
まさか他校の生徒だとは思われていないだろうが、あの可愛い子何組だろう?くらいには興味を持たれていた。

1年2組の教室前まで来て、ゆめみは足を止めた。誰かに噂話を聞きたいが、おしゃべりそうな人はいるだろうか。
そっと教室の中を覗き込むと、幸いにも裕太は居なかった。
その代わりに、ドア近くの男子生徒と目が合う。その男子生徒は、愛想よくにこっと微笑むと、立ち上がってドアまで歩いて来てくれた。

「誰に用事?呼んであげようか」

どうやら怪しまれてはいないことに、ゆめみは内心ホッとする。

「不二くんに用事があったんだけど」

ゆめみが『不二』の名前を出した瞬間、愛想良かった男子生徒の表情が歪んだ。「なーんだ、アンタも不二先輩狙いの女子なワケね」と冷たく突き放される。

その態度の急変ぶりに驚きつつも、なぜ裕太を呼んだのに、不二を狙っているという話になったのかがゆめみは疑問に思う。
何と返そうか迷っていると、その男子生徒は「やめときなよ」といらない忠告をしてくる。

「不二先輩なんて狙うだけムダムダ、もっと現実を見なよ」

ゆめみの体を違和感が駆け巡る。その言い方はまるで、不二がモテるみたいだ。
あの意地悪で、デリカシーの無い男がモテるとか、そんなことがあり得るだろうか?

もしかして、不二という名前の別人が他にもいるのではないだろうか?それで勘違いをしているとか?
ゆめみが疑問を口にしようとした時、反対側の廊下から女子生徒4人に囲まれた男子生徒が歩いてくる。モテモテだなぁと思わず視線を向けてしまう。

「ねぇねぇ、不二先輩の弟なんだよね?」
「不二先輩って彼女いるのかな?」
「弟くんもテニス部入ってるの?」

近くにつれて、会話が嫌でも耳に入ってしまう。中心にいる男子生徒は、鬱陶しそうに「うるせーよ」と言って女子生徒を追い払おうとしていた。

幼い面影が変わっていてすぐには気が付かなかった。スキー場で見た素直そうな笑顔も、純粋な瞳もそこには無く、不機嫌そうな表情に睨みつけるような目をしていた。

それでも、不二と同じ色の髪と瞳は変わらない。

「裕太くん」

ゆめみが控えめに名前を呼ぶと、裕太は顔を上げた。そして、目を丸くしたのだった。


裕太とゆめみは屋上に来ていた。あの後、すぐに裕太がゆめみの手を引いて屋上まで連れて来たのだ。屋上には他に誰もいない。
遠くで予鈴が聞こえた。「授業、大丈夫?」とゆめみが聞くと、裕太は「問題ないっす」と答える。

「すみません!」

裕太がゆめみに深々とお辞儀をしながらそう謝った。ゆめみが「え?」と戸惑っていると、裕太は顔を上げた。その表情は申し訳なさそうで、クラスで見たスレた印象は無くなっていた。

「兄貴がまた無理なお願いをしたんすよね?!本当にすみませんでした!」

再びお辞儀をする裕太。ゆめみは「謝らないで」と言って裕太を起こした。そして裕太の顔を見ると、くすっと噴き出した。

「どうしたんすか?」
「ごめん、なんか安心しちゃって。裕太くんが初めて会った時みたいに常識的で優しいから」

ゆめみは「さっきは別人のようで少し怖かった」と付け加えた。
裕太の表情が曇る。

「本当はね、不二くんに裕太くんがテニス部に入らなかった理由を調べて欲しいって言われたんだけど」

ゆめみはその理由をすでにさっきのクラスメイト達の反応を見て、理解していた。
兄がらみの話ばかりされることにうんざりしたのだろう。それはテニス部に入りたくなくて当然だ。

「あれはキツいね、いつもあんな感じ?」
「大体そうっす」
「そっか」

ゆめみは空を見上げた。誰が悪い訳じゃない。解決策は見つからない。

「裕太くんってもしかして不二くん以外にお兄さんいるのかな?みんなの言ってた不二先輩が不二くんだとは信じられなくて」

ゆめみがそう言い出すと、裕太は表情を緩めてくすっと笑った。

「そんなこと言うのゆめみさんだけっす」
「そうかなー?だって意地悪だし、デリカシー無いし、嘘つきだし」
「ここだけの話すけど」

裕太が深刻な顔で切り出した。「兄貴がそうするのってゆめみさんだけっす」
ゆめみは衝撃を受ける。

「そんなことないよ、だって出会った瞬間から意地悪されたよ?」

昨年の新人戦で、不二が嘘の場所を案内して困らせて来たことは今でも忘れられない。不二はその前からゆめみを知っていたのだが、ゆめみはそれを知らない。

「でも他の女子には普通に優しくしてるんすよ」

ゆめみは想像してみた。優しい不二を。

「それってなんか企んでる時でしょう?」

ついそう思ってしまうゆめみに、裕太は更に可笑しそうに、ははっと笑った。

「テニスしてる兄貴見たことあります?たぶん、見る目変わるっすよ」

裕太は誇らしそうに「悔しいけど、カッコいいっす」と言った。
ゆめみはいい表情しているなと思った。
やはり裕太も不二を兄として慕っているのだろう。周りの環境がそれを阻んでいるだけなのだ。

「いつか超えてやりますけどね」
「テニス、続けてるんだね」

裕太はゆめみの問いに遠くのテニススクールに通っていると楽しそうに話した。
そして、これから遅れて授業に参加すると言って屋上を出て行った。その表情は少し柔らかだった。

ゆめみはにこにこと手を振った後。
不二に連絡しないとスマホを取り出そうした。しかし、屋上の端にあるコンテナハウスの横から茶色い髪が見えて、覗き込む。

「サボりですか?不二くん」

そこには不二が感傷的な表情を浮かべて、コンテナに寄りかかっていた。
ゆめみの顔を見ると、眉を下げて小さく笑う。

「ボク、今どんな顔してる?」

ほっとして泣きそうな顔だとゆめみは思った。きっと裕太が不二を認めていたことが嬉しかったのだろう。

「弟想いの優しい顔をしてるよ」

ゆめみが優しく答えると、不二は一瞬大きく目を見開いて、ぎゅっとゆめみを抱き締めた。
「ありがとう」とほとんど聞こえないくらいの小さい声で囁かれる。
ゆめみは体を強張らせるも、それが涙を隠すためだと気付いたため、拒絶はしなかった。

「裕太がボクを嫌いになったわけじゃなかったんだ」

少しして不二は心から安心したようにそう囁いた。ゆめみはその時、不二の憂いの本質を理解した。
不二は弟に嫌われたと思っていたのだ。自分のせいでテニス部に入らなかったのではないか、と自分を責めていたのだろう。

それは共感できる感情で。ゆめみは意外に思う。なんとなく、不二は自分とは全く違う人間だと思っていた。独特な世界に生きていると、そう感じていた。
でも今ゆめみを抱きしめながら震えている少年は、他でもない『大切な人に嫌われたくない』というシンプルな感情をさらけ出しているのだ。

「辛い想いをしたね」

ゆめみはそっと腕を回して、不二の頭を優しく撫でた。不二は少し驚いた後、甘えるように目を閉じた。
数秒そうした後、不二はゆめみを離した。その顔にはいつもの笑顔が戻っていた。

「いいねその格好、そそるよ」

「それに柔らかくて良い香りがした」と軽口を言う不二。ゆめみは相変わらずだな、とため息を吐く。

現実は何も変わっていない。裕太くんがテニス部に入った訳でも、兄弟仲が良くなった訳でも無い。それでも不二が嫌われていた訳では無いことを知って救われたのは事実だった。
ゆめみはここに来て良かったと思った。

「あと少しで6限目が終わるね、部活見学してくよね?」

そんなことを言い出す不二に、ゆめみは首を横に振る。

「速やかに帰る」
「カッコいいボク見なくていいのかい?」
「残念だけどそれはまた今度」

完璧な社交辞令でそう言うゆめみに、不二はクスッと笑って「ボクに惚れるのが怖いのかな?」と言ってくる。ゆめみは頑なにもう一度首を横に振った。

「じゃあ来週末の都大会観に来てよ」
「来週じゃないの?」
「神奈川県大会とは別日程なんだ」

ゆめみは少し考えてから「気が向いたらね」と言った。不二はつまらなそうな顔をして、その後思い付いたように「そうだ」といった。

「手塚にセーラー服見せなくていいのかい?」
「それこそ絶対嫌」

他校の制服を着て他校侵入とか手塚にだけは絶対知られなくなかった。変な子だと思われちゃうよ。
不二がいつの間にか手塚を呼び捨てにしていた。

「可愛いのに」
「この件は秘密にしてね」
「うーん」

不二のことだから、また何か条件をつけてくるだろうなと身構えたゆめみだったが、意外にもあっさりと「ヒミツっていいね、ボクたちだけのヒミツだよ」と口元に指を立てて笑った。
その言い方がセクシーで、なんだかそわそわする。

その時、6限目終了のチャイムが鳴った。不二はゆめみと一緒に戻ろうと言ったが、ゆめみは断った。不二が人気があることを知り、目立ちたくないと思ったためだ。
少し粘った不二だったが、「今日のところは諦めとくよ、キミには世話になったからね」と言って名残惜しそうに戻って行った。


不二が去ってから少し時間を置いてから、ゆめみは軽やかに屋上からの階段を降りた。あと帰るだけと言う状況に少し油断していたことは否めない。

階段を降りたところに、ちょうど男性の教師がいた。ゆめみはにこやかにお辞儀をして、更に階段を降りようと足を踏み出す。

「君、今どこから来た?!」

不意に話しかけられ、ゆめみは足を止めて振り返る。今は放課後のはずだ。咎められる理由は無いと判断した。

「屋上ですが?」

男性教師の厳しい視線がゆめみを射抜いた。

「校則違反だ!立ち入り禁止の規則を知らんのか!」

ゆめみは真っ青になる。その後、一通り説教された後、担任に知らせなければと言われ、ゆめみは職員室へと連行されていた。
ゆめみは頭の中でいろんな回避法を考えるが、どれも上手く行く可能性は低い気がした。
屋上が立ち入り禁止だなんて。立海では屋上は常に解放されているため、そんな可能性については全く考えなかった。道理で誰もいなかった訳だ。
不二も一言言ってくれれば良かったのに、と思うが、きっと不二もまさか立ち入り禁止であることを知らないとは思わなかったのだろうと思った。

前方に職員室が見えてくる。
絶対絶命だ。ゆめみは覚悟を決めた。

「失礼いたしました」

と、その時。
低めの心地よい声が聞こえて、ゆめみははっと顔を上げた。
職員室を出た男子生徒も、ゆめみの方を見た。
視線が絡み合う。

会いたくなかった。でも本当は会いたかった。

彼は眉1つ動かさない。その瞳に動揺の色は微塵も無い。
しかし、先生の怒り顔とゆめみの困り顔を見て彼手塚国光は状況を察知した。

「ゆめだ、頼んでいた仕事は終わったのか?」

手塚は当たり前のようにそう言った。初めて聞いた苗字呼びにドキッ、と心臓が跳ねる。

「いえ、これからです」

ゆめみがそう答えると、先生は不思議そうな顔をして「手塚くん、彼女は屋上に無断侵入していたんだぞ」と言う。手塚は「紛らわしい真似をして申し訳ありません」と前置きを入れた後、「生徒会の仕事で私が指示しました」と断言した。

先生の手塚に対する評価は高いようで、すぐに手のひらを返したように「そうだったのか」と笑顔を見せた。

「ご指導感謝いたします、ゆめだ、行くぞ」
「はい」

ゆめみは颯爽と歩く手塚の後ろをついて歩く。いつもの何倍も大きくて頼りになる背中に見えた。

また助けてくれた。

手塚が足を止めたのは裏門手前の体育館裏だった。振り返ると、わずかに眉が動く。しかしその表情は怒っていると言うより呆れているといった感じだ。

「気をつけて帰れ」

ただそれだけを告げた。ゆめみは少し驚いて「理由を聞かないの?」と口走る。しかし言ってしまった後で聞かれても答えられないことに気が付いた。
今回の件は裕太や不二のプライベートな話に踏み込んでいるため、他言出来ない。

ゆめみが聞かれたらどうしようと不安に思っていると、手塚がそんな様子に気がついたのか、少し優しい目をした。

「相応の理由があったのだろう」

手塚の言葉に、ゆめみは顔を上げて手塚の瞳を覗き込む。手塚は続けて「お前が遊び半分でこんなことをする人では無いことは理解しているつもりだ」と言った。

ドキン、と胸が高鳴る。それは『信頼している』と言われているのと同じことだ。

ゆめみはそのことに気が付いて、嬉しさから顔を赤くする。
ふと恥ずかしさに視線を逸らすと、裏門の横に由美子の車が停まっているのが見えた。不二が連絡してくれたのだろう。

ゆめみは逃げるように「またね」と言って後ろを向いて歩き出したが、一度だけ振り返った。
手塚が見守ってくれている。学ラン姿がかっこいいと思った。ゆめみははにかんだ笑顔を見せた。

「ありがとうございました、手塚先輩」

そう言われた手塚は、少し笑ったような気がした。





(180521/小牧)→87

キミと同じ学校に通う夢を見た




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