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(顔に書いてあるぜよ/仁王・毛利)

6月の第三土曜日。
今日と明日で、テニス部の県大会が開催される。
昨年同様、ゆめこはゆめみと一緒に応援にやって来ていた。

聞くところによると、春に行われた校内ランキング戦で、仁王、丸井、ジャッカル、柳生も無事にレギュラー入りを果たし、早速先月の地区予選から活躍しているらしい。
ゆめこは地区予選には行けなかったので、彼らの公式戦を見るのは一年生の新人戦の時以来だった。

「選手層を厚くするために、レギュラーは多めに選抜されてるんだって。だからみんながみんな全試合に出れる訳でもないらしいよ」
「へぇ〜」

柳の受け売りだろうか、コートに向かう途中解説を始めたゆめみに、ゆめこは興味深そうに相槌を打つ。

「でも蓮二は全部出るよね?」
「うん、あと精市と真田くんも決まりかな。それからゆめこの一押し、毛利先輩も!」
「別に一押しって訳じゃ・・・」
「あはは!でも仲良いでしょ?今日もブレスレットが眩しいねっ」

にまにまと口元に手を当てながら、ゆめみはゆめこの手首に目を向ける。
ゆめみとの間に隠し事は一切無いので、彼女はこのブレスレットのことはもちろん、ゆめこと毛利がほぼ毎日のように連絡を取り合っていることを知っていた。

「私応援してるからね!」
「何をっ?!」

澄んだ瞳でそんなことを言うゆめみに、ゆめこはすかさずツッコんだ。


そうして柳から事前に教えてもらっていたコートに着くと、レギュラー陣がアップをしたり、数人で集まって作戦会議をしたりと各々の時間を過ごしていた。
ちらりと時計を見ると、試合まではもう少し時間があるようだった。

ゆめみと二人で誰かに話しかけようかときょろきょろしていると、見慣れた赤い髪を見つけてゆめこは「あ」と声を漏らした。
「ブン太くん」とそう彼の名前を呼んで駆け寄ろうとするも、彼が誰かと話し込んでいるのが見えてゆめこは慌てて口を噤んだ。
丸井に隠れて見えなくなる程小柄な少女が、頬を染めて笑っている。
その可愛らしい見た目に、

「ブン太くんが天使みたいな子とお話してる」

とゆめこは隣にいたゆめみの腕をつんつんと突いて知らせた。
そのことでゆめみも視線を丸井達へと向ける。
「あれ?あの子って・・・」とゆめみが首を傾げたところで、

「ブン太の彼女だとよ」

と声をかけられ、二人はくるりと振り返った。
そこにはジャッカルが立っていて、ゆめこは「ジャッカルくんだ。久しぶり?元気?てかレギュラー入りおめでとう」とぺらぺらと話しかけた。

「久しぶりって・・・、お前昨日も俺んとこに教科書借りに来ただろ」
「そだっけ?」
「しかも落書きまでしやがって」
「あはは、彼はヒゲがあった方がダンディだと思ったからさ」

ゆめこが借りたのは歴史の教科書で、彼女は偉人の写真にヒゲの落書きをしてジャッカルに返したのだ。
二人のテンポの良いやり取りを見て、ゆめみは「相変わらずだね」と楽しそうに笑った。

「そんなことよりどうなってんだよ」
「なにが?」

急に小声になったジャッカルに、ゆめこはきょとんと首を傾げる。

「何がっておまえ・・・あれ見たろ?」
「ああ!そうそう、ブン太くんの彼女ってまじなの?超美少女じゃん。ブン太くんも水臭いよね〜、同じクラスなのになーんも聞いてないもん」
「あのなぁ!いいのかよそんなんで」

へらへらとのんきに笑っているゆめこに、ジャッカルはヤキモキした様子で詰め寄る。
二ヶ月前に丸井がゆめこに告白してフラれたという事実を一切聞かされていないジャッカルは、いまだにゆめこと丸井の仲を応援していたのだ。
一ヶ月程前に彼女ができたという報告こそしてくれたが、「ゆめのはどうすんだよ」という質問には、丸井は貝の如くだんまりを決め込んでいた。
そのため、ジャッカルはその辺の事情をよく理解していなかった。

「いいのかよと言われましても」と、ゆめこは困り顔になる。
もっと言えばフッたのはゆめこの方なので、丸井に彼女が出来たのはゆめこにとっても喜ばしいことだった。
新しい恋愛に踏み出してくれて良かった。と菩薩の顔で丸井達を見ているゆめこに、ジャッカルは「訳分かんねぇ」と頭を抱えた。

「あ!思い出した!」

その時ゆめみがパチンと手を叩いて、ゆめこ達は彼女を見た。

「あの子同じクラスの子だ!」
「へぇ〜、I組の子なんだ」
「確か名前は・・・佐知原さん」
「下の名前は?」
「んっと、それはね。えっと・・・」
「あ、これ覚えてないやつだわ」

しどろもどろになるゆめみを見て、ゆめこはすぐに察した。

「まぁいっか、別に。ブン太くん幸せになるんだよ・・・!」

と、ゆめこは丸井の背中に向かってぐっと親指を突き出した。

「随分楽しそうですね」
「おまんら何はしゃいどるんじゃ?」

するとそこへ柳生と仁王がやって来た。
二人とも今日は試合が無いらしく、アップの必要がないのか涼しい顔をしている。
いろいろ説明が面倒だったゆめこは、

「二人とも明日は試合に出るの?」

とさりげなく話を逸らした。

「ええ、明日は仁王くんとダブルスで出ますよ」
「へ〜、楽しみ!じゃあ明日も応援に来なきゃね」

そう言って隣を見ると、ゆめみも「そうだね」と言って笑った。
それから少しの間5人で会話を交えていたが、ゆめこがちらちらと辺りを気にしていることに気付いて、仁王はやれやれと肩を竦めた。

「・・・毛利先輩なら試合の時間になれば戻ってくるじゃろ」
「えっ、私何も言ってないけど?」
「顔に書いてあるぜよ」
「う、嘘言わないでよ」
「ほんとのことじゃき。気になるなら連絡してみたらよかろ?」

そこまで言われてゆめこはうっと言葉に詰まった。
確かに、
どこにいるのかなぁ?
試合間に合うかなぁ?
もしかして寝てたりして・・・!
なんて思ってはいたが、まさかそこまで顔に出ているとは思わなかった。

みんなの視線が自分に集中している気がして、ゆめこは急に恥ずかしくなった。
どうしよう、と悩んで視線を地面に落としていると、

「その心配はいらんで〜」

と後ろから声が聞こえてきて、ゆめこはバッと振り返った。
今までどこかでアップしていたのか、毛利はうっすらと汗を掻いていて、手にはラケットが握られている。

「も、毛利先輩」
「よー、ゆめこちゃん」

毛利はにっと歯を見せて笑うと、後ろからゆめこの肩に腕を回した。
その瞬間、ふわっと汗の匂いとともに蒸気した素肌がぶつかって、ゆめこの心臓がどくんと大きく波打った。
男らしい腕の重みが肩を伝って全身に回る。

やばい、なにこれ。緊張する。
そう思ったゆめこは目線だけ横にずらすと、

「またどこかで寝てるかと思いました」

と軽口を叩いた。
毛利は「いくらなんでも、試合前やで?」と言ってあっけらかんと笑っている。

「今日はダブルスでしたっけ?」
「せやで。今日はゆめこちゃんの応援があるさかい気合い入りまくりや」

事前に毛利に聞いていた情報を言うと、彼はゆめこの肩に腕を乗せたまま、その手でピースを作ってみせた。
またいつものノリが始まった。と思うゆめこに反し、思っている以上にゆめこに対してアグレッシブな毛利を見たゆめみは、「わ〜」と小さく声を漏らした。

何か聞きたそうに目をキラキラさせて自分達を見ているゆめみに、ゆめこは後で質問攻めは免れられないな、などと思うのだった。





(180513/由氣)→88

ジャッカルとのやり取りを書くのが一番好きです。



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