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(すまないお前の初恋だと言うのに/三強)

向日葵が元気に咲き始めた7月。
ここ立海大附属中学校では、毎年恒例の球技大会が開催されていた。

運動があまり得意では無いゆめみにとっては体育祭と並んで気乗りしないイベントであるが、それが友人の応援となると話は別だ。

「チャンスだよ、蓮二!」

ゆめみは柳のバレーを応援していた。柳はゆめみの応援に応えるように、強烈なレシーブを相手コートに叩き込む。

「なかなかのジャンプ力だな、さすがは蓮二だ!」
「フフ、スマッシュの練習が役立っているようだね」

ゆめみの左隣には真田、右隣には幸村が立ち、同じように柳の試合を観戦している。
クラス対抗戦ではあるが、22クラスもあるため、強い対抗意識等は特に無く、気がつけば仲良しの4人(三強+ゆめみ)で緩く観戦していた。
柳のチームは見事に勝利を果たした。

チーム内でハイタッチを交わした後、ゆめみ達と合流する。口々に「おめでとう」と言い、柳は「ありがとう」と微笑んだ。

「弦一郎は何にエントリーしているの?」

真田を見つめてそう言ったのはゆめみだ。ゆめみの真田への呼び名が変わったのはつい先週のことだった。
ゆめみが5月21日の真田の誕生日に「真田くん、何か欲しいものはある?」と尋ね、真田は「時間をかけて考えたい」と答えた。そして1ヶ月後に「名前で呼んではくれまいか」と言ったのだった。
その瞬間に柳と幸村も立ち会ったのだが、はっきりと男らしくそう言った真田に、2人は衝撃を受けた。
実は柳も幸村もそういうことが苦手なのだ。
ちなみにゆめみは真田のお願いを笑顔で受け入れた。「確かに真田くんだけ苗字呼びはなんか変だもんね」と。

「野球だ!しかし試合までにはまだ時間があるな」
「そうなんだ、応援に行くね」

ゆめみは上目遣いで3人の顔を順に見ると、「もしかしてみんな時間ある感じだよね?」と確認する。

柳は今試合を終えたばかりだし、実は幸村もすでに1試合終えて合流したばかりだった。

3人とも頷いたのを見て、ゆめみは小さくため息を吐いた。そして小さい声で「これから私試合なんだけど、笑わないでね」と言う。

実はゆめみはテニスにエントリーしていたのだ。

『2年I組ゆめだゆめみ』

名前を呼ばれて、ゆめみはテニスコートに入る。手に持つ白いラケットは学校のものでは無く、ゆめみの愛用しているものだ。

「リラックスして行こうか」
「応援しているぞ!」
「ゆめみ、いつも通りに行けば問題はない」

幸村、真田、柳がゆめみ側のフェンスの真ん中に陣取っている。
ゆめみはその光景を見て、小さく笑った。昨年全国制覇へ導いた三強が揃っている。なんて心強いんだろうと思った。
少し手を振って3人にお礼をした後、ボールをぎゅっと握って相手を見据える。
ゆめみの相手選手は3年生の体育会系女子だった。スポーツマン風の良い体つきをしている。

正直勝てる気はしないが、出来るところまでやろう。

ゆめみはボールを高く上げ、綺麗なフォームでサーブを打った。

「へぇ、なかなかだね」

ゆめみのテニスを見ながら、幸村はそう言った。そして柳はチラリと見て「師匠は柳だね」と笑う。確かに昨年の6月の柳の誕生日以降たまにゆめみとテニスの練習をしていた。

「分かるのか?」
「ああ、プレイスタイルや咄嗟の判断が柳に似ている」
「フッ、あいつはずっと俺のテニスしか知らなかったからな」

自分の指導の成果と言うよりはゆめみが柳の試合を応援に来ていたからだと笑う柳。

「技術の方は全然、ゆめみの指導は骨が折れる」

口ではそう言うが、どこか楽しそうな柳。きっと心の底では楽しんでいるのだろう。
幸村はコートに立つゆめみに視線を移した。自分達がいつも練習しているコートが、華やかに見えるから不思議だ。
軽やかにコート内を舞う様はまるでコートの妖精みたいだ。そんなことを考えてしまう自分が可笑しくて、フフと笑みが溢れる。
ゆめみはとても楽しそうにプレイしていた。テニスが好きなのだろう。

「羨ましいな」

幸村の口からそんな言葉が漏れた。柳と真田に見つめられ、幸村は少し恥ずかしそうに

「俺もゆめみとテニスがしてみたいよ」

と小さい声で言った。

「それはたまらんな」

最初に返事をしたのは柳ではなく真田だった。その頬はわずかに紅潮しており、幸村と柳は思わず真田の顔を覗き込む。
その視線に気が付いた真田は恥ずかしそうに人差し指で顔をかいた。

「正式にはまだ言ってなかったな」と前置きした後、真田は宣言する。

「俺はゆめみを好いている」

その顔は赤かったが、吹っ切れたような晴れ晴れとした顔をしていた。正月の時のような動揺や迷いは感じない。
真田の気持ちをとっくの昔に知っていた幸村と柳は顔を見合わせて小さく笑った。

「俺もゆめみを好いている」
「俺もゆめみが好いているよ」

おうむ返しのようにそう言った柳と幸村に、真田は不可解な顔をして「からかわないでくれ」と言った。
しかし、少し寂しげな顔をした柳と幸村に、それが冗談ではないことを察知した。

「本気なのか?」

真田の言葉に2人は否定出来なかった。「ライクではなくラブなのか?」使い慣れない横文字を使い出す真田はそれなりに困惑しているようだ。

「すまない、お前の初恋だと言うのに」

幸村はゆっくりとそう言った。
もし俺がゆめみを好きでさえ無ければ、諦められるくらいの淡い気持ちならば、親友である真田の恋を全力で応援しただろうと幸村は思った。それが出来ないことが辛い。
柳も同じことを思ったのだろう「応援は出来ないが、気持ちは理解できる」とだけ言った。

「そうだったのか」

真田は放心状態でそう呟いた。
真田は顔を上げてコートを見る。ゆめみがテニスをしている。その一生懸命な姿が可愛くて、愛おしい。

「すまん」

真田ははっきりと言った。

「親友であるお前らの気持ちを聞いた後でも、俺の気持ちはさざ波ほどの揺らぎも無い」

幸村と柳の顔を見て笑う。

「しかし俺たちの友情には何の影響も無い、そうだろう?」

柳と幸村も笑った。「無論だ」「当然だよ」と力強く言った。

『2−3、ゆめだリード、チェンジコート』

水分補給のために、ゆめみがベンチに戻って来た。運動後のため、額には汗が光り息も上がってる。

「お疲れ様」
「綺麗なフォームだったよ」
「うむ!よく動けていた」

3人の労いの言葉に、ゆめみは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。そしてドリンクを飲んで汗をタオルで拭いた。そんな些細な動作も可愛く見えると3人は思った。

「相手はバックのフォローが遅い、左サイドを中心に返すのがいいだろう、特に左斜め50度の打球に対する返球率は0.08%だ」

コーチである柳の指示にゆめみは頷いた。本当は他にも様々なことに気がついていた柳だったが、ボールコントロールが出来ないゆめみに複雑なアドバイスをしても実行出来るはずもない。

「応援している、最後まで頑張れ」

柳の言葉にゆめみは笑顔で頷いてコートへと戻って行く。
幸村と真田も笑顔で見送った。大会特別ルールで4ゲーム先取で決まるため、このゲームを取れればゆめみの勝利となる。

「勝てる確率は?」

幸村が興味深そうに柳に聞いたが、柳は笑って「確率は0%だ」と言った。

「ゆめみは体力が無いからな」
「しかし、ゆめみの場合勝敗など些細なことだろう!」

真田の言葉に柳と幸村はもう一度まじまじとゆめみを見る。柳の言うように疲れから動きは悪くなって来ていたが、その表情は生き生きとしていて、とても楽しそうだった。

柳の言うように、その後ひっくり返されてしまい、ゆめみの試合は終了した。


次は幸村のクリケットが始まると言うことで、グラウンドへと移動する。
さすがは幸村と言うべきか、幸村の活躍により、D組にどんどん点数が入って行く。

「これはD組の優勝の可能性が高いな」
「精市、すごいね」
「ああ、さすがは幸村だ!」

しばらく圧勝の様子を眺めていたが、ゆめみはふと幸村を見ながら思い出した。

「そういえば、精市って手塚国光くんと何かあったの?」

唐突に出てきた『手塚』の名前に、柳は動揺した。都大会で、ゆめみの手塚への気持ちを薄々、いや確信してしまった柳であるが、その後ゆめみと手塚の話をしたことは無かった。
意図的に避けていたのである。
しかし真田は元々昨年の地区予選でゆめみから手塚の話を聞いていたため、ゆめみが手塚を気にかけていることを知っていたこともあり、ゆめみが手塚の試合を楽しそうに見ていたことに何の違和感も抱いていなかった。

「小6の時に一度試合をしている!」

ジュニアの大会の決勝後に手塚が現れたこと、そこで大会準優勝の真田と優勝の幸村と試合をすることになった話をした。

「すごい偶然だね、それでどっちが勝ったの?」

純粋なゆめみの問いに、真田はうっと言葉を切って苦しそうな表情を浮かべる。

「幸村との決着はつかなかったしかし」

真田は少し思い出すように考えてから「あの時は試合後で幸村も疲れていたからな!」と付け加える。
その反応に、ゆめみと柳は真田が手塚に負けたこと、幸村よりも手塚が上だと感じたことを悟った。

「じゃあライバルだね」

ゆめみはにこやかにそう言った。真田の険しい顔がすぐに意欲的な表情に変わる。

「ああ、手塚を倒すことは俺の果たすべき目標の1つだな!」
「素敵だね、そういうの」

ゆめみは楽しそうにそう言ったが、すぐにどこか寂しそうな表情に変わる。
手塚を思い出しているのだろうと柳は思った。ズキッと心が痛む。

スッと手が伸びて、柳は気がつけばゆめみの頬を引っ張っていた。
ゆめみは不思議そうな顔で柳を見上げる。

「なぁに、蓮二?」

その瞳が自分に向けられているのを見て安心する。柳はフッと笑った。

「ゴミが付いていてな」
「絶対嘘でしょ」

ゆめみは自分の頬を触りながら非難の目を柳に向けた。そしてさりげなさを装って仕返しをする。

グラウンドでは幸村がゆめみに良いところを見せようと奮闘していた。点を獲得して、ゆめみを見る。
しかしゆめみは柳と真田と3人でじゃれ合っており、試合を観ていなかった。
あははと笑い合う友人達を見て、幸村は小さくため息を付く。

「ねぇ、お前たち」

決して大きな声では無かったが、グラウンドに幸村の声が響いた。3人は慌てて幸村を見る。

「応援ありがとう」

皮肉を込めた言葉と笑顔に、3人は気まずそうに顔を見合わせて。それから笑った。

「精市、ナイスバッチ!」

ゆめみの応援に、幸村は手を振って応える。
この日幸村のクラスは優勝を果たした。





(180523/小牧)→90

キミの笑顔に泣きたくなるのはどうしてだろう。




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