「鬼の妹を連れた少年を鬼殺隊に入れる事になった」
「は…」

いきなり義勇にそう言われ、呑気な顔でお気に入りの餡蜜を食していた名前は匙を落とす。

「それって私に言っていいやつなんですか!?」
「駄目だろうな」
「ですよね!え、いや何でさらっと言ってるんですか義勇さんは!自分が何言ったか分かってます!?」
「分かっている」

隊士が鬼を連れているだなんて大問題だ。どうやって連れているのか分からないが、バレてしまったら本人達は謹慎どころの話ではない。お館様は知っているのだろうか。いや、お館様の事だから把握しているに違いない。だが公にされていないという事ならばこれは超機密事項なのではないだろうか。少なくとも餡蜜を食べながらする話ではない。今日の天気の話をするようにさらりと述べた義勇だが、内容は滅茶苦茶重要な事である。知っていたがこの人は偶にやばい…と名前はごくりと唾を飲んだ。

「#name2#は新人の教育をする事も多いと思う。もしその鬼を連れた隊士に会う事があれば気にかけてほしい」
「義勇さん…」

鬼滅隊隊士として働いて数年。仕事にも慣れてきて、名前は新人隊士の任務に付いていき指導をする事も増えてきた。多分、その鬼を連れた隊士にも出会うだろう。だが、鬼を連れているだなんて他の隊士が知ればややこしくなるに違いない。その時に自分は鬼を連れた隊士を庇えるのだろうか。その鬼は人を喰らうのだろうか。もしその鬼が人を襲ってしまったら…。考える事が多すぎて、名前は目が回りそうだった。

「(だけど…)」

目の前でじいっと名前を見つめる義勇。義勇が人に頼み事をするだなんて滅多にない。それに、義勇は名前の想い人でもある。そんな彼の頼みならば是非とも叶えてあげたいのだが…。

「…それでも、あまりにも危険です。いくら義勇さんの頼みでも、私も簡単には頷けないです」

この事は他の人には秘密にしておきますから、と言い放つ。よく言った私。私はいいえと言える日本人なのだ。心は痛むが、その鬼を連れた隊士の素性が知らない今、いくら義勇さんの頼みとは言えど簡単には…。

「本当に、駄目なんだな」
「う、ぐ…はい!」
「本当に、か…」
「駄目って言ったら駄目です!」
「…頼む、名前」
「………うわー!ずるい!ずるいですよここで名前攻撃は!」

自分の下の名前を呼び懇願する義勇。普段義勇に名前を呼ばれる事がない名前はそんな事を言われれば断れる筈もなく、首を縦に振るしかない。惚れた弱みというものだ。今更この男に惚れた事を悔やんでも手遅れである。

「…今日の餡蜜代は奢ってください」
「あぁ」
「あと、義勇さんの新しい羽織は私に選ばせてください」
「あぁ」
「あとこれから私の事はずっと下の名前で呼んでください」
「あぁ」
「うわぁぁあん義勇さんの女誑しそんな事されたら断れる訳ないじゃないですかあとこれからも任務終わったら私とご飯食べたりしてくださいいいい」
「分かった」

何故自分はこんなにも厄介な相手を好きになってしまったのだ、と名前は涙を流す。今日だってご飯に誘われ、義勇さんとでえと!?と浮かれていたのに話された内容はこれである。ご機嫌取りに餡蜜を食べさせられただけなのだろうか。それならばひどい男である。

「ありがとう、名前」

それでも、目の前で顔をぐちゃぐちゃにしながら涙を流している自分を、呆れもせずただただ見守る彼が好きなのだと思うのであった。




その後、義勇が鬼になった妹を連れた隊士を鬼殺隊に留めさせる為に、何かあれば自分が腹を切ると約束した事を知った名前が大暴れしたのだが、それはまた別のお話である。