鈴の音が聴こえる 前編




ピーーっ

澄んだ鳴き声が頭上で聴こえる。

ターコイズ・ダークブルーの2色の羽を持つ鳥
”テン”は、ヒラリと俺の元へと舞い降りた。

「お疲れさん」

伸ばした手に、テンはそっと顔を寄せる。

「あいつは、元気か?」
「ピー」

応えるかのように、一声鳴くと
テンは背負わされたショルダーバッグを嘴で器用に開けた。

出すように、と視線で促され
バッグに手を入れると
お目当てのものはすぐにみつかる。

見慣れた字の並んだ、手紙。

きっと今回も
剣道場の様子や、修行の成果が書かれてるんだろう。
ちょっとした、日記のまとまりだ。

でも、あいつが、ユイがこの世界で生きている証。

「ありがとな」

そう言って頭を撫でると
テンは嬉しそうに喉を鳴らした。



の音がこえる



「ゾロに伝言頼まれたぞ!」

新世界を目指す船の上
晩酌をしている俺にチョッパーが近づく。

「伝言?」
「うん!テンから!」

いきなり何を、と思ったが

そうか、そういえばこいつ
動物の言葉がわかるんだったな。

「テンって・・もしかして、あの綺麗な鳥のことかしら。
 たまにあなたに手紙を運んでいるのを見かけるわ。」
「あぁ、そうだ。」

グル眉特製カクテルを飲んでいたロビンにも
チョッパーの声が聞こえたらしい。

グル眉のところまでは聞こえていないようで安心する。
あいつに聞かれると間違いなく面倒くせェことになるからな。

「テンが、なんだって?」

そういや、テンの言葉なんて聞くの初めてだな。

いつもピーピー言ってやがるが
何を言ってるのかはさっぱりわからん。

なんとなくわかる、と
合ってんだかどうだかわからんことをユイは言ってたが。

「テンが
 ”ユイが寂しそうだ、一回くらい返事書け”、って」
「・・・そうか。」

寂しそうって・・・
あいつ、手紙じゃそんな素振りまったく見せねェくせに。

故郷に残してきたユイの姿を思い浮かべ
ふっと笑いをこぼす。

手紙なんて俺は書かねェからな
って最初から言ってただろうが。

ほんとあいつは。

「聞いてもいいかしら」
「ユイのことか?」
「その人のこともだけど
 どうやってこの海のうえで居場所を知らせているのかも気になるわね。」

ロビンは近づくと
俺の隣の芝生に腰かけた。

「俺も聞きてェぞ!」

チョッパーもロビンと俺の間に腰かける。

そんなことに興味があるのかと
不思議な気がせんでもないが
まァいい。

「ユイってのはテンの飼い主で
 俺の故郷の村にいる。
 そいつの一族は昔から鳥と暮らしてて
 その鳥は、鈴の音を聴き分ける。」

服に手をいれ
いつも身に着けている鈴を取り出す。

テンと同じ色の石から作られた小さな鳥籠形のそれには
同じ石から作られた玉が入っている。

「その鈴もそうなのか?」
「あァ。特殊な石で作られてて
 人間には聞こえねェ。」

試しに揺らしてみるが、やはり何の音もしない。

「俺も聞こえねェや。
 でもテンはこれを聴き分けてゾロのところにくるんだな。」

すごいな!とチョッパーは目を輝かせた。


ユイの一族がシモツキ村に移住してきたのは
俺が12歳の頃だった。

鈴の音を聴き分ける鳥たちに
村のガキたちも
同じように目を輝かせてたっけ。

「テンは特に戦闘力にも長けてる。
 だからあいつはグランドラインでも
 平気で俺に手紙を運んでくる。」
「すっげェーーーー!!!」

もっとあいつと話をすればよかった
とチョッパーはさらに目を輝かせた。

ちょっとやそっとじゃ、テンはやられねェ。
一族の訓練の賜物だ。

また来るだろうから
そんときはチョッパーにも知らせてやるか。


「そのユイって人とあなたはどういう関係だったのかしら。」

チョッパーの頭をなでていたロビンが
口を開く。

「海賊狩りになると決めたとき、シモツキ村に置いてきた
 俺の・・・あー、なんだ?」

説明しようとしたものの
適切な言葉が見当たらない。

幼馴染、というほど
幼い頃から一緒にいたわけでもないが
かと言ってただの友達、でもない。

「きっと剣士さんの大切な人なのね。」

あァそうだな。
それがしっくりくる。
でも
「なんでそう思う。」

「受け取った手紙を読んでいた剣士さんの顔が
 見たことないくらい、優しい顔をしてたから。」

ロビンの言葉に一瞬呆ける。
どんな顔だ、そりゃ。

「好きなのね、その人のこと。」
「・・・そうだな。」

それは・・否定しねェ。


きっかけなんざ知らん。

気づいたときには
好きだった。

その一言に尽きる。

「恋人なのか!?」

だから、さっきからなんでこいつは
こんなに食いついてきやがんだ。

苦笑しながらも
問いの答えを探す。

「どうだろうな。
 互いに好きだ、とか
 付き合ってくれ、とか
 そんな言葉を交わしたことはねェよ。」

ただ、気づけば一番近くにいて
かけがえのない存在だった。

これといった言葉はなかったが
村にいた頃の俺たちの関係は
客観的に見て、”恋人”と呼ばれるものだったはずだ。

「んー、俺にはよくわかんねェや。
 でも大切な人なら
 なんで置いてきたりしたんだ?」

厳密には置いてきたわけじゃない。

村を出る、とユイに告げた日を思い返す。

「連れて行こうとしたんだけどな。
 断れた。」
「フラれたのね。」
「ちげェよっ!!」

そこは断固として否定させてもらう。


一緒に行かないか
と誘った俺に、ユイは言ったのだ。

「”私が自分の身を自分で守れるくらいつよくなったら
 自分の足で追いかける”だそうだ。」

別に弱いわけじゃなかった。
あいつだって剣道場に通っていたし
テンの戦闘力も他の鳥たちより格段に高かったと思う。

「いざとなったら俺が守ってやる、っつったんだけどな。
 ”そんなのはいや”なんだと。
 ユイはそういう女だ。」

負けず嫌いで
意地っ張り。

向上心は人一倍で
常に上を見ているユイ。

そんなユイに惚れちまったんだから
仕方ねェよな。

「早く、追いかけてきてくれるといいわね。」

「・・・そう、だな。」

自分のこういう話をするのはどうにもむず痒い。

まじでグル眉が聞いてなくてよかった。

もうこんな話は絶対にしねェと、
そう心に決めた。





後編へ


****あとがき****

とてもとてもとても書きたいシーンがあって・・・!
長編かなァと思っていたのですが
いや、そのシーンだけ短編で書きゃいいか!
と思って書き始めたものの・・・
前後編になりました・・・汗

むしろ過去編、とかシリーズにしそうな予感・・・。



2019.04.22


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